「っ!? あれ……ここは?」
「おや、気がついたのかね?」
「秋雨……さん」
どうやらオレは組み手のときに意識を失っていたらしい。目を覚ましたら、道場ではなく居間の方に移されていた。頭の上には濡れタオルも乗っている、誰かが乗せてくれたんだろう。
「そうか、オレ……」
気を失ったときのことを、はっきり覚えている訳ではないがたぶん良いのを一発もらってしまったか、頭でも打ったのだろう。その証拠に後頭部が少し痛む。
「まぁ負けはしたが、それなりに収穫はあった」
「えっ収穫ですか?」
「しぐれ」
秋雨さんが声をかけると、背後からしぐれさんが近づいてきた。その手には、布に包まれた棒状の物が握られている。
「翔馬、こ…れ」
「これって……」
手渡された物の包みを取ると、何時ぞや頭に降って来た、あの打ち刀である。鞘は別の物に変わっていたが手に持ったときに不思議と馴染むのが肌で感じた。
「抜いてみても?」
「ん」
確認を取ってから、ゆっくりと刀身を鞘から抜き放つ。独特の音とともに解き放たれたその刀身は綺麗にそして妖しく輝いている。
しかし、あの時感じた吸い込まれるような感じはない。確かに今のままでも不思議な魅力のある刀だが、以前とは何か違った。
「ふむ」
秋雨さんが何か得心いったという風に頷く。
それに気づくことはなく無言で納刀する。
「……どう?」
「えっ、えーと綺麗な刀ですね?」
「……そう…か」
どう? と言われても、何と答えれば良かったのだろうか……。問いかける表情からは、その内心は読み取れない。だが微かに胸を撫で下ろしている様にも見える。
「さて、翔馬君。兼一君との組み手はどうだった?」
そう言われ、思い出せる範囲で先程の組み手を振り返る。
オレの放った技はその殆どが防がれていた。対して兼一の方はというと、避けられる場面もあったが決定打はしっかり決めている。
そういえば、終始違和感が付き纏っていたような……いや、もっとはっきりした不快感だ。こう……身体が勝手に反応する感じだった。
「何か……前の時と違う感じでした。何がとは言えないんですけど……」
「そうか」
そう零すと、何か思いついたのかしぐれさんを伴い別の部屋に行ってしまった。
☆
――翌日
さて、今オレは電車に乗って移動中です。そして何処に向かっているかも不明です。
というのも――
『翔馬君、君の抱えているものは、武術家ならば誰しもが大小持っているものだ。口で説明しても良いが、それでは根本的な解決にはならない――』
一旦言葉を区切り、しぐれさんと頷き合っている。なんだろう……あまり良い予感がしない。
『――そこで! 相談の結果、しぐれの付き添いである所へ行ってもらおうと思う!』
『えっ!?』
『心配はいらない! 全てしぐれに任せておけばそれで良い! あぁ学校のことは気にするな、美羽に言い含めておくので大丈夫だ!』
『えっ? えっ?』
『さぁ行って来るのだ! 我らが弟子よ!』
――何てやり取りがあったからである。いきなりの事で混乱しているオレを尻目にあれよあれよという間に決定してしまった。
秋雨さんが少しやけくそ気味だったのが不安で堪らないがきっとしっかりと考えてくれているのだろう、先程の言葉を聞くと心配ではあるが。
だが、梁山泊を出発してしまった以上気持ちを切り替えて行く事にしよう。うだうだ考えていても避けては通れないのだから。
窓の外に流れる景色に目をやりながら、もう何度目かわからない質問を隣に座っている御方に切り出す。
「しぐれさーん、いい加減何処行くか教えてくださいよー」
「ひみ…つ」
先程から行き先を聞き出そうと試みているが結果は芳しくない。聞く度にしぐれさんは人差し指を唇に当てて教えてくれない。顔は無表情ながらも心なしか楽しんでいるようにも見えた。
これ以上粘っていても進展はなさそうなので、無理やり自分を納得させ手荷物の中身をチェックする。何分急なことだったので、大した旅準備は出来ていないが……。
・兼一から借りた本(怒りの武道シリーズ上巻)
・美羽ちゃん特性の弁当
・アパチャイさん愛用のオセロ
・財布等
以上、身軽にも程がある。着替えすらないとかどういうことなのだろうか、必要ないと言われたので持って来ていないが、もっと必要ないものがあるような気がする。
「っと、あぶない」
電車の揺れで倒れそうになった長い包みを受け止める。
手荷物は身軽なのだが、装備はいつも以上に多い。まず、最近何処に行くにも携帯している小太刀。自分でもちょっと考えるものがあるが、備えあれば憂いなしとも言うし最近は割り切っている。
次に昨日渡された刀だ、今日はそれも携帯している。今までの木刀スタイルではなく真剣を使うので取り回しには十分に気をつける必要がある。とりあえず影突きは禁止である。
続いて、懐から棒状の物を一本取り出す。先日にも使った棒手裏剣だ。しぐれさんのお下がりだが中々に良い業物なんだだそうだ。だがやはり良い物だろうが、使い手の技量というものが存在し、同じ物を使用しても違う結果が出てしまう。
最後に、これまたしぐれさんのお下がりであるが、今服の下に着込んでいる
とまぁ、一介の高校生にしたら過剰すぎるほどの完全武装な訳だが、そこら辺は気にしたらダメなのだろう。真剣を用いてまで斬り合いをしたのだから今更である。
「おりる…ぞ」
「あ、はい!」
どうやらここで一旦下りるらしい。
乗り換えのために下車しただけのようで、またすぐに別の電車に乗車する。向かっている場所はわからないが、依然として都心からは離れていっている。
やはり修行でもしに山篭りでもするんだろうか……。昔から武術家の修行のイメージは山篭りを想像してしまう。
その後も数回電車を乗り次いで行くこと四時間半、車窓から望む眺めも大分変わってきた辺りで、ようやく目的地に着いた様で長かった電車移動から開放されたオレは凝り固まった身体を解しながらしぐれさんに続く。
「はぁ~やっと着いた~」
動けなかった時間が長かったため思わずそんな言葉を零す。
「ボサっとするな、行く…ぞ」
「あ、はい!」
長時間の移動の果てに到着したのは、のどかな田園風景広がるとある田舎町だった。
「結局ここに何があるんですか?」
「ん、着いてくれば…わかる」
目的地と思しき場所について尚、理由をはぐらかしてくるしぐれさんに、若干肩を落としながらも素直に着いて行く。
しばらく進むと、竹林広がる土地が見えてきた。その中にひっそりと神社か何かの入り口と思われる鳥居が佇んでいた。
「……ここ」
「……何か、妖怪でも出そうな雰囲気の場所ですね」
赤く塗られた鳥居が、終わりが見えないほど入り口から奥に続いて並んでいる。中に入った途中で振り返ったら帰ってこれないんじゃないのか? という疑念が頭に過ぎる。
「行く…よ」
「はぁ……」
少しばかりの憂鬱な気分を抱えながらも、オレ達はその鳥居を潜って奥に進んで行くのであった。
タイトル詐欺ですね。
お馴染みの裏社会化見学です、原作よりは軽めにする心算。