「あー、だるい…早く終わんねぇかな…」
早いものでたえ達のライブから数日がたった。俺達は彼女達のライブを見て衝撃を受け、自分達も目標に向けてもっと努力をしなければならないと思い、それぞれが己を見つめ返すいい機会になった。
今、俺は高校入学時から始めたバイトをしている。楽器関係の倉庫での仕事が主で結構きついが時給がとてもいい。それにあまり他人と接する必要が無いから自分のペースで働けて精神的にも楽なのである。
「あと2時間だからもう少し頑張るか…ん?たえからの電話だ…」
俺が食堂で休憩をとっていると誰かからの電話がかかってきていることに気がついた。相手はたえだった。
「どうした?何か用事でもあるか?」
「すばるん、今少し話せる?遊びの誘いなんだけど…いいかな?」
「遊びか。まぁ内容によるかな?」
「じゃあさ、私達とパーティーしない?ポピパのパーティーでポピパーティーだよ!」
洒落みたいなのはいつものことなのでこの際放っておこう。たえからのお誘いとはポピパの皆さんと一緒にパーティーをするということだった。
「俺達もなのか?」
「うん。すばるん達も一緒がいいって香澄が言うからさ」
お誘いはありがたいけど俺達はポピパの皆さんに対しては何もしてない。ほんとに参加してもいいのかな…
「うーん、俺達は何もして無いでしょ?だからやっぱり打ち上げはポピパのみんなとやりなよ」
「すばるん…すばるんは私達と一緒なの…いや?」
「えっ?嫌なわけないだろ!」
「だったら…一緒にね?」
ここまで言われちゃ断ることなんか出来やしない。絶対に行きたくないなんてことも無いからありがたく誘いに乗ることにした。
「はぁ…わかった。みんなに声かけてみるよ。無理でも文句言うんじゃないよ?」
「ほんと?やったぁ!すばるん大好き!」
「はは、幼馴染みに愛されて俺は幸せ者ですよ…」
この時、俺はまだ知る由もなかった。普通に楽しめると思っていたはずのパーティーで予想だにしなかった出来事が起こるということを…
──────────────────────
というわけでパーティー当日、いつもの5人が市ヶ谷さんちの蔵へと招待されていた。
「なんかすいませんね。無関係の俺らまで参加させてもらっちゃって」
「いいんだよ!だってみんな友達だもん!」
「なぁなぁ!せっかくみんながこうやって集まったんだからこれやろーぜ!」
星也が鞄の中から数字の書いてある割り箸を10本取り出して言った。
「おい…これってまさか…」
「王様ゲームだ!」
「よし慶次。とりあえずこいつ寝かしとくか。鳩尾らへん殴っときゃすぐに気絶するだろう」
「やってやるか」
「昴、俺も手伝うぜ」
「ちょ!待てって!おめぇらの意見は聞いてねぇよ!ポピパちゃんはどうなの?やったことある?」
「王様ゲーム!?何それ面白そう!せっかくだしみんなでやろうよ!」
香澄が目を輝かせながら言う。その後ろでは市ヶ谷さんや山吹さんが慌てた様子を見せている。
「ほらー香澄ちゃんもこう言ってるしさ!お前らも黙って付き合えよ!」
「ほっしーの言う通りだよ!有咲達もやろ!」
星也と香澄も強引な誘いにより全員が強制的に王様ゲームに参加させられることになってしまった。早速星也はくじをまとめて高々と言う。
「それじゃあ始めるぞ!とっとと引けぇ!」
「ワクワク!」
とうとう始まってしまった…俺は観念して星也が持っている割り箸の中から一つを抜き取る。
「王様だーれだ?」
「あ、私だ!」
最初に王様を引いたのはたえだった。
「なんでも命令していいんだよね?」
「女王様、何なりとご命令を」
助かった…こいつからとんでもないお題が出てくることはない!隣に座る慶次も安堵の表情を浮かべている。
が、俺達の読みは甘かった。
「じゃあ3番が6番を罵りながら体踏みつけて」
「なっ!?」
たえは俺達の予想の斜め上を行くお題を出してきた。これにはみんな驚いている。
「お、おたえちゃん?ほんとにこの命令でいいの?後悔したりしない?」
「なんでもいいって言ったよね?」
俺は咄嗟に自分の番号を確認する。よかった、俺ではなかったようだ。
「えっと…3番だれ…?」
「げっ!私じゃん!」
3番は市ヶ谷さんだった。ご愁傷様です…
「じ、じゃあ6番は…?」
「俺だ」
6番を引いたのはこの企画の発案者である星也だった。
「よし!取り押さえるぞ!」
「うがっ!離せ!」
暴れる星也を3人がかりで取り抑え、床に無理やり寝かせる。
「市ヶ谷さん、君にはすまないと思っている。けど今すぐにこいつを踏みつけてくれ。いい薬にはなるだろう」
「え、えぇ…?」
「では、お願いします」
「し、しかたねーな!」
市ヶ谷さんは星也の体…ではなく空いていた顔面を踏みつけながら言った。
「私達にこんなことやらせやがって…今すぐに懺悔しろよ!!!この変態!!!」
「は、はひぃ…」
この場にいる全員が無言になる。その次に待っていたのは市ヶ谷さんへの賞賛の嵐だった。
「すごいすごーい!有咲かっこいい!」
「市ヶ谷さん、ありがとう。俺達は君の勇姿を決して忘れることはないだろう」
「う、嬉しくねーし!てか橘さんもごめんな?命令とはいえこんなことしちまって」
「別に気にしなくていい…」
「さ、続きやるよ!」
香澄が割り箸を回収し、続きをやるように促す。渋々それに従っていると星也が俺に耳打ちしてきた。
「……………なぁ昴」
「どうした星也?」
「俺………目覚めちまったかもしんない…」
「………聞きたくなかった」
今聞いたことは忘れよう。昴は密かにそう決心するのであった。そして彼は同時に思う。
(市ヶ谷さん…本当にご愁傷様…)
──────────────────────
そのあとの王様ゲームは特に問題が無いまま進んでいった。慶次がパシられたり山吹さんが一発ギャグを披露したりと様々なことがあった。そしてゲームも終盤に近づいてきた。
「あ!私が王様だ!」
「じゃあ1番が8番に壁ドンから顎クイして!」
「!?」
その場にいた全員が吹き出した。
「1番誰だ?って俺じゃねぇか!」
「8番って私じゃん!」
たえは珍しく驚いていた。まぁ俺も他の人とやるよりはたえとの方がいいって言うか…とにかく比較的こういうことをやりやすい子で助かった。たえは嫌かもしんないけどこうなったらもうね?
「おお!こりゃ傑作だなぁ」
「ワクワク!」
「昴!かっこいいとこ見せろよ!」
あいつらにここまで言われちまったらもう引くにも引けなくなっちまった。俺は覚悟を決めた。
「わ、わかった! ちゃんとやるからお前らは一旦部屋から出てってくれよ!」
「ま、そうしてやるか」
慶次達は一旦部屋を出ていき、この空間には俺とたえの二人しかいなくなった。
「す…すばるん?」
「たえ…じっとしてろよ…これはあくまで命令なんだからな?」
昴はたえをゆっくりと壁際へと追い詰めていき、完全に逃げられないようにして壁ドンをする。
「これでもうお前は俺から逃げられないぜ?お前のことは誰にも渡したくない…」
「う、うぇ?」
そのまま耳元で甘い言葉を囁き、たえの顎をそっと持ち上げる。
「とても綺麗で美味しそうな唇だね…このまま食べちゃいたいくらいだよ…」
「は、恥ずかしいよ…でも…すばるんにだったらあげてもいいよ///」
「………え?」
今こいつは何を言った?俺はあくまで命令に従ってこういう行為をした。正直恥ずかしくて今すぐどっかに逃げたい気分だった。
「すばるん?私の唇を食べちゃうんじゃなかったの?すばるんが来ないんだったら私から…」
「わ!待て!早まるな!」
たえはさっきやられたことをそっくりやり返すように俺のことを壁に押さえつけてきた。俺は何とか抵抗したが、逃げ出すことは出来なかった。
「行くよ…すばるん…」
もうここまで来たら観念するしかないか。俺も男だ。女性からの行為も受け止めなきゃいけないな。俺はたえにその身を任せ、静かに目を閉じた。そのまま2人の距離は徐々に近づいていき、完全に重なる…
「おたえ!まだ終わらないの?早く次のやろ…」
「どうだ?昴は男になれた…のか?」
外で待っていた香澄と慶次がタイミング悪く戻ってきてしまった。2人は運悪く?重なり合う昴とたえを目撃してしまった。そして全員の目が合う。
「え、ええ…」
「あーうん、お邪魔しました。ごゆっくりどうぞ…」
香澄と慶次は何事も無かったかのように外へ消えていった。昴とたえの身体からは冷や汗が噴き出ている。
「や、やめとくか?」
「そうだね…」
2人はそそくさと離れていった。そして時間も遅くなったということもあり、このゲームを最後に解散することとなった。
──────────────────────
「いやぁまさかあんなことになるとはな」
「頼むから他の人には言わないでくれよ?」
市ヶ谷さんの蔵からの帰り道は慶次と一緒だった。普段ならたえもいるがさっきの出来事もあり、少し気まずくなって別々に帰っている。
「別に言うつもりなどない。安心しろ」
「すまない、感謝するよ」
「気にするな。ところでお前はこれからどうすんだよ?」
「これから…?」
「お前はたえのことが好きなんだろ?」
俺は思わず吹き出してしまった。確かに俺はたえのことが好きだ。今日だってあいつには悟られないようにしてたけど本当はドキドキしすぎて心臓が張り裂けそうになったのだ。
「何年間一緒にいると思ってるんだ。それくらいのことはわかる」
「そうかよ…」
「お前にも理由があるだろうからな。俺はお前に対してああしろとか言うつもりは無い。ただ、後悔だけはするなよ」
「そうか…気遣ってくれてありがとな」
「…頑張れよ。それじゃ俺はここまでだから。また明日な」
慶次はそのまま昴に背を向けて去っていった。その場に残された昴は空に手を掲げ、呟いた。
「なぁ、俺はこれからどうすればいいんだ?教えてくれよ…」
昴は夜空に問いかけるが何も帰ってはこなかった。聞こえてくるのは夜の街を吹き抜ける静かな風の音だけだった。
To be contenuid…
それではまた。