風飛に降り立つは   作:晴貴

7 / 12
6話 転校生の実力

 

 

「それにしても錚々たるメンバーだね。これから何が見れるのか楽しみで仕方ないよ」

 

 声を弾ませながらそう言うのは遊佐(ゆさ)鳴子(なるこ)と名乗った報道部の部長、つまり岸田の部活の先輩だ。俺と水無月が招集された奴らの中では最後の到着だったようで、研究室には宍戸、武田、遊佐、そして小学生と思わしき銀髪の少女がいた。

 遊佐が錚々たるメンバーというくらいだからただの子どもじゃねーんだろうけど。

 しかし気になるのは俺の右隣。ついさっきまでゆる~い空気を醸し出していた水無月が、研究室に入ってからというもの妙にピリピリしてる……気がする。

 

「そういや立華と水瀬は?」

 

「卯衣は不参加よ」

 

「薫子も留守番だ。会長と副会長が不用意に学園から離れるのはよくないからな」

 

 生徒会とは一体……って、ここの生徒会は学園の自治を任されてるんだったっけ。生徒にそんな権限を与えてるってやべーよな。それだけ生徒会に選ばれる人間は能力的に優秀かつ人間性にも優れてるってことだろうけど。

 まあそれはさて置き。

 

「それでこれからどうすんだ?」

 

「ここにいるメンバーで魔物の討伐に向かう」

 

「クエストの発令ではなくあくまでも討伐……討伐強化期間の宣言でもするのかな?」

 

「そうでもしないと会長や東雲アイラを同時に出動させる理由がない」

 

「それでも大げさすぎると思うけれど」

 

「面倒なことじゃの……だがまあ新しい転校生の力が気になるのは確かじゃ」

 

 ……え、誰もあの銀髪少女の喋り方に突っ込まないの?

 たまらず小声で水無月に話しかける。

 

「なあ水無月、あの女の子は何者なんだ?」

 

「ああ、東雲(しののめ)さんですか」

 

「ふっふっふっ、妾のことが気になるのか?少年よ」

 

 聞こえていたのか東雲というらしい少女が会話に割り込んできた。

 見た目に反する大仰な話し方だが、なかなか堂に入っている。

 

「妾は東雲アイラ。300年以上の時を生きる悪の吸血鬼じゃ。この愛らしい容姿に騙されて近付いてくればちゅーちゅーと血を吸うてしまうぞ?」

 

 吸血鬼、ね。言われてみれば雰囲気がなんとなく“彼女”に似ているような気がしないでもない。あの吸血鬼も幼い見た目に反して尊大な態度だったけど、それに相応しい実力を有していたな。

 東雲もあんな感じなんだろうか。

 

「なるほど。『愛らしい』から『アイラ』、と……」

 

「おい待てい、妾の名前をそんな駄洒落チックに曲解するな!」

 

「そんなに恥ずかしがるなよしのの……アイラちゃん」

 

「今妾のことを子ども扱いしたな?絶対子ども扱いしただろう!?」

 

 ぷんすかと怒る様は見た目通りの幼さ。彼女をこんな風にからかったら次の瞬間にはズタズタに切り裂かれるだろうな。そういう意味じゃ東雲は優しいのかもしれない。

 ……殺されないから優しいって感覚が当たり前になってるのはちょいとヤバい気もするが。そして何より、どうして俺は意味もなく危ない橋を渡ってんだろう。

 

 しかしようやく面子が分かってきたな。

 魔導研究の権威である宍戸に、学園の生徒会長を務める武田、風紀委員長の水無月に報道部の部長、つまりは学園内に流れる情報をある程度コントロールできる遊佐。

 この中に入ってるくらいだから東雲が吸血鬼だっていうのもただの自称ってことはなさそうだ。

 

「よし、では行くか!」

 

 武田の号令をきっかけに6人で学園を出る。向かったのは初クエストで訪れた山道のさらに奥だった。

 一応本当に霧が濃くなっている場所らしく、普段より多めの魔物が出現する可能性があるらしい。霧が濃くなるという現象は不定期ながらあるようで、そうなると学園は討伐強化期間を宣言し、学園生総出で魔物討伐が行われるのだとか。

 不謹慎な言い方だが、今回は検証にちょうどいいタイミングで霧が濃くなってくれてよかったな。

 

「……それにしても」

 

 周囲を警戒しつつ魔物を捜索していると、不意に遊佐が言葉を漏らした。

 ついでにさっきから俺をずっと凝視してくるので結構居心地が悪かったりする。

 

「君の衣装はあまりにも普通だね」

 

「この学ランか?俺もそう思うが、勝手にこれになったしな」

 

「何か思い入れが?」

 

「全くない」

 

 前の高校もブレザーだったし。かといって中学時代の学ランに似ているわけでもない。

 他のみんなが結構派手な衣装だけに、コスプレ集団の中にいる一般人みたいな浮き方してるんだが。

 あとやっぱ水無月は露出多くね?ミニスカガーターはまだいいとして、脇から背中にかけてほぼ布なし。杖は持ってるから1番魔法少女らしいっちゃらしいけど。

 

「水無月君に熱い視線を飛ばしてどうしたんだい?」

 

「なんか水無月の様子がおかしいような気がしてな」

 

 まあ今日初めて会った相手なのであれが普通なのかもしれないが、研究室に入る前と後じゃ明らかに雰囲気が違う。感じるのは緩さじゃなく鋭さだ。

 

「それは僕のせいかもしれないね」

 

「遊佐の?」

 

「……ウチと遊佐鳴子は敵対関係ですからねー」

 

「……ああ、そういうこと」

 

 俺と遊佐の会話を聞いていたらしく、水無月がそんな言葉をこぼした。

 岸田も苦手そうにしてたし風紀委員と報道部って仲悪いんだな。

 

「さらに言うと生徒会も報道部や風紀委員に因縁がある」

 

「そして遊佐鳴子、お主自身は妾や宍戸ともあまり良好な関係にあるとは言えんしのう」

 

「人間関係ギスギスしまくりじゃねーか」

 

 能力の検証だと思ってたらとんだ修羅場に放り込まれてるっていうね。勘弁してくれ。

 

「思うところは多いかもしれないけれど今回に関しては協力してほしい。もしかすると霧の魔物との戦いに大きな革命が起きるかもしれない」

 

「まあその件はすでに了承済みだから構わないけど」

 

「しかしそれほどの力をこの少年が持っている、とな?」

 

「それを確かめるための検証よ。私もまだこの目で見たわけじゃない」

 

「だが実証できれば魔物との戦いにおける切り札ができる」

 

 全員の視線が俺に集中する。

 これだけ期待させておいてダメでしたー、なんてなったら目も当てられないな。

 

「もったいぶらずに言え。この少年に何ができる?」

 

「……彼は魔物を殺せる。文字通り、霧に戻すこともなく」

 

「なんじゃと?」

 

「……確かにそれが本当なら革命と言って差し支えねーですね」

 

「そして同時に危険でもある。それだけの力を有していると知られれば彼を狙う人間も現れるだろうね」

 

「だからこそ魔法学園が誇る最大戦力で彼を守る必要がある。彼の情報と命を」

 

 改めて言葉にされると女子達に守られる男って情けない構図だよな。まあ女子というか魔法学園って組織に守られるってことだけど。組織の主要人物が女子揃いだったってだけで。

 

「まあそれも俺の力が本当に有効ならの話だけどな」

 

「何を言う。そうでなくとも桐原はすでに魔法学園の生徒だ。そうである以上アタシが全力を賭して守ってみせるぞ」

 

「かっこよすぎるだろ。男の立つ瀬がねーわ」

 

「ははは!それが嫌なら桐原も強くなれ!」

 

 武田が豪快に笑う。

 幸い、強くなるだけのアテはあるしそうするしかないな。強くなるまで安眠とはおさらばだが、厳しい環境で生き抜いていくにはそれが1番手っ取り早い。

 ああでも2日連続で雷帝はやだな。

 

「……静かに。魔物がいるわ」

 

 俺が今夜の夢を憂いていると、宍戸のその一言で全員の空気が一変した。この切り替えの速さはさすが学園屈指の実力者ってところだな。

 さて、肝心の魔物とやらはどこだ?

 

「あれは……人面樹だっけか」

 

 この前神凪とのクエストで戦ったな。不用意に直死の魔眼を使うのは宍戸に止められてるからデバイスで魔法を使う練習がてら倒したけど。

 でもクエストの時と比べてデカいような?

 

「周囲に他の魔物の気配はない。ここにいるのはあれだけね」

 

「ということらしいが行けるか?桐原」

 

「それはアイツを“殺してこい”ってことでいいんだよな?」

 

「そう。あなたの力を証明してみせて」

 

 意識を集中させる。そうすると視界に死線が浮かび上がってきた。

 それは人面樹にもしっかりと刻まれている。これならまあ大丈夫だろう。

 

「了解。行ってくる」

 

「1人で平気か?怖いなら妾がついて行ってやってもよいぞ?」

 

「心配ご無用。ここで魔物の解体ショーを鑑賞しててくれ」

 

 むしろちゃんと見ててもらわないと困るしな。どうせすぐ終わる。

 右手にトレースしたナイフを握り、俺は瞬時に魔物との距離を詰めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドン、という地響きと共に転校生――桐原修二の姿が消える。一瞬遅れてそれが彼の踏み込みによるものだと理解すると同時に、魔法使いに覚醒した自分の目でも追うことができなかった事実に驚嘆するしかなかった。

 自分の実力を過信するわけじゃねーですが、ウチは魔法学園に在籍して6年目。それなり以上に経験は積んでます。

 虎や生天目(なばため)つかさ、そして恐らく東雲さんには及ばないでしょーが、それでも学園内でならトップクラスの強さを誇ってる自負はあります。

 そんなウチが、攻撃ならまだしも移動する姿すら捉えられなかった。とーぜん、そんなことは初めてですよ。

 

「何!?」

 

「速い……!」

 

 学園内どころか学外の魔法使いと比較しても突出した戦闘能力を誇るでしょー虎と東雲さんが驚愕の声を上げる。それだけで桐原の実力が知れるってもんです。

 確かに魔法使いとして覚醒した人間はその身体能力が格段に上昇する。ウチのよーなか弱い乙女でも、プロの格闘家程度なら軽く制圧できるくらいには。魔法使いとそーではない人間にはそれほどまで隔絶した力の差がある。

 ならそんな魔法使いでさえ見失ってしまうよーな桐原は一体……。

 

 思わずそんなことを考えてしまいましたが、人面樹の上げた悍ましい悲鳴によって思考に沈みかけた意識が現実へと引っ張り戻される。

 見れば人面樹は左右の枝を全て切り落とされ、残るは顔のある幹だけ。その人面樹と対峙する桐原の右手には小さなナイフが1つ。

 

「……まさか魔法を使わず、ナイフ1本であんな芸当をやってのけたってゆーんですか?」

 

「速すぎて攻撃をした瞬間が分からなかったから断言はできないけれど」

 

「いいや、桐原は間違いなくあのナイフで切りつけていた」

 

「ほう、お主も見えていたか」

 

「……辛うじて、な。戦った時に反応できるかといえば別の話になる」

 

 学園生最強と名高い、近接戦闘において類い稀なる力を発揮する虎が、彼女の土俵において敗北する可能性を示唆する。魔法を用いず単純な身体能力とナイフ1本で虎を追い詰めるなんて信じ難いことですが。

 その桐原は激昂しているだろう人面樹に、今度はゆっくりと歩み寄る。そんな彼に噛みつこうとした人面樹が桐原に向かって突進し、次の瞬間にはバラバラになって朽ち落ちた。

 今度こそ本当に何が起きたのか分かりません。まるで途中のページが抜け落ちた漫画のよーに、中間がなく突然結果だけが現れたんじゃないかと錯覚してしまうほどの早業。桐原はいつ人面樹を攻撃したんでしょーかね。

 

「……会長、今のは見えたかい?」

 

「……分かって聞いてるだろう、遊佐。攻撃の起点も終了も全く見えなかった」

 

「うぐぐ……」

 

 虎が白旗を上げ、東雲さんは悔しそうに唸っている。たぶん彼女の目にもウチが見たのと似たよーな光景が映ったんでしょーね。

 はっきり言って異常です。いくら身体能力が向上したといってもあんな動きがそう簡単にできるはずねーですし、ましてや魔法を使わず接近戦で魔物を倒すには相応の技術や経験が求められる。

 桐原はそれを高い水準で備えてるとしか思えません。ついこの間まで一般人だったはずの桐原がどこでそんなものを身に付けたんでしょーかね?

 

「……やはり死体は霧に戻らない。彼の力は本物。あの能力のメカニズムを解明できれば……」

 

 宍戸結希にしては珍しく力のこもった声。

 まああれだけのものを見せられれば研究者としての血が疼くってのも分からなくはねーんですけど。

 魔物を殺せる能力に、それを行使できるだけの力を培った実力。ウチは風紀委員ですからね。性善説で人を信用できません。だってもし彼が学園に牙を剥けば、虎や東雲さんすら凌駕しかねないわけですから。

 桐原修二……ちょーっと、危険、ですね?

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。