異論は感想欄で聞こうか。
木々の合間から漏れる日光と、豊かな土壌からくる土の香り、そして若干のすえた落ち葉のニュアンス。
木々の隙間を吹き抜ける風が心地いい。
ここはうちが所有してるちょっとした山だ。
外部の人間はおろか、うちの人間ですら殆ど使わないので、修行をするのにもってこいだったのだが
「おにーちゃーん、みてみてー!」
青みがかったショートヘアをサラサラと揺らして、ゆらりゆらりと軟体動物のような動きをしてる幼女は、初春いじりで有名な佐天涙子ちゃんである。
「うんうん、いい感じ!いい感じ!」
管理は甘いが整備だけはしっかりされた、この山を佐天さんは日頃から遊び場として利用してたのだろう、ここで修行してるところを偶然目撃されてしまったのだ。
そうなると後は一直線。
ねぇねぇなにしてるの?ねぇ涙子もやっていい?ねぇ?ねぇ?こうなったらどうしようもない。
なし崩し的に佐天さんは俺の弟子第一号となったわけだ。
「うーん…こお?」
「そうそう、後はこうやって…腕全体が重い水だと信じて……振るッ」
振られた腕は音すら出ない一瞬の内に振り終えられた。
「ぉー」
佐天さんは小さく唸りながら、その小さな両手でパチパチと拍手を送ってくれた。可愛い。
察しのいい方はもう分かってると思うが、今佐天さんに教えてるのは日本武術の空道に伝わる秘伝鞭打だ。
なんか色々考えたら、この技が1番都合が良かったのだ。決してテレスティーナおばさんの顔芸を痛みに歪ませてやりたいとか、そんなことは考えていない。
ただこの技機械には滅法弱いが…まぁそこは連れのビリビリさんだとかお花畑の人がどうにかしてくれるだろう。
能力の才能こそ無かった彼女だが武術に関しては天才だった。佐天さんの練習は大体1年位前から始めたのだが今では半端な能力者相手ならば善戦できるレベルにまで到達しつつある。
「ふるっっ!!ふるっっ!!」
可愛らしい掛け声とは裏腹に鋭い鞭打。
この鞭打も惜しいところまで来てる、習得は時間の問題だろう。
「じゃあ俺もそろそろ始めるか」
フゥと息を強めに吐いて身体から力を抜き意識を集中させる。
今からやるのは俗に言うシャドーというものだ。
簡単に説明すると相手を仮想してやる模擬戦的なやつである。
今日はだれにしようか…
〜〜〜〜
気づけば夕暮れ。
いつのまにか練習に蹴りをつけていた佐天さんが手頃な切り株に座って此方を熱心に観察していた。
軽く腕を伸ばして筋肉をほぐしていく、この程度で疲労を感じてるようじゃまだまだだな、やっぱり今のままじゃ駄目だ。
もっと強くなりたい。
「おにーちゃん…」
いつになく真剣な目。
「るいこ、おにーちゃんみたいにつよくなる!みててね!おにーちゃん!!」
自然と頬が上がる、やっぱり佐天さんは可愛い。
「じゃあ、お兄ちゃんよりも強くなったら一つだけなんでも言うこと聞いてあげるよ」
「ほんとぉっ!!?」
やっぱり目標は必要である。
ご褒美があれば今よりもっと練習に身がはいるだろう。
とは言っても勝てるようになった頃には、この約束を忘れてるだろうしな。
「よしっ!!るいこ、いまよりもっとがんばる!!」
やっぱり子供は扱いやすい。
俺も追い付かれないように頑張らないとな。
「そろそろ暗くなるし帰ろうか佐天ちゃん?」
「うんっ!!」
こんな日常も、もうすぐ終わると思うと寂しいなぁ。