「おい、一体どうなっている!?どこの馬鹿だ、弾薬庫に火をつけたのはっ?!」
キンメル大将の怒鳴り声が指令室一杯に響き渡り、尉官を中心とした連絡将校があたふたとオペレーターを通じて当該区画警備隊に問い合わせ始める。夜明け前に突如として弾薬庫が一瞬にして吹き飛んだのだ、ぐっすり寝ていた司令官がベットから転げ落ち、軍服にも着替えずに指令室に飛び込んで激怒するのも無理はない。そこへ当直の中で一番位階が高い少尉がキッチリと敬礼をして報告をする。
「申し訳ありませんっ、目下捜査中でありますっ!」
「何が捜査中であるかっ、さっさと仮眠している部隊から一小隊引き抜いて確認してこいっ!」
「は、はっ!」
若い少尉が大慌てて指令室を飛び出していくのを横目に見てからほっ、と息をつく。つい愚痴が口をついて出てしまう。
「これだから本国の教育は甘いのだ、ぬくぬくと温室で育てるような教育を施すからいざというときに動けん、まったく。」
キンメルは元来た道を戻り、自分の居室に入ってすぐさま軍服に着替え始める。その間も、自分のそば付きである少佐に自分と指令室間の連絡を絶やさないよう命じ身支度を急いだ。
日本国が半年前に大日本連邦と名を変えて東南アジア、オセアニア、南アジアを席巻し、大亜細亜共栄圏構想とかいう、どうかしているとしか思えない計画に沿ってその版図を広げ始めてからこのハワイ基地は緊張しっぱなしだ。
なにしろ僅か1か月足らずで瞬く間に東南アジアを制し、ブリタニア領であったオーストラリアを割譲しろ、と強引な交渉が日本から持ち掛けられ行われたのがつい3か月前だ。
オーストラリアには駐留部隊がいたが、本国の皇族を中心とする上層部はオーストラリアをあまり重要な地とは見なかったようで、オーストラリア東部に点在する基地周辺地域を除いてそっくりそのまま日本に譲り渡した。
そのオーストラリアに点在する基地も半年の急ピッチで撤収し、駐留部隊はハワイに合流することになっているのだ。この状況で弾薬庫を焼失するなど失態もいいところだ、とキンメルは青筋を立てながら爪を噛みそうなのを必死に我慢する。
と、そこに新たな爆発音が立て続けに大きな揺れとともに聞こえてくる。中将はその怒りを一度治め、新たな爆発の原因を疑問に思った。先ほどの弾薬庫とは違う区画が爆発したのが居室から見えたのだ。
どう考えてもおかしい。弾薬庫から引火して隣の区画が爆発するならまだ理解できるが、まったく反対側にある区画が爆発するなど、ありえない。
「・・・どういうことだ、単なる失火ではないのか?なんだ、この違和感は・・・。」
と、そこへ先ほどキンメルの命令を聞いて指令室に飛んでいった少佐から連絡が入る。
「どうした?」
「申し上げます、先ほどの弾薬庫爆発は事故ではありません!日本軍による破壊工作です!先ほど向かわせた小隊からの救援要請で、大隊規模の敵勢力が基地内各管区に向かって浸透中とのこと!」
「なんだとッ?!」
「沿岸部の警備隊との連絡途絶!おそらく大規模な攻勢です!閣下、至急こちらへお越しください、閣下の居室では危険です!」
「えぇい、猪口才な真似をしおってッ・・・!わかった、今すぐそちらに向かう!」
居室から飛び出した中将は指令室への道を全速力で走り、指令室に再度入った。そこで現状確認をするべくオペレーターに向かって一声を発する。
「報告しろ!」
「はっ、現在、弾薬庫、兵舎の一部を焼失、兵員の損害は軽微。しかし、すでに燃料庫、備品庫を押さえられ防衛ラインを食糧庫を中心として引き直し中です。」
「何たるざまだ・・・、これではこの基地を失陥するではないか!そうすれば、本国に日本軍が雪崩れ込んでくるぞ!そもそも、宣戦布告はどうした、奴ら、何も言わずに土足で上がり込んできおって!」
「その件ですが、・・・一方的に沿岸警備艦隊に通知された後、その警備隊を全滅させたようです・・・。それと偵察機を出しましたが、大規模な敵航空戦力と戦艦2、巡洋艦3、小型艦10隻余りが全速力で基地に突っ込んできているそうです。」
「ッ野蛮な奴らめ・・・。・・・本国の宰相閣下に繋げ。」
「はっ!」
今度こそ爪を噛んだあと、オペレーターに命じると臣下の礼をとってモニターの前にキンメルは跪いた。数瞬の後、画面に顔が映ったが時々ひどい砂嵐がモニターの中で暴れまわる。相手の顔を確認したのち、頭を下げる。
「宰相閣下、緊急の要件でご連絡差し上げましたご無礼、どうぞお許しください。」
「構わないよ、大将。君と私の仲だ。それでなにかあったのかい?ひどい通信状態のようだが。」
「ハワイ基地に日本軍が突如宣戦布告とともに来襲。すでに基地の半分を制圧され、もはや長くは持ちません。この分だと退路もすでに押さえられているものと思われます。我々はここで玉砕致します。どうか、急ではございますが軍備を整えていただきたく。」
「・・・退路は未だに確認していないのだろう?玉砕を覚悟するのは早いと思うが。」
「残念ながら殿下、この基地の地理的要件、敵戦力の想定規模を鑑みるに脱出は不可能であります。」
「そうか・・・。わかったよ、すぐに軍を編成しよう。それまで持ちこたえるのは・・・無理だろうね。」
「はっ。急な援軍要請で申し訳ございません。しかし、このハワイ基地を失陥した場合、本土に日本軍が雪崩れ込むのは時間の問題であります。それだけは何としても避けねば。」
「・・・悲しいことだ、君を失うことになるとは。」
「もったいなきお言葉。小官は直参にあらずとも殿下の臣としてお仕えできたこと、光栄であります。」
「これまでの忠節、忘れない、よく仕えてくれた。・・・願わくは君の生きた雄姿をもう一度見ることができればいいね。」
「はっ。お約束はできませんが、全力を尽くすところと致しましょう。では、小官はこれにて。」
通信が終わった後、今度は陸軍に通信を繋げるようオペレーターに命令を下し、応対した陸軍の士官に向かって尋ねる。
「ショート中将は起きてるか?」
「はっ、つい先ほどご起床なされましたので、すぐいらっしゃることと思います。」
「よろしい。」
しばらくすると、パリッとしたノリのきいた軍服に身を包んだ真面目そうな顔をした男が画面に映る。
「おはようございます、キンメル大将閣下。爆発音がこちらまで聞こえました、何事です?」
「おはよう、中将。非常によろしくない知らせだ、日本軍の宣戦布告を受けてすでに我が海軍基地は半分が制圧された。こちらで善戦はしているが、もう長くは持たないだろう。先ほど宰相閣下に連絡を取って援軍の要請をしたが、間に合うまい。奴ら、海から攻めてきたのだから、陸軍にも逃げ道はもうない。・・・すまないな。」
「・・・そうですか。ならば、なるべく時間を稼がねばなりますまい。閣下、こちらへは脱出できそうですか?もしできるならば、陸軍基地を盾にゲリラ戦に持ち込むべきでしょう。
幾ら持つかわかりませんが、それならば多少は・・・。」
そこで画面の向こうから爆発音が聞こえてきた。怒鳴り声もする。
「どうやらそちらはあくまで陽動だったのでしょうね・・・。こちらも敵航空機を発見しました。閣下、私の案は使えません。各自でゲリラ戦に移るしか・・・。」
「なんということだ・・・。わかった、中将、一応連絡手段を残そうと思うが・・・、使えまいな。」
「えぇ、通信手段を残しても奴らのジャミングからは逃れられないでしょうな。では閣下、こちらも臨戦態勢に入ります。ご武運を。」
「君もな、中将。生きて帰ったらオススメのバーで奢ってやる。」
ショート中将が敬礼してモニターから消えるとキンメルは矢継ぎ早にオペレーターを介して各部隊に応戦の指示を与えていく。
それにしてもまさか、帝国宰相からあのような言葉をかけてもらえるとは、とキンメルは心の中で微笑んだ。モニターを各管区の映像に切り替えるとそこかしこに自軍の兵士の死体が転がっている。
地面に時折刺す薄暗い光から、敵航空機のその多さがわかる。キンメルはオペレーターに残存の全兵士に通信を繋げさせると自らの最後のものとなろう訓示を下した。
「帝国軍兵士諸君に継ぐ。諸君もすでに理解のことと思うが、我々はすでに幾重にも包囲され、四面楚歌の状態にある。だが宰相閣下は我々に永遠の奮戦を期待された。しかし、それは死を意味しない。生き抜くことこそが戦いだ。
諸君、銃を取って、兵器に乗って生き抜くための戦いを始めよ。以上をもって訓示とする。オール・ハイル・ブリタニタアァ!」
・・・36時間の激闘の後、両基地の司令官であるキンメル大将、ショート中将は激しく抵抗した末、射殺されハワイ陸軍・海軍両基地は日本の艦船、航空機の黒々とした鉄の大波に飲み込まれた。
◆ ◆ ◆
キンメル大将による報告を受けたシュナイゼルは、側近であるカノンに至急、御前会議を開く旨を各要人に伝えるよう命じると、宰相執務室を出て父帝シャルルがいるであろうアリエス宮へと向かった。あの父のことだ、間違いなくマリアンヌやルルーシュ、ナナリーと歓談中だろう。
心の中で苦笑しながらアリエス宮の正面玄関を速足でくぐり、宮殿の裏にある庭園へと足を向けたとき、中庭で自分がその才能を愛してやまない弟に会った。
「兄上?珍しいですね、政庁の休憩時間までは今少し時間がありますが・・・?もしや、何か起きましたか?」
「やあ、ルルーシュ。流石だね、その通り、嫌なことが起きた。緊急の要件でね、父上はこちらにいらっしゃるかい?」
「えぇ。お呼びしてきましょうか?」
「そうだね、呼んできてもらえないかい?それと、ルルーシュ、君にも来てもらいたいのだが、いいかな?」
「俺も、ですか?ですが、父上を呼ぶということはおそらく御前会議でしょう、そんなところに俺がいても大して・・・。」
そこにシュナイゼルが途中で遮る。
「いや、おそらくだけど、御前会議を聞いたらルルーシュ、君の頭脳が間違いなく必要だと私やコーネリアは思うだろう。それだったら最初から君を一緒に連れ出しておいたほうが後々楽だろうと思ってね。」
「・・・わかりました。お供します、兄上。」
「ありがとう。では父上を呼んできてもらえるかな?」
シュナイゼルの言葉に頷いた後、ルルーシュは急ぎ足で庭園の方向へと消えていった。しばらくすると、1台の車椅子の後ろに父シャルル、その後ろにほとんど隠れてしまっているが妹と弟が着いてきているのが見えた。シュナイゼルは先頭の車椅子の主に頭を下げ、挨拶をする。
「これは、マリアンヌ皇妃殿下。ご歓談中でしたでしょう、申し訳ありません。」
「あら、いいのよ。シュナイゼル、この人を呼びに来たということは御前会議でしょ、この人毎日ここに入り浸ってるんだからたまには仕事らしいこともしなきゃ。」
そこにシャルルが間に入って文句をマリアンヌに言う。
「そのようなことはない。確かに毎日ここに来るが、それは仕事を終えてから来ておる。変な偏見はやめい。」
マリアンヌも黙っていない。
「あら、そうなの?でも、私が気付くといつもナナリーのそばでナナリーとアーニャの剣の稽古してるの眺めてるじゃない。結構早い時間からやっていますし、始めてから1時間くらいで私も稽古を見て、そのあとあなた、ずっとこの宮殿内にいるじゃない。どの時間にお仕事していらっしゃるのかしら?」
「ぐっ・・・。あ、あのだな、そ、その・・・。と、とにかく、仕事はしておる!変に疑うでない!」
この返答を聞いて、シャルルを抜いた一同がクスクスと笑いを堪えようとする。バツが悪くなったシャルルは、一度大きく咳をして、シュナイゼルに問うた。
「それで、シュナイゼル、儂に何用だ?」
「そうでした、父上、至急御前会議を開きます。どうか円卓会議場へお越し願います。案件は今後の本土防衛計画及びハワイ奪還作戦の詳細を詰める会議です。」
「何?ハワイが堕ちたのか?相手は?」
「それも含めて今会議で討議いたします。まずは議場へ。それと、どうか、ルルーシュもお連れ頂くようお願いします。」
「・・・ルルーシュを連れて行くのは少し早いのではないか?確かに、すでに18ではあるが、まだ軍大学を出ておらんぞ?」
「父上、ルルーシュだけ贔屓にするのはお辞め下さい。飛び級で大学でも首席を維持し続けているルルーシュは即戦力です。コーネリアも参謀としてぜひ戦場に連れていきたいと申しているのです。」
「・・・はぁ・・・・。」
そこでシャルルは後ろにいたルルーシュに声をかけた。あの時以来、子煩悩に拍車が掛かっている父のことだ、ルルーシュの年でもまだまだ手元から離したくないのだろう、声音に渋々という文字がべったりとのっているのがわかる。
自分やコーネリアの時はあっさりと大任を任されたものだが、と心中複雑にも思わなくもないシュナイゼル。
「ルルーシュ。シュナイゼルはこう言うのだが・・・。お主はどう思う?」
「おr、・・私はシュナイゼル兄上の言葉が正しいと思います。この年にもなって未だ初陣すら飾れてないのは父上とてあまり手放しには喜べないでしょう?それに、私も、私の親友たちも早く一緒に戦場に立ちたいと思って最近は鬱屈としてました。」
ルルーシュの言葉を聞いてシャルルは長い溜息をつくと、シュナイゼルに向かい合い、注文を付けて言う。
「・・・よかろう、シュナイゼル、ルルーシュの同行を許す。だが、あまり危険なことはさせるでないぞ?」
「父上、それはコーネリア次第です。妹のことです、自発的に危険に晒すことは絶対ないでしょう。それに、ルルーシュは体力はともかくとしてその他の能力はラウンズと同等もしくはそれを遥かに凌ぎます。父上の騎士に加えても良いのでは?そうすれば立場はラウンズですが、ビスマルク卿の右腕としてラウンズの頭脳になりますし、父上にもその英邁を見せてくれるでしょう。」
「・・・それは良い案かもしれぬ。よし、ルルーシュの初陣の結果を見て戦果を挙げているようであればラウンズに加えよう、それが良い!」
ルルーシュは止めようとしたが、もうここまで来てしまえばシャルルの気を変えることはできない。
まぁ、今回は何も言わないでおくか、と心の中でルルーシュは思い、ふと目線を兄に向けると表情は変わっていないが、目の奥に明らかに楽しんでいる色が見えた。
瞬間、やられた!とルルーシュは思ったが、ここはぐっと抑える。突発的なことに弱いのは自分の短所だ。見事に兄に突かれてしまったことになる。
その兄が父に向って声をかけた。
「父上、そろそろ行きましょうか。ではマリアンヌ様、またの機会にお会いしましょう。ナナリー、父上とルルーシュを少しの間借りていくよ。」
そこで今まで一言も発していないナナリーがシュナイゼルに笑顔で告げる。
「はい、シュナイゼルお兄様。それとシュナイゼルお兄様、アーニャは連れて行くのですか?」
「どうだろうね。アーニャもラウンズの一角。出動要請が掛かるかもしれないけど、なるべく残す方向で頑張ってみるよ。ナナリーとしてもアーニャがいなくては稽古に張りがなくなってしまうだろうからね。」
「はい、お願いします。ではシュナイゼルお兄様、兄のこと、よろしくお願いします。」
ナナリーのその言葉を聞いてシャルルがうんうんと力強く頷きながらマリアンヌとナナリーに、では行ってくる、と声をかけルルーシュ、シュナイゼルと続いた。そこへマリアンヌが声をかける。
「そういえばシュナイゼル、私に役目が回ってくることはあるのかしら?」
「おそらくないと思いますよ。それにマリアンヌ様、もう帝国士官学校の校長は飽きてしまったのですか?」
「そういうわけではないんだけど・・・。なんて言うのかしらね、戦場の活気があればもっと面白いのに、ってここのところ思うのよ。」
「そうでしたか、それなら、いずれ帝国士官学校の生徒を率いて実地研修にいらっしゃればよろしいのでは?幸い、ルルーシュが出陣するのです、観戦の機会をいくらでも設けてくれるでしょうし。」
「あ、兄上っ、それ以上は・・・!」
「それはいいわね。ルルーシュ、お願いね?」
で、ですが、母上・・・、とオロオロするルルーシュを横目に、その母と異母兄は、相変わらず突発的なことには弱いな、と悪い笑顔を示し合わせて頷きあう。これにはルルーシュも仕方なしに母に戦場の観戦の場を設けることを約束した。
◆ ◆ ◆
さて、とシュナイゼルは声をあげ、自分と同じ段で広々としたテーブルを囲う面々、そしてこれを取り巻くように1階高いところに設けられた席に座る面々を見上げて静粛にするよう合図をし、これに皆従った。それを見て取って、シャルルが厳かに告げた。
「では、御前会議を始める。帝国宰相シュナイゼル、今会議での議題を述べ、そののち各自思うところを忌憚なく述べよ。」
「はっ。今回の議題はつい先ほど入った報告で、日本による我が国に対する宣戦布告、および本土防衛計画の見直しとハワイ奪還作戦についてです。」
これを聞いて、先ほどまで静かだった議場が大きくどよめく。真っ先に発言したのはコーネリア。
「兄上、宣戦布告は本当なのですか?それに、ハワイ奪還作戦ということは、すでにハワイ基地は陥落したと?」
「そうだね、コーネリア、私の友人であるキンメル大将が知らせてくれた。未だに抵抗しているけど時間の問題だそうだ。彼らが頑張っている今、我々は早急に軍を編成しこれに備えなければ。」
「・・・そうですか。ならば、この私がアラスカを起点に軍を編成しハワイへと南下しましょう。この際、本土防衛をするより南征して、ハワイを取り戻したほうが早いでしょう。」
そこで貴族たちの代表格である侯爵が口を挟んできた。
「コーネリア殿下のなんと勇ましいこと、さすがは戦女神というべきですかな。ですが、本土が危なくなっては孤立無援になるでしょう。ここはやはり、本土防衛を優先して行うべきでしょう。」
続けて、もう1人の代表格の侯爵が、
「その通り、本土に敵を入り込ませることになれば我々の寄って立つ地は文字通り無くなります。ならば、北ブリタニア大陸西岸に重点を置いて大規模な防衛軍を編成するべきですな。」
この2人の貴族の発言にそうだ、そうだと続く貴族が相次ぐ。これを見て取ったコーネリアは忌々しそうに小さく舌を打った。
「だが、そうなれば、南ブリタニア大陸と中央ブリタニアはどうするのだ。北に軍の大半を割けばこの片方もしくは両方を失うかもしれないのだぞ?」
「もちろん最低限の防衛軍は残しますとも。ですが、南太平洋はいかに海軍が強い日本軍とて横断はできますまい。そう考えればハワイから直近である北大陸を守るほうが先決でしょう。」
「しかしッ・・・。」
「それともコーネリア殿下は皇帝陛下のおわすこの帝都すら危険に晒してハワイに行くというのですかな?アラスカを起点と言ってもあそこには大した兵力は存在しない。どう頑張ってもハワイには辿り着けますまい。」
「くっ・・・。」
ギリッと奥歯を鳴らしてコーネリアは黙り込んでしまった。
ここでスッと手が上がる。
議場の全員がその手の主に顔を向け、貴族連中は顔半分を袖で隠してヒソヒソと何やら語り始める。それと対照的に皇族は一様に少し驚いたような顔を。1階高いところに座るラウンズや眼下にいる主たちの副官は面白そうな顔をして。
シュナイゼルはすぐに少し驚いた顔をすぐ引っ込め微笑みながら意見を促した。
「どうぞ、ルルーシュ、言ってごらん。」
「では。ラウンズをアリューシャン列島に沿って進撃させ北海道を急襲します。その後、コーネリア殿下がアラスカを起点に編成した軍を南下させハワイを奪還します。これで相手の攻勢は間違いなく潰せるでしょう。現在の状況でなすべきは、消極的防衛ではなく、積極的防衛です。ハワイは太平洋方面における、言わば本土防衛のための前哨基地。これを失陥したとすれば、本土防衛を志向してもうまくはいかないでしょう。本土と言っても南北に伸びる大陸の西岸全体は守り切れませんし、万が一にも中央のパナマ地峡を失った場合、帝国そのものが立ち行かなくなります。それに、E.U.の動きも怪しい。いつまでも日本に掛かりきりになるわけにはいきません。」
貴族たちは、反論できる糸口を探しているのか、特に何も言わない。ルルーシュは続けて、
「ラウンズを動かせるのは陛下だけですが、もし、陛下がラウンズを動かして頂けるなら、必ず、ハワイはブリタニアが手にすることができます。そうすれば、ハワイは前哨基地として再度機能し、日本に攻め込む姿勢を示せるでしょう。そうすればこちらのものです。」
そこで貴族たちが騒ぎ出す。本当に必ずなんだな、一度言ったからにはその責任は取らなければならないぞ、などとまるでルルーシュが墓穴を掘ったと言わんばかりに囃し立てる。そこにシュナイゼルが静粛にと促すと、さすがに貴族たちも
まともに相手にできないシュナイゼルの言に従う。静かになった議場にシュナイゼルの声がスゥっと通った。
「それで、ルルーシュ、君がそう言うからにはそうなんだろう。では、指揮官は誰にする?ハワイ攻略軍の指揮官は先ほどコーネリアだと君自身が言ったことだ。ラウンズは本来作戦指揮官を戴かないが今回に限ってはそれはまずいだろう。誰がいいと思う?」
そこでルルーシュは一瞬だけ考え込むとすぐに答えを返した。
「第9席のエニアグラム卿がいいでしょう。コーネリア殿下と知己ですし、突破力で言えば第7席の枢木卿、第10席のブラッドリー卿と肩を並べます。北海道急襲はとにかく時間との勝負。いかに早く一撃離脱ができるかが問われます。その点でもエニアグラム卿は最適です。」
「そうか・・・。陛下、ルルーシュの言、私も全面的に賛成です。我々はこれ以上敗北は許されません。となると、積極的防衛から消極的攻勢を掛け、相手を牽制するのが最善の手と思われます。」
貴族がこれ以上しゃしゃり出てこれないよう、ここで貴族の鼻っ面を叩く。それに、ルルーシュの初の公式会議の出席と発言だ、ここで花を持たせたほうが後々この会議での風通しが良くなる。
そういう思いからシャルルに話を振ると、シャルルも心得たもので、
「うむ。両侯爵の意見も尤もであるが、ここは我が息子ルルーシュの意見が正しいように思う。よって、ルルーシュの意見を採用する。ラウンズには追って私が命じよう。それとルルーシュは会議の終了後、ラウンズとともに儂のもとへ来い。シュナイゼル、E.U.への牽制は任せる。」
「はっ。ではこれにて御前会議を終了いたします。」
「うむ。」
と、2人でちゃっちゃと会議を終了させてしまった。
◆ ◆ ◆
会議の後、ルルーシュはラウンズが控えているラウンズ専用の共同リビングに向かっていた。左右にはカレン、スザクがついて歩いている。
「それにしてもルルーシュ、あんたがあの場で発言するとは思わなかったわ。会議は聞き流して裏からコソコソ細工して貴族の連中を騙すと思ってたんだけど。」
カレンが口火を切ると、それにスザクも続く。
「そうだね、僕もてっきりカレンの言う通り、うやむやにしてから一気に片を付けるつもりだと思ったんだけど。どういう心境の変化だい?」
これにぶっきらぼうにルルーシュは答えて、
「お前たち、少し俺に対して失礼じゃないか?・・・まぁいい、そうだな、お前たちが戦場に出て俺だけ置いてきぼり、というのは正直あまりいい気がしていなかった。それに今回のこの日本の唐突な行動、おかしいと思わないか?俺は何か裏があると踏んでいる。それが何か直接知りたいからというのが今回の行動の要因だ。」
「・・・それってギアス関連で何か動いてるってこと?嫌になるわね、まったく。」
「僕とカレンはよく知らないけど、8年前のあの事件に関係してるってことだよね?」
「そこまではわからないが、とりあえず日本政府の裏側で何らかの取引が行われていたのは間違いないだろうな。」
ここまでの陰鬱になる話を切り上げ、目的地の手前にあるドアの前までくると2人に向かって言う。
「陰気くさい話はここまでだ。中に入ったらお前たちの最近の話を聞かせてくれ。」
そう言って、先に部屋の中へと入っていき、2人もそれに続いた。
中に入ると、すでにカレン、スザク以外のラウンズのメンバーが揃っていた。一番出入り口に近いところに立っていた第1席のビスマルクが口を開く。
「ルルーシュ殿下、先ほどの議場での発言、誠に立派の一言です。あの会議を初見で、正面切って発言できる胆力を持っているのは後にも先にもシュナイゼル宰相閣下のみだろうと思っておりました。ですが、さすがにシュナイゼル殿下が見込まれただけはある。」
「ありがとうございます、ヴァルトシュタイン卿。そう言っていただけると、発言した甲斐があったというものです。」
「殿下、私のことはビスマルクと呼び捨てになさって結構です。あなたほどの聡明な方に畏まられると私としても体がむず痒い。」
「・・・ではビスマルク卿、と。さすがにラウンズの方々を呼び捨てにできるほど私は偉くないので。まぁ、カレンとスザクは別ですが。」
「おい。親しき仲にも礼儀ありって聞いたことないの、あんた?」
「ひどいよ、ルルーシュ。確かに僕たちは友達だけど、こういう場面ではさすがに自重しようよ。」
この2人の反応に一斉にラウンズの面々は吹き出した。そこへシャルルの伝言を授かった近衛兵が部屋に入ってきた。
「ご歓談中のところ、失礼いたします。皇帝陛下がお呼びです。陛下の執務室までお越しください。」
こう言って、飛ぶように近衛兵は帰っていった。
これを見送ったビスマルクが全員に号令し、ラウンズは一団となって執務室へと足を向けた。
どうでしたでしょうか?自分で読んでいるとなんと単調で味気ない文章だろうかと我ながら情けなくなってきます。ですが、段々とわかりやすく臨場感を持った文章を書けるようになったらと思います。
一応1週間に1本のペースで投稿しようと思いますが、4月まではなるべく多く投稿出来たらと思います。