飛び上がってからこれからどうしようかと考える。
魔法が使えることがわかったことから、魔法による帰還も無いとは言えないことがわかった。まあその際にちょっと問題もあったが・・・まあ自然現象ということでなんとかなるだろう。うん、俺は悪くない。
そして、咄嗟に飛び上がったはいいが、自分が翼を使って飛んでいることに驚いている。またMPが消費されている感覚があることから風魔法か何かを利用して飛んでいることがわかる。
頭ではまだ追いついてはいないが、体ではこれがさも当然だとばかりに自然に動いている。俺は本当に《グランド》、つまり竜人になったことを思い知らされる。
太陽がだいぶ傾いてきた。
感覚的にあと2時間もすれば夜の帳が下りるだろう。
その前にどこか眠る場所を見つけたい。それもベッドで。
というかこの世界には知的生命体がいるのだろうか。
もしいないならばかなり困る。
既存の魔法では世界を渡る魔法がないため、どうしてもこの世界特有の魔法に頼るしかない。
魔法を使う生命体からその魔法を伝授してもらわなければ自分で魔法の研究をしなければならないだろう。
正直言って面倒臭いし、自分にそんな事が出来るとも思わない。
人間、またはそれに類するものが見つかるのを祈るばかりだ。
それから1時間ほど飛行し、文明的な痕跡が見つからない事からいよいよこれは本当にヤバイんじゃないかと顔に汗を浮かべているとあるものを発見してそこに降り立つ。
◇
そこは小さな村だった、のだと思う。
なぜ断定できないかというと村が今では村という体をなしていないからだ。
中央にある円形の広場を中心として同心円状に家が建てられていたのであろうが、多くの家は焼け焦げるか倒壊しており、それ以外の家も窓か玄関のどちらかが壊れてしまっている。
そして、その家の住人だが、鼻につく血生臭い臭いがどうなってしまったのかを示している。
道のあちこちで倒れ伏し、血溜まりを作っている人間が元住人なのだろう。
うつ伏せに倒れている男性を爪先でひっくり返すと、左肩から袈裟懸けに斬られている。
傷跡の綺麗さからみて刃物によって斬られたのだということがよくわかる。
そこで俺はあることに気づく。
人間がいることに安心感を覚える一方で人の死体を足蹴りにするほど人間の死というものに無関心になっていることに。
俺は内心恐怖を覚える。
もしかして俺が俺で無くなってきているのではないか、そんな不安がたってならない。
しかも、そんな不安によって押しつぶされそうになる胸の痛みが一瞬で消え、気持ちが落ち着く。
これは俺が《グランド》になったことのメリット、それともデメリットと呼んでいいのかよくわからない。
取り敢えずはあまり深く考えない方がいいだろう。
気分転換に村人達の死体を弔ってあげることにした。気分転換のためにすると言うとちょっと不謹慎だが。
村人の死体を丁寧に一人一人村のはずれへと運び、火葬しやすいように重ねていく。もちろん森とは反対側だ。また森に火が燃え移ったとなっては目も当てられない。
途中で1人でやるのが面倒臭くなってきたので
第二位階土魔法【ゴーレム生成】によって等身大のゴーレムを2体作り出して手伝わせる。本来なら精巧に形作り性能の高いものも作れるのだが、今は死体を運べればいいので土で固められた歪な人形だ。顔ものっぺりとしており、鼻のところが盛り上がり目のところが凹んでいるといった具合だ。
一応生存者の確認も、ということで家の確認をする。
なんとかまともである状態の家を俺にとっては少し小さいドアから覗き込み、生存者を探すがその気配は一切見られない。
俺の知覚範囲に小さな生き物の反応があったが、どうせ鶏かなんかの小動物だろうと思って作業を進める。
そうこうしているうちにだいぶ時間も過ぎ、すっかり陽が暮れてしまい、空には大小2つの月と満天の星空があった。
人間だったときにもこんな綺麗な光景は見た事がなかったので、思わず見とれてしまったが、作業の途中であったのでゴーレムたちと共に急ピッチで進めるとうとう死体を積み終わる。
全部で150人くらいはいたのではないだろうか。老若男女構わずみんな刃物によって殺傷されていた。
村の様子から窺い知れる文化レベルからおそらく中世ほどだろうと予測できる。そのころなら盗賊がいたとしてもおかしくない。
たまたま盗賊の急襲に遭ったのだと思う。村人の死体の近くからは武器が見つからなかった。
火魔法で死体の山に火をつけ、その光景を見ながらゴーレムたちと一緒に手を合わせる。
土の人形が合掌しているのはなかなかシュールだな。
殺戮者に対する怒りとかは特にない。強いていうならば被害者たちに対する少しの同情くらいだろうか。犯人に会ったら仇討ちくらいはしてあげようと思う。
こうはなるまいとしみじみと感じ、人間とのファーストコンタクトはなるべく穏便にすませられるようにしようと決意する。
すると後ろで並んで合掌していたゴーレム2体から警戒を知らせる信号が来る。
くそっ! 敵襲か! しまった、もっとゴーレムをちゃんと作っておくんだった!
後悔先に立たず、とはこのことを言うのだろう。
そんなことを考え、ゴーレムたちが相対している敵を見据える。
そしてそこに立っていたのはなんと3、4歳の男の子であった。