インキュベーターを敬愛した少女の末期。

まどポの針の魔女の生前のお話。
キュゥべえに賛同する娘一人は居ただろうな、と言う感じに。

1 / 1
Q

純白の部屋。

鼻腔刺すアルコール臭。

鉛が如く動かぬ肢体。

終末の時を迎えん、と、葬儀に向かう末期者が如く横たえらせられる僕の体。

 

「――キュゥべえ」

 

「何だい?」

 

見守ってくれている"感情無き白き獣"へと呼び掛ける。

 

――いつだって僕は独りだった。

 

僕は知りたかった。

僕は知恵を欲した。

僕は知識を欲した。

 

けれど、そうする度に人々は僕を異端とした。

 

背後から浴びせられる罵詈雑言。

背後からから突き刺さる怪訝な視線。

 

堪えようとした。

堪えられなかった。

母さんや父さんでさえ、一人娘である僕に理不尽な平等を強いた。

 

僕は絶望した。

 

僕に理解者は居ない。

僕を理解してくれる人は居ない。

僕と語り合ってくれる人はどこにも居ない。

僕を見てくれる人でさえ、この世界にはどこにも居なかった。

 

――いつしか、僕の隣には"感情無き白き獣"が居てくれていた。

 

彼は知らせてくれた。

彼は知恵を与えてくれた。

彼は知識を与えてくれた。

 

彼は、僕を異端としなかった。

 

正面から語りかけられる彼の理想。

正面から見つめてくれる彼の瞳。

 

堪らなかった。

堪る必要なんてなかった。

彼こそが、僕に一人理不尽な平等を強いて来ないたった一人の恩師だった。

 

僕は希望に満ち溢れた。

 

「――ありがとう」

 

「こちらこそ」

 

師の理想の結晶(カガクギジュツ)へと身を捧げ、師の理想の代行者となるも、誰一人として師の理想に賛同する者は居なかった。

寧ろ、悪魔の使いとして罵られる事さえ有り――否、そう称される事しか無かった。

 

僕は心を痛めた。

僕の心が滾った。

僕の心は憤った。

 

師の理想こそ、唯一無二にして、高潔で、最上の献身だと言うのに。

 

「僕……君の役に……立てるんだよね……?」

 

「もちろんさ」

燻らせた僕の(ココロ)は、既に灰燼と化そうとしていた。

けれど、怖くはない。

例えそうなろうとも、僕には次の役目がある。

 

「――ああ、良かった」

 

「ああ、良かったさ」

 

いずれ迎える宇宙の熱的死。

文字通り、宇宙と言う名の孤立系に於いて、如何なるエネルギーも得られなくなる最終状態。

 

だがキュゥべえのお陰で、僕の(ココロ)も、そんな悲劇を阻止する糧となれる事を知れた。

これ以上の悲願が、何処に、何が有ろうと言うのか。

 

「――じゃあね、キュゥべえ。君に出逢えて良かった」

 

「ああ、君みたいな娘は初めてだった」

 

そんなやりとりを最期に、僕は(マジョ)と成り果てた。

最早僕にはもう、キュゥべえの言葉が届いてくれない。

 

――だからこそ、彼の贈り物(サイゴノコトバ)を知る事が出来なかった。

 

 

「――わけがわからないよ。君程度では、悲劇を覆すに至らないのに」

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。