白、白、白、真っ白。
視界を全て埋め尽くす純白の世界。
そんな不可思議な空間で、目の前にいる“赤”と視線を交わらせる。
「よっ、今日も頼むぜ」
『ああ、それじゃあ早速始めるとしよう』
視線の先にいる“赤”は、威厳ある声でそう言った。
てな訳で、俺だ。エースだ。
まず現状を説明しようと思う。と言っても、一言二言で済んじまうけどよ。
「
『ふん、まだぬるいな』
━━━俺は今、ドラゴンと戦ってる。
いや、比喩とか揶揄じゃないぜ?
現に俺の火拳が奴のブレスに飲み込まれてるんだから、ゾッとする。
燃え盛る炎のように赤い鱗。
鋭い眼光。
巨体に似合う圧倒的王者の風格。
このドラゴンの名は“ドライグ”。
またの名を『赤龍帝』。随分とご立派な異名をお持ちのようだぜ。
聞けば、俺の中に宿っているんだとか。正確には、俺の中に宿る
あの悪魔と戦ってるときに発現した赤い籠手。
因みにあれが俺の神器らしい。
他にも難しい話がある訳だけどよ。今は良い話し相手が出来たって事で勝手に納得してる。
面白い話も聞けたり、ドライグは良い奴だぜ?
更に、神器に意識を潜らせてその中で修行することも可能だ。今みたいにドライグに鍛えてもらってる。
まあ、その内容はドラゴン式というか⋯⋯。
スパルタを越えて殺しにかかってくるというか⋯⋯。
神器の中だから死ぬことはねぇが、それでもヤバい。冗談抜きで。
『今日はここまでだ』
「お、おう⋯⋯」
ドライグから終了の知らせ。
俺は白い床━━地面?━━に息を切らしながら大の字で倒れ込んだ。
「ったく、相変わらず出鱈目な鱗だな。俺の炎がまったく通らねぇじゃねぇか」
『天龍の名は伊達ではないという事だ。俺とやりあうなら、相棒の火力を隕石の衝突並みにすることだな』
「い、隕石か⋯⋯」
倍加と覇気を使えば今の俺でもいけるかどうかか?
『因みに、俺の知っている龍に隕石の衝突に匹敵するブレスを吐く奴がいたぞ』
さも当然のようにドライグは言うが、俺はそれに対してただ苦笑を浮かべるだけだった。
何でもドラゴン基準で物事考えやがって⋯⋯。
第一、俺はこれでもまだ人間なんだよ!ほいほい隕石レベルの炎を出してたまるか!?
ドライグは俺の反応を見て、ふっと笑みを溢す。
『まあ、今はまだ焦らなくてもいいだろう。今代の“白龍皇”がどの程度かは知らんが、相棒は現時点でもそこそこ強い。まだ幼いにも関わらず、だ』
━━━白龍皇、か。
ドライグと対を為すドラゴンで、代々この2体のドラゴンを宿す者同士は戦う運命にあるそうだ。
赤龍帝が倍加、白龍皇は半減。
能力は正反対だ。
ドライグは口角を上げ、獰猛な牙をちらつかせてクククッと笑う。
『おまけに身体能力、潜在魔力量はかなり高い。加えて相棒の特異体質⋯⋯メラメラの実とやらの力もある。━━━これは、どこまで成長するか見物だな』
ドライグ曰く、宿主として俺は当たりらしい。
けど、そうだな⋯⋯。
「どうせなら歴代最強を目指してみるか」
『ほう、その壁は果てしなく高いぞ?生半可な力じゃ到底敵わないが、それでも構わないなら目指すと良い』
ドライグにそこまで言わせるのか⋯⋯。
一体どんな奴か気になるし、会ってみたかったが、それ以上に越えてみてぇ!
男ってのは、挑んでこそ男といえるしな!
俺はニッと笑い、ドライグに拳を向けて言う。
「へっ、俄然やる気が出るってもんだ!」
『⋯⋯ならば、期待しているとしようか。━━━それよりも相棒、そろそろ
「げっ、もうそんな時間かよ。早く起きなきゃまずいな」
俺はドライグに「次も頼むぜー」と言い、神器から意識を戻して現実の目覚めに向かう。
▽▼▽
目を覚ますと、見慣れた天井が見える。
あぁ⋯⋯まったく寝た気がしねぇ。
体は睡眠を取ったことになるが、気分的には一日中起きてるって感じだ。
欠伸をしながらベッドから下りようとすると、何やら廊下の方からドタドタと足音が⋯⋯。
そして、次の瞬間に部屋のドアが豪快に開けられた。
「エース!朝だにゃん!起きてても起きてなくてもおはようのハグゥゥッ!!」
入ってきたと同時に、弾丸のように突撃してくる黒髪美人。
下手したらジョズのタックル並だ。
受け止めれば火の体でも正直キツイ!
「いつも朝から元気だな、黒歌」
「んにゃ!?」
この場合、避けるのが正解。
んで、黒歌は勢いそのままベッドに突っ込む形になった。
「ぅぅ、ひどいにゃ〜。こういう時は受け止めるのが男の子なのに⋯⋯」
「すまねぇな。命の危機を感じたもんで、避けちまった」
よよよ、と悲しみに暮れる黒歌。
特に罪悪感はねぇな。いつもの事だしよ。
━━━これが毎日の始まりな訳だ。
人によっちゃ、騒がしい朝は苦手かもしれねぇが、俺にはこっちの方が性に合ってる。
どうせなら、何事もワイワイいきたいだろ?
「そんじゃ、朝飯だ!行こうぜ黒歌!」
「あ、うん!今日の朝ご飯は何かにゃ〜?」
俺達は旨そうな匂いに釣られるようにお袋の元へ向かった。
▽▼▽
朝飯を食い終わった後、俺と黒歌は二人で散歩をしに外に出ていた。
天気は晴れ。日差しは気持ちいいし、丁度いい気温だ。
「にゃ〜」
俺の頭の上に乗っかっている猫化した黒歌も、気持ち良さそうに鳴いている。
何で猫?と、疑問に思うのも仕方ない。
黒歌の考え的には、『いつどこで追手に見られるか分からないから』と。
なるほどな。逆に此方の方が目立つのは気のせいか?
そう考えていると、ドライグが説明をくれる。
『この小娘、ふざけているように見えて仙術が達者のようだ。だからそうそう見つかることはないと思うが⋯⋯』
へぇ、ドライグのお墨付きなら大丈夫か。
まあそれ以前に、修行を手伝ってもらってる俺から見ても、黒歌が強いのは分かる。
単純な力なら俺に分がありそうだが、実際に戦えばそうもいかねぇ。
兎に角、多彩なんだ。黒歌は⋯⋯。
翻弄されまくった事を思い出し、つい溜め息が出る。
「にゃ?」
「いや、何でもねぇから気にすんな」
気品ある上質な毛並みをポンポンと撫でて、俺はそう言った。
しっかし、いつ撫でても飽きねぇな。この毛並み。
これで商売が出来そうなくらいだぜ。
俺は頭にいる黒歌をヒョイと持ち上げて、胸の位置に持っていき、暫く堪能しながら散歩を楽しんだ。
今は公園のベンチで一休み。
黒歌は俺の膝の上で丸まっている。
雲の流れをぼーっと眺めながら、のんびりと。
この世界に来てから、ほのぼのとした日常も悪くねぇと思えている。
そりゃあ、冒険や戦いも好きだけどよ。
家族との平和な暮らしも、手放したくねぇんだ。
だが、ドライグは言っていた。“ドラゴンは力を引き付ける”と。
良い意味でも、悪い意味でもな。
黒歌と出会えたのは、もしかしたらそのお陰なのかもしれない。
良い奴と知り合えるなら越したことはないが⋯⋯その逆は?
可能性は⋯⋯無いとは言い切れない。
ドライグが言うんだから、何時かはその時が来るんだろうよ。
その為に、俺は強くなくちゃいけねぇんだ。
家族を守れるくらいに、強く。
黒歌を捕らえようとする悪魔の連中だって、俺がブッ飛ばす。
例え魔王が来ようが、神が来ようがやることは同じだ。
どっちが正義か悪かなんて知らねぇ。
俺はただ、俺の愛する家族を守るだけだ。
「⋯⋯そろそろ帰るか」
気付けば、空が赤みがかっている。
寝ている黒歌を起こすのは悪い気がして、俺は抱き上げてそのまま帰路にたった。
━━━こんな感じで、1日は過ぎていく。
そして、時間ってのは早いもんで、1年、2年⋯⋯と経過していった。
メラメラの実の力も、覇気の力も着実に強くなっている。更に、黒歌から仙術も教えてもらったり。
ドライグの力もそこそこ使いこなせてきた。
兵藤エース、15歳。
小学校、中学校を卒業した俺。
友達と同じ高校に進み、ここから先は高校生活が待っているわけだが⋯⋯さて。
この時、俺はまだ知らなかった。
いや、普通は知らねぇし、考えもしねぇんだが。
⋯⋯高校の生徒の中に悪魔がいるなんてな。
これがドラゴンの“力を引き付ける”というやつなのだろうか?
まったく⋯⋯嫌な予感しかしねぇ。
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