史上最強の弟子の相棒   作:アフィーと

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第25話 予想外の再開

 しぐれさんとの裏社会化見学から数日後。

 

「あれ、何か向こう騒がしくない?」

「確かに、何かあったんでしょうか……」

「どうせまたケンカじゃないの? 本当にこの町はそういうの多いから」

 

 時間は早朝、オレ達三人は学校へ向かうべく普段は静かなはずの道を歩いていた。

 しかし今日に限っては、朝の気持ちいい陽気に混じって喧騒とした声が聞こえてくる。

 

「行ってみよう!」

「ええ」

「はぁ、わかった」

 

 朝早くからトラブルに巻き込まれると内心ため息を吐きつつ、先導する友人達を放って置くことも出来ないので渋々ながら声のする現場へと走る。

 

「どうだ! この俺をバカにしやがって、これで思い知ったか!」

 

 そこには、見覚えのあるメガネをかけた男子生徒が、同年代と思われる他校の男子生徒を組み伏せて、その顔を何度も何度も殴りつけていた。

 

「二度と俺をバカにするな! 俺は新白連合の水沼だぞっ!」

 

 最後に腹を蹴り付け、そう声高に宣言してこちらに向かって走ってくる。

 

「水沼君!?」

「白浜隊長!? 不破隊長も」

 

 ケンカしていたのは新島率いる新白連合の隊員、水沼だった。

 ケンカに勝った喜びもあるんだろう、その顔は上気していて勝利に酔っているとも云えるほど晴れやかだった。

 

「どうです? 俺、お二人みたいに強くなったんですよ!」

「え?」

「ちょっと待て!」

 

 オレ達にそう言うと、制止の声も届かず水沼は足早に走り去ってしまった。

 

「なぁ、アイツあんな奴だったか?」

「うーん、もっと大人しい人だったと思うけど……」

 

 徐々に遠くなっていく水沼の後姿を眺めながら兼一と話し合う。どうやらオレの記憶は間違っていなかったらしい、以前の彼はもっと大人しく悪い言い方をすれば、イジメを受けそうなほど暗かったような気がする。

 

「二人とも!」

 

 やられていた方の男子生徒に駆け寄った美羽ちゃんが、少し焦ったような声で呼びかけてきた。

 

「酷い怪我ですわ! 早く手当てしないと」

「本当だ!」

「ここからだと、ウチの学校に運んだほうが早い。兼一!」

「うん! 大丈夫かい? 君」

 

 負傷している男子生徒を兼一が担いで学校の保健室へと向かう。

 

 

 

 

「大事にならなくて良かったですわ」 

「ああ。まぁあのまま放って置いたらやばかったんだろうけどな」

「それにしても、あの水沼君があんなことするなんて……」

 

 確かに、以前の彼なら考えられないが……。

 

「その辺は新島辺りに問いただせば分かるんじゃないか?」

「うん。放課後聞いてみよう」

 

 そう結論付けて、オレ達は教室へと入っていった。

 

 

 ☆

 

 

 放課後。

 新島から水沼の事情を聞きだしたオレ達は、その足で梁山泊へと向かっていた。

 

 何でも、水沼があのように豹変したのは鬼幽会という空手道場に通っているためだということが判明した。

 いきなり乗り込むって手もあったが、兼一の提案で一度師匠方に相談することになった。

 

「ただいま~」「戻りました~」

「新島さんいらっしゃいませですわ」

「お、お邪魔するぜ……」

 

 門を潜り、中へと入る。

 新島がキョロキョロと何かに怯えているみたいに辺りを忙しなく見回していた。

 

「心配すんなよ新島、しぐれさんとアパチャイさんなら今ほのかを迎えに行ってて居ないはずだから」

「ほ、本当か? し、信じるぞ」

 

 二人の名前を出した途端に横に居る兼一の服にしがみついている。

 

 そんなにあの二人が恐ろしいのか。もう天敵って言っても良いかもな、今度こいつに何かされたら二人を嗾けよう。二人ともノリノリで引き受けてくれると思う。

 

「逆鬼師匠~」

 

 中に入り空手の師匠である逆鬼さんを探すオレ達。

 部屋まで行こうと思ったが、案外すぐに縁側で昼間からビールを飲んでいる姿が見つかった。

 

 

 

「ん? なんだぁ道場破りがしてーだぁ?」

「いや、違いますって友達の様子がおかしいから、その原因かも知れない道場を見に行くだけですよ」

「そいつぁつまり……道場破りに行くってことだろ?」

 

 どこをどう聞いたらそうなるんだろう。

 さっきから兼一のしている説明の半分も汲み取ってくれないよこの人。やっぱり酔っ払っているんだろうか……。

 

「ですから――」

「あぁもうそれでいいよ兼一、とにかく着いて来てもらうんだろう?」

「でも翔馬君」

「大丈夫だって、もし何かトラブルが起きたとしてもこの人居れば何とかなるだろ」

「うーん、まぁそうか」

 

 それでも何とかを説得すると、背に腹は替えられないとばかりに頷く兼一。

 

「おーし決まったな、んじゃ早速着替えて行くか!」

「オメーは来んな」

「えっ」

 

 方針が決まったので、準備でもしに部屋に行こうとすると逆鬼さんから待ったがかかる。

 

「何でですか」

「お前、剣術としぐれの武器術しか使えねーだろうが。それとも何か? 素手で戦えんのか?」

「うっ」

「今回は大人しく留守番でもしてろ。つーかお前まで来るとオレの相手が殆ど居なくなんじゃねーか」

「弟子のケンカに師匠は出ないんでしょ?」

「そ、それはまぁあれだ。言葉の綾ってもんで実際やる訳じゃねーよ」

 

 しどろもどろになりながらもそう言ってオレが行くのを許してくれない逆鬼さん。

 若干不満を覚えながらも、渋々その言葉に従う。 

 

「わりぃな。空手の道場破りってからには弟子と二人で行きたいんだよ」

「オレは弟子じゃないんですか?」

 

 少しジト目になりながら逆鬼さんを睨む。

 

「んな目で見るなってっ、オメーもオレの弟子だっつの! んじゃあ今度兼一の奴と一緒に修行するか?」

「……考えておきます」

 

 逆鬼さんの言葉に少し照れつつも提案された修行のことをイメージしてみる。

 いつもの兼一の空手の修行…………物理的に死にそうだ。オレは兼一みたいに頑丈に出来てはいないのだ。巻き藁突き位からかな? オレでも出来そうなのは。

 

 

 後ろに二人を連れて車庫に向かう逆鬼さんを見送りながら、何をしようかと考える。

 

 しぐれさんも居ないしなー、素振りでもしようかな。

 

「あ、翔馬さんは行かれなかったのですの?」

 

 暇を持て余していた所に美羽ちゃんが近づいてきた。

 

「逆鬼さんが着いて来るなってさ」

「あららそうでしたの」

「まぁ実際、行っても素手だと足手まといになるからね。これでよかったのかな」

「うふふ、元気出してくださいまし」

 

 オレが落ち込んでいると思ったのか、そう元気づけてくれる。若干疎外感を感じていたのでその優しさが身に染みる。

 

「でも時間が空いちゃってさー何しようか悩んでた所なんだよね」

「ならお夕飯の用意を手伝って下さいですわ」

「んー野菜切るくらいなら出来るかな?」

「ふふっじゃあお願いしますわ」

 

 台所に移動し、お世辞にも手早くとは言えない手付きで野菜を切っていく。

 ジャガイモ、にんじんに、玉ねぎ、今夜はカレーだろうか。

 

「刃物を扱う剣術の修行も料理には生かされてないっと」  

「どちらも慣れですわ」

 

 玉ねぎからの涙攻撃に苦戦していると、台所に向かってくる話し声と足音が聞こえる。

 

「あら、ほのかちゃん。いらっしゃいですわ」

「よっムチプリ、翔ちゃん」

「おーいらっしゃい」

 

 現れたのはほのかだった。後ろからアパチャイさんとしぐれさんも続いてやってくる。

 

「およ? お兄ちゃんは?」

「ん? あぁ、兼一なら逆鬼さんとどっかの道場にケンカ売りに行ったぞ」

「違いますわよ、道場破りに行ったんですわ」

「意味合い的には同じだって」

 

 此処に兼一が居ないことを不思議に思ったんだろう、確かにこの時間兼一は修行しているか何かの作業を手伝っているかというのが多い。

 それに引き換えオレはというと、単純に師匠が兼一に比べても少ないので(その分比重ほぼ百パーセントと云った具合に濃密に行うのだが)時間は空き易い。師匠五人というのは誰の目から見てもそれだけ異常なのだ。きっと今日の道場破りで使った時間の分だけ、何処かで修行時間は補完される事だろう。 

 

「そっかー、お兄ちゃんに会わせたかったんだけど。まっいいや、ここは翔ちゃんで手を打とうじゃないか」

「ちょっと待て、お前何様だ」

「だってー翔ちゃん暇なんでしょ? ねっしぐれー」

「いや、この後修行ですよね。しぐれさん?」

「…………翔馬貸そう…か? ほのか」

「えっ」

「いいのっ?」 

 

 オレの苦情はものともせず、というか耳に入らないようで半ば無理やりほのかの意見が通っていく。

 

 いや、元々兼一に付き合うつもりだったから、別に何の問題もないんだけどね。こう何か気分的に負けた気がする。

 

「んじゃあ翔ちゃん、レッツゴー!」

「え? 何、此処で遊ぶんじゃねーの?」

「あれ、会わせたい人がいるって言わなかったっけ?」

「いや初耳だし」

「そっか、まぁ気にしない気にしない。さぁ行こ行こ」

 

 手を取るほのかに急かされて、結局何処に行くのかとか、誰に会うのかなど訳も判らず連れ出される。

 後ろでは、ほのかが居なくなって若干寂しそうに見送る美羽ちゃんとアパチャイさん、無表情ながら手を振っているしぐれさんがいた。

 梁山泊への送り迎えのためだけに達人二人を使うというのは、世界広といえどほのかだけな気がする。

 

 

 ☆

 

 

 ショッピングモールで店先に飾られている見本のマネキンにふらふらと目移りしながら歩いて行く、依然何処に行くかは知らされていない。曰く、行けばわかるとの事だ。

 

「なぁ行くならさっさと行こうぜー」

「うるさいなぁ翔ちゃんは、レディのエスコートも出来ない様じゃもてないぞー」

「レディなんて何処にいるんだ?」

 

 そんな感じで少しおどけた風に応えると、その場で「ムキー」と奇声を上げながら地団駄を踏むほのか。あまり苛めるのもまずいので、素直に謝り先に進むためにも道案内を促す。

 

「むぅ。じゃあ、お詫びの印にほのかにアレを買うのだ!」 

 

 ほのかの指差す先にあったのは、露天だろうか、道端で並べられているシルバーアクセサリーの内の一つだった。千円~千五百円とそれほど高くなく、手ごろな値段とも言える。

 

「お前、わざわざオレに何か買わせる為に時間かけてた訳じゃないよな?」

「そ、そんな訳ないじゃん! 嫌だなーほのかが翔ちゃんにそんなことすると思ってるの?」

 

 そう考えるとほのかは中々強かと言える。その明らかに白々しい態度も裏があるようにも思えてしまう。

 

「はぁ、わかったわかった。一つだけだぞ」

「えっ!? ほんと? やった! ありがとっ翔ちゃん!」

 

 まさか買ってくれるとは思ってもいなかったのか、一瞬目を白黒させた後言うが早いか勢い良く飛び出して露天の前に陣取る。結構種類がありどうやら目移りしているらしく、今も「うーあー、うーあー」と悩みながら吟味している。

 こういうのはダメな気もするが、ほのかは梁山泊の妹分的な扱いのため兼一以外はどうしても対応が甘くなってしまう。

 そういうオレも例に漏れず、美羽ちゃん程ではないが甘くなってしまうという自覚がある。

 

 はぁ、また兼一に怒られっかな……。

 

「翔ちゃん、これ! これにする」

「はいはい。すんません、これお願いします」

 

 ほのかが選んだのは、ハート型の輪の中に小さな鍵が納まっているという何とも可愛らしいペンダントだった。

 商品を受け取りそのままほのかに渡す。

 

「えへへ。ありがと」

「あぁ失くすなよ?」

 

 受け取ると、それを宝物を抱えるように大事に首にかける。日の光を反射してキラキラと光るそれは、その所有者であるほのかに似合っており選んだセンスは悪くないと言えた。

 手放しで喜ばれると少し照れくさく、恥ずかしくなるので少々ぶっきら棒に返事をする。

 

 

 

 ショッピングモールから出てしばらく歩いていると、いかにも高級そうな住宅が軒を連ねている区画へとたどり着いた。

 

「こっちこっち」

「こんな所で誰に会わせようってんだよ」

 

 一介の女子中学生がこんな高級住宅街には縁がないと思うのだが、その思いに反してその足は迷いなく淡々と歩みを進めていく。

 

「着いた~!」

 

 どうやらやっと到着したらしい。

 前を行くほのかが立ち止まっているのは一軒の豪邸。普通の一軒や三、四個分位ありそうな洋館だ。中を覗くと庭などの手入れはあまり行っていないようだ。雑草が生い茂っているとまではいかないが、あまり見栄えが良いとは言えない状態だ。

 

「おーい、なっちー」

 

 門を開け、中に入っていくほのか。おいおい……と思いつつもそれに続く、先入ったほのかは既に呼び鈴に手を伸ばしており、リンゴーンと小気味良い音がなり響いた。

 どうやらほのかが言った、なっちーという人がここの住人らしい。

 

 

「留守じゃねーのか?」

 

 呼び鈴鳴らしても無反応なこの様子を見るとその可能性は高いと思う。

 

「今日遊びに行くって言っといたもん」

「うーん、じゃあ寝てるとか……」

「あっ開いてる! まったく、無用心だなーほのかじゃなかったら危ない所だったじょ」

「おい、こら勝手に入るな! くそっ」

 

 玄関の扉が開いていたと気づいたほのかは、あろう事かそのまま中に入っていってしまった。

 

「ったく、ほのか!」

 

 このまま玄関前でまごついている訳にもいかず、悪いと思いつつもオレも中に入っていく。

 長い廊下を進んでいると右奥の部屋で何やら口論でもしているような声が聞こえてきた。勝手に入ったほのかが叱られていると当たりをつけ、自分にも責任の一端があるので一緒に謝る為にもその部屋へと急ぐ。

 

 ――扉に手をかけた所で、男と思われる大声と、何かが割れる音が耳に入った。

 

「ほのかっ!」

 

 ほのかに危険がと思い蹴り破る勢いで扉を開け、中の様子を確認する。

 目に入ったのは、台所らしき部屋の中で床に尻餅をついているほのかと、食器棚だろうか……天井まで届くかという大きな棚を身体全体で支えている金髪の男だった。

 

「しょ、翔ちゃん。なっちーを助けて!」

 

 想像していた光景と違っていたのも相まって、半ば呆然としていたオレは助ける求めるほのかのその声で正気を取り戻して、それに従うことにして男の下へと駆け寄る。

 

「大丈夫かっ!? 合図したら一気に持ち上げるぞ!」

「っ!」

 

 男に寄り添う形で棚の下に潜り込み声を張り上げる。

 

「いいか、行くぞっ!? せーっの!!」

 

 掛け声と共に一気に力を入れて棚を押し出す。

 力を合わせて持ち上げた食器棚は重い音を立てて無事元の位置に戻る。

 

「翔ちゃん! なっちー!」

 

 声を荒げながらほのかが駆け寄ってくる。

 

 どうやらこの金髪の男が、ほのかの言っていた『なっちー』という人物らしい。落ち着いてその男に目をやると、食器棚に手をかけながら荒くなった息を整えていた。後ろ姿のためその顔は窺えないが、かなり体格が良く、小さめなサイズのTシャツのためか筋肉質な身体が目立つ。見える範囲の筋肉はオレとは比べられないほど発達しており、ひょっとするとウチの兼一よりも上かもしれない。

 

「おい、白浜妹……百歩譲ってお前が来るのは許したが、他の奴を連れてくることは許した覚えはないぞ。しかもよりにもよって――」

 

 男は駆け寄ったほのかを一目見てホッと息を吐くと、続く言葉でこちらに振り返る。

 

 そこに居たのは

 

 

「コイツとはな」

「お前はっ!?」

 

 いつかに相見えたラグナレクの第六拳豪、隠者(ハーミット)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一話で完結させる予定でしたが、長くなったためキリの良い所で投稿しました。
長くするつもりはなかったんですがね~、次回の更新は加筆を加えつつ←おい テスト期間をはさむため30日の金曜の予定です。

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