ちまちま書き溜めてたつもりなんだけど・・・。
アッツ島を出撃したナイトオブラウンズとその直属部隊、そしてルルーシュを加えたホッカイドウ急襲部隊は、隠密を徹底した行軍でエトロフ、クナシリ、シコタン、ハボマイの諸島を素通りし寝静まったネムロ上空へと到達することに成功した。時間は夜半の3時、雲によって月光が遮られていて夜襲をかけるにはいい条件だ。ノネットの号令によってそれぞれが再度武装の確認を行い、襲撃の準備を整える。
その間にルルーシュは上空から判別できる限りの建物をドルイドシステムに解析させ、ノネットへと情報を転送した後、部隊から距離を取った。C.C.は距離を取ったことが不満だったのか、後ろに座るルルーシュへと不平を口にした。
「おいルルーシュ、なぜ距離を取る。時間帯も問題ないし天候もこちらの味方だ、私たちも参戦すればさっさと帰還できるじゃないか」
「C.C.、こちらはラウンズが2人もいるのだぞ、戦力が過剰だ。それに、お前はともかくとして俺はホッカイドウ急襲軍のアタマだ、落とされるわけにはいかない」
「なんだ、つまらん。お前はマリアンヌのガキなんだろ、敵の一機も撃墜して見せろ」
余計なお世話だ、とルルーシュは返したが、C.C.はこちらを見て小馬鹿にするように笑う。道すがら、このC.C.という女と会話をいくらか交わしてみたが、とにかく気分屋で行動の予測がつけにくい、とルルーシュは苦々しく思った。新緑を思わせる髪に月光を連想させる目をし、ほっそりとしながらも出るところはとことん出ている姿は見るだけなら妖艶な女だが、中身ですべてが台無しで、一度口を開けばこの女に対する淡い希望は、恒星が超新星を起こして砂粒すら残らいない様と大して変わらないまでに霧散する。
とりあえず言わせたいだけ言わせて後は無視すればいい、今はノネットとスザクの様子と敵の動き、目標物の破壊数と援軍の有無に目を光らせておかなければならない、とルルーシュは意識を変える。士官学校でも情報解析とその通達は演習を通して経験したが、それに加えて今回は敵援軍に備えて即応待機がある。要は敵からしてみればいいカモだ。
「・・・俎上の魚にだけはならないようにしないとな。余計な負担をノネットたちにかけるわけにはいかない」
「なんだ、だったら死中に活を求めればいいじゃないか。お前、そういうの得意そうだしな」
「っ、聞こえていたのか。だが、そのような行き当たりばったりで事を運ぶのは悪手だ。予め想定しておけば余計な労力を割かずに済む」
「前言撤回だ、お前は死中に活を求めるタイプではないな。むしろそのまま押し込まれて死ぬ」
「黙れ魔女」
もう一言二言言ってやろうかと口を開きかけたが、そこにノネットからメッセージが自動音声を介して伝えられた。作戦開始。その短く、簡単なメッセージを受けて目を正面のモニターへと移すとちょうどノネットとスザクが先頭を競うように日本軍の空軍基地に突貫をかけているのが見えた。ユーウェインはまだフロートユニットを持たないため、KMF専用空輸機から脱着していたが通常のKMFより重量がある分、落ちるスピードが速い。そのまま、ランスロットとユーウェインはほぼ同時に敵航空機を踏み潰して着地した。
そのあとに続くようにラウンズ直属が次々と日本軍の基地へと着地していく。敵からすれば恐怖だ、なにしろ闇の中、上から踏み潰しにくる可能性を秘めた重量物が突然姿を現されれば驚かないほうが無理だろう。あとはラウンズ直属部隊が飛んでいる航空機を相手にどこまで立ち回れるかで、KMFがどの程度、既存の航空兵器に対抗できるかの指標の一部となる。
KMFの既存兵器に対する有効性は、ブリタニア国内の限定的な実験によって検証されていたが実戦では初めてだ。海はともかく、陸と空では絶対優位を確立した上で、KMFが既存兵器よりも安く、多く配備できることを示さなければならない。その為にも、ガウェインで戦闘映像は録画し、ロイドへの良い手土産としなければならない。今のところは動けない敵を一方的に叩いているだけだ、航空機が飛び始めてからがこの戦闘記録を残す意味を持つ。
慌てふためいた日本軍が軍隊蟻のように列をなして逃げていく。所々に抵抗を試み、ヘリコプターに乗り込んで空へと舞い上がる者たちがあったが、それもラウンズ直属部隊によってスラッシュハーケンで矢継ぎ早に落とされていった。これでブリタニア帝国軍に配備されているKMFのうち、グロースター以降に開発された世代のKMFは対航空実用性が優位であることが確定した。早速ロイドへの土産ができたな、とルルーシュはほくそ笑む。そこにC.C.が声をかけてきた。
「おい、お前が設定していた目標物のほとんどが破壊されたみたいだぞ。ルルーシュ、ノネットたちは掃討戦に移るみたいだが私たちはどうする?」
ふむ、と顎に手を添えてルルーシュは少しの間考え込む。ノネットたちが掃討戦に移行した以上、敵の援軍が来たとしてもこちらはさっさと撤退すればいいだけだ、リズムさえ崩されなければいくらでもなんとかなる。それに目標物を破壊できたということは、この基地に残存する敵兵力の無力化にほぼ成功したと言っていい。ならアッツ島にいる自軍をネムロ基地に呼び寄せて占領してしまえば、こちらはそのまま日本本州を攻撃する橋頭保を確保できる。
ここまで瞬時に思い巡らせたルルーシュは、来た道を戻って素通りした諸島を攻撃するために部隊を動かすことを決めた。手持無沙汰に面白くなさそうにモニターを眺めたり、横の小さいパネルを見ていじったりしているC.C.に返事を返す。
「C.C.、お前が待ちに待っていた戦闘だ。先ほど素通りしたエトロフ、クナシリ、シコタン、ハボマイの諸島に部隊を動かす。アッツ島からでは1時間半ほどはかかるだろう、その間にスザクを連れて各個撃破する。」
「やっとか。退屈すぎて死にそうだったよ、くふふっ」
「・・・何か面白いことでもあったか?」
「死ねないやつの死にたいジョークだ!・・・何でもない、さっさとお前がするべきことをしろ」
なんだこいつは、とルルーシュは思いながらも、バックアップとして連れてきたアヴァロンに乗っているロイドにアッツ島臨時基地へ中継を頼む。しばらくして繋がったモニターにジェレミアが映った。
「殿下、お呼びでしょうか」
「あぁ、ラウンズがネムロ基地を攻略した。ゆえに、このまま占領するため素通りした各諸島をこれから攻略する。ジェレミア、お前はキューエルと交代して補給路の確立、キューエルとヴィレッタはそちらに呼び戻してアッツ島を出撃させろ」
「なんと、攻略してしまわれたのか・・・。分かりました、では」
「待て。キューエルたちに伝言だ。早く来ないとスザクに全部取られるぞ、と。あとジェレミア、姉上にこちらの補給路確保を任せてお前も飛んできてもいいぞ、姉上なら何とかしてくれるだろう」
「それは真にございますか!それは私もぜひ合流せねば!では殿下、失礼いたします!」
「あぁ、頼んだぞ」
ジェレミアとの通信が終わった後、ロイドに戦闘録画を転送する。その間にも、ルルーシュはノネットと連絡を取りスザクを各諸島確保に向かわせてほしいことや、部隊の被害状況などを把握していた。
◆ ◆ ◆
ノネットとスザクはルルーシュから連絡を受けた後、ノネットがネムロ基地の掌握、スザクが周辺地域の警戒及び巡撫に分かれて占領の準備を進めていた。
兵舎や司令部は破壊したが、倉庫が集まる区画は最優先で確保を目指したことで損傷は比較的軽微だった。これならあとはアッツ島から持ってくる物資を流用して簡易的な建物を建設さえすれば基地としての最低限の機能は復活するな、とノネットは心の中で溜息をこぼす。もし倉庫群が跡形もなく消えていたらルルーシュからネチネチと小言を言われること必至だ。
一方、基地周辺の巡撫を任されていたスザクは基地周辺に点在する沼沢地という意外な敵に悪戦苦闘していた。
「事前に配布されていた地図と実際の沼沢地の位置と範囲が違う?なぜ・・・」
そこにスザクの下に臨時で派遣された騎士たちのうち、北方出身の者がスザクの疑問に答えた。
「時期が冬であること、そして上陸してしばらくして気付きましたが地面が柔らかいことから、雨や雪が降る季節はこういった状況になりやすいのではないでしょうか?」
「これは思ったような地点防衛ができなくなるな。・・・この際、沼沢地は無視したほうがいいかもしれない」
「し、しかし、それではせっかくほぼ損害なしで手に入れた基地をみすみす手放してしまうことに・・・!」
「いや、ルルーシュはそうは考えないだろう。彼なら奪取した基地をそのまま前線基地として利用すると思う。それなら、沼沢地を抜ける道を探すか作るかを考えたほうがいいだろう」
「・・・そうでしょうか?聡明なルルーシュ殿下のことです、おそらく防衛を主軸にして今後の作戦をお考えのはずだと思いますが?」
その北方出身の臨時の部下の言葉に他の騎士たちも同意し始める。ここで反論してもこの人たちは聞いてはくれないだろう、とスザクは開きかけた口を閉じた。シャルルの代から人種差別を徹底的に取り締まるようになったブリタニアは表面的には差別がないとされるが、それでもブリタニア至上主義のような人種差別は未だに根強く貴族や騎士の間に残っている。
カレンやドロテアなど、有色人種がその実力を示して高い地位にいることは最近になって認められてきたが、そもそも彼女たちはブリタニアの血が半分流れているのだ。自分は違う。純粋な日本人で一滴たりともブリタニアの血は流れていない。だから、貴族や騎士の者たちに侮蔑や嘲笑されることは昔から多かった。皇帝や宰相、ナイトオブワンに認められて最近ラウンズに入団したが、まだ自分の実力を疑問視している者たちが大半だろう。本国に帰ったらラウンズ直属騎士団を選抜することになっているが、一工夫考えなきゃな、とスザクは思った。
そこにノネットからコールがかかる。すぐに応答すると、モニターにノネットの顔が映り込んだ。
「ルルーシュからご指名だぞ、スザク。素通りした島々の掃討をルルーシュとお前の2人でやるってさ」
「わかった。あ、でも僕に着いてきている騎士たちはどうするんだい?」
「あたしが面倒みるよ。どうせ嘗め切った態度取ってるんでしょ?あたしが一発喝入れてやるよ。一旦ネムロ基地まで戻って来な」
「了解、そこで交代だ」
通信を切り、部下に帰投を命令してからランスロットは最大出力で基地へと翔けた。
ネムロ基地へ戻ったスザクは休憩もそこそこにエナジーフィラーを交換したランスロットに再び乗り込んで、ガウェインとともに海上へと飛び立ったところにルルーシュから通信が入りリンクを繋げて真っ先に尋ねた。
「それで、ルルーシュ、これからどこに行くんだい?」
「素通りした島々があっただろう?その島々に残留しているであろう敵部隊をこれから2人で掃討する。最初は一番北に位置するエトロフ島からだ」
「それはなんでだい?ここからだったらハボマイ群島が目と鼻の先じゃないか」
「単純にE.U.圏に逃げられると敵わないからだ。未だにブリタニアとは戦争状態に入っていないE.U.に入り込まれると余計な口実を向こうに与えるからな、それを阻止するために最北の島から順次南下して攻略するわけだ」
「なら二手に別れて南と北の挟み撃ちにした方が良くないかな?」
スザクの尤もな意見にルルーシュは少し黙り、ややばつの悪そうな顔をしながら答えを返してきた。
「まぁ、俺も最初はそう考えたんだが・・・。スザク、ノネットから聞いたぞ、ラウンズなのに侮られてるとな。俺はそちらをどうにかしたい。正直なところ、さっき言ったE.U.の問題が面倒というのは八割がた何とかなる問題だ。それよりも味方の士気のほうが気になる」
「僕は別に構わないんだけど・・・。まぁルルーシュがそう言うなら」
それからエトロフ島へと向かう中、自分の考えているラウンズ直属騎士団の選抜に関して、意見をルルーシュに求めてみる。スザクはどうするつもりなのか、と逆に聞き返されて、答えたのは自分が試験官となって1対1もしくは志願した相手全員と戦う、という至極単純なもの。理由は簡単、侮られているなら実力をもって相手を叩き潰す。昔から世界中で行われてきた伝統ある方法が一番だと考えたのだ。
ルルーシュの反応は左手で両のこめかみを抑えて大きな溜息だった。だが、その左手をどかした下には、苦笑しながらも面白そうだ、という表情が顔に浮かんでいた。
「いいんじゃないか?他にもやりようはあると思うが、お前がどういった信念を持っているのかを示すという意味でも悪くはないと思うぞ?」
「そうかい?てっきり僕は反対されるものだと思ってたよ」
「反対はしないさ。諫言をするだけして、あとはお前次第だという風に持ち込むだけだ。だが、その方法で行くならやはり今回の諸島攻略、暫定でスザク単独で行わせて、俺はバックアップに回ろう」
「いいのかい?」
「あぁ、お前が打ち漏らした敵を俺が叩く。あとはお前の戦いぶりを録画して持ち帰れば、少しは他の連中もお前のことを見直すことにもなるだろうしな」
エトロフ島に着いたランスロットは、島内に点在する敵の観測所やKMFが集合している前哨基地に突貫していった。まさしく獅子奮迅、万夫不当、破竹の勢いをもって次々に落としていき瞬く間にエトロフ島を制圧した。その勢いを保ったまま、クナシリ島へと突っ込んでいく。
一方でルルーシュは、アッツ島を出撃したキューエルたちをハボマイ群島へと誘導し、制圧させていく。個人と集団を比較するのも変な話だが、スザクほどの勢いはないものの、セオリーに沿った用兵で着実に島の一つ一つを潰していく様を見て、姉上はいい騎士たちを送ってくれたな、とルルーシュは満足しながら、C.C.にスザクの打ち漏らしを指定して攻撃させる。
スザクのラウンズとしての名誉の確立、部下の力試し、C.C.のガス抜きなどを一挙に行える現況は、ルルーシュにとってまさしく最も望んだ状況だった。すべてが上手くいっている、途中途中で作戦の変更が生じたが自分のおおよその予想からは外れていない。
「フフフフッ、フハハハハハハハハハ!」
ルルーシュの高笑いは、C.C.が振り返ってルルーシュの脛を思いっ切り捻るまで続いた。
◆ ◆ ◆
新宿歌舞伎町の一角にある『呑みや 玉城』の奥で、三者は改めて対面した。まず口火を切ったのは篠崎咲世子。
「では、改めて。篠崎咲世子と申します。」
咲世子の挨拶に赤毛の青年がそれぞれ自己紹介する。
「俺は紅月直人。ブリタニア出身だ。こちらは大学時代以来の友人で、扇要。それで、篠崎さん、貴女はなぜ日本軍の動きが知りたい?」
「・・・具体的には申し上げられません。ですが、日本軍の動きを知ればブリタニア軍がどこにいるのか多少ではありますが予想がつくと思いましたので」
「ということは・・・、ブリタニアに接触したいのか・・・?なぜ?」
「その質問にはお答えできないのです。しかし、ブリタニアを排除したいというような考えからではないことは確かです」
咲世子の返答に直人はしばらく黙り込んで考えをまとめ始める。つまり、咲世子は皇神楽耶というとんでもなくビックな依頼人から、ブリタニアに穏便に、しかも秘密裏に接触したいという依頼を受けてブリタニア軍の来るであろう場所で待ち構えるということだ。おそらく彼女はただの伝達役、なら真意を問い質すべきなのは依頼人である皇神楽耶だ。とすると、問い詰めても彼女はほとんど何も知らないだろう、と結論を下すと直人は口を開いた。
「なんとなくではありますが、理解しました。では、接触する相手はブリタニア軍ということでいいのですね?」
「・・・いえ、本命は枢木元首相のご子息です。あの方は無事ブリタニアへと亡命できたと伺っております、その方を通して面識のあるブリタニア皇族と連絡を取り持ってほしい、というのが神楽耶様のご依頼です」
「ブリタニアの皇族と?」
「はい、以前日本に来日された皇族の方と面識があるようなので、その方を頼りたいとのことでした」
ここでまたも直人は考え込む。皇神楽耶は何を考えているのか。もう一度『京都六家』の亡命を企てているのか、それとも別の何かを求めているのか。いまいち何がしたいのか掴めない。
こうして直人が考え込んでいる間に、咲世子は扇に質問していた。
「あなた方は何を目的に動いているのですか?紅月さんはブリタニア人とのことですし、ただ単に大学の同窓会で集まったというわけでもないのでしょうし」
「え、えぇと・・・、俺たちは今の日本の政治を何とか変えられないか、そのために活動しているんだ」
「紅月さんとはどういう風に出会ったのですか?」
「直人は元々ブリタニアの大学でサクラダイトについて研究していたんだ。そのサクラダイト関係で日本に留学してきて、新宿でやっていた政治家の街頭演説に訂正を入れていたのを聞いて俺が声をかけたのが付き合いの始まりさ」
「そうなのですか」
そんなこんなで咲世子が扇と話していると、頭の整理が終わったのか直人が会話に加わってきた。
「ご歓談中のところ悪いんだが、要、一旦お前に活動を預けてもいいか?俺は咲世子さんをブリタニアの皇族に引き合わせようと思うんだ」
「別に構わないが・・・、今は厳しくないか?出入国制限でブリタニア行きは無理だろう?」
「直接ブリタニアに行かなくても、皇族に引き合わせる手段はあるさ」
「どうやって?」
「それは秘密だ。言ってしまったら最後、お前も真一郎もこの国で生きていけなくなるだろうし」
「・・・そ、そうか」
「それじゃあ早速で悪いけど、咲世子さん付いてきて下さい。要、とりあえず1週間くらい頼む」
「分かった。二人とも、気を付けて」
扇の言葉を背に、直人は咲世子を伴って『呑みや 玉城』を出て、新宿から政治の中心が集まっている霞ヶ関にほど近いブリタニア大使館に移動した。ほぼ顔パスの直人を見て咲世子は心の中で驚く。現況は日本にとってもブリタニアにとっても非常に微妙で、一瞬で崩落する橋のようなものだ。この状況下で大したチェックも行われずに大使館の門を潜れるということは、相当信頼度のある人物ということかもしれない。
『呑みや 玉城』に入ったときは少し早まったかとも思ったが、ここまでトントン拍子で来ている。これはもしかしたらひょっとしたらひょっとするかもしれない、と咲世子は人知れず喜んだ。神楽耶から受けた依頼はまず枢木スザクとの接触、次に彼と交友があるであろう皇族に取り次いでもらうこと、この二つである。果たしてスザクがブリタニア皇族と交際があるかどうかという点は疑問があるが、一時は日本の実質的な最高権力者だった男の息子だ。伝手くらいはあるだろう。
重要なのは枢木スザクを通してブリタニア皇族と接触するという一点だ。『京都六家』が秘密裏に行おうとしている計画は、亡命に成功した枢木スザクを連絡係に見立てて、日本の主権者の一人でありなおかつ日本の象徴として害される恐れが少ない皇神楽耶が、神聖ブリタニア帝国の主権者である皇帝と対等に話すことを前提としなければならない。もしこの前提を無視すれば、神楽耶は日本国民から売国奴として非難されることになり、また、戦争に負けた場合ブリタニアの傀儡にされる可能性が出てくる。
そんなことを考えながら大使館の守衛から検査を受け、すぐそばで待っていた直人に声をかけると、直人は少し顎をしゃくって大使館の廊下を奥へ奥へと進み始めた。それに咲世子は付いていくとやがて、エレベーターが現れ直人とともに乗り込む。咲世子がエレベーターに乗り込んだことを確認すると、二人を載せた鉄の箱は上へと少しづつ加速して上っていった。
最上階に着きエレベーターの扉が開くと、そこは東京全体を一望できる全面窓ガラス張りの部屋だった。床は間違いなく高級な濃紺のカーペットが少しの隙間もなく敷かれ、奥には濃い色の木材で出来たどっしりとしたテーブルが置かれている。そのテーブルで書類を読んだり、サインしたりしている人物がおそらくブリタニアの特命全権大使だろう。その人物に直人が声をかけると、チラリと直人たちに目をやってから面倒くさそうに返事をした。
「なんだ、私は見ての通り忙しい、余計な案件は抱え込んでほしくないのだがね」
「申し訳ありません閣下、しかし特定資料の閲覧には閣下のご許可が必要ですので」
「今度はなんだ、何が見たいのだ?」
「軍の行動予定表と作戦概要とその結果に関連する資料を閲覧したいのですが」
「・・・その横にいる女に教えるためにか?ならん、それに貴様は過去に何度か逆らって私の予定を台無しにした過失がある、おいそれと許可は与えられん」
この言葉に直人は少し顔を顰めると、少しお耳に挟みたいことが、と断って大使に近づき小声で何事かを囁いた。それを聞いていた大使の顔が一瞬大変化したのを咲世子は見逃さなかった。直人たちの入室以来明らかに不機嫌だという目が、欲望に火が付いた目へと一瞬だけ変化したが元の不愉快そうな目に戻る。それから大使は目を瞑ってしばらく考えると、目を開いてまた書類を確認しながら直人に言い渡した。
「いいだろう、行動予定表に関しては無理だが、作戦結果の資料の閲覧は許可しよう。だが、先ほどの話、虚偽であったのなら今度こそお前は本国送還だ」
「ありがとうございます。では失礼いたします」
そう言って、直人は咲世子を促してエレベーターに再度乗り込んだ。その扉が閉まる寸前、見えた大使の顔は気色の悪い満面の笑みだった。
エレベーターを降りた直人たちは資料室に直行した。直人は大使の許可は得ていると突っぱねると、ブリタニア軍に関連する真新しい資料を残らずひったくって資料室を後にする。資料室の扉の横に待機していた咲世子の腕を取って引っ張り、急ぎ足で自分に与えられた事務室に向かい、着くと迷わず咲世子を先に押し込んで、自分も入室すると厳重にカギをかけて直人はほっ、と一息ついた。
咲世子を手近な椅子に座らせると、直人も椅子に座って先ほど資料室から奪取したブリタニア軍の資料を半分に分けて、咲世子に半分投げよこす。間違いなく部外秘の重要資料をポンと自分に見せるのはいかがなものか、と咲世子は思い直人に声をかけたが、すでに直人は心ここにあらずで、一心不乱に資料を片っ端から読み漁っていた。
◆ ◆ ◆
帝都ペンドラゴンには皇宮に併設されてラウンズ専用の広々とした営舎がある。営舎とは言っているが、その実態は皇宮と遜色ない豪華さを誇るいわばラウンズのための宮殿で、その敷地にはラウンズそれぞれの私室はもちろん、談話室や娯楽室、大浴場といった憩いの場から、プール、射撃場に闘技場といった訓練場も備えている。その中のうち、食堂に四人のラウンズが集い昼食を取りながら会話を交わしていた。
「紅月卿、個人的な会話を交わすのは初めてだな。私のことはドロテアでいい、何かあれば気軽に聞いてくれ、答えられる範囲で答えよう」
「こ、こちらこそ!あ、あたしのことはカレンって呼び捨てにしてください、変に畏まったりするのあたし苦手なので・・・」
カレンはそうドロテアに返すと、隣に座るモニカ、目の前に座っているアーニャにも同じことを言う。改めて思うとすごいメンツだ、とカレンは思う。なにせナイトオブワンに比肩すると言われる女傑のドロテア・エルンスト、砲撃戦をさせたら右に出る者がいないと言われているアーニャ・アールストレイム、生身でもKMFでも世界屈指の狙撃の名手に数えられるモニカ・クルシェフスキーと同じ食卓を囲んでいるのだ。自分もラウンズになったのだなと否でも実感する。
そこにモニカが質問を投げかけてきた。
「私のこともモニカでいいわ。せっかくだしカレン、貴女のご家族のことを教えてくれない?私も父の代にモスクワから移民してきた家系だから同じハーフである貴女のこと、結構心配しているのよ」
「モニカ、それを言ったら私はどうなる。この黒い肌に黒髪、どこからどう見ても私も移民の家系ではないか」
「エルンスト卿、貴女は家系なんて吹っ飛ばす実力の持ち主です、わざわざ喧嘩を吹っ掛けに来る人なんてヴァルトシュタイン卿くらいのものだと思いますよ?」
「ほぉ、言うようになったなモニカ?今度模擬戦闘でもしてみようか?」
そ、それはちょっと、とドロテアに引きつった顔を向けたモニカにカレンはクスクスと笑うと、先ほどまで事務的な雰囲気だったのが一気に崩れ和気藹々とした空気に少しずつ変化していく。そこに目の前の眠そうな少女がモニカとドロテアに声をかける。
「二人とも、イチャイチャしないで。カレンが家族のこと教えてくれるんだから」
「アーニャ、私はイチャイチャなどしていない。モニカに私が移民の家系であることを思い出させようとしただけだ」
「そうよアーニャ。だいたい、私とエルンスト卿じゃあ私の格があまりに低すぎてお話にならないわ。それよりもカレン、教えてくれない、家族のこと?」
いいですよー、とカレンは応じて自分の家族について語りだす。あまり好きではない貴族としてのシュタットフェルト公爵家に、日本から何も知らずに転がり込んだ母、優秀なのかそうでないのかわからないがとにかく優しい兄のことなど、自分が知っている家族のことを三人に聞かせた。話を聞き終わった三人は、よく聞く話の実例が目の前にいるのかと興味深そうにカレンを見ていた。一概に言い捨てできない問題だけに慎重にドロテアが口を開く。
「移民の家系はいろいろあるが、大抵は貴族と貴族の政略結婚で生まれることが多い。が、純粋な恋愛結婚でシュタットフェルト家ほどの名家が移民の家系になるとはな」
「そうですね、私の家もロシア貴族とブリタニア貴族の政略結婚でしたし」
「ブリタニアは元々移民の国、私のアールストレイム家も遡ればたぶんドイツ系」
アーニャの言う通り、ブリタニアは元々ケルトが居住していたブリテン島に、ゲルマン民族を中心にしていろいろな民族が古代に雪崩れ込み、それが近世になって新大陸、すなわちブリタニア大陸に移住した国だ。今でこそ帝国としてまとまっているが、ゲルマン系はもちろんのこと、奴隷貿易が行われていた近代には多くのアフリカ系移民、ブリタニア大陸北方に入植したラテン系移民など様々な民族が入り混じる多民族国家だ。
多民族国家ゆえの鷹揚さや妄執的な価値観などが認められているこの国は、母にとっては厳しい世界だが、自分にとっては居心地のいいものだ、とカレンは思った。もちろん、差別は大いにされたが、その分得難い友人を少ないながらも得られたし、その中には皇族がいる。いざとなればその皇族を相手に
そこでカレンのポケットが小刻みに震えた。ポケットから携帯を取り出し、相手を見るとつい先ほど皆に話した兄からだった。ドロテア、モニカ、アーニャに断って席を立ち電話と取ると、懐かしい兄の声が耳朶を打つ。お互いの近況を報告しあいながら、カレンは兄からの電話とは珍しい、と首をひねった。その心中を察してか、兄が若干言い淀みながらも自分に一つ提案をしてくる。
「カレン、ラウンズとしてホッカイドウ方面に出撃しているという枢木卿に連絡を取ることはできないかな?」
「別にラウンズとしてでなくても、あたしからだったらスザクは連絡断らないわよ?あいつ友達だし」
「そうか、それはよかった。実はその枢木卿を通して面識のある皇族の方に連絡を取り付けられないか模索しててね」
「皇族と?なんでまた?」
「これ以上はこの回線では話せないかな。とにかく大切なんだ、誰かいないだろうか?}
「・・・一人心当たりがあるわ。スザクともあたしとも面識のある奴。頭も切れるし、その人だったらお兄ちゃんの条件に合うと思う」
「そうか、なら枢木卿とその方にカレンから連絡を入れてくれないか?そうだな、具体的には日本に待ち人がいると教えてくれ」
否に抽象的な伝言だな、と思いながらも兄の言葉に了承を伝えて席に戻る。モニカが尋ねてくる。
「誰から?」
「ん?お兄ちゃんから。なんか変な伝言してくれって言われて」
「ふーん、誰に?」
「スザクとルルーシュにして欲しいって。具体的なことは何もわからなかったけど」
そのカレンの言葉にドロテアがふむ、と右手を顎に添えて考え込み始めた。ナオトというカレンの兄は、ブリタニア外務省に所属し、今は軍の情報部に出向しているという。スザクとルルーシュ、その両方に用があるとはどういうことだ、と接点を探すがわからない。情報が少ないのだ、これ以上考えてみても得られるものはないだろうと判断し、目を上げて周りを見回すとすでにカレンが電話をスザクとルルーシュの両方へとかけていた。
しばらくすると、ルルーシュの声が電話から飛び出してくる。
「どうしたカレン、何かあったのか?」
「うん、スザクも聞いて、あたしのお兄ちゃんから伝言だって。日本に待ち人がいるってさ」
「待ち人?どういう意味だろう、それ以外にカレンのお兄さんは何か言っていた?」
「何も。ただそれだけ伝えてくれって」
随分抽象的な伝言だと電話の向こうで恨みつらみ言われているのを聞いて、カレンは自らの兄の言葉足らずを兄を恨みながらも誠心誠意謝っていた。
深夜から朝にかけて書くもんじゃないな、集中力が全然持たないし、頭も大して回らない。今度からはもうちょっと早い時間に書こう。
最後の方投げやりなの許してください、集中力が切れちゃったんです・・・。