バカとテストとウチの弟   作:グラン

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重たい話になっております



第百七十九問 さやかの最期

「細工・・・ですか?」

 

 

正一は父の言葉に耳を傾ける

 

 

「ああ、あの女に打っていた点滴の中にはある薬品・・・まぁ麻薬や覚醒剤みたいなものだな。それを混ぜておいた。その薬品は脳細胞の死滅を早めるという効果があるんだ。激しい頭痛に襲われ、記憶はどんどん消えていき、最後には自分の名前すら思い出せない廃人になるのさ」

 

 

根本父の言葉を聞き、顔を青くする正一

 

 

「すでに実験は死刑囚を使って行われ効果は確認されている。いざという時の口封じ用にいくつか所持しておいて正解だったよ」

 

「じゃ、じゃああの時逃がしてやると言ったのは・・・」

 

「ああ逃がしてやるつもりだったさ。どうせ記憶がなくなるんだからな」

 

 

点滴が打たれたのは監禁初日

つまり根本父は最初からさやかを無事に解放する気などなかったのだ

 

 

「とんだ無駄足だったな?正一」

 

「!!きゅ、急用ができたので少々外出してきます!」

 

 

根元父の発言で自分が逃がしたことがばれていると理解した正一はどうせばれているならと慌てて家を飛び出した

 

 

「・・・ふん、無駄な事だ」

 

 

走り去る息子の後ろ姿を見ながらそう呟く根本父

このような手段を取ったのには理由があった

まず、根本父は正一がさやかに好意を抱いていることに気がついていた

しかし、平凡な家柄のさやかと正一が結ばれるのは快く思わなかった

そんな時に恭二が起こしたこの事件

根元父はこれは使えると思い、さやかを拉致。そしてその世話を正一に任せた

そうすればさやかに好意を抱いている正一は隙を見てさやかを逃がそうとするだろう

薬が効いてくるタイミングで嘘の出張を入れ、正一はまんまと根本父の思惑に嵌りさやかを逃がした

そして正一が帰ってくる前に自宅に戻り薬について話す

そう、これは正一が自分に逆らわないようにするための見せしめ

 

 

「正一の交際相手は私が決める。あんな平凡な女なぞ根本家には不要」

 

 

さやかにはすでに恋人がいて、正一の想いは絶対に届かなかったわけだが根本父はそんなことは知る由もなかった

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 

頭が痛い・・・

さやかはそんなことを考えつつ息を乱しながら歩く

追跡、尾行を警戒したさやかは家から少し離れたところでタクシーを降りたのだが・・・

 

 

「う・・・ぐあぁあああ!!」

 

 

そんな時、激しい痛みがさやかを襲う

が、徐々に痛みは治まっていく

 

 

「あれ?なんか痛くなくなってきた?まぁいいや。それより早く家に・・・」

 

 

と、そこでさやかの思考は停止する

 

 

「あ、あれ・・・?嘘・・・うそうそ!!何で!?・・・家の場所が・・・思い出せない・・・?」

 

 

それだけじゃない

母親の顔や友達の名前まで思い出せなくなっていた

 

 

「やだ!やだやだ!!怖い・・・」

 

 

記憶が消えていく恐怖に襲われたさやかは自分の身体を両手で抱き、その場に座り込む

そして彼女は携帯を取り出して家に電話を掛ける

 

 

「出ない・・・」

 

 

記憶の消えたさやかは母親が現在出張中だということも忘れていた

 

 

「誰か誰かに電話を・・・」

 

 

電話帳を開くさやか

しかし、そこにのっているほとんどの名前を思い出せなかった

が、そこに・・・

 

 

「藤堂・・・先生?」

 

 

まだ微かに残る記憶

小学校の社会見学で行った藤堂科学研究所の藤堂カヲル

智也と出会う前にはよく遊びに行った場所だ

この人に会えば今自分に起きている現象が分かるかもと思いさやかは電話を掛ける

 

 

『なんだいクソガキ。アタシはもう寝るんだがね』

 

 

電話を取ったとたんにそう言う藤堂

 

 

「あ・・・藤堂先生・・・研究所にいないんだ・・・」

 

『ああ、今日は早めに切り上げたのさ。なんだい?親と喧嘩でもしたのかい?』

 

「あ、え、えっと・・・」

 

『はぁ・・・愚痴なら明日聞いてやるさね。そうそう、アンタがやりたがってた試験召喚システムのテストプレイなんだけどね。そろそろ完成の目途が・・・』

 

 

途中でカヲルの声が切れる

 

 

「・・・充電・・・切れちゃった・・・」

 

 

電話の画面を見てそう呟くさやか

 

 

「明日・・・明日じゃもう遅すぎるんだよ・・・先生」

 

 

携帯を握り締めて呟くさやか

が、その直後・・・

 

 

「携帯・・・?あれ?私・・・誰と電話したんだっけ・・・?」

 

 

もはやたった今の事すら思い出せなくなりつつあるさやか

 

 

「忘れるな・・・トモ君の事だけは忘れるな」

 

 

忘れないように必死に呟きながら歩くさやか

そのままコンビニに入りレターセットとペンを手にレジに向かう

 

 

「い、いらっしゃいませ」

 

 

驚いた表情の店員

さやかは首を傾げるがその理由は店員の後ろにある電子レンジに写った自分の顔を見てすぐにわかった

 

 

(・・・酷い顔)

 

 

根元父に殴られたことにより、顔は痣だらけ

周囲を見渡すと他の客もさやかの方をチラチラと見ている

その視線に耐えられなくなったさやかはお釣りも受け取らずに足早にその場を離れた

そして人目につかないところで智也への手紙を書く

一部漢字も思い出せなくなりながら必死に自分の想いを書く

 

 

「これで良し・・・うん。大丈夫。まだトモ君の家は覚えてる」

 

 

智也への想いがよほど強かったのか、さやかは智也の事だけはまだ覚えていた

ポケットの中には正一から受け取ったお金

 

 

「逃げろって言われたけど・・・逃げてどうするの?記憶が無くなって知り合いが一人もいない場所でどうやって生きていくの?」

 

 

もうさやかには・・・生きる気力が残っていなかった

そんなことを考えつつ智也の家に向かってフラフラと歩いていると・・・

 

 

「きゃ!」

 

「いてて」

 

「あーあ。こりゃ腕が折れてるな」

 

「おい女。治療費よこせや。ま、払えないだろうからお代は身体で・・・」

 

 

ガラの悪い二人組の男が言いがかりをつけてくる

が、痣だらけのさやかの顔を見て固まった

 

 

「・・・はい」

 

「へ?」

 

「治療費です。どうもすいませんでした」

 

 

いいがかりとわかっていたさやかだが、一刻も早く智也の家に向かいたかったのと、今から死ぬつもりの自分にお金は必要ないという理由で素直に謝り、正一から受け取った金を全てその男に渡す

男の方も関わりたくなかったのか歩き去って行くさやかを黙って見送るのだった

 

智也の住む施設に着いたさやか

インターホンに手を伸ばすが押すことは出来ず、伸ばした手を引っ込める

 

 

「こんな顔・・・トモ君に見られたくないよ・・・」

 

 

それに自分と智也の関係を根本父に知られれば智也に危害が及ぶかもしれない

そう思ったさやかは数便受けに手紙を入れてその場を離れる

そして少し離れたところで智也の部屋を眺める

 

 

「最後にもう一度トモ君の顔を見たかったな・・・」

 

 

と、その時・・・軌跡は起こった

智也が窓を開け、星空を眺めはじめたのだ

 

 

(あぁ・・・神様ありがとう)

 

 

声を出せば聞こえる距離

しかしさやかは何も言わずその場を離れた

 

 

 

 

 

(ん?今、そこで何かが動いたような・・・)

 

 

暗くてよく見えなかったが、何かいるのかと智也は視線を向ける

 

 

『智也お兄ちゃん。晩御飯出来たよ』

 

「ああ、すぐ行く」

 

 

部屋の外から聞こえる声に返事をし、再び暗がりに視線を向けるが・・・

 

 

「・・・気のせいか」

 

 

すでにさやかは立ち去った後だった為、智也は気付くことなく窓を閉め、部屋を出て行った

 

 

 

 

 

智也への別れを終えたさやかは廃病院(現代で竹原が海人を誘拐した場所)に来ていた

ロープで入れないようにされているが構うことなくさやかは中に入り屋上に上る

 

 

「ここなら誰にも迷惑が掛からないよね?」

 

 

心優しい彼女はこんな状況でも他の人への気遣いを忘れない

ここなら下を歩く歩行者はいない

誰も巻き込まずに死ねる

そう思ったのだ

 

 

「お父さん・・・お母さん・・・ごめんね。さようなら」

 

 

そう呟いてさやかは屋上から飛び降りた

 

 

「バイバイ・・・トモ君。大好きだよ」

 

 

直後、身体は地面に叩きつけられ、芹沢さやかは・・・この世を去った

 




今週もなんとか更新
来週は遠方にて研修があるから投稿できないかも
なるべく頑張りますけどねw

次回も頑張ります
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