長らく開いてしまいましたが、少し時間に余裕が出来ましたので再開したいと思います。
ほのかを後ろに控えている二人に任せ、隙を見て抜け出すよう小声で告げる。二人は無言で頷いた、宇喜多さんはしぶしぶといった感じだったが動けない二人のことを気遣ってか納得してくれた。
「スタンロッドを味わいなぁ!」
痺れを切らして武器を持った腕を振りかぶりながら二人の内の一人が勢いよく迫ってきた。反射的に意識がそちらに向いて身構える。
迎え撃とうとした時、オレとロキの間に人影が割り込んできた。
「ボクを無視しないでくれるかな~?」
「!?」
不意に視界に入ってきた武田さんに一瞬躊躇しつつも、標的を変えたのかオレに構うことなく突っ込んでいく。
「武田ぁ!」
「ロキの相手は任せたまえ翔馬君!」
ロキの手から振り下ろされるそれを軽いフットワークで器用にかわしていく武田さん、だが流石に本物の拳豪相手では厳しいのか中々攻撃に移れないでいるようだ。
おっとオレも人のことに構っている余裕はない。ロキのことは武田さんに任せ、もう一人の相手に意識を向ける。
そこには先程の位置から微塵も移動することなく一人の男が気だるげに立っていた。
「ふぁ~あ……」
いつかの時の様な殺気は感じられない。
だが結局あの時は見逃してもらったのだから真正面から戦うのは危険だろう……。思わず武器を持つ手に力が入る。
別に勝つ必要はない、後ろの皆を逃がすだけの時間を稼げばいいのだ。フレイにやる気が無さそうなのが救いか。
「さて……どうするか」
思わず口からそんな言葉が零れる。
フレイが立っている場所は唯一外へ通じる教会内の扉の前、対してオレ達は礼拝堂のそれもかなり奥の方にいる。
まぁ何をするにもまずはアイツをあの場所から退かさなくちゃいけない、そのためにはオレが相手をして注意を引き付けるのが無難か……。
「お?」
すばやくフレイに近づき射程に入った辺りで懐からあるモノを取り出し投げつける。
――キンッ!
投げたそれは甲高い音を上げ目標に当たるがフレイに堪えた様子はない、どうやら身体に当たる前に持っている大太刀で防いだのだろう。
「こんなもん初めて見たな、忍者ってのはあながち間違ってねーのか?」
床に落ちたそれを見てフレイが興味深そうにオレとそれに交互に視線を送る。
投げた物はフレイの言葉から分かるかもしれないが手裏剣である、以前から遊びと称して修行させられていたが最近漸くまともに投げられるようになったのだ。とはいえ射程はさほどあるわけでもなく、精々五、六メートルといったほどだ。
「師匠の影響でね」
「へぇ」
フレイの言葉を軽口で返しさらに投擲する。
この手裏剣にはしぐれさん特性の痺れ薬が塗ってあり、身体に当たればそれで終了なのだが全て大太刀によって防がれていく。
……まぁ、当たれば儲けものくらいに考えていたから然程問題ないけど少し悔しいな。
「よっと、ほっ」
依然として当たる気配はない、それどころか何が楽しいのかその顔に笑みを浮かべながら手裏剣を叩き落してく。しかも開始位置からも殆どと言っていいほど動いていない。
このまま投げ続けても埒が明かないし、何よりこちらの飛び道具が尽きてしまう。仕方ないと思いつつも接近戦に持ち込むためにフレイに肉薄する。
「おっもう終いか?」
少し残念そうにそう言いながら迎え撃つように腰の位置に大太刀を構えるフレイ。
「こっちは余裕なんてないんでねっ!」
やけくそ気味に返し、胸の真ん中に木刀を突き入れる。
「そうかよ!」
フレイは大太刀を振り上げる形で難なくそれをいなし、振り上げた腕をそのままオレに振り下ろしてくる。
前回の戦いと同様に、正面からぶつかっても力負けするのでやや斜めに小太刀を構え、フレイの攻撃を滑らせるように受け流す。
フレイの体勢が崩れたところで、すかさず攻撃。空いている脇腹目掛けて横薙ぎに木刀を振るう。
「ちっ」
だがそれは戻した大太刀によって止められてしまった。
競り合いになることもなくお互いにその場から引いて呼吸を整える。ふと気になって左手の先にある物を見てみると――
「…………」
そこには、刃の側から大きく二本の亀裂の入った木刀があった。早い話
考えてみれば当たり前のことだ。たった二回ほどしか打ち合っていないが、それでも刃のついた鉄の塊と刀の形を模しただけの木の棒……どちらが勝つかなど明白である。
何時も刀を持つ訳にもいかないしなぁ……、いっその事刃を潰した刀でもしぐれさんに頼んで用意してもらおうかな。
少し物騒な物思いに耽っている間にも、目の前のフレイは仕掛けてこない。相も変わらず少し気だるげな顔でジッとこちらを見ているだけだった。
「そっちからは来ないのか?」
考えても仕方がないので、率直に聞いてみることにした。そんなこと聞かれると思っていなかったのか少し目を見開いた後、顎に手を当てて考える素振りをしながらポツポツと語りだすフレイ。
「いやーこの前ん時はチーフからロキを手伝ってやれって指令があったからなぁ……今日はあいつに無理やり連れて来られただけで俺としてもなぁ、こう……モチベーションが――」
「聞こえてんだよフレイ! それに今回はあのお方直々の命令だって言っただろうが!」
フレイの言葉にまず反応したのがロキだ。距離をとって武田さんと相対しながら顔をこちらに向け声を上げる。
「その、あのお方ってのも納得いけねーんだよな。姿を見たこともねーし……気に入らねーよ、確か、けん……せい、だったか?」
「あぁもう! ベラベラ喋るな! お前はそこでそいつらの足止めしてれば良いんだよ! こいつが終わったら俺が直々に潰してやる」
そう言い残し続きとばかりに再び武田さんに突貫していくロキ。
フレイの言葉から考えるとチーフって言うのが前のときの上司とか言う電話の相手だろうか? だとするとあのお方って一体……。
にしても上司やらチーフやら……何か会社みたいだなラグナレク。絶対就職したくないが。
「……つーわけだ。だからそこで大人しくしてくれていると助かるんだが」
「無理言うな」
「だよなぁ、まぁあっちが終わるまでは相手してやるよ」
言い終わると、依然殺気は感じられないものの隙のない構えで再びオレの前に立ちふさがるフレイ。
フレイにやる気がないのは分かったが、それで事態が好転するという訳でもないし……。
やっぱり如何にかしてあいつを退かさないことに――ガシャンッ――は?
吃驚して音のした方を振り向くと、息を切らしている宇喜田さんと苦笑いの美羽ちゃんが映る。二人の視線を追うと教会内の窓に突き刺さった長椅子が見えた。
「そうか!」
出口が無いのなら新しく作れば良い。なんでそんな簡単なことに気づかなかったのだろう。
「「ちっ」」
「おおっと行かせる訳ないじゃな~い」
「そういうこと!」
宇喜田さん達の脱出に気づいた二人が止めに入るのをオレと武田さんで食い止める。
「ほのかを任せたぞ!」
「任されましたわ!」
言うが早いかそのまま窓の外に駆け出して行く美羽ちゃん。
よし、これで一番の心配はなくなった。後はオレ達も逃げ出すだけだな。
「やってくれるねぇ……」
こめかみの辺りをピクピクと痙攣させながら怒気を孕んだ声で語りかけてくるロキ。
「宇喜田のファインプレーってとこだね」
「ですね、といっても悪魔の入れ知恵かも知れませんけど」
「あはは……」
宇喜田さんが思いつくって可能性もあるけど、気絶していた新島を叩き起こして聞き出したのかもしれない。
「あーあ逃げちまった」
しんと静まり返った礼拝堂でそんな声が大きく響いた。
「黙れ……フレイ」
「おー恐い恐い」
おどけた態度で肩を竦める。そんなフレイに気をやりながらもこちらを睨むロキ。
「フレイお前の失態だぞ、責任とって不破の野郎をぶっ殺せ……」
「失態って言ったってお前だっ――あ~わかったわかった真面目にやるからそんな顔で見んな」
二人は話し終わると二つの視線をこちらに向けてくる。
その瞬間、急に身体が小刻みに震えだした……。正確に言うとフレイの方から向けられる圧に身体が反応してしまう。
さっきまで普通に対峙していたはずなのに、今はこの場所にいるだけで息が詰まって上手く喋ることが出来そうにない。
「さ~てこれで思いっきりやれるってもんじゃな~い」
「何、言ってるん、ですか、逃げ、ますよ」
いつの間にか隣に近づいてきてお気楽なことを口走る武田さんに震える声でそう告げる。
「なんだって?」
「オレ、達ではあの、二人に、は勝てない、だから逃、げるそれだけです」
「そんなのやってみなきゃわかんないじゃないの」
「武田さ、んとロキは知り、ませんけど、たぶんオレは
「ていうか翔馬君凄い汗だけど大丈夫かい!?」
指摘されて初めて自分が汗をかいていることに気づいた。
「大丈、夫です。とりあえず宇喜、田さんが壊した窓、から外に出ましょう」
「あ、あぁ」
お世辞にも素早いとは言えない速度で窓に向かう。武田さんも歯切れ悪く返事をしながらもオレを気遣うように後を追ってついてきてくれる。
「テメッ待てこら!」
「はぁ……」
簡単に見逃してくれるはずもなく後ろの二人もオレ達を追って後をついて来る。
「はぁはぁ、で? どうするんだ~い?」
「どうするって、言ったって……」
オレ達は教会から抜け出した後も走り続けていた。後ろからはやはり奴らが追ってくる。
「やっぱり戦うしかないかな~?」
「なるべく遠慮したいんですがね」
身体の震えも少しは収まり敷地内を駆ける。ふと前を見ると、複数の人影が見えた。
「翔馬さん!」
「えっ何でまだ!?」
そこには先程逃げ出した美羽ちゃん達と、オレ達のことが気づかないのか夢中で戦いあっている兼一と
美羽ちゃんは少し言いよどみながら続ける。
「えーと、それはですね――」
「お兄ちゃん! ジャニーズ系! やめてよ~!」
美羽ちゃんの声を遮るようにほのかの叫び声が辺りに響く。
「こういう訳でして……」
「なんとなく分かったよ……」
恐らく逃げる途中で目を覚ましたほのかにこの光景を見られたんだろう。そして止めるために叫んでいると……。
「ゆっくりしてる場合じゃないかもよ~ほら」
不意に武田さんが指差した方に目を向けると――
「チョロチョロ、逃げ回りや、がって」
息を切らしたロキが立っていた。もう追いついてきたのか……。しかしフレイの姿はないやはり足が遅いのだろうか。
それとも何処かでサボっているのか、いや流石の
「不破ぁ、俺の
「しつこいな」
仕方ない今なら武田さんと二対一でロキを迎え撃つことが出来る。
少し不安を感じながらも小太刀を構えた。
「双方そこまで!」
「「!?」」
お互いが動き出そうとした瞬間、よく響く男性の声がそれを制した。少し離れた所にいる兼一達もその声によって戦いを一時的に中断している。
「第一拳豪だと……!」
いつの間にか復活していた新島が苦々しい表情で呟く。
第一拳豪と呼ばれた男は悠然とした足取りで近づいてくる。オレとにらみ合っていたロキの元へと近寄ると静かに告げる。
「ハーミット、今回の件はロキの独断だ。拳聖様は関係ない、君はロキに利用されただけだ」
また出た。拳聖という名前……ラグナレクの親玉みたいなものだろうか。
「ロキッテメェ!」
「けっ」
ハーミットが掴み掛かりそうな勢いで憤慨するも、ロキは悪びれる様子もなくその場で悪態をつく。
「ロキ、拳聖様の名を勝手に使ったことは許しがたいが今回は大目に見てやる。出直すぞ……」
「ふざけんなっ! 不破の野郎にやられたまま引き下がれる訳ねぇだろが!」
「……ロキ、私は大目に見るといったはずだが――」
バキンッ!
「これ以上騒ぐようならこれくらいじゃ済まされないよ」
「なっ!?」
淡々とそう告げる第一拳豪の手には今までロキが着けていた網目のゴーグルが見るも無残な姿で握られていた。
いつ取ったのかまったく見えなかった……。これが第一拳豪。
「君の力は買っているんだ、もう少し大人しくしていればね」
「くそっ!」
捨て台詞にそんな悪態をつき、顔を隠しながらこちらを気にすることなく走り去ってしまうロキ。
「待ちやがれ!」
ハーミットの声も無視してロキは駆けていく、しばらくするとエンジン音が聞こえてきたので何か乗り物にでも乗ったのだろう。こうなるともう追いつけないのを悟ってかその場に佇むハーミット。
「さて……、兼一君。久しぶりだね」
「え?」
ロキを見送った後に兼一の方に振り向き声をかける第一拳豪。兼一の方は困惑顔だが知り合いなのだろうか?
「おや? 覚えていないのかな、『あの日の約束を近いうちに果たそう』これで思い出してくれたかな?」
「えっと……」
「フッ、まぁいいさ。今日はこれで失礼するよ。あぁそうだフレイも拾っていかないと……ハーミット、君はどうする?」
「俺に構うな」
「フフ、そうだねわかったよ。じゃあまたね兼一君」
そう言い残し文字通りその場から消える第一拳豪。
「けっ興醒めだぜ……白浜兼一、決着はいつか着ける! 精々腕を上げるんだな」
そう言ってハーミットもその場から立ち去ろうとする。
「待って谷本君!」
「…………」
兼一の呼びかけも無視して教会を後にする。
「終わったのか……」
「みたいじゃな~い」
「ぐっ……」
「兼一さん!」
「おい! やべーんじゃねーのか!?」
「おにーちゃん!」
一難去って一息ついていると、うめき声を上げながら兼一がその場に蹲ってしまう。
オレ達は急いで兼一を治療するために梁山泊に向かった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
しばらくは週一のペースで更新したいと思っていますので、これからも拙作をよろしくお願いします。
ちょっと納得行かないので後半は後で書き直す予定です。今はとにかく話を進めたかったのでこの処置です。