走れおっぱいトレイン   作:キリコのどこがすきなんだい

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走れおっぱいトレイン

 僕は答えを知りたかった。より正確に言えば、僕が望む答えを知りたかった。

 それ以外の答えは、きっと認めらないはずなのに、僕は答えを求めた。

 

 ああ、世の中はいつからこんな風になってしまったのだろう。

 周りの大人は、口を開けばおっぱいおっぱいと、知性を溶かしてしまったらしい。

 品性を疑う。なにがおっぱいか。馬鹿じゃないのか。

 

 僕はお尻が好きだ。

 

 時速一五〇〇キロメートルの速度で流線型の新幹線は、乗客を東京から大阪までわずか20分で運ぶ。ここ数年の凄まじい移動インフラの発展は、喜ばしいことなのだろう。

 人々はどこにでも行けるようになった。

 

 例えば、石川と千葉の遠距離恋愛が遠距離ではなくなった。

 仕事終わりに長野で会って愛を育んだカップルが僕の両親だ。

 

 例えば、小学校の修学旅行は今やポルトガルやオーストラリアなどが海外が定番だ。

 グローバルな恋愛も常識になった。

 

 それは喜ばしいことなのだろう。素晴らしいことだ。

 

 

 

 

 先におっぱいがついてなければ。

 

 

 おっぱいトレインが出てきた当初は、人々はまともな感性からその存在を否定したらしい。けれどいつの間にか、おっぱいのついたその卑猥な電車を受け入れてるようになっていた。

 侵略か、洗脳か、どのような手法を用いたのかは分からないが今日、最早おっぱいのついた電車に何の疑問も抱かないようになっている。

 

 おかしいと思う。何でみんな変だと思わないんだ??

 

 僕は小学校時代からのたった一人の友人に、疑問を投げかけてみた。

 

「ねぇ、おっぱいトレインって何でおっぱいついてんの?」

 

「おっぱいがなかったらただの動く鉄の塊じゃん。

シートベルトもないんだから、おっぱいついてて当たり前でしょ」

 

「じゃあ、おっぱいプレーンは?」

 

「シートベルトがあってもおっぱいは安全性の象徴だし。

てかおっぱいがないなんて人間が作った感じしなくてキモいだろ。

男にだって乳首あるんだぜ?」

 

 言っている意味が分からない。

 

 

「でもやっぱおかしくない?卑猥じゃん」

 

「えっ、お前おっぱいをいやらしい目で見てんの?気持ちわる。変態かよ」

 

 

 鳩尾に右ストレートを体重がしっかり乗ったストレートをお見舞いして、僕は友人を失った。それも全ておっぱいのせいだ。

 僕は苛立ちながらマシュマロを口に放り込み、乱暴に咀嚼する。

 柔らかなマシュマロを次々と口に放り込む。全く噛まずにじわじわと唾液で溶かす。

 八つ当たりなのは分かっているが、僕は怒っている。

 

 マシュマロはなぶられたまま何も言わない。

 

 おっぱいは魔物だ。マシュマロのごとく柔らかな感触で人々をたらしこみ、癒やしと言う名のもとに人々の知性を溶かす。

 人類史を省みてもおっぱいによって人生の道を踏み外した者は少なくないはずだ。

 即ち、おっぱいは悪だ。おっぱいは麻薬だ。

 おっぱいジャンキーになっていることに気付かない者達は、一生をおっぱいに搾取されるのだろう。

 

 それでいいのか?そんなことが許されていいのか?

 誰かがそんなの間違ってると言うべきじゃないのか?

 

 この世界でおっぱいという巨悪に気づいてしまったのは僕だけかも知れない。

 僕は一人だ。僕は一人で、残酷な運命と戦うことを義務付けられた。

 僕以外に立ち上がろうとしないなら、僕は戦わなくちゃならない。

 友を失ってようやく、決意する事が出来た。

 赤子のように乳離れできな愚かな人類どもをまともなヒューマンにしてやらなけれ

ば。

 

 

 ああ神よ、何故電車におっぱいをつけたのですか?

 ああ神よ、何故私達に乳首を与えたのですか?

 ああ神よ、何故乳輪を?

 

 神は答えてくれないことは、五歳の頃に教会でんだ。

 だから僕は僕自身の手で答えを作る。僕はおっぱいに搾取される愚かな民を救わなければならない。誰が認めてくれなくても僕は戦う。賢くもない、強くもない、何の力もない平凡な高校生だけど、負けを認めたまま、終わりたくはないん

だ。

 

 僕は啓蒙活動を行うことした。といっても何をしたら良いのかは分からない。強く決意したものの、どうすれば尻の魅力を広く伝える事が出来るのかまるで答えが出なかった。

 だけれども動き出さない理由にはならない、重い腰を上げなければ

何も変わらないのだ。

 

 

 計画第一弾、放送室ジャック作戦。放送中に無理やり入ろとしたが鍵がかかっていたため断念。

 

 計画第二弾、投書。新聞、放送番組、出版社な

ど各手当たり次第、尻の魅力を書き綴ったメールを送るが、反応は無し。

 

 計画第三弾、SNS。尻の魅力を伝えようとしたが、スパム報告されて凍結。断念。

 

 

 立て続けに失敗が続いたことから、一度腰を据えて作戦を練ることした。何も行動を起こさない期間が一週間になって焦り始めた頃、ようやく妙案が浮かんだ。

 

 計画第四弾、インタビュー。偽記者を装い質問を通じて大衆に尻の良さを意識させる完璧な作戦。

 僕は渋谷、新橋、新宿など山手線沿線の人が多そうなところで作戦を決行することにした。

 

 

「おっぱいトレインがあるなら、桃尻電鉄が無いのは不自然と考えたことはありませんか?」

 

 

 私がそうたずねると人々は答えた。

 

 

「セクハラですか?」

 

 真面目に聞いてるんです。ふざけないでほしい。

 

 

 

「お尻?不潔じゃない?排泄物出すとこだよ?」

 

 宗教画にもお尻は描かれてますが???

 

 

 

 どれもこれも僕が望んだ答えではなかった。しかもある一人が言った言葉が私を地獄へと突き落とすような答えだった。

 

 

「言葉の響き的におっぱいの代わりにお尻がついてる電車ってこと?

見た目的にもおっぱいに似てるし、いらないんじゃないの?」

 

 

 そんなことはない!と声を大して主張したかったが、悲しいことに少し納得してしまった。

 確かに、お尻がお尻としてあるには乳房と違って片方だけというわけにはいかない。

 そうなると遠目から見ると、おっぱいに酷似しすぎている。

 

 

 なんという事だ。大好きなお尻が、あれほど忌避していたおっぱいに見えてしまうなんて。僕は力ない足取りでその場を離れる。

 今はただ、人がいない場所に行きたかった。

 

 

 僕はお尻の可能性を信じていた。おっぱいと違ってお尻は男にだってあるし、硬さ、弾力、形様々だ。

 安産型と言われるお尻は、生命を感じさせる。

 小振りなお尻は守りたくなる。

 大きなお尻は妖艶な色気がある。

 硬いお尻は語らない強さがある。

 

 二つに割れた尻は天と地。天地開闢、混沌とした世界で唯一の調和であった筈なんだ。それなのに、僕が信じていたお尻は、人々をたぶらかす大嫌いなおっぱいによく似ていた。

 

 繁華街少し離れれば、途端に人が少なくなった。それから住宅街の中にある誰もいない公園のベンチに腰掛ける。雨が上がって随分と経っているというのにベンチはまだ湿っていた。

 

 

 スカートが濡れる。もしかしたらパンツまで濡れてしまったかもしれない。

 そう考えた時、僕の脳内に電流が走った。

 

 そうだ!下着を履かせればいいんだ!パンツだ!!

 いや、ブルマも健康的でいい。Tバック、ふんどし、ドロワーズ。

 無限の可能性があり、衣服をまとうことで容易にお尻であると証明できる。

 素晴らしい。

 

 僕は知恵の実を食べた人間は服を着ることを思い出した。即ちおっぱいよりもお尻の方が知性が高いとう証明に他ならないではないだろうかと思った。

 

 

 今ここに革命の準備は整った。僕は誰もいない公園で仰々しく両手を広げ振り返る。そこには終わったはずの友情がいた。

 

 

「探したよ」

 

 

 なぜここに来た?と問うと桜庭くんは顔をしかめた。

 いつもの適当さはどこか言ったかのように真剣で、何かをこらえるような表情をしていた。

 そのことに少し興味を覚えた僕は、桜庭くんの返答を待つことにした。

 

「謝りたくて、来た」

 

「今さらいいよ。変態な僕に構わないほうが、君にとってもね?」

 

 言葉尻を濁す。大義を見つけた今の僕にとって、あの日の出来事はもうどうでもいいことだった。

 信頼してた友達に変態と言われたのは確かに深く傷ついたけど、もう関係ない。ボディーへの一撃で手切れにしたはずだ。

 

「ごめん。でもあんなんで終わりたくない」

 

 桜庭くんは大きく息を吸い込んで、真剣な目で私を見た。猫の目のようなキレイな瞳には、僕しか映っていなくて、思わず息を呑む。

 

 

「それに俺も!変態だから!!」

 

「は??」

 

 

「俺は親父ほどおっぱいが好きじゃない。そこらに溢れてるおっぱいみて興奮するヤツって変だなって思う。でも、なんでか分かんないけどお前の胸は他のと違ってドキドキする。だから、俺も、変態だから。お前が変態でもいい!」

 

 なんだそれ。呆れた。この男は何を言っているんだろうか。

 告白だとしたら最低最低だし、謝ってるようでまだ私を変態と呼ぶなんて失礼なヤツ

だ。

 

 怒らなくちゃいけないのに、なんだか力が抜けて怒る気にもなれない。

 

「それって告白?」

 

「分かんねえよ。でもお前がいなくなったら何か

胸がすげー痛くなった」

 

「男みたいな胸にドキドキするって、君も相当変態じゃん」

 

「変態で何が悪いんだよ。変態が友達作っちゃいけないって決まりはないぜ」

 

 桜庭くんは腰に手を当てて格好つけるように笑った。

 変態だと誇らしげに開き直る姿はちっとも格好良くはなかったけど、気づけば僕も笑っていた。

 

 ようやく僕は答えを得た。大切なことは好きなものを好きということじゃない。大切なことはきっと、認めあうことが大切だったんだ。

 

 今芽生えた気持ちは恋なのか、それとも友達を失わないで済んだことの安堵なのか分からないけれど、この温かい気持ちを失いたくないと強く思

った。

 ただ、僕は答えを待っている気はない。きっとこの先で答えを見つけるだろう。

 

 僕は桜庭くんの手を握って、走りだした。桜庭くんは困惑の声を上げるが待ってなんかやらない。

 僕たちはどこにでも行けるんだから。

 

 

 風に揺れるスカートのように、もう少し揺れる気持ちを楽しみながら、いつかくる終わりまで。走れ、走れ。

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