風飛に降り立つは   作:晴貴

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2話 初クエスト

 

 

「桐原さんはどこから来たんですか?」

 

「神奈川。この間鎌倉に霧の魔物が出たのは知ってる?」

 

「はい」

 

「それがきっかけで覚醒してさ。あれよあれよという間に転校することになった」

 

 クエストへと向かう道中。改めての自己紹介がてら南と会話しながら進む。

 学園から近い場所で出現が観測されたので山道をえっちらおっちら歩いている最中だ。早く魔物出てきてくんねーかな。

 

「でもすごいですね!あの事件からまだ2週間もしてないのにもうクエストに参加できるくらい魔法が使えるなんて!」

 

 南の目がキラキラと輝く。魔法少女然としたコスチュームと相まって中々直視しづらい。

 ちなみに俺のコスチュームは学ランだった。学園指定のブレザー制服から学ランに着替えただけである。

 まあこれでもミストファイバー製だから防御力はかなりのものらしいが、この格好で俺のテンションが上がるかと言われれば甚だ疑問である。まあコズミックシューターみたいな全身ぴっちりタイツよりはましだからいいけど。

 

「魔法……魔法なぁ」

 

「どうかしたんですか?」

 

「ちょっと思うところがあるんだ」

 

 それはこの世界で一般的に魔法と言われている力を俺が本当に使えるのか、という疑問。

 俺には史上類を見ないほど莫大な魔力が宿っているらしいので魔法自体が使えないってことはないだろうが、この世界の魔法と走馬灯で見た世界の魔法は恐らく別物だ。そもそも直死の魔眼はたぶん魔法じゃないしな。

 だから俺が魔法を使った時、発現するのがこの世界で言われる魔法なのか走馬灯の世界で見た魔法なのかは分からない。

 

 まあこれも直感みたいなもんなのでそう考えるはっきりとした理由があるわけじゃないが。とりあえずこのクエストの中で少しくらい検証する暇はあるだろう。

 危なくなりそうなら直死の魔眼で細切れにしてやりゃいいし。

 

「突然だけど南はどうやって魔法使ってる?」

 

「え?そうですねぇ、命令式に魔力を流し込んで、あとはドンッ!て放つ感じです」

 

 流し込んでドンッ!ね。感覚的過ぎていまいちよく分からんな。

 まあ感覚で力を使ってる俺も人のことは言えないが。

 理論的にはデバイスに登録されてる命令式で自分の魔力――魔素を魔法へと変換すればいいんだから間違ったことは言ってないしな。ただ魔素を変換する感覚ってのがさっぱりだ。

 

「き、桐原さん、魔物が出ました!ミノタウロスです!」

 

 考え込んでいると南が少し興奮したような口調で俺を呼ぶ。

 顔を上げれば南が指さした先に、でっかい鼻輪をつけた全身の質感がツルツルしてる魔物が立っていた。大きさは2メートルあるかどうか。腕……ミノタウロスだから前足か?とりあえず極太のそれが特徴的だ。しかしそんなことより体型的に馬要素のないあいつをミノタウロス呼ばわりするのはどうかと思う。

 それらしいのは鼻輪と角くらいのもんで、むしろ姿勢的にはオラウータンを彷彿とさせるが。

 

「ここはわたしに任せて!たあっ!」

 

 可愛らしい掛け声とともに南が両手を突き出して魔法を放つ。腕の先から火球のようなものが放たれ、ミノタウロスに直撃。すると魔物は苦しげな声を上げた。

 

「おお、効いてる効いてる」

 

「えへへ」

 

 俺の声援を受けて南がはにかむ。

 我ながら緊張感ねぇな。

 

「これで止めです。行きますよー!」

 

 さっきよりも少々長い溜め時間。その分魔力を込めたのか、2回りほど大きい火球がミノタウロスに向けて放たれる。大きくなった分火力が上がったのか、直撃したミノタウロスは塵も残さず消し飛んだ。

 なるほど、魔法ってのは結構な力なんだな。充分兵器としての役割を果たせる威力がある。これがIMFやヒーロー、果ては始祖十家ともなればその脅威は推して知るべしってか。

 コズミックシューターとか地球破壊できるらしいからな。分身できるようになればあいつ一人で事足りるのに。

 

「お見事」

 

「そ、それほどでも……私なんかまだまだで、怜ちゃんの方がもっとすごいですよ!」

 

 恐縮ですとばかりに謙遜する南。

 そして怜ちゃんとは誰のことなんだ。友達か何かだろうか。

 まあそれはさて置き。

 

「しかし魔物ってのは1匹ずつ現れてはくれないんだな」

 

「え?……あっ!」

 

 爆発四散したミノタウロスの後方からさらに2体のミノタウロスが現れた。

 こいつら倒したら次は4匹出るとかいう倍々ゲームになったりしないよな?

 

「桐原さん、下がって!」

 

「いや、ここは俺にやらせてくれ。南に任せっきりじゃついてきた意味ないし」

 

「で、でも……」

 

「危なくなったら助けてくれればいいよ」

 

 不安そうな南にそう言葉をかけてミノタウロスの方に歩み寄る。無防備に距離を詰める俺を警戒する素振りも見せず、2匹揃って吶喊してきた。

 さっきの南を見習って腕を突き出して力む。しかし魔法は発動しない。

 

「……まあ何でもかんでもそう上手くはいかないか」

 

 自然とため息が出る。

 仕方ない、切り替えるか。これでもダメなら直死の魔眼を使おう。

 そう思いながら命令式に魔力を流すのを止め、デバイスを介さず体から直接魔力を放出する。

“あの少女”はこれをけん制程度に使っていたが、南の魔法でもダメージが通る強度ならこれでも充分ダメージソースにはなるだろう。

 

「『アクセルシューター』」

 

 その名を口にした瞬間、空中に数十に及ぶ桜色の光弾が出現しミノタウロスに襲いかかる。

 アクセルシューターは誘導制御系射撃魔法で、本来ならそれぞれの光弾を個別に操作しながら攻撃したり防空に充てたりするのが主な使い方だ。しかし知能のかけらもないらしいミノタウロスは直進してくる上に遠距離の攻撃も持っていないようなので直線的に撃ち込むだけで事足りる。

 片方に50発ずつ、計100発のアクセルシューターをお見舞いする。それらを放ち終わった時、ミノタウロスの姿はすでになかった。砲撃の雨の中に沈んだらしい。

 

 結果は上々。どうやら俺は最低でも走馬灯で見た世界の魔法は使えるし、この魔法も霧の魔物には有効らしいな。

 これが効かなきゃ延々直死の魔眼で倒さなきゃならないところだった。魔法を使わず近接戦闘で戦うってそれもう魔法使いじゃねーけど。

 

「なあ南、クエストってこれでおしま――」

 

「す、すごいです!」

 

 振り返ったら南がすごい勢いで距離を詰めてきた。らんらんと光る双眸に上気した頬。分かりやすく興奮状態だ。

 

「あんな数の魔法を一気に、しかもすごい速さで撃てるなんて!弾幕を張れるだけでも頼もしいのに威力も強いですし、桐原さんがいたら百人力です!」

 

「お、おお……ありがとう……」

 

 そこまで強力な魔法を使ったわけじゃないのにここまで喜ばれるのは予想外だ。

 まあでもアクセルシューター自体、稀代の魔導師が使ってたものだからな。数十の光弾をマルチタスクで個別に操作してそれぞれに役割を与えるとか普通に考えてみれば狂人の発想と言える。

 俺も記憶に残るあの少女ほど自由に操れないしな。修練が必要だろう。幸いにもそれを行う時間はある。

 

 その後、ミノタウロスが倍々ゲーム感覚で増殖することもなく無事にクエストを終え、興奮する南をなんとか落ち着かせながら俺は帰路についた。

 

 

 

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