THIS IS シンデレラ   作:パトラッシュS

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lesson 9

 

 

  さて、半年後のライブに向けて動き出した寂園達。

 

 そんな中、寂園は美城常務の見舞いを兼ねて病院まで花束を持ってやって来ていた。隣には武内Pと凛がいる。

 

 寂園は選んだ花を見つめながら、倒れた美城常務の安否をちょっとだけ心配していた。

 

「まさか空港で倒れるとは思わなかったネ」

「いろいろ無理してだからじゃない?」

「まぁ、最近は忙し過ぎたからちょっと疲れちゃったのかもネ、あぁ、見えてみっしー乙女だからさ」

 

 そう言いながら病室の扉を開く寂園。

 

 するとそこには、いかにも不機嫌そうに病室のベットに座っている美城常務の姿が2人の目に入ってきた。

 どうやら、あまり機嫌がよろしくなさそうである。それを見た武内Pは寂園の耳元でこう訪ねる。

 

「どこらへんが?」

「oh…。んー、多分、化粧にちょっと手を掛けすぎるとことか?」

 

 そう言いながら、ジョークを交えつつ寂園は笑みを浮かべ、1人でにHAHAHA!と笑っていた。

 

 しかし、病室のベットの上にいる美城常務は変わらず不機嫌そうな表情を浮かべたまま、歩いてくる寂園達をジッと見つめている。

 

 そして、美城常務のベットの前に立ち止まった寂園は首を傾げながら、開口一言めで、武内Pには信じられない言葉を彼女に投げかける。

 

「oh、そんなに目力つけてもXメンみたいにレーザーは出せないよ、みっしー」

「私が…レーザーを出すためにこんな表情してると思うか?」

「みっしーならできそうだヨ!自信持って!」

 

 そう言いながら、満面の笑みを浮かべて、花束を美城常務に手渡す寂園。

 美城常務はその言葉に呆れたように天井を思わず仰ぐ、そのやり取りが可笑しかったのか、周りの看護師からはクスクスと笑い声が溢れていた。

 目からレーザーを出すのに自信も何もあったもんじゃないが、寂園のくだらないジョークのおかげで美城常務の言いたい事が全部、どっかに飛んでってしまった。

 そして、武内Pは親しげに話す寂園と美城常務のやり取りを見ながら思わずこう声を溢してしまった。

 

「み、みっしー?」

「私はやめろと言うんだが…この娘がやめなくてね…」

「だって可愛いじゃんみっしー!女子高生に戻った気分になるでショ?」

「……私が全米チャートが取れたら呼んでもいいと言ったばかりに…」

「ほんとに取っちゃうもんね舞」

 

 そこには悔やんでも悔やみきれない美城常務の後悔の念があった。

 まさか、ほんとに彼女がデビューしてすぐに全米チャート1位を取ってしまうなど予想もついてなかった。

 そのご褒美として、彼女が美城常務に要求したのはデュエットを組んで踊って欲しいという要求だ。

 しかし、美城常務には立場がある上にそれは叶える事が出来ないお願いだ。そして、その代わりに寂園が要求したのが美城常務へのあだ名である。

 

「約束は約束だからネ!」

「…だから私は君に通達を出してもらったんだよ武内くん」

「心中お察しします」

 

 日々、自分に降りかかる寂園のアメリカンジョークや行動に振り回されっ放しのニューヨークでの生活。

 ニューヨークでの2人のやり取りを見ていた346プロダクションの幹部達はこう語る。まるで、ホームドラマを観てるような感覚だったと。

 確かに、向こうでもこんな調子ならホームドラマを観てるような錯覚に陥るのも仕方ないだろうなと凛と武内Pも思った。

 

「それで今日は何の用だ?」

「お見舞いだヨ、はいお花と果物」

「あー…、気持ちはありがたいんだが…、今日で退院だ、君は私に長らく病院にいろと?」

「oh、そう言うと思って仕事用のノートパソコンもきっちり持って来たヨ」

「…お気遣いありがとう」

 

 はぁ、深いとため息を吐く美城常務、余計なお気遣いだ。遠回しにしばらくここで休めと言われてるようなものである。

 

 これには看護師達も笑いを溢していた。そんな2人のやり取りを見ていた武内Pは思わず、寂園の美城常務への対応に戦慄する。

 

 346プロダクションでも彼女にこんな風に接する事が出来るのはおそらく彼女くらいなものだろう。

 美城常務はノートパソコンを開くとカタカタと書類の整理をしはじめながら、こう話をしはじめる。

 

「舞は話を少しは聞く事を覚えることね」

「えー! 私が話を聞かないなんて事あったカナ?」

「今がそうよ」

 

 その通りだから困ると凛も武内Pも納得してしまう。いや、話を聞いてはいるのだろうが、だいたいノリと勢いで内容がぶっ飛んでいっているようだ。

 

 そして、そんな中、寂園はというと肩を竦めて首を傾げながら挙句にこんな事を言い始める。

 

「HAHAHA! ところでさっきまでなんの話してたんだっけ?」

「……………」

「………うん、これは美城常務も倒れちゃうよ」

 

 さぞ、苦労したんだろうなと察する凛はポワポワした寂園の言葉に思わず頭を抑えてそう呟く。

 そして、お見舞いも終えた彼女達に病院のベットの上にいる美城常務はひとまずこう告げ始める。

 

「私の事はいいから、舞、貴女、今日は仕事があった筈で…」

「あー、あれ全部キャンセルしといたヨ! 凛達見なきゃいけないからネ♪」

「…貴女って人は…」

 

 何故こうも思い通りに動いてくれないのかと言いかけて、美城常務は諦めたようにため息を吐いた。

 確かに、半年後に行われる全米、日本全国ライブに向けての下準備を行わなければいけない事は美城常務も理解している事だ。

 しかし、ケロッとした表情で寂園からそんな風に言われては美城常務も思わず頭も痛くなってくる。

 

「…木村夏樹と多田李衣菜は?」

「今、ギターの猛特訓中だネ♪ 多分、半年後にはすんごいレベルになってるヨ!」

「それならいい」

「練習になつきちにはエルヴィスのギター、李衣菜にはジョンのフォークギター使わせてるからそれはtechnicもついてくるヨ♪」

「…おい、ちょっと待て、君は今さらりとなんと言った?」

 

 

 そう言って、サラリととんでも無いことを口走る寂園の言葉を聞いて彼女の肩をガッチリと掴み顔を引きつらせる美城常務。

 

 しかし、寂園はそんな彼女の言葉にただただ首をかしげるだけである。

 

 なんて事はない、ハードロックの神様と全米チャート1位を取った伝説的なバンドのギターを練習に使わせてあげてるだけである。

 

 その二つのギターの値段は軽く数百億は越えるというお墨付きではあるが。

 

 

「まぁ、細かい事は気にしたら負けネー♪ no problem !」

「あんたの細かいはスケールが毎回デカイでしょ…舞」

「あいたっ!?」

 

 

 そして、すかさずスパンッと寂園の後頭部を軽く叩く凛は目を丸くする美城常務に申し訳なさそうに無理やり寂園の頭を下げさせ、自分もまた頭を下げる。

 

 いろいろ向こうで寂園がやらかしているようなので、こういったところでお詫びを入れとかないと申し訳がない気がしたからだ。

 

 美城常務は溜息を吐くと頭を軽く押さえて再びベットに横になりはじめる。どうやらまだ少し休みが必要なようだ。

 

 

「…ごめんなさいやっぱりもうちょっと休暇を少し貰うわね…頭が痛くなってきた」

「はい…、どうかお身体をご自愛ください」

「武内くん…大変だろうけれど…大変だろうけれどその娘をよろしくね…」

 

 

 美城常務は大事な事なので念のため二回言っておいた。

 

 向こうで一体何があったのか、美城常務がここまで疲弊してしまうとは寂園は一体何をしでかしたのか。

 

 想像する事しか出来ないがなんとなく彼女の心情を察した武内は顔を引きつらせるばかりであった。

 

 

 それから、後日。

 

 美城常務の見舞いを終えた寂園はあるイベントに参加する事にしていた。

 

 凛達に日々の特訓も付けてあげなくてはいけないが、何より、寂園はまだ日本に帰国したばかりである。

 

 そう、息抜きもたまには必要だと考えた彼女は、なんと日本の夏に開かれる一大イベントに神崎蘭子と凛をお供に連れてやって来ていた。

 

 その一大イベントとは。

 

 

「英国で生まれた帰国子女の金剛デース! よろしくお願いしマース♪」

 

 

 コミックマーケットというイベントである。

 

 寂園が日本に転生してからというもの一度は来てみたかったイベントであったのだが、なかなか参加する機会がなかったので神崎蘭子と共にゲーム関連のものを買いに来た訳だがどういう経緯からかなんとコスプレをする機会を得た寂園はノリノリでそれを行っていた。

 

 普段の頭髪は黒なので、わざわざ、専属のコーディネイターさんを呼び出して髪の毛を一日だけ茶髪に染めたりとやりたい放題である。

 

 

「うおおお! 金剛ちゃんだ!」

「完成度高いぞ! これ!」

 

 

 そして、彼女の周りにはいつの間にか人だかりが出来ている。

 

 しかし、よくよく顔を見ればある程度の人間は気づいてしまうものだ。彼女がどんな人間であるのかという事に。

 

 だが、寂園はそれでもどこ吹く風である。神崎蘭子もまた、コスプレをして寂園の横に並んでいる為、尚更、華がある。

 

 

「おい、あれ、神崎蘭子ちゃんじゃないか?」

「というか隣にいるあの金剛ちゃん…、最近ニュースで大々的に取り上げられてる娘だよな!」

 

 

 コミックマーケットがそれからしばらくして大混乱に陥るにはさほど時間は掛からなかった。

 

 それを遠目で見ていた凛は思わず頭を抑えている。

 

 付き合ってほしいと寂園から頼まれて来て見れば蘭子とコスプレしてコミックマーケットに来訪すると言いはじめるものだからそうなるのも頷ける。

 

 だが、寂園はというとそんな周りの人達に誤魔化すようにこんな風に振る舞っていた。

 

 

「違うヨー、私金剛デース! テレビとか知りまセーン! この娘も蘭子じゃなくて離島棲鬼ちゃんだからネー」

「ココマデ......クルトワ...ネ」

「oh! 蘭子ノリノリネー!」

「あんたもう隠す気ないでしょ」

 

 

 周りの人だかりの中を押しのけて現れた凛はノリノリでコスプレをしていた寂園に告げる。

 

 仮にもアイドルなのにこうも簡単に人前に出られる寂園の神経の図太さには凛も思わず感服してしまう。

 

 そして、凛の姿を見たその場にいる全員は確信してしまう、そう、今売り出し中のアイドルがコスプレしているという事実に。

 

 

「…渋谷凛ちゃんだ」

「って事はやっぱし、金剛ちゃんは…」

「それにやっぱり蘭子ちゃんだったんだ!」

「oh…、バレてしまいましたかー、2人とも撤退デース!」

「……舞…あんたはもう…」

「HAHAHAHA! まさか私の見事な変装がバレるとはネー、さすがはニンジャの国!」

「…うぅ…まさかこの様な運命に翻弄される事になろうとは…我が力は未だ未完成」

 

 

 そう言って、その場から駆け出し逃走を試みる3人。

 

 そして、しばらくして会場の近くに停めてある車の中に逃げ込むと満足した様に笑みを浮かべていた。

 

 もちろん、抜け目なく戦利品は持ち帰っている。面白いRPGのゲームをわざわざコミケ関係者の方から購入し、譲り受けて来たのだ。

 

 

「いやー、これで今年の夏は一緒にゲームができますネー蘭子♪」

「ふふふ、実に愉快! 共に協奏曲を奏でようぞ!」

「…てか、なんで私もこんなのに付き合わなきゃなんないの?」

「えー、凛もやろうヨー」

 

 

 そう言って、グイグイとゲームを凛の顔に押し付ける寂園。

 

 JRPGを最近するのに嵌っている寂園、今回のコミケに関してもRPGのゲームが目的で蘭子と訪れた。

 

 日本の夏にある一大イベント、RPGのゲーム販売と聞けば面白そうという感じで蘭子を誘って軽いフットワークで今回参加しに来たわけである。

 

 まぁ、結果としては大騒ぎ、人気沸騰中のアイドルが一般人に混ざってコスプレしてるのだからそうなるのも致し方ない。

 

 寂園もなかなかのゲーマーなので、最近は間を持て余すとPCのゲームなんかにも手を出しはじめている。

 

 今回の金剛のコスプレはそう言う経緯からだろう。

 

 

「やーらーなーいー! って言うか特訓は!」

「don't worry ! 明日からしっかりするヨ♪ 今日は今から蘭子とこれやるネ」

「あんたは…もう…」

「約束だからネー、ね、蘭子♪」

「うむ! 我が同胞よ! 」

 

 

 そう言って満面の笑みを溢す蘭子を見た凛は何にも言えなくなってしまった。

 

 流石にこんな顔をしてる蘭子から寂園を取り上げてしまうほど凛も鬼ではない、確かに今日は休暇だと寂園も言っていたし、寂園も帰国したばかりだ。

 

 仕方ないと諦めた凛はムスっとした表情を浮かべると寂園にこう話し始める。

 

 

「…じゃあ私もやろうかな」

「yes!」

「やった!」

 

 

 凛の言葉を聞いた蘭子と寂園はにこやかな笑顔を互いに浮かべるとハイタッチを交わす。

 

 こうなってしまえば話は早い、今後の予定は帰ってから3人でRPGで盛り上がる事に決定だ。

 

 こうして、車で帰路につく中、戦利品を持ち帰った寂園達は3人で帰宅した後にゲームで今日一日を過ごす事にしたのだった。


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