さあどう攻めて来る?
建物内で周りに人がいることも考えると大振りな攻撃と飛び道具は使えないだろう。今持つ武器から考えるとデブに注意を払った方がいいのか。
と、こんな風に予想していたが、それはすぐに掻き消された。
「ふんっ!」
正面に相対していた頬傷が大きく振りかぶって両刃の大斧を振り下ろしてきた。
右足を引いてあと数センチであたるというギリギリのところで避ける。大斧が床板に勢いよく突き立ち、いや、粉砕したところで頭を蹴り上げる。
頬傷の男が綺麗に空中を待っている間にデブとどこから取り出したのかナイフを持ったガリが飛び込んできていたので攻撃があたる前に両手で一つずつ頭を掴み床に叩きつける。
戦いが終わるまでに1分も掛からなかった。
どうやら気の良い先輩とかではなく単なるクズだったようだ。
3人ともピクピクと動いているので死んではいないだろう。回復薬をかければすぐ治るレベルの傷だ。
両手をパンパンと叩いていると、固まっていたギャラリーが一気に声を上げる
。ただ9割の人が頭を抱えていることから賭けであの3人組の方が人気だったのだろう。一方残りに1割は狂喜している。
そんなどこの世界でも変わらない、見ていて悲しくなる光景を傍目でみつつ、オーシャンと一緒に登録と書かれたカウンターに向かう。
「グランドすげえな! というかそれに勝った俺ってすごい?」
1人で興奮しているオーシャンを放っておいてカウンターのお姉さんに話しかける。
「従魔ノ登録ヲ頼ム」
「え・・・あ! はい、かしこまりました」
一瞬呆けていた受付嬢は慌てて動き出す。
「冒険者の登録はされていますか?」
「オイ」
「いてっ、ぶつなよなまったく。登録はしてないよ」
自分の世界に入り込んでいたオーシャンの頭を叩いて現実世界に引き戻す。
「では冒険者の登録からさせていただきます。お名前と年齢をお願いします」
「オーシャン、13歳」
「従魔の名前と種族を」
「見テノ通リ、リザードマンダ。名前ハグランド」
受付嬢は何かに書き込んでいく。戸籍の登録のようなものだろうか。
「はい、大丈夫です。冒険者カードと首輪の作成には時間が掛かるのでそれまで冒険者組合について説明させていただきますがよろしいでしょうか」
「いいよ」
「まず冒険者組合の概要について説明します。
冒険者組合では仕事の斡旋をしています。
家の掃除から魔物の討伐まで、様々な仕事が毎日舞い込んできて、それを組合の方で適切なランクに分別します。
ランクはS、A、B、C、Dと5つあり、Sが最高難易度となっています。ランクによって潜る階層には制限が設けられます。
依頼はここの受付で受注し、討伐依頼ならば討伐確認部位の提示を、手伝いなどの依頼ならば依頼主の署名を頂いて提示を冒険者カードと一緒にお願いします。
依頼の中断は罰金が生じる場合、ランクの降格、組合からの追放などの罰則が生じますのでご注意を。
Cランクからは組合からの強制召集に従う義務が生じます。召集の無視にもまた罰則が生じますので、肝に銘じてください。
また、依頼を受けずに魔物のみを狩ることも可能です。受付では依頼を受けた時同様に討伐確認部位を提出していただければ適正価格で買い取ります。
また、魔物の死体本体を運んできた場合には、この建物の裏手に併設されている解体場に持ってきていただければ、解体する手数料は発生しますが、死体全身を素材として活用できるので高く買い取らせていただきます。
次に、冒険者になることによる特典について説明します。
迷宮に入る際と都市の出入りの際に手数料を免除させていただきます。また、迷宮内で取れた魔石については提出の義務があります。もちろん適正価格で買い取らせていただきます。どうしても自分で持っておきたい魔石は市場価格の4分の1の価格で買い取っていただきます。
これで説明は終わりです。質問はございますか?」
ふむ、だいたいは知っていることと同じだな。
「昇級ハドウスルンダ?」
「はい、昇級は組合の方から通知させていただきます。基本的に試験は試験官引率の実地試験となります。また受けることは強制ではありません」
「依頼ノ受ケ方ハ?」
「依頼掲示板の自分のランク、一つ上のランク、一つ下のランクのものを剥がして受付まで持ってきて頂ければ手続きを行います」
横を見るとオーシャンがどこか遠いところを見る目をしていた。こいつのおつむではすべて理解できなかったのだろう。どれだけ馬鹿なんだよ。
「あっ! 冒険者カードができました。どうぞ」
オーシャンに手渡されたのは長方形の金属板だった。穴の空いた場所から紐が通されて首にかけられるようになっている。
金属の凹凸を利用して文字を刻み込むようにしているようだ。
オーシャン Eランク
従魔 リザードマン グランド
裏には身体的特徴が書かれている。
随分とシンプルなものだ。いや、だからこそいいのか。
なんで文字が日本語なんだという疑問も湧いたが、それも翻訳機能がなんとかしてくれたんだろう。なんとも便利なものだ。
「こちらが首輪です。お付けしましょうか?」
「頼ム」
受付嬢がカウンターから出てきて俺の目の前まできた。付けやすいように少し屈んで首元の鎧をズラす。
「はい付け終わりました」
ガチッとした音が聞こえて首元に重みがかかる。重さからして金属製の首輪のようだ。
「ドウダ? 似合ウカ?」
オーシャンにマッスルポーズをとってニヤッと笑いかけてみる。
「・・・鎧で見えない」
「・・・ソウカ」
・・・やばい、超恥ずかしいんだけど!
こういう時だけは顔の表情が読みにくいことに感謝する限りだ。
「他に質問はありますか?」
「いや、ないよ。ありがとう」
「アリガトウ」
受付を離れて依頼掲示板に向かう。受付嬢の笑顔が引きつっていたのは見なかったことにしよう。俺のガラスのハートが砕けちゃう。
オーシャンは手を振って感謝を述べた。こいつは俺にはもう慣れたもんだから反応も普通だからよかった。