ふよふよと頼りなく漂う桜色の光弾。その数は8つ。
授業の合間をぬって絶賛アクセルシューターの練習中なのだが、マルチタスクでの個別操作はなかなか上達しない。あの少女は32個を手足のように扱ってたのになぁ。
俺も数を減らせばだいたい思い通りの速さと軌道で操作できるようにはなってきたが、目標はその数倍だと考えると途方もねぇ。
なにも考えず直線的に撃つだけなら100でも200でも簡単なんだけど、弾幕として考えるなら吸血鬼幼女が使ってくるスペルカードなるものを習得する方が早いし効果も高い気がする。
「アンタ、さっきから何やってんの?」
「魔法の練習」
背後からかけられた声に振り返ることもなく返答する。
顔を見なくても誰か分かる。声の主は
ほとんど毎日訓練所に来てるから顔を出せば確実に対面せざるを得ない。事あるごとに勝負だ勝負だとうるさいのが致命的にめんどくさい少女である。
「数を出せてもそんなに遅かったら意味ないわよ。魔物だって避けたりするんだから」
「……まあ実戦じゃ使えないわな」
しかもこれ、魔物より対人戦の方が向いてる気がすんだよな。魔物と戦う場合そこまで細やかな指示は必要ないし、迎撃・防空能力なんてなくても戦うのには困らない。
じゃあなんでわざわざアクセルシューターを練習してるのかと言えば、単に魔法そのものに慣れるためだ。
夢の世界で学ぶ技の数々の中ではあの少女が1番魔法使いに近いからな。
昨日の夢なんて執事服を着た金髪のおっさんにジェノサイドカッターとかいう蹴り技でボコボコにされた挙げ句画面端に叩きつけられたし。
……いや、画面端とか自分で言っててもおかしいとは思うんだけど本当に叩きつけられたんだからしかたない。もう何でもありかよ、あの世界。
つーか『気を纏って戦え』とか言ってたし完全に魔法じゃねぇじゃん。
「って、そんなことより今日こそツクと勝負しなさい!」
「またか……なんでそこまで俺と勝負したいんだ?」
「アンタ、『人類の希望』って呼ばれてるんでしょ?ツクは精鋭部隊の一員としてアンタを倒して強さを証明したいの!」
迷惑千万なんだけど。そしてその名で俺を呼ぶんじゃない。背筋がゾワゾワするだろうが。
「俺に勝っても箔はつかねぇぞ」
アホみたいな魔力量のせいで人類の希望なんて呼ばれてるが、たぶん
だって俺、覚醒してまだ1ヶ月かそこらだぞ?魔法使いとしての実力なんてカスみたいなもんだ。
「いいから勝負しなさい!」
ええい、このわがままっ子め。周囲を見回してもいつもなら止めてくれるアメディックの姿もない。
俺が言っても聞かないだろうし、このまま勝負勝負と粘られるのも疲れるだけだ。
「ああもう分かったよ。勝負してやるから騒ぐなって」
結局俺は折れた。守谷は喜色満面で「覚悟しなさい!」とか言ってるが、やるとなったら簡単に負けてやる気もない。
「で、勝負ってなにをするんだ?」
「もちろん対抗戦よ!……って言いたいけどメンバー足りないし模擬戦でいいわ」
「模擬戦?」
「対抗戦の練習みたいなもの。5対5のチームを作らないでもできるのよ」
そういうものがあるらしく、今回は俺と守谷の1対1で戦うことになった。気絶または降参した方が負けとのこと。
……気絶って結構エグい決着のつけ方だな。
そんなことを考えながら、訓練所に隣接されている屋外の模擬戦場までやって来る。
「さあ、行くわよ!」
勝ち気な顔の守谷は余計な言葉もなく、準備が整うと早速仕掛けてきた。
守谷の周囲の風が逆巻く。お、スカートがきわどい。
……なんて不埒な視線を送る間もなく、竜巻が唸りを上げて襲いかかってきた。とりあえず後退して回避。そんな動きを2度、3度と繰り返す。
「避けるのは得意みたいね!」
「当たったら痛そうだしな」
果たして直撃した場合、痛いだけで済むのか?いくら回復魔法があるとはいえ血を流すのは嫌だ。
だからといって竜巻を直死の魔眼で破壊するのは難しい。少数の学園生とはいえ、周囲の目がある状況ってことに変わりはないからな。
さてどうしようか。
「今よ!」
何度目かの回避の直後、守谷が
思わず「あぶね!」という声が漏れた。すんでのところで避けたが、それこそが守谷の狙いだったらしい。
そう理解したのは俺の回避地点めがけて、圧縮された空気の衝撃砲が放たれていたからだ。どうやら動きを誘導されてたみたいだな。
さすが軍師を志しているだけはある。
模擬戦中だってのに妙なことに納得する俺の眼前で、絶対に逃がさんとばかりに風弾が炸裂し、周囲もろとも飲み込まんと衝撃波をばら撒いた。
その余波で土煙が舞い上がり視界が塞がる。
……これが模擬戦で使う魔法の威力かよ。もし“直撃したら”どうすんだっつーの。
「勝負ありかしら」
姿は見えないが声だけでも勝ち誇っている顔が目に浮かぶな。ふふん、とか笑ってそう。
だが残念。俺は未だ健在、かすり傷ひとつ負ってない。こっちもそろそろ反撃といくか。
土煙を払うように右手を無造作に振るう。それだけで土煙は一気晴れた。
もちろん腕を振った風圧で……というわけではなく、単に魔力を放出して一掃しただけだ。
「え……な、なんで!?」
「なんでもなにも、防いだだけだ」
「くっ……!」
顔をしかめ、再び攻撃を仕掛けてくる守谷。それに対し俺は右手を突き出す。
「『プロテクション』」
迫る竜巻を弾き返す。弾かれたそれは他の竜巻と衝突して相殺された。
狙ったわけじゃないがきれいに片付いたな。
「ちょっと、なにそれ……!?」
「バリア」
守谷の問いかけに至極端的に答える。
触れたものに反応し、対象を弾き飛ばすという性質を持つ優れものだ。魔法だけじゃなくて物理攻撃も防げる。
……これのおかげで俺の攻撃は夢の少女にさっぱり通らないわけだけれども。あの子のプロテクションとかラウンドシールド硬すぎんよ。
「そんじゃまあ、次は俺の番だ」
アクセルシューター……だと少し威力が高すぎるので、その代わりにディバインシューターを展開する。
数は8つ。今の俺が操作できる最大数だ。アクセルシューターと比べて威力は劣るが、動きながらの射出と制御が可能なので操作性には優れている。
攻撃と牽制を混ぜつつ、その合間にディバインシューターを守谷が逃げるところに先回りさせて動きを制限する。さっきの意趣返しだ。
時たま反撃してくるが操作性に優れるディバインシューターなら守谷の攻撃をすいすいと躱して肉薄していく。俺に向かってくるやつは避けるか、余ってるディバインシューターで撃墜して近寄らせない。
「何よこの魔法!さっきは全然遅かったのに……!」
「あれとは別物だよ。こっちはそう避けられないだろ?」
見た目似てるから勘違いするのもしかたない。
まあアクセルシューターも4つまでなら同じくらい制御はできるんだけど、その数じゃ固定砲台化するには心許ないからなぁ。
それにしても……。
「きゃあ!」
「……」
「わっ、ひゃう!」
「………」
「うぅぅぅ……」
「…………」
わたわたと逃げ惑う守谷が非常に愛らしい。小動物を彷彿とさせる。
しかしアイツ、頭は切れるのかもしれないけど運動神経はねぇな。鈍重とまでは言わないが体の動かし方が
なんて眺めながら守谷を逃げ場のない模擬戦場のコーナーまで追い込む。
「もう逃げられねぇぞ」
「うぅ~……!」
唸ってると小型犬に見えてくる。精一杯敵対心を露にしてるチワワ的な。
対して俺は余裕の笑みを浮かべている。気分はさながら獲物を追い詰めた捕食者だった。
「……とはいえ無抵抗の相手を攻撃するのは気が引ける。降参してくんない?」
「……嫌」
「そう言わずに」
「嫌ったら嫌なの!」
負けず嫌いめ……。まあディバインシューターをはじめあの子の魔法には『非殺傷設定』なるものがあって、今の俺もその設定だから万が一にも怪我することはないだろうけど。
だからってなぁ、さすがに涙目の女の子を攻撃するのは……。
「……ツクは精鋭部隊の一員なの。まだ新米で弱いかもしれないけど……」
守谷は涙を目の端に湛えながら、それでも気丈に俺をキッと睨みつけた。
いい目だな、と素直にそう思う。
「でもだからこそ勝つのを諦めるなんて嫌!ツクは1人でも戦況をひっくり返せるような、そんな軍師になりたいの!」
精鋭部隊がどんなものなのか俺には分からないが、守谷にとっちゃこれほど真剣になれるくらい誇れるもんなんだろう。
なにを言っても降参してくれそうにない。
意地っ張りめ。
はあ、とため息をひとつ吐き出す。頭をガシガシと掻いてから、俺は展開していたディバインシューターを消した。
そして両手を上げる。
「降参」
「……はあ!?」
なに言ってんだこいつ、みたいな顔をされる。
圧倒的に有利な立場の方が降参したらそりゃそんな顔にもなるわな。
「なんでアンタが降参するのよ……情けでもかけたつもり?」
「ちげーよ」
「じゃあなんで!」
「俺は負けた。お前の心の強さにな」
「……ツクの、心の強さ?」
「ああ」
陳腐な言葉かもしれないが、諦めない気持ちとかそういうやつだ。
それはあの日の走馬灯で垣間見た彼らの記憶、そして胸の内に強く灯ってた光でもある。
さっきの目を見て、俺には彼らと守谷の姿がダブったような気がした。
「……俺もさ、もっと強くなりたいと思ってんだ」
守谷がどうかは分からないが、俺は自分本意、強制される霧の魔物との戦いに生き残るために強さを目指している。
その最終目標は夢の世界の彼らに勝てるくらいの強さ……だった。
「でも世の中上には上がいる。呆れるくらいの高みにいて挑むのもアホらしくなるような奴らがさ」
「それは……」
守谷にも思い当たる節があるのか、なにか言葉を出しかけて押し黙る。
もしかしたらお互いに高い目標を抱えてるのかもしれない。
「そんで、最近の俺はどっかで諦めてたような気がするんだよ。そこまで強くなれるわけがない、強くなる必要はないってさ」
週5のペースで手も足も出ずにボコボコにされてりゃ気付かない内に気持ちが下を向くなんて当たり前っちゃそうかもしれんが。
ただ、そうなってることを自覚できないでいれば成長なんてすぐ頭打ちになるはずだ。
「けどさっきの守谷の目を見て強くなろうって決意した時のこと思い出したよ。その気持ちは俺が失いかけてたもので、それをお前が思い出させてくれた」
だから俺の負けだ。
そう言って変身を解除し、守谷の頭をポンポンと軽く叩いた。なんでか知らんが泣きそうな顔してたからな。
しかし守谷は俯いたまま無反応だった。ちょーっとばかし気まずい。
痺れを切らして今度は少し乱暴に守谷の頭を撫で回した。
「わわっ!な、何するのよ?」
「……納得できないならまた勝負しにこい」
「え……?」
「俺も強くなるからさ。一緒にがんばってこーぜ」
俺もまだまだ発展途上の魔法使いだからな。
実力だけじゃなく知識だって足りてないんだから守谷以上に努力せにゃならん立場だ。
「……ふ、ふん!今日はそういうことにしといてあげる!」
守谷は拗ねたようにそっぽを向く。まあ元気そうになったからいいか。
「俺はそろそろ行くわ。じゃあな、守谷」
「え、もう……?」
「このあとまだ授業が残ってるからな」
守谷の熱意に押されて模擬戦したけど、最初は授業の間に軽く訓練するだけのつもりだったわけで。
そろそろ切り上げないと次の授業に遅れそうな時間なんだよ。
「ね、ねえ!」
「ん?」
「明日も来る?訓練所」
「まあ気が向いたら」
魔物相手に試したいこともあるからクエストも捨てがたい。
クエストは基本的に人気がない場所だから、油断こそできないけど気持ちは楽なんだよな。
「そう……つ、次は負けないからね!絶対勝つんだから!」
「はいはい」
つーか今日は引き分けってことでいいと思うんだけど。
俺と守谷の始めての模擬戦はお互いが自分の負けを認めるという、なんとも言えない結果で終わったのだった。
執事服を着た金髪のおっさんに~
【ヒューム・ヘルシング】『真剣で私に恋しなさい!』シリーズ
√によってはラスボスとなる九鬼従者部隊の零番。
生身で宇宙空間に飛び出して戦闘可能。そのまま大気圏に突入し燃え尽きることもなく地表に墜落するも、体が丈夫すぎて死ねなかった。
某格闘ゲームのキャラと類似点が非常に多い。