八房が斬る! 作:そら
召集の日私はクロメの負担を減らすために全ての荷物が入った自分の背丈よりも大きいリュックと両手に大きなカバンを背負って帝都の道を歩いていた。
「八房、手伝おうか?」
前を歩いていたクロメは振り返り、尋ねてくるが私こと帝具人間には疲れたとか人間の生理概念が存在しないわけであってこんな荷物一日中運ぶことだって可能だ。
「大丈夫だよクロメ、私は帝具だし疲れたりなんてしないから」
「でも……」
クロメの子犬のような上目使いの視線に私は内心ため息をついて一番軽いカバンを渡して、そのまま帝都の定食屋とか御菓子屋など食べ物の匂いに釣られていくクロメをなんとか諌めてやっと目的場所に着いた。
「私は部屋で荷物置いてくるからクロメは先に集合の部屋に行って」
「ううん、私も行くよ」
着いてこうとするクロメに私は手を置いて優しく撫でて、早く他の仲間になるメンバーに仲良くなるように伝えるとクロメは渋々、集合場所の部屋に向かっていった。
クロメはどちらかというと人見知りの方であり、私が一緒にいたらクロメは私という逃げ道に頼ってしまうかもしれないし、ここは一人にして新しい仲間との交流を深めてもらおうと思って部屋に着くと、そこはあんまり暗殺部隊の基地と変わらないようなタンスとベッドと机がある、ざっぱりとした部屋だった。
まぁ、期待はしてたがまぁ、こんなものだろう。
自室を後にして私が集合場所に着くとガスマスクをした拷問官みたいな見た目な人、オカマ、犬連れの女性などとなかなか個性的な面々と金髪の真面目そうな美青年、あとパットしない感じがする黒髪の少年がが揃っていた。
「おや、人数的に私が最後だと思っていたのですが?」
中性的な金髪の青年の呟きに私は第一印象が大事と思いつつ愛想良さそうな微笑みを浮かべて自己紹介をする。
「恐らくそれで合ってますよ。私は八房、この子クロメの帝具です。皆さんよろしくお願いしますね」
「ああ、よろしく……ってか帝具なのか。全然、人間にしか見えないけど」
「まぁ、そう作られていますからね。それでクロメ、自己紹介したの?」
「えーしないといけない?」
「早く馴染むためにしないといけないでしょ。ほら、それまでこの御菓子は没収」
私は瞬の速度でもぐもぐと食べ続けているクロメから御菓子袋を取り上げ、手で弾ませて遊ばせるとクロメが椅子から立ち上がり驚愕の声をあげる。
「いつの間に……」
「フフッ、ちゃんと自己紹介しないと御菓子は返さないよ」
「むぅ」
御菓子を実力で取り返せないと分かっているクロメは渋々とだったがちゃんと自己紹介をしたので私は御菓子をきちんと返すのを見た周りは帝具というより保護者みたいだなと思う。
そのあと皆から自己紹介されて、やっぱり個性的な面々が揃っているなぁと私は思っていると集合場所である部屋のドアが開かれ、仮面を着けた腰まである青く透き通るような髪の白い軍服を着た女性がホワイトボードの前まで歩いていく。
「ん…誰?」
「さぁ、仮面してるし仮装パーティーに行く途中じゃないんでしょうか?」
「そんなわけあるかッ」
ウェイブくんの呟きに私は微笑みながら冗談を言うと見事なツッコミが帰ってきた。ウェイブくんはこれから恐らくチームのツッコミ役として活躍してくれるだろう。
「お前たち見ない顔だ!ここで何をしている!?」
「おいおい、俺たちはここに集合しろって…」
黒髪の少年、ウェイブくんが女性に近づいて説明をしている刹那、その女性から空気を斬る音が聞こえるような蹴りが彼に襲いかかり、蹴り飛ばされた。
幸い受け身をしていたので大事には至っていないが蹴り飛ばされた本人は白目を向いていて既に戦闘不能の状態である。
「…賊には殺し屋もいる。常に警戒を怠るな!」
そう言い今度は金髪の真面目そうな美青年のランさんに女性は蹴りで襲いかかるがそれを当のランさんは危なげなく華麗な動きで全部躱していく。
「ほえー、あれ全部躱すってすごいね」
「私の剣を最小限の動きで簡単に躱す八房がそれ言う」
「あはは……そうだね」
そんなことを話していると両腕が機械化されているセリューとその犬みたいな外見をしたペット…じゃなかった帝具であるコロが背後から女性に襲いかかろうとするがやっぱり殺気を隠せてないためかセリューは地面に叩きつけられ、コロは顔を氷に閉じ込められ身動きができないようにされていた。
「背後から襲うにしても殺気を剥き出しすぎだ」
――へぇ、氷の能力ということはデモンズエキスか……ということはあの人は……
「行くよ八房」
私は感心しているとクロメがそう言って、その黒い目からやる気満々だなと私は苦笑いをする。
「あ、うん、『手加減してあげてよクロメ』」
クロメが剣を抜いた瞬間に私の体がクロメの腰辺りに吸い込まれるように刀になってクロメは駆け出して、仮面を斬りつけると綺麗に仮面は真っ二つに割られた。
「ふざけられても此方は手加減できない」
「なるほど、それが帝具八房か……流石の斬れ味だな」
素顔が露になった帝国最強の異名を持つ女性、エスデス将軍がそう呟き、周りは帝国最強のエスデス将軍だと思わなかったらしく騒然としていた。
その後、空は夕日が染まる中で私を含め皆はスーツに着替え、宮殿内の廊下を歩いていた。
「普通に歓迎してもつまらんからな。あれは私のサプライズパーティーみたいなものだ。驚いたか?」
「荒々しいのは慣れてますから」
「むしろご指導ありがとうございます」
エスデス将軍の問いにさっきの荒々しいサプライズパーティーで吹っ飛ばされたウェイブくんと返り討ちにされたセリューさんはそう答えると今度は私の方を見て、不敵な笑みを浮かべる。
「ところで八房?」
「はい、なんでしょうか?」
「帝具人間って言うものに興味あってな。私に拷問されてみないか?」
「はい、丁重にお断りさせていただきます」
「フッ、これは冗談だ」
「冗談に聞こえないんですけど」
帝国最強のドSのエスデス将軍が言うと本当に冗談に聞こえないから困る。まぁ、帝具人間の私は痛覚が存在しないので拷問なんかされても動じようがないし、拷問なんて
ああ、思い出すだけでもムカツク。
あの理不尽なセカイを思い出して――痛くて、辛くて、憎くて、怨めしくて何であたしだけがこんな目に遭うの?
嗚呼、染めたい、ソメタイ……この世界をあの理不尽なセカイに――だって、あたしだけこんな辛い目に遭うのは不公平だもの。
だから、皆ミンナ理不尽なセカイに……不幸になってしまえばビョウドウダヨネ。
ねぇ、『
いつコワスノこんな下らない世界ヲ
ねぇ
ねぇ
ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ
「…五月蝿い」
「ん?なんか言った?」
「ううん、なんでもない」
はてなマークを浮かべているクロメに私は笑顔で答える。
「よし、陛下と謁見後パーティーだ」
「い……いきなり陛下と!?」
「初日からずいぶん飛ばしているスケジュールですね」
「まぁ、エスデス将軍ですからね」
いきなり陛下と謁見と言われ、驚いているウェイブくん、ランさんに苦笑を浮かべながら、一瞬で異民族の拠点を凍り漬けにして、異民族の決着をつけると言う規格外のことを知っている私はエスデス将軍だからとフォローをいれる。
「面倒ごとはちゃっちゃと済ませるに限るからな」
「それよりエスデス様、アタシたちのチーム名とかは決まっているのでしょうか?」
オカマな医者のドクタースタイリッシュさんが尋ねるとエスデス将軍は口先を吊り上げて、高らかに宣言する――独自の機動性を持ち、凶悪な賊の群れを容赦なく狩る組織…特殊警察『イェーガーズ』の名を―――。