ヤンデレなんてロクなもんじゃねぇ   作:Re:クロバ

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第6話:『勇気の合言葉』

旧友との再開に心躍らせ、今までの敬語を止めて親しげに話そうとすると、ダイヤの声に遮られる。

 

「カイザー!?何年も会わないうちに堕ちてしまったのですかッ!?授業中に居眠りするような人じゃあないでしょう貴方は!?」

 

「ちょ、ちょっと!ここバスん中だか……「今はそんなのどうでもいいですわ!」

 

どうでもよくないことないだろ。

 

俺が幼なじみと分かった途端、余計にダイヤが俺に詰め寄ってきた。

 

説教、説教、説教のオンパレード。耳が痛い。

 

ーーバスはまだ走る。

 

 

 

 

「いいですか?明日、生徒会室へ来るように。私が責任を持って貴方を更生させてあげますので」

 

「いや、いいよ。そんなん、別に」

 

「はァ!?」

 

「……行きます、明日」

 

「それで結構」

 

こいつ、こんな威圧的だったっけ!?俺のかすかに残っている過去の記憶の中のダイヤはいつから、こんな堅物で、攻撃的になったんだ!?

 

バスを降りていく幼なじみの背を見届けながら、そんなことを考えているとバスが出発。

 

ーー今日は色々あったな。

 

ズラ丸との再会。依然として毒舌は変わらず。

ダイヤとの再会。あの変わりっぷりには驚いた。

 

俺のぼんやりとした思考と共にバスは宵闇を走り抜ける。

 

すると、プーッと音が鳴りバス停に到着。

 

ーーあと、1つで沼津だな。

 

ちらほらと増えだした街頭と、辺りの活気。

先ほどまでの内浦の物寂しさとは正反対だ。

 

その時だった。

 

ガタガタと物音を立てながら、誰かが乗車してきた。

 

その人は目深にフードを被り、サングラス、マスクといった、まるで不審者のような格好をしている。

 

その怪しい人は俺の後ろの座席に座り、そのまま無言でいる。

 

ちらりとそちらを見た後、何か見ては行けないような気がして、バッと前へ向く。

 

そして、バスは出発。

 

沼津へはそこまで距離がないはずなのに、俺には無限に感じられた。

 

ーーどうしたんだよ俺ッ!?後ろの人は全くの初対面だろ!?何をビクついてんだ!?

 

しかし、心臓は俺の意思を無視して、鼓動を速めるばかり。なかなか、不親切な心臓だ。

 

とりあえず意識を逸らすためにカバンに手を突っ込む。

 

あ、そういえば………

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

時は遡り、5時間目後の休み時間。

再び俺は、暇つぶしにズラ丸のいる図書室に訪れた。

 

「おっす。なんかオススメある?」

 

「あ、これなんかどう?」

 

「ん?普通の小説か、なになに……『恋なじみ』?センス無さそうなタイトルだな、おい」

 

「そんなことないずら!それは数年ぶりに出会った幼なじみが、お互いに想い合っていくっていうらぶすとぉりぃずら!」

 

「ありきたりじゃねぇか。…で、面白いん?これ」

 

「人によるずら」

 

「そんな不安要素たっぷりの本を推すんじゃねぇよ……ま、読むの無かったから借りてくけど」

 

「じゃあ、はい」

 

「……いや、ほら。ピッてしろよ。ピッて」

 

「それマルの私物ずら」

 

「うぉい。…別に、いいけど。じゃ、借りてくぞー」

 

「りょーかいずら……っていうか、カイザーくん。マルがどういう意図でソレ渡したか分かってるのかなぁ?」

 

「何か言った?」

 

「うぇぇぇ!?な、なんでもないずらです!」

 

「変なの」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

『恋なじみ』

 

今、見返しても変なタイトル。

 

とりあえず俺はページをめくってみることにした。

 

ズラ丸の言ってた通り、幼なじみとの恋愛話だった。

 

ーーベタなストーリーだなぁ……

 

そういえば、さっきから何かが引っかかってんだよ。

 

幼なじみとの恋愛……恋……『約束』

 

ん?『約束』?なんでそんな単語が?

 

しかし、時はいたずらだ。俺に考えさせる時間を与えず、沼津のバス停へと到着してしまった。

 

本を閉じ、立ち上がる。

ま、考えるのは家に帰ってからでいいだろ。

 

定期券を通し、道へ降り立つ。

 

内浦の潮の香りとは別種の匂いが立ち込めてくる。

 

深呼吸し、夜空の下で1歩踏み出そうとした……その時だった。

 

 

 

 

「楽しそう」

 

 

 

 

背後から、声。

 

振り返ると、そこには先ほど車内にいたはずの怪しい人であった。

 

『楽しそう』…?何を言ってるんだ?ってか、もしかして俺に喋りかけてる?

…って、周りに誰もいないし、俺なのは確定か。

 

俺は、とりあえず無視して自宅へ向かおうと心に決めた。

厄介なヤツには関わりたくないからだ。

 

 

 

 

「逃げるの?」

 

 

 

 

また話しかけてきた。

……逃げる?お前から?まぁ、そうだけどさ……

 

不穏な空気が満ちる。早くここから離れたかった。

 

しかし、このフードの人物から放たれる謎のオーラの前に、俺は地面に縫い付けられたように微動だにできない。

 

冷や汗が首筋を伝う。

 

「逃げるって……つまり、俺がアンタから……ってこと?」

 

コクリと頷く。

そこから、互いに無言になった。

 

ーーなんなんだコイツは?一体、俺に何の様がある?

 

5分経っただろうか。

 

フードの人物はついに動き出す。

 

「今日は……幼なじみに……しかも、2人再会した」

 

ーーッ……!?こいつはなんで俺の諸事情を知っている!?

 

「おい!?テメェは誰なんだ!?なにかのイタズラのつもりか!?それだとしたら、すんげー悪趣味だよ、お前!さぁ、吐けよッ!俺にどんなイタズラしようと画策してんだ!?」

 

緊張が空振りして、思いのほか大声で怒鳴ってしまった。

 

しかし、それは逆効果だった。

 

 

 

「ふっ…ふふふ……ぁはは………あーっはっはっッッ!!!」

 

 

 

フードの人物が自らの身体を掻き抱き、星が瞬く夜空へ哄笑を上げる。

 

そして、その笑い声には聞き覚えがあった。

 

間違えるはずがない。なにせ、毎日隣で聞いてきたから。

 

なんでお前がここにいるんだよ……ていうか、何してんだよッ!!!

 

「こんなとこでっ……何やってんだつっ……!!……し…………ーー」

 

そこから先は言葉にならなかった。

 

俺の身体には冷たい感覚がまるでうごめく蛇のように、広く行き渡っていく。

 

雨は上がったはずなのに、水滴……いや、そう言うには少し水量が多いであろう水の弾ぜる音が道に響く。

 

手足から力が抜け、カバンが地面に落ちる。

眩む視界。そして口の中は鉄の味。

 

街頭に照らされた俺に抱きつくように、フードの人物は俺の左胸を貫いていた。

 

そのままフードの人物は俺の背中へと腕をまわす。

 

 

「お……ま………く…そ…………ゆ…さ……………ぇ…」

 

 

喉に絡みつく血液に目をつむり、声を絞り出す。

 

フードの奥にかすかに見えた黒色のお団子ヘアーが、もう既に誰だか俺に教えてくれていた。

 

その時、尋常でない痛覚が全てを麻痺させている中で、俺はどうして?と疑問を抱かずにはいられなかった。

 

確かにお互い軽口は叩きあっていた仲だった。

まさかそれが動機?

 

否。

 

こんなことで殺人衝動に駆られるのなら、コイツは今までに俺を千回以上は殺していることになる。

 

じゃあ何が要因なのだ?

 

 

ーー寒い。

 

 

俺はコイツとの付き合い方を間違えたのか?

 

俺が何にも思わずに取った言動がいつの間にかこいつを傷つけていたのか?

 

 

ーーくっそ寒い。

 

 

そもそもコイツは何のためにこんなことをした?

 

いや、そんなの決まっている。こいつは多分何かによって、俺を殺すほど憎んでいたのだろう。

それが爆発したのだ。

 

 

ーー体から生気が抜けていく。

 

 

血も、涙も出てきた。

 

もう何が血で、何が涙で、何が涎なのか分からない。

 

次第に冷たくなっていく身体は津島ちゃんに抱き留められたまま。

直に彼女の体温が伝わる。

 

しかし、妙だ。

 

胸を貫かれたのなら、もう既に出血多量、呼吸困難で意識を失い、永遠に目を覚まさなくなるはずだ。

 

それに、津島ちゃんがずっと俺を抱き留めているのもおかしい。

 

確かにとてつもない痛みが俺を襲っている。身体の感覚もほとんどない。

 

だが、しかし……何故、(ほとんどできていないに等しいが)呼吸ができる?俺は未だに生きてる?

 

俺は虚ろな目だけで追い、恐る恐る傷口を確認した。

 

刺さっているのは間違いなくナイフの類。

 

それは至近距離で真っ直ぐと俺を穿ったのだから、避けられるはずがなかった。

 

ではなぜ、そんな最悪な状況を前にして、まだギリギリ生存しているのか……

 

「あ…………ぁ……」

 

そうか……左の胸ポケットにはお前がいたな。俺のラッキーアイテム(テディベア)

 

ごめんな……お前のために涙流してやりたいけど……悪い。涙、枯れ果てちまったよ。

 

血反吐を吐き、うなる。お前が生かして、活かしてくれたこの貴重な時間。無駄にはしない。

 

しかし、現実はそう甘くない。

 

完全に手足から脱力した俺と、何かブツブツと呟いている津島ちゃんでは力の差は歴然……

 

 

ん?

 

 

そういえばさっきから彼女は、俺が極限の痛みで意識が逸れていただけで、何かブツブツとうるさい。

 

それはまるで呪文のようで、息を継ぐ暇もなしにずっと唱えている。

 

早くここから脱しないといけないというのに、単純な好奇心に負け、心内でテディベアに謝罪してから耳をそばだてる。

 

 

「カイザーカイザーカイザーカイザー。私だけのカイザー。いつも私だけと登下校してくれるカイザー。毎日くだらないことで一緒に笑ってくれるカイザー。私以外の他の女の人には愛想が良くないカイザー。私といて楽しいって言ってくれたカイザー。私の最愛の人、カイザー。離したくない。絶対に離さない。私以外の女とは友好関係を持たせない。……そういう算段だったのに……」

 

やっと一息。

 

「なんでカイザーに話しかけるの?あの先輩たちは。お陰でカイザーに〇〇〇〇〇〇〇〇けど……その冷たい視線を見せちゃったじゃない。そのせいで昨日、カイザー待ってくれなかったじゃない。しかも、今日は今日でズラ丸と再会するし、挙句の果てにはダイヤ………くっそ……私の……完璧な……〇〇がぁぁ……」

 

断片的に聞き取れない部分があったが、どうやら彼女はここ2日間であった俺の出来事に関すること。そして……俺への気持ちをつらつらと垂れ流していた。

 

もちろん俺は狂気しか覚えなかった。

 

しかし、それと同時にコイツは俺の知っている笑顔が魅力的な幼なじみではないと悟った。

 

故に力が湧いてきた。

既に冷たくなったはずの手足に感覚が戻る。

 

麻痺していた神経が回復したのか?

お陰で痛みは先ほどの倍になったが。

 

口の中で舌を動かし、ほぼ正常に近い状態で動くことを確認。

そのまま俺は言葉を紡ぎ出す。

 

「つし……ま………ちゃ…」

 

「っ!?カイザー!?」

 

「おま………なん…で………こんな…ことを………!」

 

「……決まってるじゃない。貴方を私の心の中だけで永遠に生かすためよ」

 

「は……?」

 

「私以外の女に気を取られる……そんなカイザーはカイザーじゃないからよ。私の知ってる……私の大好きなカイザーは、例えどんなことが起ころうとも私のことを最優先に考えてくれる……そんな素敵なヤツ」

 

「他の……ヤツ…に……気をとら………る?ま……さか………たか……み……せんぱ………たちのこ……とか?」

 

「ピンポーン。正解」

 

「ふっざけん…!ッ……!!!」

 

「あら。痛いのに無理しちゃダメよ?アンタの残された時間が更に削られるだけなんだから」

 

ーーこいつッ……!

 

「それっ……だけの………ことで…?たっ……た……それだ………けの……ことで……おま…えは……はぁはぁ………お前はッ…!人を殺せるのかッ!!?ッ……!!ぐぅぅ!!!」

 

「恋する乙女ってのはね、カイザー。何でもできるのよ?たとえそれが好きな人を殺すことでも……その人を想う強い心があれば……なんでもできるのよ?」

 

「だからって殺人を正当化するのかッ!?そんなの正常なヤツが考える事じゃねぇよッ!!うぐッ……!!!お前は……お前は……ッ!!!」

 

 

「俺の知ってる津島ちゃんじゃないッッ!!!!」

 

 

「…」

 

「…」

 

「ねぇ、カイザー」

 

「ぁ……?」

 

「今、アンタが知ってる私がどうとか言ったけど……今の私もカイザーが知ってる私も、私。津島善子よ」

 

「違う………!」

 

「いいえ。違わないことはないわ」

 

「っ……!」

 

「じゃあ私がそっくりそのまま言い返すわね。私が知ってるカイザーはどこ?さっきも言った通り、私の知ってるカイザーは私のことを1番に想ってくれている……!それこそが私の幼なじみ…!山田 皇帝

よッ!」

 

ーー俺の知ってる津島ちゃん。津島ちゃんの知ってる俺。

 

俺は俺だ。そして、津島ちゃんも津島ちゃん。

 

はは……もうわけわかんねぇや。

 

なんだ?俺が間違ってんのか?

他の女子に気を遣ってしまったのが悪かったのか?

 

 

 

ーーって。

 

 

 

そんなバカな話……ねぇよな。

 

 

 

ーープツン。

 

何かが千切れる音がした。

 

嗚呼……こんな短時間に普段はそんなに使わないような部分の頭脳を使ったからだろうな。

 

今、千切れたのが精神的な何かなのか身体的な何かなのか、もうわからないが、痛いのは確かだ。

……ったく。やってらんねぇよ。

 

ーーあ、そうだ。おい。なんかもうヤケクソだし意識が朦朧としてきたから、今から意味不明なこと言うけどさ、津島ちゃん。

 

 

ちゃんと聞いてくれ。

 

 

「はは……今からぁ……問題出すからさぁ……ふへへ……それに答えることができたら………新作のゲームやらしてやんよぉ……ふはっ」

 

まるで会話の流れを掴めていないKY野郎のような発言。

 

しかし何故かはわからないが、それに津島ちゃんは乗った。

 

「きゅ、急にどーしたのよ……ま、まぁ、死に際の最後の冗談ってことね。聞いてあげなくもないわ」

 

「サンキュー……じゃ。問題」

 

頭の中でフワフワと色んな言葉が浮かび、それはやがて1つのモノへと固まる。

 

「俺が……幼な…じみと……作ったものだ………」

 

「?」

 

 

 

「『勇気の合言葉』………聞かせ…て……く…れよ…」

 

 

 

「え?」

 

「だから……『勇気の合言葉』……だって。俺の……昔から…付き合いが……あ…るヤツには……絶対に教えてる………決まり文句だ…」

 

「ねぇ、カイザー」

 

「ぁ……?」

 

 

 

 

 

 

 

「『勇気の合言葉』って……何よ?」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を最後に俺は今まで保てていたのが奇跡としか思えなかった意識を失った。

 

テディベアが生かして、活かしてくれた時間。

 

それはごく僅かなものだった。

 

しかし、俺はそれに感謝したい。

 

だって、分かったから。

 

 

津島 善子……

 

 

 

 

 

 

ーーテメェは一体……

 

 

 

 

 

 

ーー誰だ……?

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「マルー!ご飯出来たわよー!」

 

「あ、分かったずらー!おかあさーん!」

 

そう言ってマルは書いていた途中の日記を閉じた。

 

そして、今日のあったことに想いを馳せる。

 

「カイザーくん……高校になって再会できたなんて……こんなに嬉しい偶然はないよぉ…♡」

 

けど。

 

「けど…なんだか変だったずら、カイザーくん。昔はかなり血気盛んで超問題児だったらしいのに……」

 

「まぁ。マルはカイザーくんが幼稚園でどんな子だったかなんてよく知らないしね。だって……」

 

 

 

「マルとカイザーくんは家が近かっただけで、一緒の幼稚園には通ってなかったもん」

 

 

 

「でも、それなら尚更不思議ずら」

 

「なんでカイザーくんは善子ちゃんと幼なじみ?なんだろう。親の仲が良かったから交流があった……とか?」

 

「ま、どうでもいいずらね」

 

 

「マルーっ!肉じゃが冷めちゃうよー!?」

 

 

「えっ、嘘ッ!?肉じゃが!?やったー♡今行くよー、おかあさーん!!」

 

あ。あとこれも不思議ずらね。

 

カイザーくん。

 

 

 

 

 

 

 

もしかして……苗字が昔と変わってる?

 

 

 

 

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