風飛に降り立つは   作:晴貴

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4話 嵐の前の

 

 

「……なんて大見得を切ってみたけど、さっきも言った通りまだ分からないことが多くてな。有言実行できるかは定かじゃない」

 

「でもあなたが殺したことで魔物が実体化したまま死んだのは事実」

 

「まあそこはほぼ確定だろうな。あの時は直死の魔眼しか使わなかったし」

 

 クエストでアクセルシューターを使った時は死体なんて残らず霧散していったからな。あれが霧の状態に戻るってことなんだろう。

 先々のことを考えると直死の魔眼で殺しておいた方がよかったな。

 

「焦点は大型の魔物……タイコンデロガ級やムサシ級にも通用するかどうか」

 

「ムサシ級ってあれだろ?江戸城くらいデカかったって奴。さすがにそこまでになると無理かもな」

 

「仮にそうだとしても落胆することはない。今まで不可能だった真の意味での魔物討伐に光明が差したんだ。それだけでも人類にとっては大きな一歩だ!」

 

 武田がそう熱弁を振るう。やっぱり長年霧の魔物と戦ってきた人間からすればたとえ雑魚狩りだったとしてもあいつらを殺せるって事実は励みになるんだろう。

 延々と走り続けてきたマラソンにゴールが見えれば希望も湧くか。

 

「ただその力はあまり公にできそうにないですわね」

 

「ええ、少なくとも今はまだ。もし直死の魔眼で本当に霧の魔物を完全に殺せるのだとしたらあなたは世界中の組織から狙われる身になる。膨大な魔力を持っているだけでも希少な存在なのに、そんな力まで持っているとなればその価値は計り知れない」

 

「科研、国連軍、IMF……引き抜きに手段は選ばないだろうな。ノーマルマンズといった反魔法団体からは命を狙われかねない」

 

「それだけじゃない。魔物を殺すなんて始祖十家(しそじゅっけ)でもできないこと。彼らの中から十家の権威を守るため強硬策に乗り出す者が出るかもしれない」

 

「こんな状況でも、か……」

 

「人類にとって共通の敵が出現したとしても全ての人間が手を取り合うなんてことは起こり得ない」

 

「……悲しいことですわ」

 

 研究室の空気がどんよりと重くなる。

 そんな中で話の内容についてこれずオロオロしてる南は癒しになるな。

 

「ええっと、話が難しくって何がなんだか……」

 

「簡単に言うと俺の力は秘密ってことだ」

 

 バレると俺が誘拐されるか暗殺される危険性が高まるらしいからな。

 

「わ、分かりました!」

 

 ほんとに?いやまあ南って嘘つくのとか隠し事するの下手そうだしあんまり詳しく理解できないまま肝心なところだけ承知しておいてもらった方が得策かもしれない。

 

「それで、できるならあなたの力を検証したいのだけど」

 

「その申し出は俺にとっても願ったり叶ったりだな。できることとできないことを早めに見極めておきたい」

 

「アタシも興味がある。時間の都合が合えば同行させてくれ」

 

「俺は構わないけど」

 

「なら準備を整える間に検証に参加してもいたいメンバーを決めておくわ。あまり大人数にはしないから」

 

 そんなわけで後日、俺の能力検証が開催されることが決定して、ひとまずその場は解散となった。

 これでようやく学園をしっかり案内してもらえる。

 

 明日から転入する教室の場所や図書館、プール、訓練場に対抗戦というものを行うコロシアム等々の施設。普通の学校にはないものが多くて新鮮だった。

 一通り見て回ってから休憩を兼ねて食堂までやって来る。そこで一休みしている時のことだった。

 

「あ、転校生発見!」

 

 そんな声が耳に届いた。そして声の方を向くまでもなく一人の少女が俺の前に姿を現した。身長は150センチもないような小さな体躯に、口元から覗く八重歯、そして首から下げている年代物っぽいカメラが特徴的。

 

「夏海ちゃん」

 

「やっほー智花。この転校生の案内中でしょ?少し取材させてちょうだい」

 

「そ、それは桐原君に聞いてもらわないと……」

 

「休憩中だしちょっとくらいいいけど、取材ってなんのだ?」

 

「あたし報道部なのよ。だから話題の転校性の独占インタビューをいただきに来たの」

 

「話題の?」

 

「とある情報筋から聞くところによるとものすごい魔力を持ってるって聞いたわよ。本当なの?」

 

「ああ、まあ。その辺は俺より宍戸に聞いた方が信憑性あると思うけどな」

 

 とりあえず最低でも並みの魔法使い1000人分の魔力は持ってるらしいが。

 でもこれを自分から言うのって自慢してるみたいで恥ずかしくない?なんてことを思ったり。

 

「あとでそっちにも聞き込みに行かなきゃいけないわね。ちなみに魔法使いに覚醒したきっかけは?」

 

「それはこの間鎌倉で起きた――」

 

 取材の最中に知ったが岸田は南と同じ時期に学園に転入して以来の親友らしい。

 そんな岸田は報道部の肩書きに相応しく俺について根掘り葉掘り聞き出そうと質問を重ねてきた。

 答えられるものは答えたけど、好みの女の子のタイプとか聞く必要あるか?

 結局岸田の取材が終わるまで30分近くかかった。岸田は満足そうな顔で帰ってったけど、果たしてどんな記事になるのか。

 少々の興味と不安を抱きつつ跳ねるように行く小さな背を見送った。

 

「じゃあ私達もそろそろ行きましょうか!」

 

 南が元気よく立ち上がる。

 小休止にしては大幅に時間を食ってしまったが、しかし残すところは学生寮のみだ。

 食堂を出て夏の日差しを浴びながら広い敷地内を歩く。

 

「暑いね~」

 

「まあ夏だからな」

 

 今は8月、夏真っ盛りだ。一応世間の学生は夏休みだが、この学園は関係ないらしい。

 学園と銘打ってはいるが純粋な学校法人じゃない。国防のための人員を育成する軍事学校としての側面もある。

 日本の場合は魔法学園の中で唯一の私立学校ってのも関係してるとかなんとか。

 その辺の事情はよく分からないが、知らなくてもまあ問題はないだろう。要するに普通の学校とは色々違うってことだ。

 

 汗をかきながら南と他愛もない会話をしながら歩くほど数分。視界の先にこれまでとは違った雰囲気の建物が見えてくる。

 その入り口まで到着すると前を歩いていた南がこっちを振り返って両手を広げる。

 

「じゃーん!ここが私達のお家、学生寮です!」

 

 校舎なんかはレンガ造りで中世っぽい建物だったが、こっちは近代的な外観だな。

 しかし思ったよりも小さい。

 

 まあ生徒数を考えるとこの辺が妥当なのかね。魔法学園は魔法使いとして覚醒した奴しか入れないし、その数は決して多いわけじゃない。

 

「残念だけど私が案内できるのはここまでかな」

 

「いや、充分だったよ」

 

 寮内は玄関とホール以外、男女は完全別になっている。共有スペースの奥、右手側が女子棟、左手側が男子棟だという。

 当たり前だけど男女の建物は別か。間違いを起こすのは難しい……もとい、起きたら大変だからな。

 

「えっと、それじゃあ……」

 

「ああ、今日はありがとな。助かったよ」

 

「こちらこそ。明日からよろしくお願いしますね!」

 

 明日からクラスメイトになる南は屈託のない笑顔を浮かべてそう言った。

 それを見て忘れそうになるが、ここは魔法学園。人類の脅威、霧の魔物と戦う魔法使いを養成する、国防の要と言える施設である。

 

 ……本当にそうだよな?南を見てるとついつい穏やかな気持ちになって、命の危険がある状況だっつーのが頭から抜けそうになる。

 数時間前にクエストで霧の魔物と戦ったばかりにもかかわらず、俺はそんなことを考えていた。

 その思考に、違和感を覚えることもなく――。

 

 

 

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