仮面ライダー The present day after   作:タキ

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仮面ライダー1971-1973の続編……のようなナニカ。まぁ所詮は二次創作なので……。
あのエピローグから続くのはどうあっても蛇足にしかならないので開き直って書きました。
結果、第三部プロローグの「アレ」を始まりに持ってきました。


00/崩壊

 燃え盛る館の中に、傷だらけの男がいた。

 男は身体を灼かれ、切り裂かれて血塗れになり、暴力によって嬲られ、惨たらしく蹂躙された。

 しかし彼はそれだけの傷を負いながらも死んではいなかった。そればかりか、彼は気丈にも立ち上がった。

 まだ息があるのは奇跡的なことだった。まして、その重傷で立ち上がるなど、普通は考えられない。

 しかし、彼が死にかけていることは、誰がどう見ても明らかであった。

 彼がそんな生死の境でなにを思っていたかは定かではない。ただ、死のふちに置いても彼は絶望はしておらず、きっ、と。鋭く意志の強い目をしていた。

 だが、そんな彼を嘲笑うように、追い打ちがかけられた。電撃や火を体に受け、恐るべき怪力で蹴られ、殴られ、叩きつけられる。

 なぜここまで彼をいたぶるのか。それは彼をこの世から完全に消すための処刑であるからにほかならない。

 故に、手は抜かない。徹底的に痛めつけ、殺すのだ。

 そしてそれを行ったのは数十人……いやそれよりも多いか。ハッキリとした数はわからない。確かなのは彼の処刑に直接的に手を下したのは、十二人。

 それら全員が、異形の「仮面」を着けていた。

 ――仮面をつけた者たちは、雷を起こし火を操り、冷気を操ることができた。体をずたずたに切り裂くような風を巻き起こす者や、大地を割くかのような怪力で蹂躙する荒くれ者もいる。

 それらすべては、彼らが持つ「超能力」によるものだった。彼らは超能力者で、〝新人類〟であった。

 超能力者たちは、二言三言囁き合い、彼へのトドメを刺すことにした。あれだけ痛めつけられてもなお、彼はまだ息がある。

 十二人のうちのひとりが、前に進み出た。彼も当然、仮面を着けている。

 傷だらけの男はその仮面の存在を見据えた。抵抗するだけの力は最早なく、処刑人の顔を見ること、それしかできないのだ。

 白い仮面だ。一対の目には小さな……線香ほどの赤い光が灯っていた。

 ――その仮面、その顔は骸骨(スカル)だった。

 死をもたらす者の顔としては、まさにうってつけである。

〈骸骨男〉は腕を振り上げると、手に握られた刃が凶暴にも閃いた。

 そしてその大きなナイフは、男の身体に深々と刺さり……そのまま抉るように切り裂かれた。

 男の身体からおびただしい量の鮮血が飛び散り、〈骸骨男〉の白い仮面を汚した。

 そして〈骸骨男〉は、男を炎の中に捨てるように蹴飛ばした。

 男は力なく床を転がった。炎が彼の身体にまとわりつき、嘗めるように彼の身体を灼いていく。

 その隣には血だらけの……彼ほどではないが……少女もいた。

 炎に苛まれるふたりの血に汚れた男女を無感情に見下し、〈骸骨男〉は身を翻し炎に灼かれて崩れる館を出た。

 それに続いて、他の仮面の存在も館を出た。処刑を黙って見届けていた何十人かの人間もさらに後に続く。

 館にはふたりだけが取り残された。

 炎が無慈悲にも勢いを増し、ふたりをどんどん呑み込んでいく。その業火の中で、少女の方が動いた。彼女はまだ生きていたのだ。

 少女は床を這って、死にものぐるいで男の方へとゆっくりだが着実に近づいていく。彼女はいつ死んでもおかしくはない怪我である。

 振り絞った力はまさに、状況と相まって火事場の馬鹿力というのが相応しかった。

 男の方は、完全に動かなくなっていた。死んでしまったのか。死んでしまったのだろう。

 それでも少女は男の方へと決死の思いで近づいた。手を伸ばし、彼の手を取った。大きな手。自分の小さな華奢な手を包み込むほどの大きな手だ。

 その手をぎゅっと握って少し経つと、彼女はわずかに安堵した。

 あぁ。彼は……。

 そして彼女は願いをかけ、祈った。ただ静かに。悟ったように。

 最後に少女は柔らかく微笑み、消え入りそうなか細い声で一言囁いた。

 直後、天井が崩れ、館は崩壊した。

 ――ふたりのいた場所は完全に炎と瓦礫の中に呑み込まれた。

 

 この日、とある男の死が一部で話題になった。

 だが、程なくそのニュースは記憶から消えた。彼がどんな存在であろうと、所詮はひとひとりの生死にまつわる話にすぎない。

 どこの誰が死んだなど、大した問題にはならない。

 そう。別に大したことではないのだ。

 ――〈仮面ライダー〉が死んだということなど。

 

***

 

「まったく、最近は面白いニュースがない。今の世の中、生きてたって仕方ないよ。これでは、な。この調子ならもう引退したいんだが、なぁ?」

 いくつものモニターが並ぶ殺風景な部屋で、中年のややくたびれた様子の男が機嫌悪くひとりでべらべらとまくし立てていた。

 部屋を仄かに照らす光は、なんらかの映像を不断に映し続けるモニターがもたらすものだけで、照明はひとつもなかった。

「そう、言われましても」

 そんな男の愚痴に、適当に返すのは側近の補佐官である西田という男だ。

「あぁ。最近、映画も面白いものがなくてつまらん。趣味とは言えなかったが、昔は結構楽しんで見てた。あんた、知っとるかね? 「大脱走」という映画なんだが……まず、テーマソングがいいな。それに、登場人物もなかなかだ。生きる、ということに真剣になれるなぁ。

当時映画館で見ることはできなかったんだが、後になってテレビで二週間分けて放送されたんだよ。で、わしはそれを見た。いやぁ、いい想い出だ。歳をとっても、こういう楽しいことはいつまで経っても覚えてられるもんだ。

……おっと。結末はどうなったか、なんて聞いてはならんぞ。映画ってのはなぁ、自分の目で見てこそいいんだ。わかったか、西田くん」

「は、はぁ」

 西田は空返事をした。本当に、ひとりでよく喋るものだ。といっても、話に口を挟めば途端に機嫌を悪くするのだからたまったものではない。

 彼の補佐官となってから、西田はひどく苦労していた。

「……それで、その映画はいつの映画なんですか?」

 話の区切りを狙って、興味のある素振りを見せるため質問をひとつした。これだけでもご機嫌は少し取れるからだ。

「ん? あぁ。あぁ。昔……そうさな、わしの全盛期だから……もう百年以上前だな。百年……百年かぁ。いやぁ、その頃はこんなにずるずると生き永らえるなんて夢にも思わなかったろうなぁ。あ、そうだ。勘違いしてもらっちゃ困るが、それぐらい前でもトーキーだよ、トーキー」

「……トーキー?」

 西田は耳慣れない言葉に思わず聞き返してしまった。

「なんだ、いまの若いのはそんな言葉も知らんか。はぁ。まぁ仕方ないことかな。音声付きの映画のことだよ」

「すみません、勉強不足で……」

「いいさ。それぐらいはな。これを機に、いろいろ映画を見てみるといい。映画は素晴らしいもんだ」

「そうします」

「うむ」大きく頷き、彼は体をあちこちぽんぽん叩いた。「……ん。西田くん」

「はい」

「煙草、あるかね?」彼は悪戯っぽく笑った。「どうやら切らしてそのままだったらしい。一服吸いたい気分なんだが……ピースはないか?」

「ピース……煙草の銘柄ですか。生憎、私は煙草を吸わないもので……」

「なんだ、そうか。残念だなぁ。一服した後にあの男への弔いの煙でも立ててやろうと思ったのにな」

「はぁ。つまり煙草は線香代わりですか」

「どこぞの兵隊どもが昔やってたことだ……なんて、どうにも今日は懐かしいことばかり思い出すな」

 彼は嬉しそうににやにや笑みを浮かべる。西田はその笑顔に少しびくりとした。

「……誰への弔いなんですか? 友人、とかですか」

 声が震えないように努めて、西田は尋ねた。

 彼はその質問を聞いて嬉しそうに顔を向けた。

「友人か。彼はわしのことをどう思ってたろうなぁ。ま、好かれていたとは思わんが。なにしろ純然たる敵同士、だからなぁ。だがわしは彼のことは好きだった。いい男でな。ちょっとまともすぎるのが瑕なんだが……ん、もしかして、彼が死んでそろそろ五十年か。あの男が死ぬとはそう思えんが、なぁ」

「あの男……ですか」西田は彼の言う人物に思い当たる節があった。

 彼は寂しいのか面白いのか判別のつかない顔を見せた。

「彼がいなくなってからというもの、面白いことがなくなってしまったよ。この仕事も退屈になるばかりで……」

 そのときだった。

 机の上にある無線がけたたましい音を発したのは。

「出ますね」西田が無線をとる。「はい。〈スカイ〉より西田です。はい。……はい。変わります」

「わしにかね」

「はい。緊急の連絡と……」

「ふむ? ……わしだ」

 彼は無線を静かに聞いた。それからしばらくして無線を切ると、「あははははははは」彼は急に声を立てて笑い出した。

「どうかしたんですか」

「いや。いや。まったく、人生ってもんは、なにがあるか分からないもんだ。これだから面白い。まだまだ生きていられそうだよ」

「はぁ」

 さっきまでとは真逆のことを言い出し、西田は困惑するしかなかった。

「ついさっき、面白いものが見つかったらしい。彼が生きていたか、それとも別人か……まぁどっちでも面白いことになるな。いや、ホント面白い。実際愉快だ。あはははは」

 彼は大笑いしながら跳ねるように立ち上がると、軽やかな足取りで部屋の出入り口の扉の方へ歩き出した。

「さぁ、忙しくなるぞ。神様の御褒美だな。まだまだ人生これから、だっていうことだな。ほら西田くん、ボサッとするな。早く来い。君にもこれから楽しい毎日が訪れるからな」

 西田は彼を追って部屋を出た。まったく、この男はなにを考えているかわからない。わかりたくもない。

 とはいえ、彼といると退屈しないのは事実だ。苦手ではあるが、嫌いではない。そんな男なのだ。

 まだまだ笑いを抑えられず、いつまでも笑い声を上げるこの男は、コードネームを〈監察官〉と言った。

「素晴らしき哉――と、そうだ。こんど映画をふたりで観よう。いま口にしそうになった映画は特におすすめなんだ。いやはや、今日はいい日だ。いろんなことが思い出せる。で、どうだね、西田くん。映画を観ないか?」

「えぇ」西田はすぐに答えた。「ぜひ、ご一緒させてください」

 

***

 

 コンクリートジャングル、聳え立つ摩天楼の痛いほどに眩しい光が街を昼間のように照らす。

 時刻は午前零時を回ったところだ。

 汚染された空はどんよりとして星はひとつも見えはしない。普段は柔らかな薄い光を放つ月も、今日はすっぽり隠されていた。

 大昔は高層ビルはこんなに多くはなかったし、大気もここまで汚染されてはいなかった。

 これらすべては石神大造率いる石神財閥の開発によるものだ。ひとびとを救う科学や医療を提供する反面で、彼は地球の自然を破壊していた。

 加えて、彼が破壊したのは自然だけではなかった。彼は治安を破壊し、無辜の人間たちの希望を奪い、不安を煽る。

 故にテロや抗争などはいつ起きてもおかしくない。そんなものは日常茶飯事でしかない。

 いまの世界は不安定で、恐怖が渦巻く、暗黒の時代と化していた。

「助けてっ! 助けて……!」

 そんな中ひと通りも少なく、光もほとんど差し込まない薄暗い路地で、女性が息を切らして逃げていた。必死に助けを求めながら。

「バダンのロボットが不安定な治安を守ります」

「石神財閥が研究する医療がすべての病気を治療する」

「超能力者を根絶しよう――ひとを猿に追いやろうとする悪魔をみんなで駆除しよう」

 道端にゴミとして捨てられていたラジオが、残り少ない電池を消費しながらCMを垂れ流していた。

「クロード黒原外務大臣が先日午後四時に帰国し――」CMからニュース放送に切り替わったとき、ラジオは無残に踏み潰され沈黙した。

 目の前に灰色の背広の男が立ち塞がっている。その手には……刃渡りの大きなナイフが握られている。

「ひっ」逃げ惑っていた女性の顔が恐怖で歪む。「やめてください……私がなにをしたって言うんですか……」

 がたがたと震えながら、女性は後ずさりする。その様子を見て彼女を追い立てる背広の男はいやらしくにんまりと笑った。

「なにもしてませんね」

「じゃ、じゃあ……」

「でも殺します」

「そんなっ……!」

 わけがわからない。こんなことがどうして私の身に起きているのか。彼女は絶望していた。

「明日は我が身でしょう? 今の世の中で、こんなことぐらい当たり前なんだ。観念してください」

 男は通り魔殺人を日常的に行う殺人鬼だった。今日のターゲットに選ばれたのは彼女で、最近仕入れた新しいナイフで切り刻みたかった。それだけだった。

 男はナイフを構え、一直線に駆け出した。ナイフを突き立て、鮮血を浴びるイメージを頭に描き、脅える獲物に肉薄した。

 そして、次の瞬間。男はナイフを取り落とし、ばたりと前のめりに倒れ動かなくなった。

「……え?」女性は目をぱちくりと瞬いた。

 助かったのか? いや、なぜ彼は急に倒れたのだ?

 倒れた殺人鬼をよく見てみると、首があらぬ方向に曲がっていた。「な、なにが……」彼は死んでいた。

 ――なにが起きている?

 先ほどは目の前の男……今や物言わぬ死体だ……の理不尽な欲求によって追いかけられ殺されそうになった。

 そしてその男はどういうわけか死体になった。わからない。まるでわからない。

 彼女の頭は混乱を深めた。

「明日は我が身。その通りだなぁ」

 暗がりからなにかが近づいてくる。姿は見えず、聞こえるのは声のみ。しかし確かにこちらへ迫っている存在がある。

「よかったなぁ。こんなのに殺されずにすんで」

 まさかこの声の主が殺人鬼を死体へと変えたのか。つまり助けてくれた? いや、それはちがう。それにしては、なにか不穏だ。違和感がある。

 彼女の恐怖と絶望は臨界点を越えようとしていた。

「あんたは……運よく俺の獲物になるンだからな」

 得体の知れない声の主、その存在の顔がぬっと露わになった。それを見て、路地裏に女性の絶叫が響き渡った。

「あ……いや……っ」

 女性からはただ声にならない声が漏れる。ぺたりと腰が抜け、たまらず失禁してしまった。

 現れたのは、蜘蛛の怪物。人間サイズの蜘蛛だ。拡大された蜘蛛の気味の悪い顔が彼女をじろりと見つめている。

 真っ赤な複眼のひとつひとつに、恐怖でしわくちゃになった女性の顔が映っていた。

 怪物がしゅうしゅうと息を吐き出しながら近づく。

 腕には鋭いブレードが生えている。爪はナイフのように鋭く鈍い輝きを放つ。獰猛な獣のように鋭い牙も同様だ。

 まさに全身が武器。あんなので襲われたらどんなことになるのか想像もしたくない。そもそも、こんな怪物が目の前にいるだけで精神的に大ダメージを負っていた。

 女性は目に涙を滲ませ、ぎゅっと目を瞑った。もうなにも考えたくなかった。

 怪物の叫びが聞こえた。そして雄々しい風が吹いた。

 ――あぁ。殺される。

 彼女は目にさらに力を入れて固く固く閉じた。なにも見えないように、感じないように。しかし……。

「え……」

 怯えながら、彼女は不思議に感じて声を上げた。時間は経ってもなにも起きなかった。生きている……?

 いやそれとも、実は既に殺された後なのか。それを確かめるために目を開く。

「……」

 目の前にいた怪物は、かき消すように姿を消していた。

 彼女にはただ呆然とするしかなかった。

 やがて、思い出したようにふらふらとその場から逃げ出したのも、五分ほどかかってからだった。

 

「ちぃーっ……なんだ? なにが起きた……」

 先ほどまで女性をいたぶろうとしていた蜘蛛の怪物は建物の屋上にいた。

 何者かに釣り上げられ、この屋上に投げ出された。体にはフックロープが巻きついている。これに引っ張られたのだ。

 彼はそれを力任せに引きちぎり、周りを見渡し、襲撃者の姿を探した。

「〈蜘蛛男〉か。おまえと同じ改造人間は既に五体殺した」

 背後から低いがよく通る、恐ろしい憎悪のこもった声が聞こえた。

「つまりおまえで六体目だな」

「な……」

 彼は、〈蜘蛛男〉は、振り返ってその声の主を見た。仮面の男を。

「おまえは……まさか、〈同盟〉か!?」

「……いや、ちがうな」仮面の男はゆっくりと歩み寄る。「俺はどこにも属してはいない」

「何者だ、おまえ……いったいなんなんだ!」

 仮面の男は全身を無骨な強化外骨格に包み、腰には大型のバックルのついたベルトを着けている。そのバックルの中央には、赤い風車が三つ並んでいた。

 仮面は昆虫を……飛蝗の顔を思わせる造形であった。桜色に光る複眼が、〈蜘蛛男〉を睨みつける。

「おまえたち〈ショッカー〉と戦う者。おまえたち〈ショッカー〉の牙からひとびとを守る者」

 風が巻き起こる。風車が激しく回転する。目の前で雄々しい風を身に纏うその存在はまさに、嵐の男。

「……〈仮面ライダー〉だ」




【7/19追記】
途中に出てきた二、三百年の記述を百年にさらに改訂しました。
設定がまだ甘かったのをお許しください。

原作が時代設定が明確かつ、当時の世俗を強く反映していることを尊重するあまり、なるべく実際の世界との齟齬を生まないように配慮した結果、作品の時代設定が難しくなってしまう結果を生んでしまいました。
己の未熟さをここで謝罪します。申し訳ありません。
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