俺は今、馬車の荷台から乗り出して見ている光景に感動している。
辺り一面に広がる小麦畑。木や石をもとに建てられた平屋の民家。そして大きな風車。ドンキホーテが巨人だと思って突撃したのも頷ける大きさだ。俺はよく知らないのだが、こういうのを中世ヨーロッパ風の田舎といえば良いのだろうか。
そしてその家々に囲まれて存在する重厚感に溢れた、風車にも勝るとも劣らない大きさの壁。おそらく10mはあるのではないか。その壁に等間隔おきに並ぶバリスタがここでの違和感を増幅させる。ただ半数ほどが内側に向いていることには疑問を抱いてしまう。
「迷宮都市ヘルマール。人口15万人の王国内でも3番目に大きな都市ですよ」
アルマンの言によると、ここ、迷宮都市ヘルマールには、名前にもあるように迷宮が存在するらしい。ゲーム内で迷宮なるものは無かったのでどういうものなのか聞いてみると、地下に重層型の迷路があるのだという。ただし、それはただの迷路という生ぬるいものではなく、魔物が自然に発生するのだ。
そして人々はそこに目をつけて迷宮を囲むように都市を形成したのだ。確かに迷宮から魔物が溢れ出てくるという危険性はある。現に何度か魔物の処理が間に合わずに溢れ出し、迷宮都市がほとんど壊滅したことがあるそうだ。その対策として街全体を囲むようにして壁を作り、内側にもバリスタを向けているようだ。外からの攻撃にも内からの攻撃にも対応できるまさに万能型の都市と言えるだろう。
迷宮で魔物を倒すメリットが大きい。魔物が心臓に必ずもつ魔石は魔導具の燃料として用いられている。もちろん外で自然発生する魔物からも採れるが、定期的にたくさんの、となると難しい。それを迷宮は可能にするのだ。また、迷宮内で死体を放って置けば勝手に消えるという小さなメリットもある。
つまり、定期的に魔物さえ狩っておけばローリスクハイリターンということだ。
またそれを目的として冒険者組合というものが存在するのだ
そこまで聞いたところで俺は疑問を持つ。
「魔石ナンカガイルノカ?」
こんなことを言うのはゲーム内において、魔石とは何の価値も無いものであったからだ。用途といえばアクセサリーの宝石として使われるぐらい。小さいものは小指の爪の大きさから大きいものは人の頭よりも大きなものまである。色にも違いがあり、基本の色は青色で、白に近い青から黒に近い青まである。ゲーム内では無駄にアイテムボックスの容量を圧迫するためほとんどの人が捨てていた。
しかし、俺はアイテムとしてあるからには絶対何かの効果があるはずだと思って、課金してまでアイテムボックスの容量を最大まで拡張し、捨てることなくずっと貯めてきた。おかげでアイテムボックスのなかには数え切れないほどのアイテムが入っている。
「ええ、高価なものの中でも魔法金属以上に高い値段がつけられるものもあります。
何といったって日常生活に使う魔導具には不可欠ですからね。武器や防具にも使われているので戦争にも欠かせません。ですからこの国にある3つの迷宮都市はすべて直轄地ですよ。この魔導具をみてください」
そう言ってアルマンが取り出したのはランプのようなものだった。ある場所が凹んでおり、何かをはめ込むための穴のようだ。
そして彼は直径1cmほどの白に近い青色の魔石をそこに嵌め込んだ。
「【光球】」
そう唱えるとランプに明かりが灯った。
「アルマンは魔法使いだったのか!?」
オーシャンが興奮気味に前のめりになって質問する。
「いいえ、違いますよ。私はしがないただの商人です」
アルマンは苦笑いしながら答える。
そうだ、鑑定スキルでも確認したが、彼は中級商人Lv.14という職業についている。決して魔法を使えるはずがない。意外とレベルが高いのが気になるが。
田舎に住んでて本当に何も知らないんですね、と苦笑して説明してくれる。
「秘密はこの魔石にあるんです。この魔石には第一位階の光魔法【光球】が封じ込められているんです。それを魔法使いではない私が使えるように魔導具が補助してくれているのです。しかし、魔石の魔力が切れたら使い捨てとなってしまいますがね」
俺はなるほどと納得する。ゲーム内でも魔石の用途を探していたが、見つかることはなかった。それも当然だろう。ゲームのサービス開始はまだ数年前でしかないのだから。しかしこの世界での歴史は長い。長年の研究によってそれを成し得たのだ。
魔石を取り外して、ランプの魔導具をしまっているところにまた質問する。
「魔導具ナド使ワズニ魔法具ヲ使エバイイノデハナイノカ?」
ゲームの中ではこれが一般的に使われていた。自分の魔力を消費することで使用するというものだ。
「あんな高いもの普通の人は買えませんよ。そこそこ儲かっている商人の私でさえ一つしか持っていません。なんせ迷宮内の宝箱でしか手に入りませんからね。まだ製造方法が解明されていないんです」
おっと、これは早めに聞いておいてよかった。俺のアイテムボックスには大量の魔法具が入っている。無闇に出したら面倒ごとに巻き込まれるところだった。危ない危ない。
「ドンナモノヲ持ッテイルンダ?」
「それは勘弁してください。切り札というものは最後まで隠し持っておくものでしょう?」
むっ、確かに彼のいう通りだ。無粋なことを聞いたな。
「スマナイ、配慮ガ足リナカッタ」
「いえ、いいんですよ。
さあそうこう言っているうちに着きましたよ」
視線を前に向けると門から並んだ行列の後ろについていた。ほとんどが商人か冒険者なのだろう。検閲も手早く済ませてはいるようだが、それでも処理が間に合っていない。それだけこの都市が栄えていることがよくわかる。
「うへえ、こんなに待つのか」
オーシャンが眉をひそめてそう言った。
「ここの門兵は優秀ですからあっという間ですよ」
そして20分もしないうちに俺たちの番になった。
「よし、通れ! 次!」