それから少しだけ月日が経った数日後、メガネからの情報で私たちイナズマジャパンの次の対戦国がついに判別した。
その間にも豪炎寺が相変わらずもどかしそうに練習してたり、円堂の元へ亡くなったはずの大介さんからの謎の手紙が届いたり、日に日に飛鷹が成長してたりと色々あったけど、あえて私はそこへは深く介入したりしなかった。
ぶっちゃけた話、私が割って入ったところでチームの雰囲気が良くなる話題とは思えなかったし、最終的には良い形で話は終わるはずだからだ。逆に転生してきた私が変に首を突っ込んで悪い方向に進むことだってありえる。
私にとって、記憶上この時期の豪炎寺が日本代表を抜けるか抜けないかの流れは、かなりデリケートな部分だと思ってる。迂闊に触れて未来を変えてしまえば、それこそ本当に豪炎寺が去って行ってしまうかもしれない。でもそれは嫌だ。だからここは、円堂たちを信じて深く立ち入らず、チームを結束させるためのサポートに徹する。
「で、どっちが勝ったんだ? 韓国か? サウジアラビアか?」
今日は韓国とサウジアラビアで準決勝戦が行われており、そのどちらか勝った方が私たちイナズマジャパンと決勝で戦うのだ。
「ふふん、どっちだと思いますか?」
「じれったいからさっさと言えっての!」
メガネが無駄にもったいぶり、それにイラついた綱海がメガネに近づき迫る。うん、ナイス綱海。あと1秒でも遅かったら私がそいつをぶん殴ってたよ。
「か、韓国ですよ! それも、4-0で完勝です!」
私たちのこれまでの対戦履歴は、オーストラリア戦で2-1の白星。カタール戦で3-2の白星と、勝ち進めてはいるけど辛勝といった印象があり、なかなかの苦戦を強いられてきた。でも韓国はサウジアラビアを相手に無失点に抑え、さらに4点もゴールを奪っている。サウジアラビアも決して弱い国ではない。この結果を聞いて、韓国の強さが否応にも伝わったイナズマジャパンのメンバーだった。
けど、私は知っている。
「そうか、やはり韓国か……面白い!」
「相手にとって不足はねぇぜ!」
「さすがは優勝候補ね……でも、私たちだって負けてられないわ!」
鬼道がキラリとゴーグルを光らせ、綱海が自らに気合を入れ直し、木野がみんなを鼓舞する。
「ああ! そうと決まれば、今から必殺技の特訓だ!」
イナズマジャパンの中に、相手がどんなに強敵だろうと臆したりするやつなんていない。みんな前を向いていつだって突き進もうとしているんだ。勢いなんてその場だけのものかもしれないけど、時には爆発的なパワーを生む可能性だってある。
円堂の掛け声とともに、みんなグラウンドへと向かおうとする。けど、そこへ久遠監督が立ち塞がる。あれ、この場面見覚えあるな……。確かオーストラリア戦でもあったような。
「その必要はない」
「えぇ!? でも、もうすぐ豪炎寺と虎丸、それに吹雪と土方の必殺技が完成しそうなんですよ!?」
「お前達には
そう言った監督の指先には、サッカーグラウンドがそのまま数センチくり抜かれ、その中に泥が浸された光景が見えた。あぁ、なんかうろ覚えだけど、確かにここで練習してた円堂たちを映像で見た気がする。
みんなで近づいてよく見てみると、やっぱりくり抜かれたグラウンドには目一杯泥が浸かっていた。
「決勝戦までの3日間、お前たちにはここで練習してもらう」
「どういうことですか? こんな泥の中で練習するなんて」
「それより必殺技の特訓をすべきじゃないんですか?」
「必要ない。お前たちは私の指示通りにしていれば良い」
風丸と鬼道が反論するが、有無を言わさず却下。
思わず「うわぁ……」と声を漏らした私だったけど、久遠監督に睨まれ、そこは苦笑いで誤魔化す。相変わらず多くを語らない人だな。一歩間違えればストライキや練習放棄をされかねないんじゃないかな。まぁ、久遠監督ならされても文句は言わないだろうし、何より切り捨てるんだろうけど。
「本当に、こんなところで練習すんのかよ……」
木暮が立向居の陰に隠れてあからさまに嫌そうな顔をする。そりゃそうだ、誰だって泥の中に自ら飛び込んでいくやつなんてそうそういない。余程の理由がない限りはの話だけど。
誰も泥の中に入ろうとしない中、豪炎寺がスッと前に出てそのまま躊躇することなく泥の中に足を突っ込む。
「豪炎寺……!」
そしてボールを泥の上に落とすが、普通の地面のように跳ね返る訳はなく、泥が衝撃を吸収しさらには跳ね返って豪炎寺のユニフォームを汚す。が、豪炎寺の顔色は変わらず、そんなことは御構いなしの様子だ。そしてさもいつも通りの練習をするかのように、ドリブルをつき始める。
それを見て、円堂も意を決したように勢いよく泥の中に入る。
「豪炎寺!」
円堂がパスを要求する。豪炎寺もそれに応えるようにパスを出すけど、泥に足を取られ円堂の少し手前に落ちてしまう。そうなるとやはり泥が跳ね返り、今度は円堂のユニフォームを汚す。
「円堂!」
今度は豪炎寺がパスを要求し、ゴール前まで走り込んで行く。円堂はそれに合わせるように力強くパスを出した。
「はぁ〜、スパイク買ったばっかりなんだけどなぁ……」
ぼそりと呟き、トホホと諦めたように苦笑しつつ私も泥の中へと足を踏み入れる。正直冷たいし気持ち悪いし最悪だけど、2人の様子を見てて何もしない訳にはいかないし、なにより勝つ為に必要とあればなんだってやってやる。
円堂と豪炎寺が泥の中に入った時点で皆は既に驚いていたようだけど、私が入ったことはもっと意外だったみたいで、皆は顔を見合わせて驚いていた。
ただ、やがて心を決めたように一人、また一人と泥のグラウンドへ入っていく。
◇◆◇◆◇◆
「行くぜ円堂!」
「おう! 来い!」
綱海が勢い良くボールを蹴り、シュートを放つ。が、泥に足を取られ見事に空振る。
すぐ側では風丸がドリブルをついていたが、泥の上ではボールが転がらず、上手く進めずにいた。
「これじゃまともにドリブルもつけないぞ……」
風丸や綱海だけでなく、他の皆も泥に足を取られて転げたり、倒れたりしていたけど次第に慣れてきたのか、中には上手に泥のコートを使いこなしているメンバーも徐々に現れ始めた。
「ヒロトくん! こっち!」
「うん、結城ちゃん!」
既に慣れ始めたメンバーの大半は、もうほとんどドリブルをつかなくなっていた。そう、この泥のコートでプレイする上で、重要なのはいかに泥の上にボールを落とさないか。そのことに気付き始めていた。
「いくよ緑川くん!」
空中でボールをトラップした私は、そのまま宙に浮いた状態で体を捻って緑川にパスを出す。そのパスに合わせるように緑川が飛んでダイレクトでシュートを放つ。
「みんな、少しずつ上手になってきてる」
冬花がそう呟くが、次の瞬間、目の前では緑川が着地に失敗し泥へとダイブしてしまっていた。その様子をマネージャーの一同は同情の眼差しで見つめる。
「あらら、やっちゃった……」
木野が苦笑しつつ呟く。
私たちも泥の上でプレイするから大変っちゃ大変なんだけど、一つ思ったのは、この練習が終わった後のユニフォームとか洗濯するマネージャーも大変なんだろうなって。