3話 合宿開始!
「……きて、起きて下さい!」
その声を聞いてパチリと目が覚める。
体を起こすと、横にはマネージャーの音無春奈が立っていた。なんだろ、寝ぼけて意識がはっきりしない。
「あれ、音無ちゃん? なんでここに……ってかここどこ?」
「もう、寝ぼけてるんですか? ここは雷門中の校舎の中ですよ」
あぁ、そうか思い出した。
昨日代表選抜の試合が終わって、それから代表メンバーは一部例外を除いて全員雷門中に寝泊まりすることになったんだった。いわゆる合宿ってやつね。
「ふわぁ〜……眠い」
「キャプテン以外の皆さんはもう起きて食堂にいますよ。結城さんも早く起きてください」
キャプテンってことは円堂ェ……。
お前も私と同じく寝坊助か。とりあえず手短に支度を済ませて音無と一緒に食堂へ行く。
「おはよ〜」
「おはよう」
「遅かったな」
円堂、風丸から声をかけられる。みんな既に食事を摂っているようで、それぞれ仲の良いメンバー同士で固まっていくつかのテーブルに座っていた。いや、不動と飛鷹だけは一人ボッチ飯だった。てか円堂もう来てたのね。
とりあえず円堂たちのテーブルの席が空いていたのでそこに座る。他にも風丸、ヒロト、吹雪が座っていた。タイミング良くメガネが私の席に食事のお盆を運んでくる。
「おっ、ヒロトくんに吹雪くんじゃない。昨日は凄いシュートだったね」
「結城さんも、見事なオーバーヘッドだったよ」
「ドリブルも上手だったよね、あれは誰かに教えてもらったのかい?」
「あぁ、あれはねーーー」
3人でご飯をぱくつきつつ、昨日の試合についてのサッカー談議に花を咲かせる。横では円堂と風丸が何やら楽しそうに喋っていた。
その時、壁山と緑川がほぼ同時に「おかわり!」と大きな声でご飯を催促する。朝からよくそんなに食べれるね、壁山はその体から安易に予想出来るけど、緑川は意外と大食いなのかな? それとも今日の練習に備えて蓄えているのか。
「よぉーし! 俺も負けてられないぞ!」
「おい円堂、そんなにかきこむと喉に詰まらせるぞ」
注意を促す風丸だったが、案の定円堂はご飯を喉に詰まらせたようで苦しそうに胸をトントンと叩いていた。木野が慌てて水を持ってくる。
「言わんこっちゃないね」
苦笑いしつつ、私も円堂の背中をさすってやる。
そんな円堂を見てみんなが笑い、食堂が活気付く。さすがは主人公、朝から元気だこと。
ご飯を食べてエネルギーを補給し、ついに最初の練習が始まる。みんなグラウンドに集まり、ストレッチを入念に行う。わざわざ自宅から通っている虎丸も途中から輪に入り、ちょうどいいタイミングで久遠監督が現れる。
「みんな顔は知っていると思うが、一応紹介しておく。娘の冬花だ、今日からマネージャーとして参加させる」
「久遠冬花です。よろしくお願いします」
「これからアジア予選に向けて練習を始めるが、その前に一つ言っておくことがある。はっきり言おう……今のお前たちのレベルでは世界に通用しない!」
久遠監督のその言葉に、みんな度肝を抜かれる。
まぁ、みんなそこまで自意識が高いわけじゃ無いとは思うけど、それでも世界を相手にできるくらいのレベルだと自負していたはず。じゃなきゃ代表になんか呼ばれないしね。でもそれを久遠監督は真っ向から否定した。
「なんだその顔は、まさか自分たちが世界レベルだと思っていた訳ではあるまいな? お前たちの力など、世界に比べれば吹けば飛ぶ紙切れのようなものだ」
「か、紙切れ……」
「私はそんなお前たちを1から鍛え直すよう頼まれた。中には私のやり方に納得出来ない者もいるだろう」
確かにこんな言い方されると、最初は不信感というか不満はあるよね。これは久遠監督が悪いってか言い方がアレだよ。根はいい人だと思うし、監督としての采配も凄いんだけどな。なんだろ、イナイレって良い人ほど過去に闇を抱えてる人とか、心が弱い傾向ある気がする。
「お前たちは、私の言う通りに実行することだけを考えていればそれでいい」
うわぁ大胆発言しちゃったよ。
これには天才ゲームメーカー鬼道もしかめっ面。
「特に鬼道、吹雪、豪炎寺、円堂。俺はお前たちをレギュラーだとは考えていない。試合に出たければ、死ぬ気で練習してレギュラーの座を勝ち取ってみろ。以上だ」
そして雰囲気最悪の状態で練習開始。
8:8で別れてミニゲーム形式で練習し、基礎というよりは総合的な練習をするみたいだ。てかもっとみっちり練習するのかと思いきや、やることは普段とあまり変わらないんだね。
センターサークルに置かれたボールを鬼道が蹴り出し、緑川と攻防を繰り広げる。が、多少強引に突破した。あまり鬼道らしくないプレーだ。さっきの監督の一言が効いたのか?
「風丸!」
風丸にパスが通り、そのまま素早いドリブルで駆け上がって行く。そこへ私が立ちふさがった。
「簡単には通さないよ?」
「望むところだ!」
ボールの奪い合いが始まる。風丸がフェイントをかければ、私はそれに釣られることなくなんとかくいつき、スピードで追い抜こうとすれば、体を当てて前に進ませないようにする。
「くっ、やるな」
「風丸! 土方にパスだ!」
マークが空いていた土方へパスを出すよう鬼道が指示を出す。風丸はそれを聞いて土方にパスを出した。
「よし「もらった!」なに!?」
しかしそのパスを走り込んできた虎丸がカット。そのままドリブルで進んでいき、ヒロトへパスをする。
「行くよ、円堂くん!」
高く飛び上がって体を捻りながらハイキック。するとボールが光を強く発光しまるで流星の如く突き進む、ヒロトの必殺シュートが炸裂する。
「流星ブレード!」
「正義の鉄拳G2!」
円堂が必死に堪えるが、シュートの勢いを止めきれずにボールは上空に弾かれた。ギュルギュルとボールに回転がかかったまま地面に落ち、やがてボールは静止する。
「やるね円堂くん」
「ヒロトも、すげーシュートだ」
みんな調子は良さそうだ。
と思っていたら、飛鷹にボールが飛んでくる。足を振り切ってボールを蹴ろうとしたらしいが、見事に空振ってボールが転々と私の元に転がってきた。えっと、飛鷹くん? これはちょっとさすがにヒドいんじゃないっすかね。
「ドンマイだ飛鷹!」
円堂がフォローを入れ、私はとりあえず構わずドリブルで上がって行く。
一人、二人とフェイントや股抜きで抜き去っていくが、不動が背後から激しいスライディングタックルをかましてきているのに気付かず、もろにくらってしまった。
「〜〜〜っ!!」
そんなに強く当たった訳じゃないけど、バランスを崩してすっ転んでしまった。めっちゃ恥ずいし痛い。
「おい! 今のはわざとーーー」
「不動、ナイスチャージだ!」
鬼道が不動にくってかかろうとしたが、久遠監督が不動のプレーを褒めたことにより、渋々引き下がる。その様子を見ていた不動は相変わらずニヤついていた。
「ねぇ、不動……」
私はゆっくりと立ち上がり、ゆらりと体を起こす。別に強引なプレーをされたから怒ってる訳じゃない。けど、まんまとしてやられただけじゃ癪だから、少しお返しだ。
「ナイスプレー!」
ニカッと笑いながらVサイン。これにはニヤついていた不動も思わず固まる。たぶん何言ってんだこいつとでも思っているんだろう。不動の性格上、他人の不幸や失敗は大好物のはずだ。もし私があのまま悔しそうにぐぬぬとなっていたら、不動はさぞニヤついていたことだろう。だから今回はその裏をかく。ホントに地味な仕返しだけど。
「チッ、気に入らねぇ」
興が削がれたのか、珍しく不動がパスを出した。受け取った緑川は、驚きつつもしっかりトラップしドリブルで進んで行く。
「行くぞ!」
緑川が思い切りシュートを放つ。それを遮るように、壁山が立ち塞がった。
「やらせないっス、ザ・ウォール!!」
壁山のブロック技でシュートは弾かれ、ボールが転々とする。その転がったボールに綱海が走り込み、再びシュートを放つ。
「もう一回っス!」
「いいぞ壁山!」
「……ストップだ!」
綱海のシュートを壁山が再びブロックしたところで、久遠監督が練習を中断させる。
「壁山! どうしてもっと前に出ない? 突っ立ってるだけがディフェンスなのか? 守ることしか考えていないDFなど、チームに必要ない!」
「は、はいっス!」
「それと風丸! さっきの場面、なぜ土方にパスを出した?」
「えっ、なぜって……」
「鬼道が言ったからか? お前は鬼道の指示がなければ満足にプレーも出来ないのか」
「そ、それは……」
よし、風丸待ってろ。今すぐその監督をぶん殴ってやる……なんてことは出来ず、私はとりあえず様子を見ている。まぁ、確かに鬼道のゲームメイクは凄いけど、それに頼りきりも良くないし、多少は自分の意思でプレーしないと意味がないってことを監督は言ってるんだろう。
壁山に関しては簡単だ。監督の言う通り、動きが少な過ぎる。今まではそれでも通用してたかもしれないけど、世界レベルではもっと視野を広く、動ける範囲を広くしないとダメだと思う。要するに痩せろ。
「どうした、練習再開だ」
「「は、はい!!」」
それから練習は再開されるも、先ほどの監督の一喝が効いたのか、みんなどこか動きが鈍い。徐々に監督の考えに疑問を持ち始めるメンバーが増えていってるのか、ギクシャクした感じでその日の練習は終わってしまった。
なんだか嫌な雰囲気だな……。
「お疲れさまでした! それじゃ、おれはこれで失礼します。また明日よろしくお願いします!」
「ああ! また明日な!」
「そういえばあいつ、昨日もそうだったな。宿舎じゃなくて、わざわざ家から通ってきて」
虎丸が荷物をまとめ、挨拶を済ませると足早に走り去って行った。虎丸は確か家庭の事情で学校には泊まらずに家から通っているんだっけ。そこらへんは追々円堂や豪炎寺辺りがいい感じに纏めてくれるだろう。それによって豪炎寺と虎丸の絆が生まれ、後に連携技なんかを編み出してくれるはずだ。
虎丸が帰った後、残ったメンバーは少しの間だけ自主練という形で走り込みやミニゲームをし、宿舎に戻った。
「たっはぁ〜、終わった〜」
「まさか練習がこんなにハードだなんてさぁ」
「おれもうくたくたっス」
「おいおいお前ら、合宿は始まったばっかだぞ」
壁山と緑川が早くも弱音を吐く。
今日の練習で一つ気が付いたけど、全体的に日本代表メンバーってスタミナが足りてない気がする。豪炎寺とか鬼道とか主要メンバーはまだしも、それ以外はちょっと物足りない感じがするんだよね。
「円堂くんはどう思った? あの監督のこと」
「どうって……そりゃあちょっと変わってるとは思うけど、良い監督じゃないか! 思ったことをちゃんと言ってくれるし、きっと俺たちにはまだまだ足りないものがあるんだよ。世界を目指すためにはさ」
「キャプテン……」
「それにしても腹減ったな〜。よーし! この後みんなで一緒に雷雷軒行かないか!?」
「いいっスね! おれも行くっス!」
「ラーメンか、僕も行こうかな」
「よっしゃ! 決まりだな!」
「飛鷹も、行こうぜ!」
「結城も一緒に来ないか?」
「すみませんキャプテン。ありがたいお誘いですが、俺は遠慮しておきます」
「ごめんね、私も遠慮しておくよ」
飛鷹は丁重に誘いを断り、私もちょっとやりたいことがあるので気持ちはありがたいが遠慮しておいた。他にも緑川は一人で走り込み、不動は自分の部屋に戻ったらしく、それ以外のメンバーはみんな雷雷軒へと歩いて行った。
さて、私はというとやりたいことがあるので早速緑川がいるであろうグラウンドへと向かった。
「さーてどこにいるかなーっと……おっ、いた」
コートのベンチに座って汗を拭いている緑川を発見。日中散々練習したというのにまだしたりないのかな? それともレギュラー争いに必死になり過ぎてありがちなオーバーワークにハマっちゃってるのか。どちらにせよ、体に大きな負担がかかっているのには変わりない。が、やめさせる気は別に無い。いや、さすがにやばそうだったら止めるけど、今回はそれが目的では無い。
「……っ! 誰だい?」
「おっす、精が出てるね」
「なんだ結城か、なんか用?」
私に気付いた緑川は怪訝そうに尋ねてくる。大方練習を止めに来たと思われているのだろう。
「いやね、緑川くんに少し相談があってね」
「僕に相談?」
イナイレの必殺技といえば個人技もカッコよくていいけど、なにより連携技もアツくて燃えるよね。ってことで私がイナイレ世界で憧れてることの一つ、
「うん、私と緑川くんでさ、連携技作らない?」