一応、軽い流血表現を含みますので苦手な方はスルー推奨。
何かが頭の上に落ちてきた、結構重量があるものなのか地味に痛い。
オレの頭に当たったそれはそのまま重力に逆らうことなく地面に転がる。その際カシャンッ! と音がした、あの痛み対して意外と軽いものなのかもしれない。
こっちは切羽詰まっているというのに、こんな仕打ちをしたやつの顔が見たくて顔を上げて犯人を捜すべくコンテナの上を睨みつけるが、そこには人の影も形もなかった。
「誰もいない?」
少し不思議に思いながら落ちてきた物を確認する。倉庫街を照らすライトはあるものの、流石に足元は暗くて探り探りで何とか手にすることが出来た。どうやら棒状の物が二本が落ちてきたらしい、その二本は何か紐の様な物で繋がっていて引き離すことが出来ない、その内の一本を持ったとき既視感に似た違和感が手に伝わってきた。
「あれ? これって――」
「ハァ……ハァ……ようやく見つけた」
声のした方へ振り返るとフレイが息を荒げて立っていた。ライトに照らされた顔からは玉のような汗が噴出しており、肩も激しく上下に揺れていた。
その様子からも相当疲れているのが見て取れる。基礎体力の面ではこちらに分があったらしい、オレも同じ距離を走ったのにそれほど息は上がっていない――まぁあっちはオレのことを探し回ったせいかも知れないが、梁山泊の修行恐るべしである。
「もう逃げないのか?」
「別に逃げてたわけじゃないさ」
まぁ、ぶっちゃけると逃げていたけど……でも仕方ないと思うんだ。
「へぇ覚悟は決まったってか」
その言葉を皮切りにまた先ほどの殺気をぶつけてくる。
今度はこちらが構える隙なんて与えてはくれず、そのまま間髪いれずに大太刀による横薙ぎの一閃。
コンテナに囲まれたこの場所では大太刀みたいな大きい武器は取り回し的に不利だと踏んでいたのだが、こいつは周りのコンテナにギリギリ触れるかといった間合いを維持して斬りかかってきた。
「っ!?」
だが今度はさっきの様にはいかない、拾った内で妙に手に馴染んだ方でフレイの一撃を受ける。パキンッ! と何かが割れるような音のすぐ後、キンッ! と澄んだ金属同士がぶつかる様な音が辺り一帯に響き渡る。
「へぇ……」
まさか正面から己の一撃が止められると思ってなかったのか、フレイが関心した様に呟く。
刀による衝撃はオレにも伝わるが、それより真正面から斬撃を受けてもコレはビクともしなかった。しかし攻撃による衝撃に耐えられなかったのかパラパラと何か木片の様な物が地面に落ちていく……。
だが流石はしぐれさんにもらった小太刀である。刀身に刃こぼれ一つしていないようだ、何故ここに……ましてやオレの頭の上に落ちてきたのか、いくら美羽ちゃんに鈍いと言われててもわかる。
消えたと思ってたらやっぱり何処かで見ていてくれていたらしい。これは帰ったら何でも言うことを聞かないとダメだな。
過保護な師匠に感謝しつつも、小太刀に繋がっているもう一つの物に意識を向ける。これは……刀か? 見た感じ普通の
「おいおい何処見てんだぁ?」
「おっと……」
フレイの怒鳴り声とともに意識が覚醒する。
どうしてか理由はわからないが刀に見入って自分の世界に入っていたみたいだ。おかしいなオレにそんな趣味はないんだけど……。
「はっ!」
掛け声を上げ今度は真上からオレの脳天目掛けて振り下ろしてくる。
それを鞘が砕け散った小太刀で受ける。鍔迫り合いになるとどうしても力で勝てそうにないので、上手く相手の大太刀を滑らして力を逃がす。
攻撃が終わるとフレイはすぐさま間合いを取って引いてしまう。おかげでこっちは反撃のタイミングを逃してしまった。
そしてこちらの小太刀と自分の大太刀を交互に見ながら口角を上げ言い放った。
「へぇやっぱりさっきのはマグレってわけじゃないようだな、褒めてやるよ」
「……そりゃどうも!」
言い終わったと同時にフレイに向かって駆ける。オレからの初めて攻撃だからかフレイは少し目を見開き、その後またさっきのように笑みを浮かべこちらを迎え撃つように大太刀を腰ほどの高さに構えた、まるで居合いの型みたいだ。
「シッ!」
間合いに入ると掛け声とともに構えた大太刀を真横に振ってきた。
本来なら更に加速して相手の懐に飛び込む予定だったが、自分の予想以上の剣速に慌てて右手を大太刀と身体の間に差し込み、間一髪剣線から自分の身体を守る様に受け流す。
フレイの攻撃はオレの身体の上を通り越し空を切る。
その隙を見逃すはずもなく懐に入り、フレイの顎目掛けて左手の鞘に入った状態の刀で突き上げる。
「おっと」
その突きをいとも簡単に見切り、わずかに身体を後ろに反らして対処したフレイ。
あのタイミングで避けれるとは思わなかった。確実にヒットしたと思ったが……。
「あぶねーあぶねー。もうちょっとで当たってたな」
言葉とは裏腹にその表情から焦りは微塵も感じられない。
そしてまたこちらを見つめ、やがて口を開いた。
「なぁアンタ、何で抜かねぇんだ?」
「は?」
「いやよ……さっきからこんなにタイミングあるのにアンタはその刀を抜く
言われてみれば何故だろう……。
確かにその隙はあった。フレイの攻撃が続いていたからこっちも必死だったが、さっきの攻撃の前も抜き放ってから行っても良かったはずだ。
やはり人を斬るのを少しでも減らしたいからだろうか……。
「よくわからん、なんとなく……じゃダメか?」
「なんだよつまんねぇ、聞いて損したぜ。んじゃさっさと抜けよ」
一気に興味をなくしたように捲くし立ててくるフレイ。
どうやら待っていてくれる様だ。それでも突然斬りかかって来てもいい様に決して気を抜かず、フレイを見つめたまま左手の刀にも意識を向ける。相も変わらずそこにある刀は不思議な魅力を放っているような気がする。
攻撃するにしても峰ですれば済む話だし、別に
オレは意を決して右手の刀を抜き放った。
「ようやく抜きやがったか……んじゃあ続きを――ん?」
抜き放った刀はとても美しい刀身をしていた。磨きぬかれたそれはまるで鏡のように自分の姿や周囲の様子を映してくれる。
刀の刀身は普通の
刀見つめボーっとしていると、突然太股の辺りに電気のような痛みが走り、その後その部分がじわじわと熱を帯びていくのがわかる。
「ボーっと突っ立ってんじゃねぇよ!」
自分の前の男が何かを言っているがオレの耳には届かない。聞こえるには聞こえるのだがノイズがかかったようになって理解が出来ない。
「刺されたってのにだんまりかよ薄気味悪い野郎だな。その刀もなんか気持ちわりぃなついでにへし折ってやるよ」
依然この男の言葉にはノイズがかかっていて理解出来なかったが、へし折るという単語だけはしっかり理解出来た。
理解した瞬間、形容しがたい感情がオレの中に膨れ上がる。断片的に感じ取れるのは強い怒りと憎しみ、そして悲しみだった。
そこからは身体が勝手に男の方へ向かって行き、肩口から斬りかかった。
「なっ!?」
ガキンッ! という甲高い音が聞こえ刀の刃先がこれ以上進まない、そのことでオレの一撃が防がれたのだと理解出来た。
「…………」
防がれたのなら仕方ない、攻撃を続ければいいのだ。
そう結論付けるよりも早く身体が動いた。今まで体感したことのない速度で振るわれる刀、太刀筋はめちゃくちゃだが不思議と気にならなかった。
「ぐうぅ!」
上、下、斜めと振るわれる刀、キキンッ! という音が次から次へと辺りに鳴り響くが手を休めることなく刀を振り続ける。その攻撃を受けてもまだ立っている男、その身体は大きく上下しており身体の所々から何かが垂れている。
しぶといな……さっさと死ねよ。
今までより力を込めて身体全体で刀を振る。しかしその一撃は何の手応えもなく空を切った。
見ると目の前にいたはずの男はおらず、少し離れたところでうずくまっていた。おかしいな……確かに今ので殺したと思ったんだけどな。
おもむろに立ち上がりオレに向かって何かを叫んでいる。
「はっ! さっきまでは実力を隠してやがったのか! おもしれぇ……こうでなくっちゃなぁ!」
相変わらず何を言っているかわからない、さっきは理解出来たと思ったんだけどな……偶々何だろうか、まぁ別にいいや殺せれば。
「こっちからも行くぜっ!」
「…………」
男が突っ込んでくる。大上段から振るわれたそれを左手で真正面から受け、そのまま力任せに押しのける。
それで怯んだのか体勢を崩した男に迫り、こちらもお返しとばかりに大上段から刀を振り下ろす。
「っつう」
オレの一撃を受けると男はその場に片膝をついてそれを受け止めた。
鍔迫り合いになり、オレの刀をなんとか弾こうとする男、オレは構わずこのまま力を更に込めて押し潰そうとする。
すると突然刀から伝わる相手の力が抜け、オレの刀はそのまま地面に吸い込まれるように突き刺さった。何が起こったか理解する暇もなく、オレの身体は衝撃とともに後方へ吹っ飛ばされる。
「っぷはぁ、とんでも……ねぇ……な、なんて……馬鹿力だ」
腹の辺りに違和感がある。攻撃を受けたのだろうか? 動くのに支障はないし問題ないだろう。
「普通に打ち合ってもジリ貧だな、ちょっとやり方を変えるか……」
身体も問題ないと判断して先程とは違う構えをした男に向かって駆ける。
「来いよ!」
男はそのままその場から動く気配はない、だがオレにはそんなものは関係ないただ目の前のこの男を殺せればそれでいいのだ。
走った勢いのまま男に斬りかかるが、男は一瞬だけそれを受け即座に流してしまう。
何をしたかはわからないが、スピードを上げればついてはこれないだろう。
徐々に刀を振るスピードを上げるが、男はついてきていた。だがその表情は余裕などなく少しづつではあるが男を追い詰めていった。
もう何合打ち合っているのだろうか、気づけば先ほどから左手一本で目の前の男の相手をしている。いや最初からか……右手にも何か握られてはいるが力なくその場に留まるだけだ。
「はぁっ……はぁっ……」
男の方に目を向けると顔からは玉のような汗がいくつも噴き出し肩で息をしている。そろそろ限界だな。
そう思い、一思いに首を刎ねてやろうと力を込め男の首目掛けて真横に刀を振るう。
しかし確実に殺したと思ったとき男の首はそこにはなかった。見るとオレの足元に這いつくばっていた。武器も取りこぼしまさに隙だらけの状態だ。
だがオレの刀は止まることはなく、勢いをそのままに近くのコンテナに突き刺さった。抜こうとするが、上手く入ってしまったのか思うように行かない。
「隙あり!」
またもよくわからない言葉とともに振るわれたそれは寸分たがわずオレの腹に当たる。何やら感触がおかしい気もしたが、たぶん斬られたんだろう。
そのままふっ飛ばされた。それにより持っていた刀も手放してしまう。
「最後の最後でミスったな!」
「っ!?」
強烈な痛みとともに視界がクリアになっていく、何だ? 何が起こった?
……ダメだよく思い出せない。刀を拾った辺りからがあやふやだ。
「ちょい苦戦したけど、その小太刀一本じゃ俺には勝てねぇだろ」
「お前はフレイ? 何でここに……?」
「あぁ? 寝ぼけてんのか? 今ままで斬りあってたじゃねーか」
どういうことだ? 状況が理解出来ない……。
でもフレイの言うとおりお互いにボロボロだ、血も出ている。
フレイはそのまま大太刀を持ちこちらに近づいてくる。応戦しようにも身体が思うように動かない。
徐々に距離がなくなりお互いの距離が五メートルを切り、もうやられると思ったその時
「~~~~♪」
突然この場には不釣合いなメロディーが鳴り響く……。
「あ~ちょいタンマ、はいもしもし?」
どうやらフレイの携帯電話の着信メロディーだったらしい。
しかもあろう事かこの男、たった今戦っている男の前でその戦いを止めてまで電話に出やがった。何処までも自由すぎるやつだ、その隙に逃げる算段でも考えるか。
「あぁ? 何でだよ! せっかく盛り上がってきたところなのによ」
何かあったのかフレイは電話に向かって怒鳴り散らしている。というかこの隙に斬りかかられても文句は言えないぞ。
まぁ最初からそんなことはしないが、丁度良いしこのまま逃げようかな……。
「ちっ、わーったよ! じゃあな」
そうこうしている内に会話が終わってしまった、さっさと逃げればよかったな。
「上司の命令なんでな、今日はここまでだ」
「は?」
「つーわけだ。じゃあな……」
そう言って踵を返して歩き出すフレイ。
「ちょ、ちょっと待て――っつう!」
引きとめようと立ち上がろうとするが太股の痛みでその場にうずくまる。
まだこれから新島を探さなくちゃいけないってのに……。
オレの意識はそこで途切れた。
誤字脱字もありましたら教えていただけると助かります。
う~んこのペースで行くとDオブDに辿りつくのはどれくらいかかるんだろう……。