風飛に降り立つは   作:晴貴

6 / 12
5話 夢と現実

 

 

 夢を見ている。

 そう自覚するのを明晰夢(めいせきむ)というらしいが、俺が見ているこれはまた別物だ。なんでそう言い切れるのかって?俺が体験しているこの夢は、そんな生易しいものじゃねーからだ。

 

 眼下に広がるのは無秩序に建設・増築されたような高層ビル群。それらはすでに廃墟と化した巨大なスラム街に成り果てている。

 これだけでも相当不気味な光景ではあるが、空には暗雲が立ち込め、まるで威嚇するように雷がゴロゴロと鳴り響く。思わずため息が出た。ついでに泣きたい。

 

「今日はここか……」

 

 この場所の名前を俺は知らない。分かるのはたぶん俺が生きてる世界にある場所じゃない、ってことくらいだ。

 一際大きな雷鳴が響き、目も眩むような雷がビル群の一角に落ちる。一瞬、白に染まる世界。その中に一つだけの黒、人影が見えた。

 位置的にはさっきの落雷が直撃しているはずなのに、その人影は倒れず、むしろ体からバチバチと雷を放電しながら俺の方に向かってゆっくりと迫って来る。その威圧感たるや霧の魔物に殺されかけた恐怖なんて鼻で笑えるレベル。要するに今すぐ逃げ出したい。

 

 が、そんなことしてもムダだ。この夢なのか何なのかよく分からない世界には逃げる場所なんぞない。

 俺にできること。それは目の前の相手と戦うことだけだ。

 

 身長は俺とほぼ同じ。やや逆立った金髪と二十歳前後っぽい見た目からして今時の若者らしい青年だが、その瞳は冷たく、何となくだが俺じゃ想像もできないようなヤバい世界で生きてるんだろうってことは感じられる。

 そんな相手と戦うんだ。夢だから死にはしないけど怖いもんは怖い。

 

「……俺は雷帝。この無限城ロウアータウンの支配者」

 

「……かっこいい名前っすね」

 

 少なくとも『人類の希望』よりはセンスあるあだ名だと思う。つーかあんた喋るのね。

 雷帝さんいわく無限城という場所みたいだが、夢でここを訪れるのは3回目だ。過去2回、俺はこの雷帝さんと戦ってボロクソにやられている。夢じゃなきゃ当然死んでるがな。

 これまでは無言で殴ったり蹴ったり雷撃してきたりだったが、今回初めて言葉を発したな。もしかして和解フラグが立ったんじゃ……?そんな一縷の希望を抱いて会話を試みる。

 

「あ、それでですね、今日は――」

 

 次の瞬間、俺は消し炭になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……容赦ねぇな、雷帝」

 

 起き抜けにそんな言葉が漏れる。下手に出る暇すらなく瞬殺されたぜ。

 消し炭になっては復活してボコられ、ボコられては復活して串刺しになり、串刺しになっては復活して消し炭になり、ボコられて串刺しにされてから消し炭になること幾星霜(いくせいそう)、ようやく俺は無限城から帰還した。

 あーあ、寝汗びっしょりで気持ちわりぃ。

 魔法使いに覚醒してからというもの、俺の目覚めは大抵こんな感じだ。眠りにつけば週5のペースで夢の世界で誰かと戦っている。

 

 そしてその誰かっていうのは俺が走馬灯で見た記憶にある人達だ。そこに何の因果関係があるのかはいまいち不明だが無関係ってことはないだろう。

 それにアクセルシューターをいきなり実戦で使えたりしたのはあの夢の世界での経験が大きい。どういう仕組みなのか、あの世界で戦っては死んで、強制復活をくり返している内に俺の体に変化が表れ始めた。

 

 標準的だった体格は徐々に筋肉質になり、魔法使いに覚醒して強靭になった肉体はさらに磨きがかかり、動体視力や反射神経はそれこそ銃弾でも見切れそうなほどにまでなっている。そして魔法を扱う技術やその威力まで向上しているのだ。

 彼らと戦って死ぬ度に現実の俺の戦闘能力、ひいては生存能力は高まっていく。非常にスパルタな教師陣だがその効果は覿面(てきめん)でありかなりありがたい。

 そろそろ俺も雷とか撃てるようになるんじゃねーか?そんな期待に胸を膨らませつつ、俺は制服に袖を通した。

 

 晴れて正式に学園生になって早1週間。ようやく新生活も落ち着き始めた。

 俺が編入したのはリリィクラスってところで、名前の通り百合百合した連中の巣窟かと思ったがそういうわけじゃないらしい。

 しかし代わりにと言ってはなんだが、かなり特殊なクラスだった。

 

 そもそもこの学園におけるリリィ、ローズ、サンフラワーというクラス分けは学級というより縦割りとしての意味が強いらしい。いわゆる授業を受けるためのクラス割りってのはあって無いようなもんだ。

 なんでかっつーとこの学園に入学してくる連中は年齢がバラバラだからだ。最低6年の在籍期間と18歳以上という2つの条件を満たさないと学園は卒業できないわけだが、入学に関しては年齢の縛りは一切ないと言っていい。

 そのために学園は系列に乳幼児の教育施設まで完備している。まだ言葉も話せない子どもを親元から引き離すのは様々な問題があるという話題は定期的に世間を賑わせたりするが、逆に反魔法使い思想の親を持つ子が覚醒したばかりに虐待されたり殺されたりという事件もあってそういった子達を保護できるというメリットもある。

 まあその辺は人の考え方によりけりなんだろう。

 

 話が逸れたが、じゃあついこの間編入したばかりの俺(17歳)が、在学7年の海老名(17歳)と同じ授業を受けられるか?ってことだ。ここで学ぶのは普通の高校じゃ1ミリも習わない内容だから一般的な転校とはまるで意味が違う。

 そういった年齢と在籍年数の違いからクラス分けなんてしようもんならかなり細分化される。なので学園ではカリキュラムをいっそ個人ごとに決定することにしたんだとか。大学みたいなもんだな。

 一方で魔法学園には集団訓練なんかもあるしある程度まとまった区分けも必要である。それがリリィやローズといった縦割り学級の形になった、とは兎ノ助の言。

 

 そんなわけで俺は同時期に入学・編入してきた奴らと初歩の初歩から勉強中だ。

 ちなみにそいつらも結構濃いメンツだったりする。まず海外勢が多い。アメディック、ウィリアムズ、ブルームフィールド、()(ちゅえ)と5人もいる。おまけにアメディックとウィリアムズは数ヵ月前まで国連軍に所属していた軍人だと聞いた。

 しかもこいつら揃いも揃って日本語マジ上手い。頭の出来の差を痛感するぜ。

 

「あー、頭がパンクしそう……」

 

 場所は昼時の食堂。席を確保した俺は料理に箸を伸ばすよりも先にイスの背もたれに寄りかかって高い天井を仰いだ。授業の内容が特殊すぎる上に専門用語ばっかりで言ってること理解するのに時間がかかりすぎる。事前知識ゼロってのがキツイわ。

 

「やっぱり最初は大変だよね」

 

「あたしにもあったなー、そんな時期」

 

「授業について行けないなら勉強をみてやろうか?」

 

 同席している南、岸田、神凪(かんなぎ)がそれぞれ言葉をかけてくる。南繋がりで友達になった3人だ。いつぞや南が言っていた怜ちゃんってのはこの神凪のことだ。

 先週全員とクエストに行ったりしたこともあってそこそこ親しくなった。

 

「ありがとよ。無理そうになったら頼むわ……」

 

 はあ、体動かしてストレス発散したい。夢の世界での成果も確かめたいし訓練場で……ああ、でも守谷に遭遇すると勝負勝負うるさいから面倒だな。精鋭部隊(あいつら)、いつも訓練してるし。

 となるとやっぱクエストか。魔物ぶっ殺したい(八つ当たり)。

 なんてこと考えながら注文したラーメンをずるずるとすする。至るところに金をかけてるだけあって味はかなり美味い。これを6年間味わえるのはありがたいな。

 

「すいません、ちょいといーですか?」

 

 半分ほど食べ進めたところでそんな声がかけられた。声がした方を振り向けば岸田とそう変わらない背丈の少女が立っていた。

 

「食事中に失礼。アンタさんが噂の転校生ですね?」

 

「ああ、そうだけど。あんたは?」

 

「ウチは水無月(みなづき)風子(ふうこ)。こんなナリしてますが風紀委員長なんてものをやってます。どーぞよろしく」

 

「げ……」

 

 岸田が露骨に嫌そうな声を出す。そういやお前報道部のゴシップ担当って言ってたもんな。

 そりゃ水無月とは折り合い悪いか。なのに風紀委員の神凪と親友なのは何でなんだ?

 

「委員長、どうかされたのですか?」

 

「転校生さんにご用がありまして。少しお付き合いいただけねーかと」

 

「風紀に反することをやった覚えはねぇんだけどな……」

 

「ああ、別にそーゆーことじゃねーですよ。ご安心くだせー」

 

 なんか独特な喋り方をするな。気だるげというか、無気力そうというか……。本当に風紀委員の長なの?

 そんな疑問を感じつつもわざわざ反抗する意味もないので残りのラーメンを1分で流し込んだ。どうでもいいがスープは飲み干さない派だ。

 

「悪いな、待ってもらって」

 

「いえいえ、むしろ急がせてしまったよーで」

 

 その喋り方もあってか、水無月はどこか掴みどころのない印象を受ける。つーか服装も緩い。へそチラしてるし、スカートも短いし。

 実は風紀乱してるのお前じゃね?

 

「……なんです?」

 

 俺の視線を感じ取ったのか水無月がそう尋ねてきた。

 

「水無月ってマジで風紀委員なの?なんつーか、それっぽくないような感じが」

 

「ああ、これは演技なんですよ。こうやってダラーッとしとけば油断するでしょう?『あ、やる気なさそう』みたいな。みんなすぐに騙されるんですよね」

 

 この無気力さが演技なら相当の女優だな。右腕に『風紀委員』の腕章をつけてるにもかかわらず、特に根拠もないのに見逃してくれそう感がすごいある。

 

「念のため、会った人には全員この話をするんですが……」

 

「ですが?」

 

「なぜかウチの態度を見続けていると、みんな油断するんです」

 

 分かるわー。その気持ち超分かるわー。

 

「……アンタさんはどーでしょね?ま、品行方正な生徒であればですね、仲良くお付き合いできると思うんで。これからよろしくお願いしますね」

 

「ああ、まあお手柔らかに頼むよ」

 

「おやおや、何か違反をする予定でも?そーいえば先ほどは両手に花の状況だったよーですし、これは厳戒態勢が必要ですかね」

 

「言葉の綾だよ。勘弁してくれ」

 

「ふふ、じょーだんです」

 

 語尾に「今のところは」とか聞こえてきそうな雰囲気だが。緩そうに見えてもやっぱり風紀委員なんだな。

 まあ反体制だとか若気の至りで反骨精神あふれてるわけでもないし、積極的に風紀委員と対立する気はない。穏便に行きたいところだ。

 で、それはそれとして。

 

「そういや俺に用ってなんなの?」

 

「ウチも詳しくは聞かされてねーんですが、アンタさんの力に関してお話があると宍戸結希から連絡が入りましてね。ついでにアンタさんを研究室まで連れてきてほしいと」

 

「あー……」

 

 俺の力――直死の魔眼の検証に関してか?宍戸がメンバーを選抜する的なこと言ってたな。水無月もその一員ってことか。

 つまりそれだけ有能ってわけだ。言動の緩さと内面のギャップがもはや詐欺レベル。

 

「その様子だと心当たりがあるよーですね」

 

「一応な」

 

 とりあえず溜まった鬱憤を霧の魔物にぶつける機会がありそうだ。やったぜ。

 まるで大学生がカラオケに行くかのような軽い心持で、水無月と共に宍戸の研究室へと向かうのだった。

 

 

 




「……俺は雷帝。~~」
【天野銀次】『GetBackers-奪還屋-』
多くの作品に登場する電気・雷属性のキャラの中でも最強格と思われる。創生の王。世界を作った神の子。善悪の判断なく世界の調律を行う守護者。
周囲の人間の血液を沸騰させる。無限のエネルギーさえ飲み込んで無に帰すレベルの攻撃を食らってもかすり傷。バビロン時間という特殊な時間軸に棲息しているのでそもそも攻撃も干渉もできないとかいうむちゃくちゃな存在。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。