凶狼に救いを授けるのは間違っているだろうか   作:ナイジェッル

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五傷:意中一途

 冒険者の皆が口を揃えて言う。【神の恩恵(ファルナ)】によりLv.が【ランクアップ】したらまるで生まれ変わったような力を得ることができると。

 人としての器が更に一段向上するこの画期的な人間育成。謂わば人の成長を短時間でどこまでも引き延ばす神々の御業というものだ。本来であれば一生かかって辿り着ける領域に、僅か数年数か月で到達できる。だからこそ人は人の身でありながら怪物という存在に立ち向かうことができる。だからこそ『ダンジョン』という理不尽の塊のような地獄に身を投じることができる。

 『ダンジョン』の階層を下れば下るだけ怪物は強くなる。それに伴い、その階層に下れるだけの冒険者もまた、強くなっていく。まさしく互いに鬩ぎ合いながらの攻防と言っても過言ではないこの関係性。故に【ランクアップ】したからといって慢心はできないのだ。どれだけ強くなっても、下層の怪物はそれを大きく上回るのだから。

 

 「おおぉぉりゃああああああ!!」

 

 アマゾネスの少女、レナ・タリーは自慢の曲刀で怪物を屠っていく。相手は格下ばかりだが、【ランクアップ】を果たしたばかりの彼女には丁度いい調整(チューニング)役だった。

 晴れてレナはLv.2からLv.3になった。しかしその肉体強度の向上によってできた肉体と技術の差、違和感は残る。なにせ人が長い時を掛けて作り上げていく肉体を、神の介入によって段階飛ばしで実現しているのだ。以前までその肉体に合っていた技術が、【ランクアップ】後の肉体についていかず、もどかしい違和感を抱える。だからレナはその違和感を払拭すべく、少しでもこの誤差の修正を行う為に『ダンジョン』に潜ってひたすら怪物を狩っていた。ステータスの向上にも繋がり一石二鳥というやつである。

 

 「はは、すげーな。あれが噂の【挑戦者(ノルン)】か」

 「あのベートに惚れたってんだからどんな変質者かと思えば意外や意外ってやつだな」

 「てかここ数時間ずっと暴れてねぇか彼女。なんつースタミナだ」

 

 その姿を遠目で見ていた冒険者達は各々率直な感想を口にした。

 野蛮で粗暴が目立ち、神々にでさえ牙を剥く【凶狼(ヴァナルガンド)】にゾッコンな物好き。それが多くの冒険者達のレナに対する共通の認識だった。

 そして意中の相手、ベート・ローガは案の定彼女を突っぱねていた。それでも何度も何度も喰らい付いて、最終的には自分のペースに持っていくレナの根性も知れ渡っていた。まさしく高い壁に挑む恋の挑戦者。故に神々はレナの渾名を【挑戦者(ノルン)】と名付けた。

 

 「いや、渾名に負けぬ努力家だ。かーっ、ベートの野郎には惜しいぜありゃあ」

 「まったくだな」

 

 艶やかで健康的な褐色の肌。乙女とも言える愛に燃えた幼き素顔。それでいて振るう剣の太刀筋は極めて鋭い。こんな女性にアプローチされたら、並みの男であればイチコロだろうに。

 

 「ま、面白い二人だとは思うがね……どうだ、ひとつ賭けてみないか?」

 

 一人の冒険者はレナを見ながら提案する。

 

 「彼女の情熱はあの狼人(ウェアウルフ)の心を一年以内に掴むかどうか」

 「ほほう。そりゃまた、えらい長期間な賭けだな」

 「外した奴らは来年一ヶ月間 当てた奴らに飲み代を奢る」

 「オーケー……なら俺は、成就しないに賭ける」

 「俺も」

 「俺も」

 「賭けにならねぇじゃねーか!」

 

 口ではレナを立派だなんだと言いながら、誰も彼女の恋が叶うとは思ってはいなかった。

 しかしそれは当たり前なのかもしれない。なにせあのベート・ローガは弱き者を認めない。Lv.3程度の冒険者では見向きもしない。彼を振り向かせるのなら彼と同じLv.6になるほどの強者でなければならないだろう。

 僅か一年でLv.6に到達できるわけがない。そういう意味も含めて、一年未満でレナ・タリーがベートを振り向かせることは不可能だと皆は思っていた。せめて成就するにしても数年の時間の経過は必要であるだろうと。

 

 「満場一致でここまで偏ると賭けは成立しねーな」

 「ううん、そんなことないよ?」

 「「「「え?」」」」

 

 男共しかいない冒険者のパーティで、女性の声が乱入した。

 バッと声の聞こえた場所に目を向けると、先ほどまで怪物を大量に討伐していたレナ・タリーがいつの間にか自分達の集まりに潜り込んでいた。

 

 「話は聞かせてもらった! へへ、実は私って地獄耳なんだー」

 「お、おう」

 

 屈託のない笑みを浮かべるレナ。その威圧感に冒険者達は一歩後ずさる。

 その笑顔とは裏腹に明らかに不満げである。先ほどの賭け話を聞いていればある意味当然だろうが。

 

 「私も賭ける」

 「へ?」

 「私はベート・ローガを一年以内に心を掴める方に賭けるの! はいこれで賭け成立!!」

 

 頬を膨らませたレナは胸を張ってそう言い放った。

 

 「貴方達の顔覚えたからね! もし私が来年までにベート・ローガを惚れさせたら一ヶ月間奢ってもらうんだから!取り立ててやるんだから!」

 

 彼女はぷんすこと怒りながら好き放題捨て台詞を吐いてその場を去っていった。

 そのあまりの暴風っぷりに冒険者達も口が開いたままで閉じなかった。

 いきなり現れては賭けに乗っかり、勝利宣言をして立ち去る。これを嵐のような人物と言わずしてなんと言えばいいのか。

 

 「おおう……活力も一級品だなあの子」

 「ベート・ローガにアタックするだけはあるぜ」

 「大した玉だ。こりゃ本当に奢る羽目になるかもしれんぞ?」

 

 普通に考えれば無理な話だが、彼女であればもしかするかもしれない。そう思えるだけの自信がレナ・タリーから感じた。あれは諦めない。絶対に自分の納得のいく結果を得るまで邁進するタイプである。そういった人種が常に歴史においても多くの戦果を生み出し成長を遂げている。

 

 「いいじゃねぇか。あんな健気な子なら、奢り甲斐がある」

 「なら吉報を待つとするかね。命短し人よ恋せよってな」

 「ハハっ、確かに、確かに。少女とはいえ乙女である期間は実に短い。せめて青春に生きる今の若者を応援してやらにゃ、つまらん爺になるだけだ」

 「なに老けってんだよ冒険者たるものが。おら、若い連中に負けてられんぞ!」

 

 中年の域に達した冒険者達は、今時珍しい恋に生きる若き冒険者を見て自らも奮起した。

 彼女の活気は人に伝染する。それは一種の才能とも取れるレナの魅力でもあった。

 そして彼らは後々に理解することになるだろう。【挑戦者(ノルン)】の可能性を。彼女の想いの強さを。

 また、この軽い気持ちでした馬鹿馬鹿しい賭けごとが、彼女の推進力を後押しする更なる起爆剤の役割を果たしたことを、彼らはまだ知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あー疲れたぁ」

 「おつかれさん、レナたんは頑張り屋さんやねぇ。怪物を100体くらい潰して回ったって聞いたで? あんまし根詰め過ぎたらアカンよ、緩急をつけな」

 

 レナは【ロキ・ファミリア】の拠点(ホーム)に帰るや否や、自室のベットの上に倒れ込み、突っ伏したままグロッキー状態になっていた。またそれを呆れた様子で見下ろしている主神ロキ。

 何故レナの部屋にロキがいるかというと、彼女の【ステイタス】を向上させる【神の恩恵(ファルナ)】を刻む為だ。本当はLv.2からLv.3に【ランクアップ】した体を馴染ませる為だけに『ダンジョン』に向かわせたつもりが、まさか100体も怪物を狩って経験値(エクセリア)を大量に得てくるとはロキも思ってはいなかった。

 

 「まぁ怪我もせぇへんかったから良かったようなもんやけど」

 「ロキは心配しすぎだよ。この程度、無茶の内には入らないんだから」

 「そうは言ってもなぁ……ウチには見える、見えるでぇ? レナたんがちょっとイラついてる気持ちが。何か原因があるんやろ、言ってみ? 隠してもこの神の目からは逃れられへんで」

 「………」

 「ありゃ、だんまり決め込むなんて……そんな悪い子はお仕置きやァ!」

 「え、ちょ、ロキなにをあははははははははは!?」

 「いやらしい艶肌しよってこのエロ娘め! ここか? ここが気持ちええんかほれほれほれ!」

 

 ロキの鍛え上げられたテクニックにより倒れ伏していたレナの肉体の節々をひたすら手で捏ね繰り回した。高速機動する指から放たれるコショばし。あらゆる場所を的確に掻いていく技にレナは涙目になって爆笑した。

 

 「ほれ、言わな何時までも続くで!? 堪忍するか!?」

 「あははは! あは、ヒヒ、ははははは……分かった、分かりました、だから止めてェ!」

 

 流石のレナもこれには耐えられなかった。数多の女性冒険者に襲っては破廉恥なことをしてきたロキの腕は伊達ではない。まだまだ青い第二級冒険者のレナは過呼吸になりながらピクピク痙攣している。恐るべし神の指(ゴッドフィンガー)

 

 「ふっ……また良いものを揉んでしまった」

 

 若者の英気に触れたロキは満足気に頷いた。

 アマゾネスの弾力ある肢体は実に素晴らしいという感想つきで。

 

 「まぁおふざけは此処までにして、ほんまに何があったんやレナたん」

 

 ロキは目を細めてレナを見つめる。

 その鋭利とすら言える視線にレナも観念したようで、『ダンジョン』に潜った際に出会った冒険者達との『賭け』の内容を包み隠さず話した。

 

 「ふむふむ。なるほど。だからレナたんは悔しくなって怪物(モンスター)狩りに精を出したと」

 「うん……だってだーれも私に賭けてくれなかったんだよ? こなくそー! ってなってつい力が入っちゃった。でも後悔はしていないもん」

 「ま、おかげで経験値(エクセリア)がっぽりやもんな。いいで、その悔しさをバネにする気骨は冒険者に必要なもんや。恥じるもんやない」

 

 何にしても冒険者として更に高みを目指す力になったのならそれでいいだろう。

 

 「ただ無茶は禁物や」

 「はーい」

 「ほんまに分かっとんかいな……」

 

 ロキは久しぶりに現れた期待の新人の天真爛漫ぶりに苦笑した。

 何せこのタイプの冒険者は【ロキ・ファミリア】でもあまり見かけない。きっとこれからも多くの眷属達に良い影響を与えてくれるだろう。

 

 「それよりロキ!」

 「はいはい、【ステイタス】の更新やね。そんじゃ背中を見せぇ」

 

 レナは躊躇いも無く上半身の衣服を脱ぎ捨て、その健康的な背中をロキに向けた。

 アマゾネスに相応しい筋肉のついた素晴らしい背中だ。無駄な脂肪もなく、かといって関節の動きを邪魔する余分な筋肉もない。まさに動くことに適した狩人の背中。その立派な背中に刻まれた大きな刺青こそ冒険者の証。神の恩恵(ファルナ)の証明。

 神だけが彼ら冒険者の【ステイタス】を引き上げることができる。この背中の刺青に経験値(エクセリア)を書き加え、新たな力を与えることこそ神の仕事でもある。

 

 “おちゃらけた性格をしていても、その中身は歴とした戦闘民族ってところやな”

 

 きっとこの子はティオネやティオナにも負けない優秀なアマゾネスになる。そんな期待を胸に、ロキは【ステイタス】を開いた。

 

 「どれどれ、今回頑張ったレナたんのはどれだけ向上するのかにゃ………あ!?」

 

 ふざけた口調で神の恩恵(ファルナ)を授けていたロキは奇声を上げた。

 そのレナの【ステイタス】の異常を見たが故に。ありえない異変を見たが故に。

 

 この日、この夜、レナの【ステイタス】を更新し終えたロキは急ぎフィン、ガレス、リヴェリアの三大幹部を【ロキ・ファミリア】拠点(ホーム)の会議室に召集した。

 

 【ロキ・ファミリア】所属、Lv.3の第二級冒険者。

 【挑戦者(ノルン)】のレナ・タリー。

 

 彼女は、これまで自分達が思っていた以上に、重要な冒険者になる。

 そう確信し、フィン達に知らせるほどのものを、主神ロキは見たのだから。

 だからこそロキはフィン達に開口一番、レナのことをこう評した。

 

 

 ―――彼女は可能性の塊であると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 

 

 

 

 

  「はぁ……クソッタレ、あんだけ苦労したのに無駄足たぁちっとも割りに合わん」

 

 ベートは【ロキ・ファミリア】の拠点(ホーム)にある食堂で大きく溜息をついた。

 元【イシュタル・ファミリア】を狙った闇派閥(イヴィルス)の残党を悉く屠り、生きていたレナから『人口迷宮(クノックソス)』の扉の『鍵』――通称、『ダイダロス・オーブ』の手がかりとなる情報を聞き出した。そして荒事が収まり、状況が落ち着いた頃を見計らって、その『鍵』があると思わしきイシュタルの根城『女神の宮殿(ベーレト・バベリ)』に【ロキ・ファミリア】の精鋭を揃えて踏み込んだ。

 しかし、結果は得られなかった。レナの言う『女神の宮殿(ベーレト・バベリ)』の隠し部屋をくまなく探しても、【イシュタル・ファミリア】の副団長、タンムズの部屋を虱潰しに探しても、『鍵』らしきものなどなかったのだ。

 先に闇派閥(イヴィルス)の残党が回収したかと思えば、そうでもない。その場に奴らの臭いはなかった。もし仮に奴らが先にあの場所に到達し、『鍵』を持ち去るのなら、ある程度ガサ入れした後が残る。それすらもなかったとなると、元々あの場に無かったと考えるのが妥当だろう。

 

 「『女神の宮殿(ベーレト・バベリ)』から『鍵』を持ち去った奴がいる……俺らでもなければ闇派閥(イヴィルス)でもねぇ………行方知れずのタンムズの野郎が持ち去ったとしか思えねぇ」

 

 タンムズ。元『イシュタル・ファミリア』の副団長。

 レナの話を聞くに、闇派閥(イヴィルス)と関わりがあったことは明白だ。加えて行方不明の身であるのなら、怪しいと思うのは当然。隠し部屋も知り、『鍵』の存在も知っていたのなら、まずはその男の捜索、および捕縛が第一目標となる。

 

 振り出しに戻りはしたが、収穫は確かにあった。元々何一つとして手がかりがなかった状態から始まった『鍵』探し。闇派閥(イヴィルス)の本丸『人口迷宮(クノックソス)』を攻略する切り札。二歩進んで一歩下がったとしても、一歩分は確実に進めている。問題は行方を晦ませたタンムズが何処にいるかだが……それらの調査も、これから地道に行っていくしかない。闇派閥(イヴィルス)より早く確保し、『鍵』について吐かせる。これ以上後れを取ることなど許されないのだから。

 

 「珍しく気負っているな。少しは責任を感じているのかな?」

 

 背後から掛けられた声にベートは苦虫を噛み潰した表情で振り返った。

 そこには我等が【ロキ・ファミリア】の団長こと【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナが立っていた。見た目は華奢な小人(パルム)だが侮ることなかれ。この迷宮都市(オラリオ)でも数少ない最古参のLv.6。実力においても、最近ランクアップを果たしたアイズやベートよりも高い。まさに歴戦の第一級冒険者である。

 

 「俺が何の責任を感じてるってんだ、フィン」

 「いやぁ、ほら。ヴァレッタ達を容赦なく焼き殺した際に、彼女の持つもう一つの『鍵』を諸共やっちゃったんだろ? その責任を感じてるんじゃないかって思ってさ」

 「…………」

 

 フィンの言葉が胸に刺さる。

 そうだ、あの闇派閥(イヴィルス)の幹部を生け捕りにしておけばこんな手間は掛からなかった。何もわざわざ行方知れずのタンムズを捕らえることもなく、ヴァレッタ・グレーデが所持していた『鍵』を確保しておけば万事上手く行っていた。それも全て、このベート・ローガが灰燼に帰した。とは言え無くなった物をどうこう言ったところで戻りはしないし、奴に慈悲をくれてやるつもりもない。アレで良かったのだ。自分の行いが正しいかどうかではなく、納得のいく結果に収めただけなのだから。

 しかし仲間へ迷惑をかけたことも自覚している。こればかりは流石に威張ることもできない。

 

 「………うるせぇ。いちいち回りくどいんだよ。文句があるならさっさと言えってんだ」

 「責めはしないさ。そうなることも分かって、僕は君にあの件を一任した。だから気にすることはない。あ、隣、いいかな?」

 「チッ……好きにしろ」

 

 団長に対して不遜な態度を取るベート。それにフィンは訝しがることも無く、ニコニコと笑顔を絶やさず、ベートの隣の席に座った。

 

 「んで、用件は」

 「レナ・タリーのことで……ってそんな露骨に嫌な顔をしないでくれよ」

 

 彼女の名を言った瞬間、ベートは眉間に深く皺を寄せた。

 誰が見ても嫌気が差している顔である。

 

 「自分で言うのもなんだが、この僕も何かと女性から熱烈な好意(アプローチ)を受けている身だ。その苦労は分からないこともないけど、レディに対して無作法な対応はするべきではないと思うんだ」

 「俺はお前みたいに行儀が良くなければお人好しでもねェ」

 「まったく君ってやつは……ともかく、今から言う僕の用件はレナ・タリーについてだ。否応無しに聞いてもらうよ」

 「上司特権ほど憎たらしいもんはねェなおい」

 

 ともあれ団長の命令には強い強制力がある。よほどのことがなければ断る理由もない。また、彼の言うことはいつも最善の道を示している。どんな内容であれ、取りあえず耳を傾けるだけ傾けていた方がいいだろう。何故レナのことを自分が聞かなければならないのかという不安も押し留めて。

 

 「まず見てもらいたいものがある」

 

 そう言ってフィンは懐から紙を二枚取り出した。

 

 「これは?」

 「レナ・タリーの【ステイタス】を書き記したものだ」

 「はぁ……で、それがどうしたってんだよ」

 「そう急くな。コレがレナ・タリーの一週間前の【ステイタス】表記。そしてこっちが昨日、ロキが書き記した更新後の【ステイタス】表記だ。見比べてみろ」

 「…………ッ!」

 

 レナのステータスを見比べたベートは、言葉を失った。

 自分の見ているモノが信じられないと感じたのは何時ぶりだっただろう。

 それだけの衝撃がこの紙に記されていた。

 

 「これが彼女の成長速度だ……どうだ、異常すぎるだろう?」

 

 フィンの言う通り、この【ステイタス】の上昇値は明らかにおかしい。

 この数値は本来数ヶ月は掛かること必須の値だ。数日程度でなんとかなるものではない。

 しかし現実としてレナ・タリーは結果に残している。

 

 「どうなってやがんだ。何をしやがったあのバカゾネス」

 「考えられるのは一つしかない。彼女がLv.3になった際に発現したスキルの効果だ」

 「………聞かせろ、その効果を」

 「勿論だ。君も無関係ではないからね……スキル名は【意中一途(マル・ダムール)】と言うらしい」

 「あァ? なんだそのふざけたスキル名は」

 「ふふ、彼女らしいじゃないか。そして効果が、『早熟』だ」

 「意中……経験値(エクセリア)上昇系のレアスキル……なるほど、そういうことか」

 

 大まかなことを把握したベートはなんとも言えない顔をした。

 レナに発現したレアスキルは……思っている以上にアホらしい代物らしい。

 

 「つまりなにか。アイツが好意を持っている人間に近づく為のスキルか」

 「その通り。これはベートに追いつきたいという意思の具現だ。その想いが強ければ強いほど、彼女の成長速度に加速が加わる。まるで―――」

 「あの白兎のような成長をする」

 「ああ、まさに破格のレアスキルだ。稀に見る、急成長型だよ」

 「…………」

 

 狼人(ウェアウルフ)は一人黙して思い返す。

 出会った当初、彼女は身の丈に合わぬことを、自分に公言した。

 雑魚では俺には釣り合わねぇという煽りに対して、あの女は―――

 

 ―――私は強くなる……絶対にLv.6になってみせる! ベート・ローガと並び立てる、強者のアマゾネスに! だからその時は、貴方の妻にしてください!!―――

 

 雑魚は嫌いだ。弱者も嫌いだ。何より、口だけの奴はもっと嫌いだ。

 しかしどうだ。あの女は――レナ・タリーは口だけの女で終わるか否か。

 自然とベートの口角が上がっていた。見所はあると理解していたが、まさかこれほどの成長を見せようとは思いもしなかったからだ。

 だがこの程度で認めるわけにはいかない。まだあの女は餓鬼だ。発展途上だ。力も、心も、何もかも。ここからがレナ・タリーの価値を見定める機会となるだろう。

 

 「フィン……テメェの魂胆も見えてきたぜ。俺にあのバカゾネスの面倒見させる気だろ」

 「当たり前じゃないか。他に適任はいないだろう?」

 

 悪びれも無く言ってのける【ロキ・ファミリア】の団長。

 此方が嫌がっていることを承知で突き付けてくるのだからたちが悪い。

 

 「俺は嫌だね。誰が餓鬼の子守なんぞするか。だいたいアイツも第二級冒険者になったんだ、今更そこらの雑魚みたいに面倒見なきゃならねぇ玉じゃねーだろうがよ」

 「確かにね。だけど彼女の成長速度はバカにならない。君だって知っているだろ? あのベル・クラネルの目覚ましい成長力を。彼女は彼と似た成長の仕方をしている。化けることは確実だ」

 「だから特別扱いしろってのか」

 「そうだ。あの日、『人口迷宮(クノックソス)』に乗り込んだ際に僕達【ロキ・ファミリア】は闇派閥(イヴィルス)によって大打撃を受けた。多くの第二級冒険者を失った今、新しい戦力が必要となってきている」

 「それでアイツか。第二のベル・クラネル(トマト野郎)に祭り上げようってか……【ロキ・ファミリア】の団長ともあろう冒険者が女々しいことを考えやがる」

 

 この出鱈目な成長力は【ヘスティア・ファミリア】の団長のベル・クラネルと酷似している。

 僅かな期間で常軌を逸している成長速度。常識では測れない潜在能力。順調に進んでいる【ステイタスアップ】。どれを取っても第一軍になれる可能性が内包されている。

 本来であれば、自然に任せて彼女が地力で強くなるべきなのだろう。しかしこの人手不足が悩みの種としてある今の【ロキ・ファミリア】は少しでも早期に戦力を欲している。ならばベートの指導を受けて少しでも早く【ランクアップ】を果たしてもらいたいというフィンの考えも分からないでもない。

 だが、それでも【凶狼(ヴァナルガンド)】は簡単に頷くことはできなかった。

 

 「やっぱり俺ァ反対だ。俺らの喧嘩にアイツを巻き込むな」

 「彼女はもう僕達の【ファミリア】だ」

 「前まで奴らに命を狙われた餓鬼だぞ!?」

 「それがどうした。らしくないぞ。君であれば『冒険者であるのなら人間に命を狙われようが、怪物に命を狙われようが、自分で解決できねぇ奴に価値はねぇ』と言ってのけたと思うけど?」

 「…………ッ」

 「彼女を特別視しているのは他でもない。ベートじゃないのか」

 

 全てを見透かしていると言わんばかりにフィンの蒼い目がベートを射抜く。

 それにベートはこめかみに血管を浮かばせて吠えた。

 

 「ふざけンな! なんで俺がッ!!」

 「はは、そうムキになるなよベート」

 「テメェ………!」

 「まぁ兎も角、これも団長命令だ。それにこういった例はレナが初めてじゃない」

 「あ………?」

 「あのアイズも昔はよくリヴェリア、ガレスと共に面倒を見たものさ。まぁ今でも見ているようなものだが」

 

 アイズは今でこそ独り立ちして己が道を突き進んでいるが、何も初めから一人で強くなっていったわけではない。【ロキ・ファミリア】の幹部が懇切丁寧に道を示した助力もある。誰かの支えなく、幼少期の頃から放置していたら、確実に戦死していたと確信するほどの自負があった。

 

 「上に立つ者は、【ファミリア】の仲間を護り育てる義務がある。ベート……君にもその役が回ってきたと思えばいい。いつまでも暴れるままでは【ロキ・ファミリア】の幹部は名乗れない」

 「…………」

 「それとも逃げるか? 【ファミリア】の上に立つ、幹部としての責務から」

 

 煽りとも取れるフィンの言動にベートは怒りに体を震わせた。しかし彼の言うことに間違いは無い。ここで怒鳴り、反論しようものなら駄々を捏ねる子供という誹りを受けかねない。

 

 “分かっている。フィンに弁舌では逆立ちしたって勝てねェことくらいは”

 

 ベートとて無知ではない。自分のような学の無い人間が100の言葉を取り繕ったとしても、フィンは1000の言霊で丸め込めることができるだろう。フィンを隣に座らせ、会話が成立した時点でベートの返答など一つに絞られていた。

 何よりフィンは見抜いていた。ベートが少なからずレナ・タリーの成長に興味を持っていることを。そんな心の隙間を晒している状態で勝ち目などあるはずがない。

 

 「改めて答えを聞こうか、ベート・ローガ」

 「………クソッタレが」

 

 観念したベートはせめて悪態だけは貫こうとした。

 それがせめてもの団長に対する反抗だったからだ。

 

 「相変わらず腕だけじゃなく口も達者だな、テメェは。いいぜ、そこまで言うなら従ってやる」

 「助かるよ。ベートなら受けてくれると信じていた」

 「心にもねェことを………だがな、フィン。今回の件はそれなりの報酬を貰うぞ。『魔剣』調達の足しにでもしねぇと割りに合わねェ」

 「分かった、ちゃんと働き相応の収入を約束しよう」

 

 フィンの滑らかな対応にまた舌打ちをして、ベートはその場を去っていった。

 ベートとて、何も教導の心得がないわけではない。これでも元【ファミリア】の団長を務めていた男だ。才能のある冒険者一人の面倒を見ること自体は造作もない。

 ただ、久しぶりの感覚だった。他者の面倒を見るなどと。長らく遠ざけていた仕事だ。しかもよりにもよってその相手があのアマゾネスときた。

 まだやるべきことが山積みになっているというのに、また厄介なことが舞い込んできやがったと【凶狼(ヴァナルガンド)】は軽く頭を抱えたのだった。

 

 




 【ロキ・ファミリア】入りした女冒険者レナ・タリー
 二つ名【挑戦者(ノルン)】、新たに得たスキルは【意中一途(マル・ダムール)
 僭越ながら【ヘスティア・ファミリア】のベルくんと同系統のスキル持ちとさせて頂きました

 レナが【ロキ・ファミリア】に加入したことにより、これからベートの幸福(ふこう)な話が始まっていく予定です。彼女の破天荒さに苦労するベートを書いていけたら幸いです



 余談
 オラトリア9巻でレナが普通に出てきて、元気に喋っていたことが嬉しかった(コナミ感)
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