ナオトの姿が完全になくなってから駐日ブリタニア全権大使は机に備え付けられているタッチパネルを操作し相手に通信を求めた。数コールののち、
「どう、上手く流せた?」
「はい、猊下。仰せの通り、餌を撒きました。内偵の男は食いつき軍を確実に引き込むことになるでしょう」
「まだわからないよ。まだその才能を完全には示していないとはいえ、相手はあのシュナイゼルが認めてるやつだしここは慎重を期さないと」
「分かっております。それで、猊下、私はこの後どのようにすれば・・・」
「日本には粘ってもらわないといけないから、日本軍を裏で支援してあげなきゃね。ヨーロッパの方もそろそろ開戦だし、上手くいけば本国からブリタニアの皇族を引き離せるかもしれない」
「そうなれば・・・」
「うん、僕たちの勝ちだ。それまでちゃんと指示に従っていれば君は晴れて本国で栄誉を受けられる」
相手のこの言葉に、大使の男、カラレスはその赤ら顔を大きく歪めて、静かに悦に浸っていた。
どこかへ電話をかけていた直人が隣の部屋から戻ってきたのを見て、咲世子は誰に電話をしたのか聞いてみるべきだろうと判断し口を開く。当然だ、一応大使館に入る前に検査を受けたとはいえ、別に捕虜になったわけでもない日本人の自分が、治外法権が行使されている敵国に足を踏み入れているのだ。お土産としてブリタニアへ連れていかれるのは困るのだ。
「どなたへお電話していらしたのですか?」
「少し妹にね。別に大した身分でもないんだが、妹はブリタニアでも名門校に通ってるからブリタニア皇族と知り合いがいないか聞いてみたんですよ」
返ってきた言葉に思わず顔を
「大丈夫、名前は一切出していないですよ。それに日本軍の盗聴対象から僕は完全に外れていますし」
「大使館に潜り込んでいる可能性もあるのですが・・・」
「その点でも問題ありません。詳細は明かせませんが、特定の秘匿回線を使用したので」
「ならばよいのですが・・・」
あとは貴女をブリタニア軍が攻めてくる場所まで移動させたら仕事は終わりだ、では行きましょうか、と声をかけてくる直人に、咲世子は不安を感じながらも従って大使館を後にした。
直人は東京駅で北海道直通特急リニアレールのチケットを1枚購入しそれを咲世子へと渡すと、声をかけてきた。
「僕が付き添うことができるのはここまでです。ここから先はおひとりで。酷ですが、敵国の中をウロウロはさすがにできないので」
「十分助かりました。あまり長い間街を歩くことも良くないのでしょう?」
「えぇ。ではお元気で。無事上手くいくことを願っています、篠崎さん」
「ありがとうございました。紅月さんこそ、お体ご自愛ください。では」
そう言って直人と握手を交わすと、咲世子はリニアへと乗り込んだ。
幸い開戦してまだ1週間も経っていないのだ、移動の制限などないし、灯火管制もまだ敷かれていない。開戦直後である今しかブリタニア軍に接触する機会はない。これをみすみす逃せば日本軍に察知されずに接触する機会は極端に少なくなるだろう。そんなことを考えながら直人と握手した手を握り締めると、何かが手の中にあった。掌を開いてみると、それは小さい紙片だった。目的地に着いたら開いてみようと思い一度ポケットの中へとしまう。
列車が発車すると、あっという間に東京都から30分足らずで福島の会津盆地へと入っていく。外の世界は白銀一色で街や山々も白化粧をしていた。そこからさらに山を突っ切り、冬空の晴天の中、仙台を通り、岩手を突き抜け東京を出た1時間半後には青森へと辿り着いていた。目的地の札幌まではあと少しだ、その間に軽く腹ごしらえしておこうと、咲世子は席を立ち後続車両にある食堂車へ足を向けた。
食堂車に着くとウェイターが案内を引き受け、椅子を引いて座るようさりげなく促してくる。つられて席に座り、目の前に差し出されたメニューを開いてみてみると、和食だけでなく、中華やフランスのフルコースまで幅広くあった。是非ともフルコースを頼んでみたかったが、あいにく時間がない、中国料理で簡単に食べれる小籠包などをいくつか注文して咲世子は食欲を満たした。
1時間半後、咲世子は札幌で列車を下りた。本来ならば根室まで続いているのだが、この先の根室はすでにブリタニア軍によって占領され、日本軍によって列車の通行が禁止されていた。ここからは他の移動手段を確保して、根室から進軍してくるであろうブリタニア軍に接触しなければならない。しかも平和的に上陸軍のトップに会わなければならないのだ、そう簡単にはいかないがどうしたものかと咲世子は首を捻りながらもレンタカーを調達し根室へと車のエンジンをかけた。
藤堂鏡志朗は陸軍参謀本部の命を受けて、帯広にいた。ブリタニア軍に攻撃されあっけなく根室を失陥してしまった事態を受けて、軍事省の陸軍庁は大慌てでブリタニアの侵攻を食い止める作戦を立案することを余儀なくされている。なにせ北海道は山々はあれど広い、一度敵を見失えばどこにどの時間に来るかわからない。しかも根室を占領した相手の情報がとにかくないのだ。根室から脱出した部隊は、隊としての体裁を保つことすらできないほどに損耗し戦場全体を俯瞰する立場にある士官は1人もいなかった。
証言からおそらく、四つ足の変わったKMFと真っ白なKMFがいるというのが分かってはいるがそれだけだ。誰が軍を指揮し、どのような部隊がいるのかということまでは一切分かっていない。だが、特殊なKMFが2機確認されたということは、もしかすると噂に聞くナイトオブラウンズが出てきたのかもしれないと鏡志朗は思った。そこへ女性士官が声をかけてくる。振り返ると千葉凪沙中尉が歩み寄ってきていた。
「藤堂中佐、我々はこれからどちらへ?」
「千葉か、おそらく海岸沿いに進軍することになるだろう。北海道の内側に閉じ込められたら我々は行き場を失う、ゆえに釧路に向かうことになるだろうな」
そこへ他の3人の部下が割り込んできた。藤堂中隊、通称四聖剣と呼ばれる直属の卜部巧雪少尉、朝比奈省悟中尉、仙波崚河大尉と先に声をかけてきた千葉凪沙中尉の4人の部下たち。鏡志朗が8年前の六家亡命未遂事件以来、『京都六家』やその近縁である枢木家に出入りしていたという理由だけで軍から冷遇されている中、軍の評価に左右されず自分を直接見聞きして付いてくることを誓ってくれた者たちだ。
本来ならば連隊もしくは大隊規模の部隊を任されるが、六家亡命未遂事件によって昇進や待遇の改悪など、挙げれば切りがないほどの扱いを受けてきた中で、辛うじて保持し続けることに成功した権利が自身の中隊編成とその運用に関することだった。それを用いて、軍内に広がる軍部至上主義に染まっていない人物、そして能力の高いもしくは潜在能力のある者たちへ、鏡志朗が直接出向いて交流を持つ、その活動の中で自主的に従うことを選んでくれたこの4人は藤堂にとって、まさに得難い
「北海道東南部を失えば兵站どころか、民間の食糧供給もままならなくなる、か。まぁ、ブリタニアもおそらく同じことを考えているでしょうな、中佐」
「あぁ、しかも太平洋に出られなくなれば、ハワイを奇襲して占領した価値がなくなる。それだけは避けなければ」
「それにしても軍も扱いが荒いですね、藤堂さんと僕たちを南アジアの最前線へ飛ばしたかと思えば、今度は領土北端に近い北海道まで行って来いって。まったく、藤堂さんを何だと思ってるんだか」
「中佐を付けろ、朝比奈。まぁ、そうはいっても仕方あるまい、8年前よりこの扱いには慣れている。それよりも今回の敵だ、相当のやり手だぞ」
「敵が強いなら、やりがいがあるじゃないですか中佐。それに相手の先鋒はナイトオブラウンズだって情報もあります、腕が鳴りますよ」
「卜部、我々は白兵戦や砲撃戦ならばともかく、KMFにおいては向こうに遅れている。軍がチャウラー博士を無理に軟禁したせいで、汎用KMFに乗らざるを得ない我々はハンデを負った状態で彼らと戦わねばならないのだ、相当苦戦するぞ?」
「承知の上ですよ、中佐」
帯広には軍の施設がないことから緊急性を要する兵科や食料などの物資を扱う兵站部が乗り込んでいる輸送列車が優先で釧路へと流されている関係で、遊撃の一角を担当する藤堂隊は1日休暇を得たので帯広の市街地を散策していた。鏡志朗の隣を歩いている凪沙は、チラチラと鏡志朗のことを見ては何か言い出そうとするが話題を思いつかないのか、口を魚のようにパクパクさせていたが、ふと1台の車に目が吸い寄せられた。
軍が出入りするようになったことから危険を感じ取ったのか、釧路や網走など、北部、東部を中心に帯広を経由して北海道西部へと避難していく民間人によって市街地の札幌方面へと向かう道路は車で埋め尽くされていたが、逆にスカスカである対向車線を堂々と走っていく車があったのだ。迷いない走行で釧路の方向へ走り去っていくように見えた。思わず鏡志朗に声をかける。
「藤堂中佐、今の車見ましたか?」
「ん?どの車だ?」
「釧路方面へ迷いなく走行していく車がいたのです、珍しいと思われませんか?」
「確かに珍しいとは思うが、家族を避難させるために車で迎えに行ったのではないのか?すでに新幹線や普通列車の運行は軍によって制限されているしな」
「それにしては車が小さかったのです。おそらく2人乗ってあと荷物が少し載るかどうかぐらいの」
「・・・そうか。千葉、仙波達に連絡しろ。集合してその車、追ってみよう」
承知!、と千葉が返事をして他の四聖剣を集めに間借りしているホテルへと駆けていくのを鏡志朗はしばらく眺めていた。
◆ ◆ ◆
ジェレミアの報告を受け、コーネリアは直ちに軍をハワイへと進めることにした。ホッカイドウ急襲に一刻も早く参加したい様子のジェレミアに、代わりの兵站輸送担当を用意することを請け負ってやったときの喜びようと言ったらこれ以上ない笑顔だったな、とコーネリアは思い出す。軍内部でも堅物と有名なジェレミアがモニターを通してではあるが笑顔で任務の引継ぎをしたのだから、よほど戦闘に参加したかったのだろう。
同じく厳格で有名な部下のダールトンでさえ、ジェレミアに注意することを忘れたくらいには珍事だった。まぁ、これをハワイを制圧する面々に噂として流せば、余計な緊張も取れるだろうし、ギルフォードにそれとなく流すように言っておくか、と考える。そこへ当の本人であるギルフォードが書類を片手に近寄ってきた。
「姫様、先鋒に必要な部隊数は整いました、編成も完了しています。その後続部隊も第二陣はもう間もなく編成完了、第三陣は部隊数がそろったところ、とのことです」
「そうか。よし、先鋒を率いてハワイ基地を奪還する。残りの部隊も編成が完了次第、順次ハワイ基地に送り込め。敵はハワイ基地を制圧してそう時間がたっていない、補給路もまだ確保できていないのは確認済みだ。今力押しで攻めれば奪還できる勝算は高い」
「姫様自ら指揮を?」
「そうだ。私のような皇族が陣頭に立ってこそ、兵士は付いてくるものだ。古来より軍は指導者が後ろにいて勝てた
「では第二陣はダールトン将軍に任せますか?」
「そうだな、ダールトンに言っておいてくれ」
「イェス・ユアハイネス」
ギルフォードの返事を聞いて将官用の個室に戻ったコーネリアを支配したのは、戦慄や恐怖といった感情だった。ブリタニアは第一次世界大戦以来、国内の反乱を鎮めてきたこと以外に戦いというものを経験していない。それに対して、日本は西に位置する中華連邦と長年国境を接していることから軍の練度が桁違いな上、ここ半年で東南アジアを制圧、今は南アジアに勢力を拡大しようとする姿勢を示していることからも、日本軍が旺盛なことが分かる。
KMFという戦術、戦略に大きく響く兵器が登場して戦争のやり方は変わったが、それでも最後に戦いを左右するのは人間だ。気力が満ちていれば自ずと勝利への道は開かれ、逆に気力が萎えれば屍を晒すことになる。戦いは最初が肝心だ。初戦で負ければ、余程の転換点がない限り泥沼にはまってズルズルと負け続ける。その為にもハワイ奪還は絶対に成功させなければならない、失敗すればそのまま帝国の衰亡に繋がるかもしれないのだ。情報収集、兵站輜重の確保、士気の高揚など考えられる準備はすべて行った。あとは賽を投げるだけ。
自分は方面軍司令官だ、弱気な態度は兵の士気に響く、しっかりしなければとコーネリアは無理矢理に自分を奮い立たせ、当面の戦闘に意識を集中した。そこへダールトンへの命令伝達と先鋒の第一陣が出撃待機に入ったことを伝える通信が入った。気を引き締めなければとコーネリアは改めて思いながら、格好を整え部屋を出た。
夜のアラスカ基地から黒々とした鋼の蝙蝠が南を指して飛び上がっていく。鉄の巨人と血の通った人間を載せた大きな蝙蝠が、来る戦いの音を幻聴しながら暗い大空へと次々に羽ばたいていく光景は、圧巻の一言だった。そんな風に目を見張って眺めているうちに自分の番が来た。
KMFに乗り込んで、輸送機に乗り込む。コーネリアの乗る輸送機は中盤の便だ。自分は先頭の輸送機に乗り込むと主張したが、周りの士官に猛反対されての結果だった。夜の10時にアラスカ基地を離陸した第一陣の輸送機群は、順調に航路を飛行し、ハワイのオアフ島に位置するハワイ基地の北西の海岸でKMFを発進させた。もちろんコーネリアはギルフォードとともに先頭集団に躍り出る。
「ギルフォード、一気呵成、基地まで突っ切るぞ!」
「イェス・ユアハイネス!」
ギルフォードを先頭にして、後ろにコーネリア、その周りを親衛隊のKMF、さらにそのあとに指揮官に遅れるなとばかりにどんどんとKMFが続いていく。10分ほどKMFを走らせると、陸軍基地の外壁が見えてきた。最優先目標を再度徹底して伝達する。
「いいか、最優先は司令部と兵站倉庫だ!司令部は我々の設けた場所とは違う可能性がある、だが倉庫は1か所にしかない!まずは倉庫を確保せよ!」
突貫!と声の限り叫ぶと、ギルフォードがKMFの体当たりで力任せに壁を突き破る。それとは別に、追いついてきた他の部隊も同様に壁に大穴を開けて基地へ飛び込んでいく。そのまま倉庫がある区画へとKMFを走らせると、そこかしこに焚かれた火が鈍色に火影をゆらゆらと映しているのが見えた。瞬間、そこから小さな爆発が起こる。咄嗟に身を翻すと後ろで厚い鉄板が破れる大きな不快な音が聞こえてきた。カメラを横に向けると、胸部真ん中にぽっかりと空洞ができ、機体の後ろの景色が見える。
戦車、しかもかなり貫通力のある弾頭を使っているのだろう、KMFの前面から後背を文字通り貫通するなんて、とコーネリアは驚いた。敵の戦車部隊を撃滅しなければ、後々厄介になると考え、号令を下す。
「散開!敵戦車、相当威力のある弾を積んでいる、各個に撃破せよ!」
部下たちの声を聞きながら、自分も先ほど撃ってきた戦車に目標を定め、スラッシュハーケンを飛ばす。だが、相当硬い金属で表面を覆ているのだろう、ハーケンが刺さらなかった。舌打ちをして、不定期に左右へ移動しながら前進。戦車の前に躍り出て、戦車の上に飛び乗ると持っていた大型ランスの切っ先を下に向けて大きく振りかぶり、そのまま振り下ろす。突き破った感触を得てから即座に退避すると、戦車は爆散した。
横のモニターに味方の位置情報を写すと、それぞれが戦車を撃破していることから戦況はとりあえずのところ、ブリタニアに有利、海軍基地へと向かった部隊からも特に損害なしという報告が来ていることからブリタニア優勢と判断できる。案外ダールトンが来る前に片が付くかもな、とコーネリアは思った。
戦況が落ち着いてきたことを見て取って親衛隊とギルフォードに少しの間休憩するよう命令した刹那、右後ろにいた親衛隊の1機が不意に爆発した。
「何っ?!」
急いで振り返ると、大破したグロースターのさらに後方に半身を建物から晒しているオリーブグリーンのKMFが目に入る。それは旧世代のグラスゴーだった。だが、カラーリングが本来の砂色とは異なっていることから極秘裏の任務にでも就いているのであろうか?それが左右に乱立する建物の陰から1機、また1機と現れた。
「なぜ味方をうっ・・・?いや、敵か?」
思わず我を忘れて叫ぶが、よく見ると頭部の形が本来のグラスゴーと異なって頭部のファクトスフィアを保護する装甲が分厚くなり、面を被っているように見える。間違いなく派生型のコピー品だった。すぐさま距離を取り相手の武装を目視で確認する。見える限りではグラスゴーと大差ないことから、第5世代が普及しているこちらはそう苦戦せずに撃破できるだろうと推測を付け各機に伝達。
「相手はおそらくグラスゴーのコピーだ!モノが違うところを見せてやれ!」
叫ぶと同時に、先ほど撃ってきたグラスゴーもどきに突進する。まっすぐ突っ込んでくるとは思いもよらなかったのか、動揺した相手が茫然と棒立ちになった一瞬をコーネリアは見逃さなかった。右手に持っていたランスを逆手に持ち、槍投げの要領で相手のコックピットめがけて投げつけると、それは吸い寄せられるように飛んでいき、グラスゴーもどきを貫通して建物の壁へと機体を縫い付ける。
投げると同時に距離を詰めていたコーネリアは縫い付けた相手に足をかけてランスを引き抜くと、建物の陰の奥に待機していたもう1機を見つけ、槍を構え相手を突き刺そうとしたが切っ先が入らなかった。分厚い戦車の鋼板に続いて、装甲が厚くなっているコックピットを狙って刺したせいでランスの先端は耐えられる限界を超えたのだ。その為、ランスの先端は大きく欠けていた。
メインに使う武器が一つなくなったことに苛立ちを覚えながらも、使い物にならなくなったランスを構えると、相手に突貫しながら強化ハーケンを放ち相手の両腕を切り飛ばしてそのまま相手を押し倒す。構えていたランスの石突でファクトスフィアと破壊し、頭上でランスを半回転させてランスに付属するブレードで機体を地面に縫い付けて動きを止めた。
ランスがきちんと貫通しているかを確かめたのち、モニターに味方の配置図を表示させて形勢の優劣を見ると、グラスゴーもどきは大半が駆逐されこちらの損害も最初の大破機以外は2、3の小破で済んでいるようだった。そこにギルフォードが近寄ってくる。
「殿下、敵KMF集団の撃滅を完了いたしました。それと、海軍基地の制圧に向かった隊も第2陣の応援で制圧を完了したとのことです」
「そうか、ダールトンは海軍基地を叩きに行ったか。よし、そのまま第2陣には海軍基地の掃討と施設の確保を任せる。我々はこのまま陸軍基地の掃討及び施設の確保だ。第3陣はもうアラスカを発っているか?」
「いえ、ですがもう間もなくとのことです」
「では、急いで第3陣の出発を中止させて施設補修のための資材を運ばせろ。施設を補修したのち、第3陣を先鋒として再編成して待機だ」
「イェス・ユアハイネス」
同時進行的に行われたホッカイドウ急襲とハワイ奪還は、当初の予定通り完了し、それどころかホッカイドウ急襲のほうは日本本土を攻める橋頭保の確保にも成功した。問題は、ハワイで遭遇した敵KMF。旧世代のグラスゴーの模倣品であったのは幸いだったが、帝国の技術が、どこからか敵国に漏れている可能性が少なからずある、という点を浮き彫りにした。これが杞憂で、単に敵が鹵獲品を改造したというような類であればよいのだが、とコーネリアは危惧を覚えずにはいられなかった。
◆ ◆ ◆
ホッカイドウの東南部、ネムロ半島を中心とした一帯を占領することに成功したホッカイドウ急襲軍は、ノネットとスザクは補給を受けた後、半島の付け根に存在するオンネトウと呼ばれる巨大な沼の両端を通る道に臨時の関を作るようルルーシュから命令され出撃、一方のルルーシュはアッツ島経由でハワイにいるコーネリアと通信会談をしていた。つい先ほど戦闘が終わったばかりなのか、コーネリアはパイロットスーツに身を包んだままだった。
「お忙しいところ申し訳ありません、閣下」
「よい、ルルーシュ。それにこの回線は特派のスペシャルだろう、姉上でよい」
「では姉上、さっそく本題に入ります。こちらはホッカイドウ急襲に成功、目標であったネムロ基地の奪取に成功しました。現在はネムロ基地があるネムロ半島の掌握に努めていますが、それも間もなく終わります」
「そうか、こちらもハワイ基地の奪還に成功し、基地の修復を行っているところだ。しかし、いやに日本軍はあっさり引いたな。ホッカイドウ急襲は一撃離脱を繰り返すことになると思ったのだが」
「完璧な夜襲だったので、余計に敵は混乱したようです。同士討ちをした痕跡が残っている場所もあったので。それに敵が奥深くに我々を引き込もうとしているかどうかは、もう少し進軍してみなければわかりません。それまでは進軍し続けますよ」
そこで割り込みが入る。突然の割り込みに驚いたルルーシュとコーネリアは目配せしあって通信を切ろうと身構えたが、モニターに映ったもう一人の参加者の顔に肩を下ろした。映っていたのは金髪に藤色の瞳、蝋人形じみた白皙の青年、我らが宰相閣下、シュナイゼルだった。
「いけないな、ルルーシュ。君には別任務があるよ」
「兄上、いきなり割り込まないでください、驚きます。それで、別任務とは?」
「そうだね、どこから話したものか・・・」
シュナイゼルがそう言いながら、かいつまんで話し始めたのはE.U.の成り立ちについてだった。あまりに唐突な話題転換に一瞬困惑したルルーシュだったが、E.U.について今シュナイゼルが何か策謀を巡らしているらしいということを瞬時に導き出し、コーネリアを煙に巻いているシュナイゼルに溜息をこぼしながら問いかける。
「兄上、姉上を苛めるのはそのくらいにしてください。姉上も、兄上の話をいちいちまともに取り合っていればキリがありませんよ?」
「ひどいな、私は何もコゥを苛めようと思ってこんな話をし始めたのではないのに」
「そ、そうだな、ルルーシュ。兄上、単刀直入にお願いします、私たちはまだ後処理が残っているのです」
「分かったよ。では改めて」
今度こそ本題に入ったシュナイゼルの口から出てきたのは、E.U.内部で行われている権力闘争だった。
E.U.内では、君主制を否定したイギリス、フランス、ロシアを中心とする急進派は『アメリカ大陸の血筋からの解放』という名目でブリタニアに開戦するべき、一方のオーストリア、イタリア、スペインを中心とする王統を保持し続けてきた穏健派は国力差を考えれば到底敵うはずがない、外交を中心にして友好関係を保つべき、と二手に別れて、E.U.の今後を実質的に決める『40人委員会』は紛糾。
第一次世界大戦で敗戦し永世中立化宣言をしたドイツ、ドイツより以前に事実上の永世中立国として振舞ってきたスイスに対して、反ブリタニア過激派組織の送り込みや、ブリタニアとの貿易妨害など様々な干渉をイギリスとフランスが独断で行ったことで、E.U.を離脱しようとする国まで現れたことでその混乱は頂点に達した。
しかしどういう訳か、離脱を志した国々のトップが突然心変わりしたようにE.U.離脱を取り消したり急死したりしたことで、事態は一旦沈静し、共和派対王党派ともいうべきE.U.内部の抗争という元の構図に戻っている、というのが大まかな状況だった。
いまいちシュナイゼルの真意を掴めないルルーシュは疑惑の目で威圧しながら問い質す。
「兄上、E.U.についてはこの際置いておきます。私に何をしてほしいのです?」
「そんな目で見ないでくれ、ルルーシュ。私としてはホッカイドウ方面侵攻軍司令は別の者に任せて、ルルーシュには一度本国に戻ってきてほしいんだよ」
シュナイゼルとしてはルルーシュに軍事だけでなく、政治の方面でもその能力を伸ばしてほしいことから、外交合戦が現時点で一番熱いE.U.で任務についてほしい、E.U.と開戦した暁にはコーネリアには大西洋の向こう側で転戦することになるであろうこと必至であるから、その下見も兼ねてルルーシュと一緒にヨーロッパ大陸で友好国であるドイツに渡ってほしいということだった。
衝撃のある一言をいつもの微笑みとともに出した宰相は、返答は君たちの後処理が終わってから人心地着いてからでいいよ、という言葉とともにモニターから消えていった。即答しかねる要請に二人して頭を捻る。コーネリアのこれからどうするかという問いかけに一つずつ答えを出しながらルルーシュは別のことを考えていた。
コーネリアが現時点で太平洋方面戦線をうまく手懐けられる人物を頭の中で探していることはルルーシュにも想像できた。それよりもルルーシュが疑問に思ったのは、なぜこのタイミングでシュナイゼルがこの要請に見せかけた命令をしてきたのか、ということだった。
日本と開戦してまだ数日、ブリタニア軍は宣戦布告と同時に失陥していたハワイの奪還、それと同時にニホン本土への襲撃を達成し戦場はニホンになることは誰の目から見ても明らか。その情勢の中、次はニホン攻略という目に見える功績を挙げられる場面から新進気鋭の参謀本部長と方面軍司令官の両方を、特に失敗してもいるわけでもないのに解任して別方面に派遣するのだ、贔屓目に見ても明らかに波風が立つ。
シュナイゼルから理由を聞く機会を逃したのは失策だったとルルーシュは考え、気落ちする。推測で理由を見つけようにも、『ルルーシュの成長』という言葉で片付けられることは自分でもよくわかっているし、何よりも、またもやシュナイゼルに一本取られたのだ、冗談交じりに聞かされた話にあれよあれよと乗せられて、自分の知りたいことは一切分からなかった。
返答するときに何としてでも理由を聞かなければとルルーシュは英邁すぎる異母兄への態度を新たにした。