風飛に降り立つは   作:晴貴

2 / 12
1話 転校前日

 

 

 目の前にウサギがいる。しかもただのウサギじゃない。なんと人間の言葉を喋るのだ。

 さらにまるで二足歩行が可能なように立ち上がっており、おまけにそんな姿勢で宙に浮いている。

 こいつもうウサギじゃなくね?もしかしたら霧の魔物の仲間なんじゃねーの?

 

「おーい、聞いてるかー?」

 

「……ああ、悪い。ちょっと考え事してた」

 

 主に目の前の不思議生物について。

 まあここにいるくらいだからこのウサギもどきが魔物の類いってことはないんだろう。……たぶん。

 

「おいおい、しっかりしてくれよ『人類の希望』」

 

「その小っ恥ずかしい名で呼ぶな」

 

「えー、かっこいいじゃーん」

 

 よくねーよ。ただでさえ直死の魔眼という中二全開の能力に目覚めたってのに、そこに人類の希望なんて呼び名が追加されるとか今すぐベッドの上で悶え回るぞ。

 

「……鍋で煮込んで鳥の餌にしてやろうか?」

 

「こわっ!鍋にしたならせめて食べてくれよ」

 

「やだよ。なんか不味そうだし」

 

 このウサギ、名前を兎ノ助(うのすけ)というらしいが、こいつはここグリモワール魔法学園の進路指導官だという。それを聞いて思わず「うっそだろお前」と口にしてしまった俺は悪くない。

 で、なんで俺がウサギの指導官と駄弁っているのかといえば、俺は明日からこの学園に転校することになっているからだ。

 なのでこうして兎ノ助から学園についての事前説明を受けている真っ最中というわけだ。

 

「まったく、人類の希望様は中々に鬼畜な男だな」

 

「その名前を受け入れるつもりはないし断じて鬼畜じゃないが、そうだとしてもなよなよしてるよりは頼りになるだろ」

 

「物は言い様だねぇ。まあいい、これで学園についての説明は一通り終わりだ。細かいところは学校生活を送りながら学んでいけばいい」

 

「そうするよ」

 

 どっちみち俺はここから逃げる術を持たない。直死の魔眼の発現は、同時に魔法使いへの覚醒でもあった。

 魔法使いとして覚醒した人間は世界に6ヵ所あるいずれかの魔法学園への転入を余儀なくされる。余程の理由がない限りこれは強制だ。

 

 魔法学園の生徒になるということは魔法使いとして魔物と戦わなくてはならない。学生でも割りと死ぬ。そして無事卒業すれば国軍や国際魔法師団(IMF)に所属することになり魔物との戦いの最前線に送り込まれて大抵死ぬ。

 あらゆる職種の中でトップクラスの致死率を誇る超危険な進路選択しか待ち受けていないのに強制とはひどい話だが、魔物が現れてから300有余年の間に幾度も侵攻され生活圏を後退させ続られけてきた人類に貴重な戦力を遊ばせておく余裕なんてないのである。

 

「それで俺はこれからどうしたらいいんだ?」

 

「ちょっと待っててくれ。案内役がそろそろ来るはずだ」

 

 案内役ね。そいつがまた化生の類いでも驚かんぞ。

 そんな風に心の準備をしていると、パタパタと廊下を駆ける音が近づいてくる。そして教室の扉が勢いよく開かれた。

 

「すいませ~ん!遅れちゃいました!」

 

 栗色の髪を振り乱すように頭を下げる少女。年は大体15~16ってところか。

 学園の生徒ということは当然彼女も魔法使いだろう。魔法少女と名乗るに相応しい美少女だ、とかどうでもいいことを考える。

 

「智花が時間に遅れるなんて珍しいな」

 

「ちょ、ちょっと色々あって……あ!あなたが転校生さん?」

 

「ああ、そうだけど」

 

「はじめまして、(みなみ)智花(ともか)です!」

 

 そう言ってニコッと笑う南。

 笑顔が眩しい。

 

桐原(きりはら)修二(しゅうじ)だ。よろしく」

 

「はい、こちらこそ」

 

 右手を差し出して握手を求めると、南は笑顔で握り返してきた。

 拒否られなくて良かった。

 

「それで智花、結局なんで遅れたんだ?」

 

「実はクエストが発令されちゃって」

 

「え、マジで?」

 

「はい。なので今から魔物退治に行かないといけないんですが……」

 

「ふーん、ならちょうどいい。クエスト案内がてら転校生も連れてけよ」

 

「ええっ!?そんな、危険ですよ!まだ魔法の使い方も知らないのに……」

 

「まあまあ。そんな強い魔物じゃないんだろ?それに……」

 

 兎ノ助がこっちを見る。それに釣られて南の視線も俺の方を向いた。

 可愛い。いや、今はんなこと言ってる場合じゃないが。

 

「転校生……修二はもう魔法を使えるらしいからな」

 

「え、そうなんですか?」

 

「……まあそれなりに」

 

 直死の魔眼を魔法と定義付けるなら、だけども。

 仮に魔法が使えなくても死を見る目と、魔法使いとして覚醒したことでその力を存分に発揮できる身体能力は得たので問題はない。

 霧の魔物を殺せることはすでに実証済みだし、大して強くもない魔物相手に南とのツーマンセルで挑むなら危険も少なかろう。

 

「クエストも早い内に経験しておいた方がいいしな。そういうわけで……」

 

 兎ノ助は空中をふよふよと漂って窓際まで移動する。その窓から差し込む太陽の光を背に浴び、いい感じに影を作りながら振り返った。

 

「さあ!君の魔法使いとしての人生はここから始まる!」

 

 ムダにいい声で、ゆるキャラみたいな顔を精一杯キリッとさせてそう言い放つ。たぶん決めゼリフのつもりなんだろうが……。

 

「その前にデバイスくれよ。クエスト受注するのに必要なんだろ?」

 

 さっきの説明でそう聞いたぞ。正式に受注しないで魔物倒してもお金が出ないどころか違反で罰則食らうらしいじゃん。

 さすがにタダ働きする気はないぞ。

 

「……」

 

 兎ノ助が固まった。

 まああんだけ決めたのに水を差されれば恥ずかしいよな。

 

「というか俺がここの生徒になるのは明日からなんだけどクエスト参加していいのか?」

 

 問題その2である。明日付けで転校予定の俺は、書類上まだ未所属の魔物使いに分類されているはずだ。

 その状態で学園のクエストに参加しても平気なんだろうか。

 

「それについては心配要らない」

 

 俺の疑問に対する答えが即座に返ってくる。声がした方を振り向けば、教室の入り口にメガネをかけた少女が立っていた。

 

「あなたは事実上すでにグリモワール魔法学園の一員。そしてこれがあなたのデバイス」

 

 メガネの少女が薄い長方形の端末を差し出す。

 持った感じはなんの変哲もない機械だな。これでクエストの受注はまだしも衣装チェンジまでできるとかどうなってんだ。

 まあ魔法だからと言ってしまえばそれまでなんだけど。

 

「クエストの受注は済ませておいた。それが終わったら私のところに来て」

 

「あんたのところって?」

 

「私は研究室にいる」

 

 それじゃ、とだけ言い残してメガネ少女は立ち去っていく。

 無愛想というか、必要最低限のことしか喋らない奴みたいだな。白衣を羽織った背中を見送るのもそこそこにデバイスへと視線を落とす。

 これこそが魔法使いの要と言える代物。それを見て思うことは1つ。

 

 魔法使いなのに杖じゃねぇんだなぁ。

 

 

 




プロローグで出た人達についてちょっと解説。


退魔を生業とする家系に産まれ~~
【両儀式】『空の境界』
直死の魔眼の持ち主。根源接続者。
ある状態になるとちょっとシャレにならないくらい強い。


正義の味方を目指して~~
【英霊エミヤ】『Fate/stay night』
たぶん説明要らないくらいの人気と知名度を誇るサーヴァント。
無限の剣製という中二心をくすぐる必殺技を持つ。


不屈の心を宿し~~
【高町なのは】『魔法少女リリカルなのは』
『管理局の白い悪魔』の異名を誇る武闘派魔法少女。
どんな困難にも決して屈しない強靭な心と絶大なる魔力を持っていかなる敵も討ち滅ぼす。


500年以上の歳月を生き~~
【レミリア・スカーレット】『東方』シリーズ
見た目は幼い少女だが500歳を超える本物の吸血鬼。
大妖怪やら億年単位で生きている月人がいるなど魑魅魍魎が跋扈する幻想郷においてパワーバランスの一角を担う。


終わりなき悪夢に囚われてもなお~~
【狩人】『Bloodborne』
常人なら目にしただけで発狂して死に至るような獣を始めとした怪物達を、視界に入れるなり全てなぶり殺しにする強者。
次元を超越した『上位者』と呼ばれる者の領域に足を踏み入れる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。