今回のお話は、サブタイ通り、2人が出会うお話となっております。
本格的な「お願い」のお話は次回から、となります。
それでは、序章のようなものにはなりますが、お楽しみください。
「はぁ……」
男は一人、自分の部屋で溜息をついていた。
時は既に午後8時、日は既に落ち窓の外には夜のとばりが落ちていた。
そんな夜に、彼は今日一日を振り返り、自らの行動に対して後悔をしていた。
「今日もほとんど何にもせずにこんな時間になったよ…… いろいろと出来ることはあったはずなのになぁ…… ああ、ずっとこんなことばっかりだ……」
彼の名前は風間義人(かざまよしと)、なんてことのない大学に通う3回生である。
彼の周りではだんだんと「就職」という言葉があちらこちらでささやかれ始めており、
義人自身も、そろそろそういうことを考えるべき時期なのかもしれない、と密かに感じ始めていた。
職に就くという道を進む以上、能力があればあるほど進める道は多い。だから能力を身に着けたい、少しでも就職という場で有利な位置に立ちたい。義人はそうあるべきと考えていた。
しかし、義人は能力が身に付かない生活をしていた。考えれば考えるほど、何をすべきかどうかが分からなくなり、分からないことによるフラストレーションが積み重なるうちに、日々、目についた娯楽を飽きるまで楽しみ続け、それを数度繰り返したら気づかぬうちに夜になっている、それが彼の「日常」であった。
そんな今の自堕落な生活と義人自身の望むありかたとのギャップに、義人は今まさに打ちひしがれていた。
「くそう、このままじゃダメだってわかってるのに…… 少しでも本を読んだり、どんな会社があるかの情報収集、能力があるってわかる資格の勉強もあるし…… ああ、そもそも大学の単位だって……」
多くの『すべき事柄』が義人の頭の中を駆け巡り、脳内の神経があちこちでショートが発生するような感覚が彼を襲い、彼の心をすり減らす。
その駆け巡る目標の数々を整理出来るだけの余裕は、今の彼にはなかった。
やがて彼は机に突っ伏し、大きなため息を一つ吐いた。
「……考えてるだけで疲れてきた。もういいや、さっさと寝る支度してゆっくり寝よう。」
うつろな表情、おぼつかない足取り、疲れ切った心を癒す為に寝る事を決めた義人はさっさと風呂に入り、布団を敷いて眠りにつくのだった。
その様子を、部屋の外から眺めている存在に気づくことはなく……
翌朝、朝日が窓から差し込み、義人は目が覚めた。
(……あれ?)
目覚めた直後、彼は違和感を覚える。いつもならすっと起き上がる体が起き上がらないのだ。
「あ、え?!」
(なんか、体が、重い……!誰かに乗っかられてる感じが……!)
日常と異なる感覚に、義人は焦り困惑する。そんな中で、彼の耳にとある声が聞こえた。
『人の寝顔というものをまじまじと見つめるのは初めての経験でしたが、中々悪くないものですね。良い体験をしたものです。』
「は?」
その声は凛としていて、透き通るような、女性の声だった
義人の眼はすっと、声のした方へ、寝たままの自身の体がある方へと動いた。
すると、義人には自身の体の上になにやら「もや」がかかっているのが見えた。
義人は本能的に、今起こっている体験を即座にまとめ、自らの身に起きていることが『自分には理解できない事である』事を感じ取ってしまった。
義人はその恐怖に耐え切れず、思わず大きな悲鳴を上げようとするが、それよりも早くもやがうごめき、口の部分を何かを抑えられてしまった。
『あら、見ただけで悲鳴を上げるだなんて。余りにも失礼ではありませんか?』
謎の声は明らかに不機嫌そうに、義人にそう告げる。
突然、得体のしれない『何か』に口元を抑えられた義人は慌てふためき、もがき始める。
「むぐぐぅ!むぐぐぅっ!!(うるさい!離せぇっ!)」
『あら?何を言っているのかしら?もごもごとしているだけではわかりませんわ?』
(こんにゃろう……っ!こっちは抑えられてて話せないんだっての!!)
義人は何とか口をおさえている何かを取り払おうと、手を口元に動かしたが、何にも触れることは出来ず、虚空をかすめるばかりであった。
(掴めない……?!)
どうしようもない、その言葉が頭をよぎり、さぁっと血の気が引くのを感じる。
そんな時、落ち着かせるような女性の声が聞こえてきた。
『そんな顔をしないでくださいまし、私はあなたにちょっとした「お願い」をしに来ただけですのに』
(『お願い』、だと……?)
『もし、聴いてくださるのであれば、今おさえている口を離して、一旦貴方から降りますわ。いかがかしら?』
突然投げかけられた、『何か』からの提案に義人は平静を取り戻し、少し思案する。
(聞かないならこのまま、だろうな…… 流石に動けないのは遠慮したいし……)
義人は観念して、こくりと縦に首を振った。
『交渉成立、ですわね……』
そういうと、口元を抑えていた何かと、身体に感じていた圧迫感が無くなるのを感じた。
「ふぅ……」
一息ついて、むくりと体を起こして、伸びをする。その後、いつの間にか身に着けている服ごと体の透けた女性が義人の前にいた。
『ご機嫌麗しゅう、名も知らないお方様。わたくしはユウと申します。以後、お見知りおきを……』
女性は自らのスカートを軽く持ち上げ、相手に軽く会釈した。
これは、一人の青年と、一人の女性の、ちょっとした非日常の物語である。