風飛に降り立つは   作:晴貴

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7話 秘密

 

 

 結果から言うと検証はおおむね成功した。あの後も何体か魔物を解体し、直死の魔眼で完全に殺せることはほぼ確定したと言っていい。

 肩の荷も降りたってなもんである。

 

 しかしそんな感じでウキウキの俺とは正反対に、他の5人は口数が減り、それぞれがなにかを考え込んでいるのか空気が重い。まさか俺が気付かない内に人間関係の爆弾が爆発したのか?

 この先待ち受けているかもしれない泥沼展開を想像して戦々恐々としながら、それでもなんとか学園に生還する。

 魔物との戦いよりも仲間との集団行動の方が精神削れるってどういうことだよ。

 

 学園に到着し一刻もその場を離れたいがそうは問屋が卸さなかった。

 場所を宍戸の研究室に移し、とりあえず本日の苦労を武田が労う。

 

「みんな、ご苦労だった。だがその分得られたものは大きい。今回の検証は大成功だったと言えるだろう」

 

 腕組みをし、ウムウムと頷く武田。それによりむにゅりと形を変える豊満な胸部装甲に思わず目が行きそうになるのを堪える。

 水無月に連行されかねないからな。

 

「それであの力は一体何なんじゃ?」

 

 東雲がそう切り出し、今日何度目かの視線集中。それに応えるように俺は直死の魔眼について説明する。

 といっても前回宍戸達に話した内容の焼き増しだが。すでに魔物を殺して能力は証明してるのでデモンストレーションは省いた。

 

「如何なる者でも殺す力、『直死の魔眼』か……にわかには信じがたい話だけど」

 

「あれを見せられたからには信じるしかねーですよ」

 

「まあそうだね」

 

「して、少年のそれは魔法なのか?」

 

「魔法使いに覚醒した時に目覚めた力だから無関係ってことはないと思うけど」

 

「その辺りも能力を調べながら解析していくわ」

 

「しかし宍戸の判断は正解だったな。大当たりを引いた」

 

 大当たりかはともかく手を回して俺を科研から救ってくれたって言ってたもんな。

 その恩を返すならこれくらい軽い軽い。

 

「ええ、結果として魔物の死体のサンプルも手に入った。あなたの能力と魔物の構造、どちらとも詳しく調べることができる」

 

「確かにあれなら魔物の死体なんぞいくらでも用意できそうじゃな」

 

「けど普段のクエストではあまりしない方がいーでしょーね。誰がどこから見てるか分かりませんし」

 

「つまり他の学園生にも内緒、と」

 

「それが賢明ね。科研にその能力が露見すればどんな強硬手段に出るか分からないわ」

 

 こえーな。どんだけ危ない組織なんだよ科研って。

 魔物が霧に戻って復活するってんなら直死の魔眼で完全に殺した方がいいんだろうけど、それで俺自身が危険な目に遭うのは避けたいな。いやまあ魔物と戦うこと自体かなり危険ではあるけど。

 でも夢の世界に出てくる連中の方が遥かに恐ろしすぎてこっちでの恐怖や危機感が麻痺ってきてるんだよなぁ。

 

「ちょっといいかい?」

 

 話も一段落しようかという頃合いを見計らって、遊佐が声を上げた。

 

「桐原君の能力がどういったもので、これからの方針も承知した。そこでもう1つ明らかにしておきたいことがある」

 

「なんだ?」

 

「すばり君の強さの秘密さ。魔物をナイフで倒した際の体術は普通じゃなかった。魔法使いに覚醒したというだけじゃ説明ができないほどにね」

 

 遊佐のその言葉で研究室が静まり返る。この反応……もしかして全員がそれについて不思議に思ってたってことか?

 つーか俺までこうして押し黙ってたら何かあるって言ってるようなもんだよな。おまけに魔法使いに覚醒したからって言い訳は潰されてるし、なんて答えりゃいいんだよ……。

 

「……珍しいな、遊佐。お前がそこまで単刀直入に聞くとは」

 

「僕としても自力で尻尾を掴みたいんだけどね。白状するけど、桐原君が転入してくる前から君が何をしたのかは僕も見当がついていた」

 

 マジかよ……。

 宍戸の話ぶりからするに結構なトップシークレット感あったけどな。それをどうして一学園生の遊佐が知ってたんだ?もしかして現場にいたとか?

 なんて驚きつつ周囲を窺ってみれば、誰も遊佐の発言に反応していなかった。それがさも当然であるかのように次の言葉を待っている。

 

「だからすぐ調べ始めたよ。君がどんな人間で、どんな人生を歩んできたのか」

 

「俺のプライバシー……」

 

「遊佐鳴子にそんなものを期待するのは無意味です。目をつけられたことを恨んでくだせー」

 

「やれやれ、ひどい言われようだ」

 

 まあ言い返せないんだけど、と肩をすくめる遊佐。

 言い返せないんかい。せめて漏洩だけはしてくれるなよ。

 

「というわけで君の経歴を徹底的に洗った。その上で僕が出したのは『何の変哲もない一般的な学生』という結論さ……だけど実際は違った」

 

 そりゃそうだろう。遊佐の答えは本来なら正解だ。俺はあの日、魔物に襲われるまではごく普通の、どこにでもいる高校生だったわけだからな。

 それが魔法使いに覚醒した途端、夢の世界でスパルタを超えた鬼教官達に死んでも(・・・・)扱かれ続け、短期間でありえないくらい戦闘能力が上昇したわけで。

 

 いかに遊佐が凄腕の報道ウーマンだったとしても俺の夢を覗き見れるわけでもないし、ましてや発想を飛躍させてもこの答えにはたどり着けないだろう。

 それができたら魔法使いでも記者でもなく、超能力者にカテゴリされるべきだな。

 

「そんなはずはないと分かっているのに、揃えた材料から導き出される答えはそれしかなかった。どう考えてもアンバランスだ。君の強さのは秘密は何なんだい?桐原君」

 

 ……えーっと、これ、釈明しなきゃいけない感じ?

 いや、遊佐を始め、この場のみんなが俺の強さに不信感を覚えてるのは納得できる。納得できるんだけどさ……。

 

『魔法使いに覚醒したら毎晩夢に魔物より強い人達が出てきて彼らと戦っている内に俺も強くなりました』

 

 ……ないな。この説明はないって。

 明らかな嘘で誤魔化そうとしてるって思われるか、絶賛中二病の痛い奴だと憐れまれるのがオチだ。

 今さら秘密なんて何もないとはぐらかすのはムリ、かと言って正直に話すのも気が引ける。

 だから俺が出した答えは――

 

「悪い。それは言えねぇわ」

 

 嘘をつくわけでもなく、白状するわけでもない。真っ向からの拒否だった。

 その答えに研究室の空気がさらにピリつく。

 ……そりゃこうなるよな。ああ空気が重い、視線が痛い。針の(むしろ)ってのはこのことか。

 

「言えない……というのはつまり、アタシ達に隠さなければいけない理由があると?」

 

「ああ、そうだな。そしてそれを打ち明けることはできない……今はまだ」

 

 せめて俺の覚悟が決まるまでは時間がほしいところである。

 

「それで『はい分かりました』と言える内容ではないんだがな……」

 

「承知の上だ。何もずっと隠してるつもりはない。もう少し時間をくれってことだよ」

 

 俺の言葉をどう受け取っているのかは分からない。

 ただ今の内に思ってることを全部吐き出してしまおうと口を動かす。

 

「頼むよ、パーソナルな問題なんだ。お前らだってまだ親しくない相手に何でもかんでも個人的な話を打ち明けられないだろ?」

 

 あくまでも一般論を叩きつける。せめてもの抵抗だ。

 こいつらは俺の抱えてる秘密が学園に害を成すかどうかを疑ってんだろうし、そこまで大袈裟なもんじゃないって印象付けをするしかない。

 まあそれだけで信じてくれるとは思わんが。

 

「ま、少年に一理ありじゃな。疑わしきを罰するというなら話は変わってくるがの」

 

 そう言って俺に味方してくれたのは東雲だった。俺が言えたことじゃないが良心を呵責させる言葉選びだな。

 そして次に俺の側に立ってくれたのは、意外なことに言い出しっぺの遊佐だった。

 

「そういうことならしかたない。無理に聞き出すのは野暮ってものだ」

 

「遊佐がそれを言うのか……」

 

「意外かい?僕は君の謎を知りたいだけで疑ってたり敵対しようってわけじゃないからね。いずれ話してくれるというなら無理強いはしないよ」

 

 飄々としてるというか、なんというか……。毒気を抜かれる言動だった。

 タイプは違えど緩さで相手の油断を誘う水無月と似てるかもしれん。

 

「はあ、しかたない……桐原」

 

「なんだ?」

 

「これだけは教えてくれ。お前が抱えている秘密……それは学園に脅威をもたらすものか?」

 

「いいや、それはない」

 

 そこに関してはきっぱりと言い切れる。何かあるとすれば俺の身に、だろうしな。

 寝起きが悪いとか、寝不足になるとか、トラウマができるとか、そんな感じの。

 

「そうか……ならば生徒会長としてアタシはその言葉を信じることにしよう」

 

「……助かる」

 

 たとえ暫定的だったとしても武田の判断はありがたい。

 水無月は少し不満そうだが、ここで口を挟む様子はなかった。まあ風紀委員だし気にはなるんだろうけど。

 

「ところで桐原君。君はさっき『親密な仲じゃないからまだ話せない』と言ったね?」

 

 話が落ち着こうとしたところで再び遊佐が、今度はニヤニヤしながら話しかけてきた。

 なんとなーく嫌な予感がする。

 

「まあ意訳すればそんなところだけど」

 

「つまり親密に、仲良くなれば話してくれるということだ。さあ君はこの中の誰と仲良くなりたいかな?僕を選んでくれると嬉しいんだけどね」

 

 とんでもないこと言い出したぞこいつ。

 そもそもなんでここのメンツ限定……ああ、そうか。あれを説明するには直死の魔眼について知ってる奴じゃないとダメだから話せる人間は絞られるんだった。

 一応南、水瀬、立華も当てはまるけど、この場にいない人間の名前を上げても向こうが困るか。

 

「面白そうな話じゃのう。少年よ、妾を見初めたなら素直に申してよいぞ?なに、これでも300年は生きとるからロリコン呼ばわりされる心配はいらんしの」

 

「実年齢関係ない見た目してなに言ってやがる」

 

 お前どこ行っても小学生料金で通用するぞ。本当に300歳だとしても端から見たらロリコン確定だろ。

 つーか見初めるとか話変わってない?絶対面白がってるだけじゃねーか。

 

「話はもう終わりね。私は採取したサンプルの解析に入るわ」

 

「宍戸は辞退か。ではアタシはどうだ?ちょうど手合わせを願いたかったところだ」

 

 我関せずで席を立つ宍戸と、右の拳で左の手のひらをバシバシと叩く武田。

 なにがちょうどなのか分からん。手合わせすれば親密になれるってどんなバトル脳だよ。

 

「……助けて水無月。こいつらちょっと怖いんだけど」

 

「はあ、しかたねーですね……」

 

 俺は善良な生徒の味方である風紀委員の水無月に助けを求める。

 やれやれとため息を吐きながら、それでも武田達を鎮めてくれたその背中は、小さいが頼もしく見えた。

 

 

 

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