今回はかなり長くなってしまったので前後編に分けますね~
結局逆鬼さんのバイクのエンジンがかかったのはそれから二十分も時間が経った時だった。
エンジンがかかるとバイク独特の重低音が辺りに鳴り響く、逆鬼さんは一仕事終えたとばかりに満足げに額にある汗を拭っている。その表情は心なしか晴れやかだ。
正直、やっとスタートラインに立っただけなのだが……あえてここでは何も言うまい。
「ふぅ~ようやくだぜ! コンチクショウ」
「さぁ、これ以上時間を食っていると本気で間に合わなくなりそうなんで、さっさと行きましょう!」
「もうちょっと頑張ったオレに対して何かねーのかよ……」
逆鬼さんが小声で文句を言っているが今は本当に時間がないので無視してバイクのサイドカーに乗り込む。
ぶつぶつ言いながら渋々といった風にバイクに跨る逆鬼さん。ちゃんと感謝してますからそんなに落ち込まないでくださいよ……後でお礼でも何でもしますので。
ここでふと疑問が浮かんだ……しぐれさんは何処に乗るんだ?
そんな至極当たり前なことを考えていると、目の前に影が出来てその後オレの上に何かが乗ってきた。
「ちょっ! 何でここに来るんですか!? 逆鬼さんの後ろが空いてるでしょう!」
あろう事かこの対してスペースのないサイドカーにしぐれさんが乗り込んできたのだ。何故だ……ここよりも絶対あっちの方が快適のはずなのに。
現在しぐれさんはオレの上に乗り足を外に投げ出している状態だ、お姫様抱っこの形と言えばわかりやすいだろうか……。
そんな状態でオレの方に視線を向けこう言い放った。
「……ここが良…い」
「危ないですってば!」
「大丈夫、問題な…い」
何が大丈夫かはまったくわからないが、しぐれさんの目からはサイドカーに乗りたいという意思がひしひしと伝わってきた。変なとこで子供のような人である。
たとえしぐれさんに問題なくても、オレにとっては大問題である。健全な男子高校生であるオレにとってこの状態は非常に危険だ。しぐれさんの様な美人をこのまま上に乗せてのドライブは誰もが羨むことかもしれないが、逆に言えば目的地に着くまでそれに耐えなければならないという、ある意味拷問に近いとまで思える。
仕方がない……ここはオレが大人になろう。主にオレの精神衛生上のためにも大人しくこの席を譲り逆鬼さんの後ろに行けば良いだけなのだ。
「わかりました……じゃあこの席はしぐれさんにあげますので、オレは逆鬼さんの後ろに行きますね」
「…………」
オレの言葉に無言で答えるしぐれさん。これは肯定と取って良いのだろうか? まぁどっちでも良いや、そうと決まったら移動だ……。
…………おかしい移動のために身体を浮かせようとするがまったく動かない。それもそのはずだ、しぐれさんがオレの上に居座ったまま動こうとしないのだから。
「……あの~しぐれさん? あっちに移りたいんで一旦退いてもらえます?」
「……やっ」
「いや、やっじゃなくて……」
なんという事だ……このままでは物凄く嬉しいのだが、同時にこの苦行を続けなければいけなくなる。
まさに天国と地獄だ……。
「おいおい、急いでるんじゃなかったか?」
逆鬼さんはこっちを見て何やらニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。この人は急かすフリをしてこの状況を楽しんでるな!?
「逆鬼さんからも何とか言ってください!」
「オレがか? うーんオレとしてはこのまま行った方がおもし――オッホン! 時間短縮になると思うぜ? しぐれには素直に退く気はなさそうだしな」
物凄く言い方に違和感があるが、最後の希望であった逆鬼さんからも事実上の決定を下されてしまった。確かに時間がないのもまた事実、さっきまであれだけ逆鬼さんを急かしていたのだからそこに文句は言えない。
もう一度しぐれさんに目をやるが……何やらスイッチが入っているのかテコでも動かないといった感じである。その際、一瞬目が合うがすぐに逸らされてしまった……。何だろう? 気のせいかな……。
「あーもうっ! わかりましたよ。このままで良いです早く行きましょう、しぐれさんも落ちても知りませんからね」
「ん!」
「決まったか? じゃあ行くぜ~!」
覚悟決めてそう伝え発進してもらう。しぐれさんにもそんなことを言ってみたものの、この人ならまず落ちないし落ちても大して問題ないだろうな……。
出発までかなり時間を食ったが、兼一達は自転車だしすぐに追いつけるだろう。
☆
道中、オレはひたすら無心になることだけに努めていた、景色を楽しむ余裕なんて微塵もなかった。
幸い逆鬼さんがかなり飛ばしてくれたのか、十分程で目的の港の倉庫街に着いた。
広い場所に出るとそこでは既に兼一と誰かが戦っていた。しまったなぁ少し遅れちゃったかな?
「兼一!」
「翔馬君!? 遅かったね」
オレが駆け寄ると相手に目を向けたまま声をあげる兼一。
あいつが新島を攫ったやつなんだろうか……。兼一の相手をしていたのは青白い腰にまで届く長髪に茶色のコートを羽織りそれと同系色のハットを被った同年代くらいの青年だった。ハットには羽ペンらしき物が刺さっていた、そして何より目を引くのがその手に嵌めているグローブだ。Ⅴと刻まれているから第五拳豪か……。
男はこちらを見つめたまま微動だにしない、これ幸いと警戒を怠らずに会話を続ける。
「ちょっと色々あってな……で、新島はどうした?」
オレが肝心なことを聞くと、兼一は答えにくそうに教えてくれる。
「それが……もう船に乗せられてしまったらしいんだ」
「はぁ? 船って……」
手短に言うと、連れ去られた新島はラグナレクの手によって出航直前の貨物船に積荷として箱に詰められこっそりと乗せられてしまったらしい。
「おいおい、そこまでやるのかよ……んでその船って?」
「あの人が言うにはアッチの方向に停泊しているらしいんだけど……」
そう言ってある一点を指差す。どうやらその方向にいるらしいのだが、敵であるあの男が言った事を鵜呑みにしていいものだろうか……。
「とにかく行って! この人の相手はボクがするから、ここまま何もしないでいると本当に出航しちゃうよ!」
それもそうだな。何でも良いから行動しなくては始まらない。とりあえず行ってみるか出航準備しているんだったら何かしらのアクションがあるはずだし。
「わかった。気をつけろよ!」
「うん! 翔馬君もね」
この場は兼一に任せ、オレは走り出した。
ふと気になったので元来た方を向くと、しぐれさん達はいつの間にかいなくなっていた。逆鬼さんのバイクがあるということは帰ってはいないんだろうけど、見渡す限り姿が見えない。
っと今はそれどころじゃない、急いで新島の乗っている船を見つけなければ!
☆
「はっ……はっ……はっ」
兼一に言われた方向へとただひたすら走る。一分もすれば周りの風景も変わる、さっきまでのだだっ広い場所ではなくコンテナが密集した様な場所だ。それは下手に入ると迷ってしまうかもしれないほど入り組んでいる、だが方向だけはわかっているのでその方へと急ぐ。
その入り組んだ地形からもやっと出口が見えた。ここからだと大体二十メートルくらい進んだところだろうか、遠目だが海が見えた。
迷路からのゴールが見え少し気を緩む。そのままコンテナ群を抜けると……。
「まったく、ロキに言われて来てみれば……ホントあいつの言うことは当たるよな!」
「っ!?」
突然声がしたと思うといきなり何かがオレの腕を掠めた。
「あれ? 外れた? っかしいなぁ~確かに腕貰ったと思ったのによ~」
そんなことを呟きながらコンテナの陰から姿を現す男、見るとその手には細身の長刀が握られていた。刀身の長さからいって大太刀だろうか、しぐれさん程武器に詳しくないからハッキリとしたことは言えないけど……。それで斬りつけられたのだろう、掠った腕からはわずかに血が垂れている。
男は身長百八十くらいの長身で大太刀を肩にかけて佇んでいる。ショートミディアムくらいの白髪を逆立て、ハーフなのか緑色のその二つの瞳でじっとこちらを見つめている。
オレも小太刀持ってるからあまり人のこと言えないんだが、何でこいつ普通に武器を携帯してんだ!?
日本を守る制服を着た人達はいったい何をやっているんだろうか……。
というか斬られたってのに冷静だなオレ……やっぱり常日頃から日本刀持った人に追い掛け回されているからかなぁ。
「いきなり何すんだよ、つーかお前誰だ?」
「あぁ? そんなことどーでもよくねーか? まぁいいや俺はフレイ、本名は秘密な。わかってると思うけどラグナレクの一員だ。ほらグローブ」
そう言って片手を前に出してグローブを見せ付けてきた。答えてくれないと思ったらいきなり教えてくれたな……。
えーっとグローブの番号は……ってⅨ!? あれ、八拳豪じゃなかったのか? なんで九人目がいるんだよ!
「ほら名乗ったんだから、アンタも名乗れよ」
それが当然とばかりに名前を聞いてくる。さっき自分でどーでもいいと言っていたのに……。
「不破……翔馬だ」
「へぇ~アンタが……」
渋々名前を名乗ると、得心いったとばかりに顎に手を当てて頷き始めた。
「オレを知ってるのか?」
「まぁね、フレイヤが面白いやつって言ってたからなぁ」
フレイヤ? それも拳豪の一人だろうか……何か何処かで聞いたような気がするけど思い出せない。
「そうだ。お前ら拳豪って何人いるんだ? 八人じゃないのか?」
「ん~それこそどうでもいいだろ。強いて言うなら俺が答えだなぁ」
何なんだろうはぐらかしても結局答えてくれるのか……。
バカなのかそうじゃないのかよくわからないやつだな。掴みどころのないやつって言葉が似合いそうだ。
「まぁいいや。とりあえずそこ退いてくんない? 今から船捜さなきゃいけないんでね」
「あはは、退くと思ってんの? 人生そんなに甘くないよ」
その言葉とともに男は肩にかけていた大太刀を下ろし、そのまま両手で下段に構えた。
完全にやる気だろう……戦闘は避けられないか、そのふざけた態度以上にあいつから感じる圧――殺気とでも言うのだろうか……が今までの不良共とは明らかに違った。
「だろうな……」
そう言ってこちらも武器を構えるが右手が思ってたよりもやけに軽いことに気づく……背中に嫌な汗をかきつつゆっくりと自分の右手を確認する。そして……
小太刀忘れた~~~~っ!?
衝撃の事実が判明した。お気づきだと思うが今オレの右手に握られているのは小太刀ではなく木刀だ。
そうだった~! 所詮は不良だろうと思って木刀持ってきてたんだった、まさか真剣を相手にするなんて考えてなかったからなんの警戒もしてなかったよ。
まずいどうしよう……ただの木刀じゃ歯が立たない。そもそもまともに打ち合うことすら出来ないのだからお話にならない。
「なに? アンタそんなので戦うのかよ」
オレの構えた木刀を見て少し顔を顰めながら聞いてきた男、舐められているとでも思ったのだろうか……その顔には段々と不満が募っていくのがここからでもわかる。
「いや~ちょっと見逃してもらえると助かるんだけど……」
「さっきも言ったろ、人生そんな甘くないってな!」
ですよねー。
その言葉を言い放った瞬間、男――フレイがこちらに迫ってきた。そのまま構えていた大太刀を小手調べとばかりに下からすくい上げてきた。
「げっ!?」
その一太刀はオレに当たることはなかったのだが、反射的に攻撃を避けた際に右手の木刀に当たってしまったようで、木刀は持ち手の部分から上がスパッと無くなってしまった。
マジかよ……本気で斬りにきてるよこいつ、そんなやつ相手に
仕方ないここは……。
「あっ!」
オレの後ろでフレイが声を上げるが振り返らず走る。こっちは命がかかっているんだ……必死にもなる。
決して逃げているわけではない、そう強いて言うならば戦略的撤退だ。
何でもいい探すんだ、鉄パイプでもあれば御の字だがフレイの攻撃を防げるものがあればそれでいい!
そんな微かな希望とともに走る、後ろからあいつも追いかけ来ているが今のところは追いつかれてはいない、大太刀が重いのか単に足が遅いのかはわからないが。
気づけば先ほどのコンテナ迷路まで戻って来てしまった。ここに入ればそう簡単には見つからないだろう、そう思って安心していると目の前に道がなくなってしまった。行き止まりだ……落ち着いて元の道を引き返そうとしたら、その方向から誰かの走っている足音が聞こえてきた。
何てことだ……まさに袋の鼠、何処にも逃げ場はない。
「ってぇ!?」
半ば諦めかけていると何かが頭の上から落ちてきた。それを見てオレは目を見開いて驚いた。
オリキャラ出しちゃいました~。まぁモデルにした人と見た目あまり変わらないんですが…
神話のフレイの長刀って名前ありましたっけ? どうにもうろ覚えで…
そもそもこんな武器あったっけ? って感じなので知っている方がいたら教えて貰えたら嬉しいです。