史上最強の弟子の相棒   作:アフィーと

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第22話 乗り越える弟子

――拝啓、天国のお父さん。

 秋雨さん達の半ば有無を言わせない提案によって、オレはこの不気味な場所に赴く事になりました。

 願わくば、この旅の発案及び実行に移した主犯であろう秋雨さんに何かささやかな嫌がらせでもしたい気分です。

 ……具体的には、父さんが生前試行錯誤して作っていた、ピーマンジュースやピーマンを使った料理などのレシピなどが欲しいです。

 

 

 おっと、周りの雰囲気に呑まれて思考がちょっとおかしな方向に逸れてしまった。

 仕返しという単語が頭に浮かんだが振り払い、気分を切り替え辺りを伺いつつ、先導しているしぐれさんに着いて行く。

 辺りは鬱蒼と生い茂る竹に囲まれていて、お世辞にも楽しめる風景ではない。

 竹が高いためか、あまり光が差し込まない。そのため竹林の奥の方になるほど暗くなって、その辺りの様子を窺うことは難しい。

 石畳で舗装された道を進む、頭上には赤く塗られた鳥居。もしも周りがもっと拓けていて、横に湖でもあったのなら旅行気分にも浸れたのだろう、だが今の状況では恐怖心を煽る結果にしかならない。

 

「つい…た」

 

 しぐれさんの言葉で気分と共に沈んでいた顔を上げる。

 

「ここが、目的地……」

 

 視線の先に広がっていたのは、何とも壮観な境内を有する大きな(やしろ)だった。そこは視界一杯と言って良いほど拓けており、今までの暗い雰囲気とは打って変わって眩いばかりの光が頭上から降り注いでいた。

 そしてその中心にある社、塵一つ無いそれは上から注がれる光も相まって、何とも神々しい存在感を醸し出していた。

 

「もし、香坂しぐれ殿か?」

 

 建物に見惚れていると、奥から箒を携えた初老の男性が近づいてきた。見た目五十代くらいだろうか

 見た感じここの住職か何かだろう。

 

「いか…にも」

「ふむ、してそちらは?」

「ボクの弟子」

「なんと! あの香坂殿が弟子を取られるとは…」

 

 驚いたように目を見開いた後、俯きながら何やら考え込む男性。

 

「で、ボクをわざわざ呼びだした理由(ワケ)…は?」

「おぉ! そうじゃったそうじゃった。これは失礼した、詳しいことは中で…」

 

 男性に連れられ、オレ達は案内されるまま社の中に足を踏み入れた。

 梁山泊(ウチ)と違って軋みなどの弊害が全くない廊下を通過し、通された部屋は昔話にでも出てくる様な武家屋敷然といったつくりだった。

 

「座ってくだされ」

 

 十畳くらいありそうな畳の部屋に入りそう男性は言う。

 それに従って、オレとしぐれさんは丁度男性と向かい合わせになる形で座る。 

 そして一息つくと、男性は話を切り出し始めた。

 

「申し遅れました。私は天津原雲海(あまつはら うんかい)と申すもの。さて、何から話せばいいやら…」

「まず…手紙の刀のことから…だ」

「……ふむ、そうでしたな。手紙にも書いたとおり、普段私はここに住む傍ら少々物騒な物品などの供養などをしていましてな、一ヶ月程前でしょうか……その中にある刀が紛れ込んで来まして……」

 

 少し言いづらそうにしながらも天津原氏は続ける。

 

「その刀のことなんですが、今は供養も済みしかるべき場所で寝かせているのですが、何処から嗅ぎつけてきたのか先日こんな物が届きましてな」

 

 すると、天津原氏が懐から封筒を取り出ししぐれさんに手渡す。

 

「…………」

「何て書いてあるんですか?」

 

 いつもと変わらない表情で封筒から取り出した手紙に目を落とすしぐれさん。オレもようやくここに来た訳を知れるとあってせっつく様に内容を聞く。

 

「…………読めな…い」

 

 ――ズルッ

 身を乗り出す様に聞いていたため、気の抜けた返事に思わず力が抜ける。

 

「もう、紛らわしいですよ!」

「翔馬も読んで…みる?」

 

 手渡された手紙を受け取り、読もうと目を向ける……が、

 

「何だこれ、英語? いや違うか……うーん」

「ドイツ語だそうだ」

「ドイツ語?」

「うむ。それにはこう書いてある。天津原雲海殿、このたび貴殿にもたらされた朔の刃(さくのやいば)、それは我々の手にあって然るべき命惜しくば次の満月の夜までに返答を、と」

 

 ドイツ語なのに言い回しが何処となく日本人っぽい気がする。気のせいだろうか……。

 

「要するに、大人しく刀を寄越せ返答がなければ殺してでも奪い取るってことですな」

「っていうとしぐれさんを呼んだってことはつまり……?」

「何処の馬の骨とも知れん奴に刀を渡す気はないので、この際奪われるくらいなら香坂殿にお譲りしようという次第ですな。聞けば何やら珍しい刀を集めているとか」

「えっそうなんですか?」

「…………」

 

 しぐれさんの方を向いてそう聞いても答えては貰えなかった。

 

「うぉっほん! して、刀を譲るにあたって一つ、条件がありましてな……」

 

 場の空気を変えるため咳払いをして話を続ける天津原氏。

 

「条件?」

「ええ。この手紙を送ってきた者共を倒して欲しいのです。もう二度とここに来れない様に」 

「えーとそいつらはいつ来るんですか?」

「今夜だ」

「っ今夜!?」

「して、どうだろうか香坂殿?」

 

 天津原氏が問う傍ら、オレは自分の持ち物を思い出して悟る。

 あぁこれを見越してこの装備の厳重さ何だろうなと、唐突に理解出来てしまった。

 話を断る微かな可能性を願って窺うように横のしぐれさんに顔を向ける、が――

 

「や…る」

「おお! やってくれますか!」

「…(コクリ)」

 

 フレイの言っていたように、人生ってそんなに甘くないんだなぁ……。

 このときほど、その言葉の重みがわかったときはなかった。

 

 

 ☆

 

 

 ――その夜、

 

 オレとしぐれさんは今夜ここに来るという者達を社の外で待ち構えていた。空は雲ひとつなく晴れ渡っており、綺麗な満月が顔を見せていた。境内には松明で明かりを焚いているが、それも必要ないほどに月明かりが差し込んでいる。

 

「――で、なんとなく予想はついてましたけど、やっぱりオレもやるんですか?」

「当…然」

 

 オレの問いに言葉の通り自身たっぷりといった風に答えるしぐれさん。

 その返答にため息を吐きながらもこれから起こるだろう事を考え頭を抱える。

 

「刀も持ってきちゃってるし……」

「ボクが持っていたほうが…安全」

 

 本来、この騒動が終わったら貰う予定だった刀も今はしぐれさんの手の内にある。

 護衛対象とも言うべき物が手元にあったほうが守り易いのだろうけど、あっでもしぐれさんが持っていたら狙われるのはしぐれさんだし天津原氏には危害は及ばないのか……。

 しぐれさんなら狙われても大丈夫だろうし、確かにこの方が良いのかも知れない。

 

「!」

「どうしました? しぐれさん」

「……来た」 

 

 何かに気づいたしぐれさん。

 その視線の先から聞こえる足音。そう多くはないが複数人はいるだろう。

 

 一歩、また一歩と音が近づいてくる。

 

 その音一つ一つが凄く長く感じる。緊張しているからだろう、今のオレには一秒が一時間にも思えた。

 やがて入り口の暗がりから数人の人影が現れた。

 

「む、何だ貴様らは!」

 

 向こうからもオレ達を確認出来たのだろう、先頭を歩いていた男が声を張り上げる。

 

「香坂しぐれ」

「香坂しぐれだと!? もしや剣と兵器の申し子か!」

 

 しぐれさんの名前を聞いてその字を思い出したようで、男達はざわつき始める。

 

「うろたえるな!」

 

 先頭の男の一喝で、徐々に後ろに続く男達も静まり始めた。

 どうやらこの先頭の男がリーダーの様だ。

 月明かりが辺りを照らし男達の風貌が明らかになった。全部で五人、それがこの場に現れた男達だ。

 男達は皆それぞれの顔に般若の面を着けており顔を確認することが出来ない。そして皆武器を携帯していた。後ろの四人は肩越しに日本刀を背負っている。ただリーダー格の男だけは心臓を守るような小さな胸当て、丈のあるマントと細長い物を腰に携えていた。

 

「あの者は私がやる、貴様らは刀を探せ!」

「「「「はっ!」」」」 

 

 そう指示を出して男達は散開しようとするが、

 

「……まて」

 

 静かに呟いたしぐれさんから投げられた手裏剣が、目にも留まらぬ速度で飛んで行き駆け出そうとしていた男達の足を止める。

 

「ぐわっ」 

「むっ」

 

 声を上げる者、そうでない者がいる中男達はそれぞれの得物で手裏剣を防いだり躱したりしていた。

 運悪く一人、手裏剣に当たってしまった様だが他の四人は無事の様だ。

 

「な、なん、だ。身体、が」

「毒でも塗ったか、姑息な……」

 

 オレの手裏剣に塗ってある様に、当然しぐれさんのにも即効性の麻痺毒が塗られている。人体に害のあるモノでもないのでかなり便利だ。

 

「お前達の狙いの刀は、ここ…だ」

「それはっ!」

  

 しぐれさんの掲げた一振りの刀に男達の視線が集まる。

 

「この刀はボクがもらっ…た。欲しかったら奪ってみろ~っと」

 

 まるで玩具を見せびらかす子供の様に手に持つ刀をぷらぷらと左右に振る。

 あぁそんなに相手を挑発しないでしぐれさん。

 

「おのれ馬鹿にしおってっ、貴様ら奴等を取り囲め!」

 

 リーダー格の男が指示すると男達はオレ達の周りに陣取り、各々背中の日本刀を抜き放つ。

 それに対してこちらも背中を合わせる様にして構える。オレの目の前にはリーダー格の男が武器に手をかけたまま佇んでいる。

 

「小僧、死にたくなかったらそこを退け……」

 

 その言葉に思わずしり込みしてしまう。脂汗が滲み出るが気にもしないで目の前の男を睨みつける。

 

「その意気や良し、しかし小僧の様な者がこの場にいるとは……何者だ?」

「ボクの弟…子」

「ほう、それは楽しみだ」

 

 しぐれさんの言葉を聞いて上機嫌に頷く男。それを見て手にかける刀に込める力が強まる。 

 

「し、しぐれさん。ちょっと勝てそうにないんですけど」

「別に、勝たなくても良…い。ただボクが全員倒すまで、生き残…れ」

「……ホントに、何処で生き方間違ったんだろうなぁ」

 

 鞘から刀を抜き放ち、両手に構える。

 恐らく目の前の男相手に、オレが勝てる可能性は限りなく低いだろう。だが時間稼ぎくらいなら――

 

「かぁああああ!」

「っ!?」

 

 突然、目の前の男が気合入れのためか、声を張り上げた。

 次の瞬間、オレの身体中に悪寒が走りその場に片膝をついてしまう。

 

「う……あ……」

「ふん! 剣と兵器の申し子の弟子と聞いてみれば、なんとまぁ情けない……」

 

 先程までと明らかに変わった空気の中、男はオレに語りかける。 

 

「たったこれしきの気当たりでその様か」

 

 男の言った気当たりという単語には聞き覚えが無いのだが、この気合の圧とも言うべきプレッシャーがそれなのだろうか。

 膝をつくオレの姿に呆れながらも、腰に提げた武器を抜き放つ。

 月明かりにが反射して銀色に輝くそれは、刃渡り一メートル弱といった所だろうか、レイピアの剣に近い両刃の細長い剣だ。

 その剣を突き出すようにオレに向かって構えた。

 

「つまらんな、もういいさっさと殺してメインディッシュのお相手をしよう!」

 

 言い終わるのが早いか否や、男がレイピアを突き出してきた。

 その切っ先がオレの頭を貫いたかと思うと、

 

 

 ――キンッ!

 

 

 甲高い音が頭上で響く。

 身体が思うように動かない中何とか顔を上に向けると、突き出されたレイピアの切っ先をしぐれさんの刀の切っ先が捉らえていた。

 

「なっ!?」

 

 リーダー格の男は驚きながらも攻撃を諦めないのか腕を突き出そうとしている。

 だが、しぐれさんの刀を突き崩すことは出来ないでいるようだ。

 

「翔馬」

 

 しぐれさんから声がかかる。

 

「落ち着…け。お前の抱いている『それ』は、決してお前に牙を…剥かない」

 

 優しい声色であやす様に続ける。

 

「お前が今感じてい…る恐怖はお前の味方…だ。お前がそれを恐れない限…り」

「ゆっくりでい…い。ボクがついてる。……恐怖を飼い馴らせ! 翔馬!」

 

 しぐれさんの鼓舞を受け、気持ちが少しずつ落ち着いていく。

 

 オレの中にあるもの……これが恐怖? 確かに恐いとは思う。でもそんなものは今までだって、それこそ小さな頃の父さんとの修行でだって恐いと思ったことはある。 

 それとは違うのだろうか、……いや違う! あれはもっと暖かいものだった。だとすると今受けているものは? どす黒い気持ち悪いもの……。人間の殺意……か?

 そうだとしても、それを感じ取るのはオレ自身だ。しぐれさんの言うとおりオレが感じたものがオレの敵になるはずがない!

 なら、オレに出来ることは一つ。しぐれさんが信じていてくれているのに、オレがオレ自身を信じないでどうするんだ!

 

 

 ただこの恐怖というものを――

 

「らぁ!」

 

 ――乗り越え飼い慣らせば良いんだ!

 

 掛け声と共に右手に握っていた小太刀の柄頭を自分の額に叩きつける。

 頭に響く鈍い痛みと共に強張った身体が程よく緩んでいく。

 

「ふっそれでこそ、ボクの弟…子♥」

 

 そう言ったしぐれさんの顔はいつもの無表情とは違って、微笑んでいるような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




言語の壁なんてものは存在しません(笑)お風呂シーンとか入れるべきだったかな……。

予定が詰まってきましたので、次回からの更新は一週間ないし二週間と考えております。
雪の中就活やだー!
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