風飛に降り立つは   作:晴貴

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3話 直死の魔眼

 

 

 学園にクエスト完了の報告を終えた俺は、そのまま南に案内してもらって研究室へと向かった。

 何用かは分からないがメガネ少女に呼ばれてるからな。

 道すがら学園についての説明を受けながら研究室へと到着する。厚さ数十センチはある重厚な扉がプシューと音を立てながら開く。これ本当に学校の設備なのか。

 

「明日から転校予定の桐原だ。呼ばれた通りに来たぞ」

 

「待っていたわ」

 

 中にはメガネ少女が待ち構えていた。他にもなんか全体的に色素が薄い感じの少女や金髪で指ぬきグローブをはめた少女、黒髪ポニーテールでいかにも清楚系な少女がいた。

 しかし外観から想像できたとは言え内部は完全にSF映画の世界だな。コンピューターやら巨大な装置が並んでいる。

 

「おお、早かったな。初クエストに出かけたと聞いていたからもっと時間がかかると思っていたが」

 

「まあ南がサポートしてくれたんで。それであんたらは?」

 

「おっと失礼した。アタシはこの学園の生徒会長、武田(たけだ)虎千代(とらちよ)だ。歓迎しよう、桐原」

 

「生徒会副会長を務めております水瀬(みなせ)薫子(かおるこ)ですわ。以後お見知りおきを」

 

宍戸(ししど)結希(ゆき)。彼女は立華(たちばな)卯衣(うい)

 

 宍戸に促されて立華がぺこりと頭を下げる。

 金髪なのが武田、清楚なのが水瀬、メガネが宍戸で色素薄い系が立華、と。

 しかし南も含めてまあ美少女揃いだことで。兎ノ助が男女比2:8を押してただけはあるな。

 

「ご丁寧にどうも。俺は桐原修二だ」

 

「み、南智花です!」

 

 いや、南は必要なくない?案の定全員南のことは知っていた。

 まあそれはどうでもいいとして。

 

「それで俺が呼ばれた理由は何なんだ?」

 

「まずはこれ」

 

 宍戸がよく分からん装置に1枚のフィルム敷く。

 

「なにこれ?」

 

「キルリアン法という、体内にどれだけの魔力が充実しているかを計測する装置。アナログだし少し正確性には欠けるけど結果はすぐに分かるし大体を把握するには適している」

 

「ふーん」

 

「事前の報告で貴方の魔力量は桁外れだと聞いている。どの程度か調べたいからこのフィルムの上に手を乗せて」

 

 宍戸に言われた通りフィルムに手を置く。撮影はすぐに終わった。

 そして手を離すとフィルムには真っ白な俺の手のひらが写っていた。

 

「白いな」

 

「白いね」

 

「ああ、白い」

 

「白いですね」

 

 俺、南、武田、水瀬がフィルムを覗き込みながら分かり切った感想をこぼした。

 この流れで南に下着の色を聞いたらぽろっと言っちゃったりしないだろうか。成否にかかわらずチャレンジした時点で俺は社会的に死ぬけども。

 女の園でそんな命知らずなことやる度胸はない。

 

「で、これはどうなんだ?」

 

「……測定不能よ」

 

「なんだと?」

 

「この白く写っているのは粒状の【魔素】と呼ばれる魔力の源。本来はその濃さや分布具合で魔力量を測定するのだけれど……」

 

 宍戸が言い淀む。

 まあその理由は一目瞭然だ。

 

「濃さも分布もありゃしねぇな」

 

「ええ、影も薄いところもないほど隙間なくあなたの体内は密集した魔素で塗り潰されている」

 

「とはいえ全く指標が出せないわけではないんだろう?おおよそでいいから分からないか?」

 

「魔素は質量を持たない。だから理論上は1センチ四方内に無限に存在できる。一定以上の魔力量になると、この方法でも魔力量の測定は不可能ね……ただ」

 

 宍戸の無感情な瞳が俺を射抜く。

 

「この結果から言えることは1つ。あなたの魔力は並みの魔法使い1000人分。それが下限で、上限は計り知れないわ」

 

「最低でも、並みの魔法使い1000人分……こんなこと言いたくはないけれど、よく科研が見逃したものね」

 

 水瀬がポツリとそんな言葉を漏らす。

 

「科研?」

 

「魔導科学研究所のことよ。基本的に魔導科学発展のためなら人権は無視する人達が揃っているわ」

 

 マジで?そんなやべぇ施設があるのかよ。

 そんなとこに放り込まれてたら俺は実験体にされてるな。最悪解剖されてそう。

 

「確かに科研もあなたを確保しようとしていた。だから手を回してなんとかこちらに引き入れた」

 

「……つまり宍戸は俺の命の恩人か」

 

「そこまで恩着せがましく言うつもりはない。私にも打算はある」

 

 宍戸はそう言いながら白衣の懐から数枚の写真を取り出して机の上に置いた。

 その写真には見覚えのある魔物が写っていた。俺が魔法使いとして覚醒した日、直死の魔眼で解体した魔物の死体が。

 だから何なんだ?

 写真の意味するところが分からずに頭を傾げる俺と南。だが武田と水瀬はその写真を見て色めき立つ。

 

「これは……!」

 

「……どういうこと?」

 

「……なあ、この写真がどうかしたのか?」

 

「え?う、うーん……」

 

 小声で南に尋ねてみたが答えは返ってこなかった。

 ただ武田と水瀬の表情が怖いくらいに強張っているところを見るとただ事じゃないんだろうな。

 

「南さん、霧の魔物は倒されたら通常はどうなるかしら?」

 

「それはまた霧に戻って……あれ?」

 

「そう、霧の魔物は倒しても霧に戻ってまた現れる。だから魔物の死体は残らない(・・・・・・・・・・)

 

 ああ、そういえばそんなこと聞いた覚えがあるな。それが公になった時は全世界で軽いパニックや暴動が起きたとか何とか。

 いくら倒してもまた現れる。でも倒さなけりゃ殺される。ゴールの見えないマラソンをやってるようなもんだ。恐慌の1つや2つ起きて当然だろう。

 

「けれどこの魔物は霧にならず死体として残った。そしてそれを成したのは桐原修二、あなただと私は確信している」

 

 宍戸の目が、順を追って全員の目が俺に突き刺さる。

 まだ隠しておこうかと思ったけど、ここでしらばっくれたら不信感を買うだけだよなぁ。

 走馬灯の記憶は別にしても、直死の魔眼については白状するしかないなこれは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その報告を聞いた時は最初何を言われているのか分からなかった。そして報告の内容を理解して映像を見た時は自分の目を疑った。

 そこに映し出されていたのは霧の魔物の死体。あり得ないはずの物が世界に落ちていた。

 それに衝撃を受け、魔物の死体をサンプリングし、骨の髄まで研究し尽くしたいと思った研究者はきっと私を含めてかなりの数に上る。当然科研も行動を起こしていた。

 

 でも私がより興味を引かれたのは魔物の死体を生み出した張本人。調べればその日、その場所で魔法使いに覚醒した少年がいた。確保するべきは魔物の死体よりもその少年。

 そう判断した私は他の研究者達が魔物の死体に注意を引かれている内に桐原修二という少年をグリモワール魔法学園へ引き込むことに成功した。その対価として失った実験データや研究の成果、魔導科学技術の価値は数億に上る。

 けれどそんなことはどうでもいい。本当の意味で魔物を殺す手段を手に入れられるならばはした金にもなりはしない。

 

 私は彼の目を見ながら、柄でもないことに祈るような気持ちで尋ねた。

 

「けれどこの魔物は霧にならず死体として残った。そしてそれを成したのは桐原修二、あなただと私は確信している」

 

 そう、確信だ。最近、ようやく当時のまともな証言が収集され始めた。その中にあった。

 高校生くらいの少年が霧の魔物を倒していたという目撃証言が。

 一般人にそんな芸当は到底できない。可能にするならば魔法使いか、それに準ずる何かでなければ。

 私が……世界が知り得ない何か。彼がそれを知っている。そして桐原修二がその口を開く。

 

「あー……確かにそれについては思い当たる節がある」

 

「本当か!?どうやるんだ!?」

 

 武田虎千代が彼の両肩を掴んでガクガクと揺さぶる。あまりに激しい。

 

「落ち着いて。脳にダメージを与えるかもしれない。その心当たりを聞く前に死なれては困るわ」

 

「む、す、すまない……」

 

「まるで心当たりさえ聞ければ俺が死んでもいいかのような言い方は止めてくれ……」

 

 彼は俯きながら大きなため息を吐く。そして顔を上げると私にこう尋ねた。

 

「なあ、ここに壊れてもいい物ってあるか?できれば硬くて到底壊れそうにないものが良いんだけど」

 

 真意が読めない発言。けれどこの研究室の片隅には廃棄処分予定の失敗作がいくつか転がっている。

 その中から最も強度の高いものを見繕う。

 差し出したのはミストファイバー技術を転用した金属。かなりの硬度だがそのせいで加工がほぼ不可能になってしまっている。

 

「これでいいかしら?」

 

「ああ、充分だ。さて、ここで質問だが魔法を使わず、ナイフ1本でこれを解体するにはどうしたらいいと思う?」

 

 この場の全員に投げかけるように彼はそう尋ねた。魔法を使っても達成は難しそうな条件。

 ナイフの解釈をどうとるかにもよるけど、彼が言いたいのはたぶんそういうことじゃない。本当にただのナイフでこの素材を解体する方法を尋ねている。

 ……けれどそんなものは存在しない。それこそ魔法による肉体強化なしで霧の魔物に負けないほどの怪力を発揮できるような人間であったとしても。

 だから私はこう答えを出す。

 

「それは不可能。少なくとも私の知り得る知識ではできないわ」

 

 その答えに全員が納得するように頷く。

 それを受けても彼は泰然としている。彼にはあるのだ。不可能を可能にする、魔法ではない未知の手段が。

 

「まあそうだよな。だが――」

 

 彼の右腕が高く振り上げられる。その右手には銀色に輝くナイフ。

 いつの間に?制服に仕込んでいた?

 そんな疑問が駆け巡る私を尻目に、彼はナイフを振り下ろした。

 

 キン、という甲高い音。その余韻が引いて研究室には沈黙が降りる。

 それを破ったのは桐原修二。

 

「残念、不正解だ」

 

 机の上に置かれた金属の塊が徐々にその形を変える。そしてゴロンと音を立てて左右に広がるように転がった。

 魔法を使った形跡はない。それでいて断面は明らかにナイフの刀身よりも長い。振り下ろしたナイフの速度も速いけれどなんとか目で追えるほどだった。

 それらの要素から鑑みてもただのナイフでこれを両断できるわけがない。

 

「……あなたは何をしたの?」

 

「正直俺にもまだ分からないことが多い。けど覚醒と同時に俺の目にはおかしな能力が宿ったみたいでさ」

 

 目におかしな能力?それは風槍ミナのような……?

 

「ろくに検証もできてないが、俺の考えが正しければ死線が見えるってところだ」

 

「死線?」

 

「ああ、それは人にも、物にも、空間にも、そして霧の魔物にも存在する。俺の目にはその死線がしっかりと見えてるんだ。そしてそれをなぞってやれば……」

 

 今度はひどくゆっくりと、言葉の通りただなぞるようにナイフを走らせる。

 それだけでかなりの硬度を誇るはずの金属がまるで豆腐のように切り裂かれた。

 その現実離れした光景に誰もが言葉を失う。

 

「ご覧の通りなんだって切れる。なんだって壊せる。――なんだって殺せる。たとえそれが霧の魔物であっても」

 

 幕引きとばかりに桐原修二はナイフを突き立てた。

 あり得ないことにそれで金属は粉々に砕け散る。頭を埋め尽くすのは『理解不能』の4文字。

 けれどそれは私にとって興味であり、何よりも希望だった。

 桐原修二が「名づけるとするなら」と笑う。そして彼は自身の力をこう呼称した。

 

 

 

 ――直死の魔眼……と。

 

 

 

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