悲鳴が聞こえたオレは息を切らして、その悲鳴のした方向へと走った。
近づくにつれてケンカでもしているのか多数の人間が大声で叫び合っているのが聞こえてくる。携帯している二本の木刀を取り出し、いつでも戦闘が出来るように準備する。
「しかし、ちょっと前ならこういうことは無視していたんだけどなぁ……兼一のが移ったかなっと」
走りながらもそんなことが言えるほど落ち着いているのは最近襲われてケンカするのに慣れてしまっただろうか、甚だ不本意だが……。
「フレイヤ様お逃げ下さい! ここは我々が」
「部下がやられたのに黙って引き下がれるかっ」
そうこう考えているうちに目的の現場に着いてしまった。
予想とは少し違うがやはりケンカのようだ、一人の女性が負傷したのか肩を押さえ下がっている。その周りを二人の女性が固め、更にそれ庇う様に一人の褐色の女性が前に出て相手を牽制している。
それに対して、相手の男達の方は女性達を囲む様に陣取り逃げ道を塞いでる。数は大体十五、六人といったところか、全員何かしらの武器を持ち数名は刃物まで構えている。
「待て!」
「あぁ? なんだぁテメェは! こいつらの仲間かっ?」
今にも飛び掛りそうな勢いだったので慌てて両者の間に入る。
すると邪魔された男の方が声を荒げながら聞いてきた。
「ただの通りすがりだ、よってたかって女の子にこんな大勢で……恥ずかしくないの?」
「うるせぇ! 部外者は引っ込んでろ!」
「そうだ。引っ込んでいろ……これは私達の問題だ」
男と話していると、あろう事か後ろにいる褐色の女性にもそんなことを言われてしまった。
「ここまで来てそんなわけにも行かないって、それにそっちの子怪我してるんでしょ」
「貴様には関係ない」
「ゴチャゴチャうるせぇ! どかねぇならまとめてぶっ殺してやる! 野郎共行くぞ!」
『うぉおおおお!!』
女性と話していると男は痺れを切らしたのか、鼻息荒く言い放ち次々と駆け出してくる。
「ちっ」
「ったく、せっかく穏便に済ませようとしたのに」
褐色の女性は舌打ちしながらもスッと右腕を身体の前に出し後ろの女性達を庇うような位置取りで男達を迎え撃った、おかしな構えだと思っていると突然男の一人が後方へ吹き飛んだ。
自分の位置からだと見え辛かったが、何か棒の様な物が男を突き飛ばしたようだ。
「くらえっ!」
「おっと」
余所見をしていたらいつの間にか目の前の男が鉄パイプを振り下ろしてきた。
だが、咄嗟に身体が反応してその攻撃を避ける。……いけないいけないオレだってそんな余裕なんてないのに、何を余所見なんてしていたんだろう。それより今のがもし当たってたら、しぐれさんの扱きがより激しくなってしまう。気をつけなければ……。
攻撃してきた男の脇腹を左腕の木刀で右から左に薙ぐ、殴られた男はうめき声を上げながら膝を突いて倒れた。
その間も相手は待ってくれずに何人も突っ込んでくる。
「面倒だなぁ」
そう呟き一気に終わらせようと思い、左の木刀の構えを変える。
今までは所謂無行の構えだったのが右手を前に残したまま左手を身体の後ろに持ってきた。
脱力するための一呼吸の後、一気に右手を振りぬく――
「(月影流、居合い……影無し!!)」
木刀を振り終わると、それぞれ何が起こったかわからないという顔で地面に転がったいる。打ち所が良かったのか悪かったのか、三名程気絶している者もいた。
「ふうっ」
今放った技は影無しと言って月影流神速の居合い切りだ。といってもオレのはせいぜい高速ってところだろう、それでもそこらの不良には見えないと思うが。
「ひいい、なっ何なんだよお前!」
「いや、だからただの通りすがりだって」
「たっ助けてくれー!」
言うが早いか残っていたやつが逃げていく、それにつられて次々と逃げていく不良達。
それを深追いせず見送っていると、後ろから声をかけられた。
「……先ほどの非礼は詫びよう、すまなかった」
一息ついていると、さっきの褐色の女性から謝られた。
「別に気にしてないですよ、勝手に関わっただけですし」
「いやそれでも助かった」
さっきの敵愾心剥きだしの態度ではなく、しっかりと丁寧に謝ってくれる女性。
しかし改めて見るとかなり身長高いんだな……はっきりとは分からないけどオレより高いかもしれない。
「連れの人は大丈夫ですか?」
「そうだ、……痛むか?」
オレの言葉にハッとした様子で、仲間の女性に駆け寄る。
「はい。少々痛めただけですので手当てすれば問題ないかと」
「そうか、良かった」
怪我をした女性は肩を抑えながらも問題ないと気丈に振る舞い、その態度に少しホッとした様だ。
オレも近づき怪我の具合を見てみるが、どうやら打っているのか少し青く痣になっている。
「痛そうですね、ったくあの不良共女の子相手に何やってんだか……とにかく災難でしたね」
「お前は我々のことを知らないのか?」
不良達に呆れていると、怪我した女性がそんなことを聞いてきた。
? 我々ってなんだ? 何かあるのだろうか……。
「えっと良くわかんないですがどういう意味ですか?」
「それは――」
「いや、知らないのならいい」
女性のうち一人の何かお嬢様の様な雰囲気の人がオレの疑問に答えようとしたところを褐色の女性がそれを制す。
まぁ無理に聞くのもアレだし良いかな。
「それにしてもキミは強いんだな。何か習っているのか?」
話題を変えるように褐色の女性が聞いてきた。
「え? そうですね……剣術とその他を少し」
「そうか、私の他にも武術の心得のある女性に出会えて嬉しいな」
はい? 今何とおっしゃいましたかこの人は、まさか一日で二回もそういう風に見られているとは思わなかった。
「どうだろう、今度私と手合わ――」
「男ですよ」
「……は?」
オレがそう答えると、その場にいる全員がキョトンとしている。
「すまない、もう一度言ってくれるか?」
「だから、オレは男ですよ」
「「「えぇ~~~!?」」」
再度聞いてきた褐色の女性を除いた人全員がその場で大声を上げる、そこまで驚くことなのだろうか……。兼一達は何の問題もなかったのだが。
「何か問題でも?」
「い、いやすまない、少し驚いただけだ」
「では改めて、不破翔馬です。正真正銘男なのでお見知りおきを」
「あ、あぁ。私は
久賀舘さんというのか、杖術というのはさっきの棒のことだろうか。
「杖術ですか、あの量の敵を無傷で倒すなんて相当強いんですね」
「まだまだ修行中の身だ。それにキミだって無傷じゃないか、最後の一閃なんて見事なものだ」
「偶々ですよ。ところでさっき何か言いかけませんでした?」
「いや……何でもない、とにかく助かったありがとう」
「いえ、正直久賀舘さんがいたならオレは要らなかった様な気がしますし」
これは別に謙遜でも何でもなく事実だろう、なんかオレの周りには強い女性が多い気がする。
「ではオレはこれで。あっそうそう……その青痣ですが応急処置で冷やした後に、ぬるま湯に浸したタオルで血行を良くすると早く直りますよ。良かったら試してみてくださいね」
「は、はいっ!」
怪我をした茶髪ロングの女性にそう声をかけ、待たせているであろう梁山泊へ戻った。
のはずなのだが……。
「おそ…い」
廃工場を出るとそこにはしぐれさんが仁王立ちしていた。何故か若干不機嫌気味であるが。
「あれ? 待っててくれたんですか?」
「…………」スッ
無言のまま突然歩き出してしまうしぐれさん。
「えっ!? ちょっしぐれさん、待ってくださいよ~」
そのままどんどん歩いていってしまった、慌ててその後を追って駆け出す。
結局終始しぐれさんは無言でそれは梁山泊に帰っても続いた。
まったく理由が分からないのだが、一体何があったんだろう……。
オリ技を使うまでの相手がいないという……今回は無理やり使わせていただきました。
本来主人公をワルキューレに勧誘させようと思っていたんですが、諸事情により断念しました。