THIS IS シンデレラ   作:パトラッシュS

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lesson 8

 

 

 美城常務と共に全米チャート1位を引っさげてアメリカから帰国した寂園。

 

 空港で日高舞と会うというサプライズに遭遇しながらも彼女は出迎えた車に乗り、凛達が待つ346プロダクションへと帰ってくる事になった。

 

 美城常務は残念ながら、急遽、救急車に運ばれるという出来事があったが、久々の帰国と凛達に会う事を寂園は心待ちにして居た。

 

「むっふっふー、凛元気にしてるかな?」

 

 そして、寂園が乗った車は346プロダクションの前で止まる。

 当然、346プロダクションの前には大勢の記者団が詰めかけていた。全米チャート1位を取る超新星の寂園から何か一言でも言葉を貰うためだ。

 しかし、寂園の周りはガードマンがきっちりと固めて、記者団が必要以上に近寄れないようにしている。

 

「寂園さーん! 何か! 何か一言!」

「通して通してー、入れないヨー」

「全米チャート1位を取った心境などを…」

「また今度ネー♪」

 

 そう言って、あしらうように記者団を撒いて346プロダクションの中へと入っていく寂園。

 正直、寂園は全米チャート1位を取ればこうなることは最初から分かり切っていた事だった。

 これは、346プロダクションも大変だったろうなと素直に彼女はそう思う、美城常務も倒れてしまう訳だ。

 後で病院にこっそり見舞いに行ってあげようと寂園は思いながら、いつものようにシンデレラプロダクションの養成所へそのまま足を運んだ。

 

「ヘイ!everyone! 元気にしてましたカ?」

 

 そして、元気よく養成所の扉を開き声を上げる寂園。

 その寂園の姿を見た皆は嬉しそうに声を上げながら近寄っていく、彼女達はにこやかな笑顔を浮かべたまま、寂園の帰国を快く迎えた。

 

「あー! 帰って来た!」

「おかえりなさい! ニュース見たよ! 凄いよね!全米チャート!」

「oh ! thank you ね!」

 

 そして、彼女に賞賛の言葉を贈る少女達。

 

 寂園は握手を交わしたり、ハグをしたりしてそれに応えてあげる。自分のせいで余計な気苦労をさせてしまったにも関わらず彼女達の反応はとても優しいものだった。

 続いて、寂園の姿を見た凛達3人もゆっくりと帰って来た寂園を迎えるようにやってくる。

 寂園はそれを見ると優しげに笑いながら、いつものように凛の前に立つと一言、彼女にこう告げる。

 

「ただいま、凛」

「おかえり、舞」

 

 2人は互いに笑い合い、そう言うと親愛を込めた握手とハグを交わした。

 

 寂園からしてみれば、そんなに長い間、日本を離れていたつもりは無いのだが、凛を1人置いて自分だけアメリカに行った事については多少なり申し訳無さもある。

 

 後は寂園が気になったのはあの連日訪れているだろうマスコミだ。

 

 346プロダクションの前にいるあれをみればこちらも大変だったんだろうなと彼女は思っていた。

 

「迷惑かけたネ、みんな」

「ふっふっふ、なんの、我が力を持ってすれば有象無象の衆など他愛もなき存在」

「蘭子ちゃん…」

「おー、蘭子はゲームをするのですカ!今度一緒にやろうヨ! RPG大好きだからネ!」

「!? おぉ! 我が同胞がまた1人! 神に導かれし同志よ!」

 

 そう言って、少女の言葉に応える寂園。

 それを聞いた銀髪をリボンでツインテールにし、フリルのたくさん付いたゴシック服を着る神崎 蘭子は嬉しそうな表情を浮かべていた。

 それに、蘭子の言葉を聞いた寂園は神妙な面持ちで何やら考え込むとこんな話をしはじめる。

 

「oh…なんだか新しいフレーズが浮かびそうネ」

「今ので!?」

「まぁ、でも蘭子ちゃんの言う通り、マスコミさんたちが来るお陰で私達の仕事もたくさん増えましたからね」

 

 そう言って、蘭子の言葉からフレーズを考えようとする寂園にツッコミを入れる未央と、寂園の件で押しかけてきたマスコミについて良い面を語ってくれた卯月。

 寂園はそんな2人の言葉に笑顔を浮かべて笑い声をあげる。

 そんな中、猫耳を付けた少女、前川みくは寂園の手を握ると目を輝かせてこう彼女に話しだした。

 

「舞のお陰でバラエティの仕事がたくさん来てくれて助かってるにゃ! ありがとう! !」

「oh、そうでしたカ、バラエティなら海外でやってるファミリードラマのjobを紹介できるけどみくにゃんtryしてみる?」

 

 手を握りお礼を述べる前川に満面の笑みを浮かべてそう告げる寂園。

 サラッとだが、彼女は海外のバラエティドラマの役の仕事を前川に紹介しようとしている。

 これには彼女達も度肝を抜かされたように仰天していた。向こうで本当に何をしてきたんだと言うレベルである。

 

「マジかにゃ!? 海外のファミリードラマ!?」

「HAHAHA! もちろんユニットでネ♪ jokeも英語も練習しなきゃだけどネ!」

「え、英語は苦手にゃ…、けど仕事の為なら頑張れるにゃ!」

「数ヶ月後…、そこには猫語尾を忘れ、舞口調になるみくにゃんの姿があったのだった…」

「本当になりそうだからそんな不吉な事を言うのはやめるにゃ!?」

 

 そう言うと、悪戯そうに笑みを浮かべている未央にツッコミを入れる前川。

 どうやら、寂園の話を詳しく聞けば舞台はサンフランシスコで『おいたん』と呼ばれるおじさんを含めた愉快な家族の日常を描くバラエティドラマだとか。

 それを聞いた全員は顔を見合わせる。それは、日本でも夕方あたりに放送されていたドラマではなかっただろうかと。

 

「まぁ、バラエティだからネ! 楽しくjokeが上手いみくにゃんなら大丈夫だヨ!」

「それは果たして褒めてるのかにゃ!?」

 

 褒めているのかどうか果たしてわからない寂園の台詞にツッコミを入れる前川。

 しかし、皆も笑顔にして明るく振る舞う彼女達ならそんな仕事も成長次第ではこなせるだろうという確信が寂園にはあった。

 プロデュースの技量も寂園はある。彼女達に合う仕事を紹介してくれと頼まれれば、自分や知り合いに頼み技量を伸ばしてその仕事を振ってあげられる。

 ただし、そこには海外に限るという条件つきではあるが…。

 

「あ、そうだったネ、そう言えば大切なこと言うの忘れてたヨ」

「ん? 大切な事?」

 

 そう言うと、大切な事を言い忘れていたことに気がついた寂園はポンと手を叩く。

 それを聞いていた凛は不思議そうに首を傾げて彼女に訪ねた。言い忘れていた大切な事とは果たしてなんだろうと。

 すると、にこやかな笑顔を浮かべている寂園は次の瞬間、信じられないような言葉を凛達に告げはじめた。

 

「そうだヨ! 実は、日本全国と全米を回ってライブを予定してるんだけどネ、それのバックに卯月、凛、未央の3人を指名したんだヨ」

「…え?」

「曲のレパートリーはたくさんあるからネ! デビュー曲がまだ全米チャート1位だけど、もう新曲たくさん作ってるんだ♪」

 

 寂園は唖然とする凛にてへっと可愛らしく言いながら、自分が作成した曲の数々を見せる。

 そして、ライブをやるからにはもちろん、それらの曲の振り付けやら、英語やらを身につけなくてはならない。

 それを聞いた未央と卯月の2人の顔から血の気がそっと引いていくのを感じた。しかし、寂園は相変わらず満面の笑みである。

 

「大丈夫だヨ! ダンスと歌の指導には私が付くからネ! 後、バックの曲なんだけど…」

 

 そう、寂園が話をしはじめようとした矢先の事だった。

 扉が開き、珍しいリーゼント風の髪型をした女の子が部屋の中へと入ってくる。

 それは、テレビで346プロダクション売り出し中の人気ロックアイドル。

 

「…もしかして、ロックアイドルの木村夏樹ちゃん!?」

「どうしてここに!」

「武内Pから呼ばれてね、なんでもアタシをご指名だって聞いたけど」

「oh! なつきち! 待ってたよ! 今回、私のライブのバックでギターを引いてもらう、なつきちに…」

 

 そう言って、一旦、そこで言葉を区切る寂園はツカツカと歩いていくとヘッドホンを首からかけている少女に近寄るとガッシリと肩を掴んでにこやかな笑顔を浮かべて再び話を切り出す。

 

「リーナね! バックのギターよろしくネ♪」

「え…、えぇ! 私!?」

「そうだヨー、なつきちのギターは向こうでCDをちょっと聞いてたからわかるけどネ! ロックなアイドル目指してるんでしょ? リーナ?」

 

 そう言って、寂園が肩を掴んだ少女、多田李衣菜は彼女の言葉に度肝を抜かされたように仰天した。

 まさか、自分が寂園からライブのバックでギターを弾く役目を担う事に指名されるとは思わなかったからである。

 李衣菜に限ってはまだギターを練習しはじめたばかりで、まだまだ人様の前で披露できるような腕前ではない。

 それに、この場に呼ばれた木村夏樹も同じくそうだ目が肥えた全米の外国人に向けて披露する技術を持ち合わせてはいない。寂園の言葉を聞いた彼女は目を見開いたまま言葉を失っている。

 しかし、寂園はそんな事は全く気にしてないかのように凛達を含めて計5人の指名を終えると、にこやかな笑顔を浮かべてサムズアップしながらこう話をしはじめた。

 

「大丈夫ダヨ! 話は通してあるからネ! 超一流の指導員用意しといたからdon't worry ダヨ!」

「…えぇ…、嘘だよね…」

「期日はまだまだ半年くらいあるからネ! no problem ! それじゃ5人はちょっと今から移動するヨ!」

「マジで! 今からぁ?!」

 

 そう言って、凛達5人にウインクをする寂園に声を上げて驚いたような表情を見せる未央。

 

 それから、5人は共に支度を済ませて彼女の先導のもと養成所から移動を開始する。

 

 日本全国、そして、全米を回るライブまであと半年、一体、寂園はどの様にして彼女達のレベルを上げようと言うのか。

 彼女達が連れてこられたのは、凛が前に一度寂園から連れられて訪れたことのある場所。

 そう、トムが営業している隠れ家的なバーである。その奥部屋へ彼女達は寂園に連れられて入って行く。

 そこに居たのは、ギターを弾いている1人の外国人の男性の姿があった。

 その外国人と寂園は握手とハグを交わし、親交を深めて何やら英語で話を繰り広げている。

 

「誰だろうあれ…舞ちゃんの知り合い?」

「凛ちゃん知ってる?」

「いや、知らないけど…」

 

 凛に親しげに会話を繰り広げている舞と外国人の男性2人について訪ねる卯月と未央の2人。

 しかし凛は、それに対し左右に首を振り知らないと一言だけ告げる。

 だが、それを見て驚いている人物がこの中で1人だけいた。

 

「…おい…、おい、待て、嘘だろ」

「どうしたのなつきち?」

 

 その光景を目の当たりにしていた人物。

 ロックなアイドルを掲げて活躍している夏樹はワナワナと震えていた。まるで、信じられない者を見ている様な眼差しである。

 それを見ていた李衣菜は様子がおかしい夏樹の態度に思わず首を傾げる。

 すると、話を終えた寂園は再び凛達のところに戻ってくる。

 

「紹介するヨ! アメリカで活躍してる私の親友のSさんネ! お忍びで来てくれてるから皆、Sさんと呼ぶ様にネ!」

「いや! その人どう見てもスラッ…」

「なつきちとリーナのギター指導員だからネ! ギターの腕なら抜群だからすぐに上手くなるヨ!」

 

 そう言うと、夏樹の言葉を遮る様にスパッと言い切ってしまう寂園。

 それから、寂園から紹介されたSさんはにこやかな笑顔を浮かべて、指導する夏樹と李衣菜に近寄ると2人と握手を交わしはじめる。

 夏樹は手を震わせながら、彼と握手を交わしていた。その表情は普段、ステージに立つクールな彼女とはかけ離れたものである。

 

「HAHAHA! natsuki! nice to meet you !」

「…ひ、ひゃい! よ、よろしくおねがいしまひゅ!?」

「なつきち!? ど、どうしたの!?」

「HAHAHA! 仲良くなってくれて良かったネ!」

「いや…、舞、あれ夏樹ちゃん、緊張のあまり強張ってるだけだと思うよ」

 

 そう言うと、震えてる夏樹と握手を交わすSさんを見ていた凛は苦笑いを浮かべて顔を引きつらせている。

 

 そして、自己紹介が終わり、ひと段落がついたのを見計らうと寂園は部屋の奥にツカツカと歩いて行く

 

 その後、寂園は部屋の中を暫く歩くと部屋に飾ってある二本のギターを両手に持って、夏樹と李衣菜に質問を投げかけはじめた。

 

「ところで、ギターの練習なんだけどサ、エルヴィスとジミーどっちがいい?」

「お、おい、待て! ほんとにちょっと待って! エルヴィスっておまっ! ジミーって嘘だろ!?」

「夏樹はエルヴィスでいいネ!」

「待って! お願い!ちょっと待って!」

 

 あの木村夏樹が狼狽えている。こんな姿を見るのは凛達も李衣菜も初めての光景である。

 神様2人のギターを選べと言われたらそうなるのも無理はない、年季が入ったギターを震える手で寂園から受け取った夏樹は涙を流しながらそれをジッと見つめている。

 そして、震える手でそれに触れる夏樹、それは正しく本物である。

 ギターに触れている夏樹はあまりの感動にこう呟いた。

 

「…もう、ここで死んでもいい」

「oh…! そんなに喜んで貰えるとは思わなかったヨ! それ、夏樹にあげるネ!」

 

 その言葉を聞いた途端、嬉しさと感動と寂園の口から告げられた言葉のショックのあまり夏樹はその場でバタンと倒れてしまった。

 それはそうだ、ロック好きならこの数億円を軽くいく神様のギターを寂園の様なものすごい軽いノリであげるなんて言われればそうなるだろう。

 それを見ていた李衣菜は突然の出来事に目を見開いて仰天する。

 

「な、なつきちー!?」

「夏樹さんが死んだ!?」

 

 まさか、その場で夏樹がぶっ倒れるとは想像もしてなかった凛も思わず、そう言葉をもらしてしまう。まさか、彼女がここまでなるなんて予想外だったからだろう。

 

 しかし、それを見ていた寂園と夏樹と李衣菜のギター指導員であるSさんは呑気に2人して笑っている始末である。

 

 こうして、半年後に控える寂園の日本と全米ライブに向けての5人の特訓は開始される事になった。

 


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