丘の向こうから現れたのは狼だった。
もちろんただの狼な訳がない。普通の狼よりも少し体格が大きく、足の筋肉がこれでもかと言うほど発達している。
ゲームの中にも存在した魔物、【フィールドウルフ】だ。主に草原に生息しており、走ることに特化している。持久力が凄まじく一度獲物とみなされると、殺すか殺されるかしない限り追って来る。
そのため、持久力に優れている馬の方が先に力尽きそうになっているのだろう。
そして、ウルフ系の魔物がその力の真価を発揮するのは集団戦だ。5匹から20匹ほどの群れをなして行動し、まるで一つの個であるかのように動くのだ。
この群れは11匹で構成されていて、群れの長だと思われる他よりも一段と大きい個体もいる。おそらく上位個体の【ハイフィールドウルフ】だ。身体中の傷跡からそいつが積んできた経験が予測される。おそらく一筋縄ではいかないだろう。
俺でなければ。
俺は大剣と大盾を手に持ち、オーシャンは俺が与えた初心者用の剣と盾を持って臨戦態勢に入っている。
オーシャンは汗をかいて緊張しているようだ。まあこれが実質的に初の戦闘だからだろう。俺との戦い・・・うん、戦いを抜けば、という条件がつくが。ちゃっちゃと片付けてオーシャンの援護にまわってやろう。
道を境に二手に分かれた俺たちの間を馬車が駆けていく。
すれ違いざまに逃げろ、と言っていたがそんな言葉は無視する。俺もこの世界に来てから初めての本格的な戦闘なので少し昂ぶっているのだ。
馬車が通り過ぎてから数秒も経たないうちにウルフ達と接敵する。振り分けとしてはオーシャンに2匹、俺に9匹だ。
どうやら俺が強いということだけはわかっているようだ。まあそれでも戦いを挑む時点で勝負は決まっている。
俺は馬車を追っていたスピードのまま突っ込んで来たウルフを危なげなく横に避けて右手の大剣を振り上げ上半身と下半身の真っ二つにする。隙間なく攻めてきたウルフを3匹同じように処理する。そこに焦燥感というものはない。例えるならば流れ作業のような感じだ。感情なく淡々とこなしていく。
3匹もやられてさすがにやばいと思ったのか、ハイフィールドウルフが鳴き声を上げて戦法が変えられる。
俺の周りをボス個体以外の5匹が等間隔で円を描くように回っている。
そんな中でも余裕があった俺はオーシャンの様子を見てみる。
戦い方は無茶苦茶だった。盾を前に突き出して目を瞑りながら剣を振り回すというものだった。
おいおいそんなんじゃ殺されるぞと思っていると、その戦い方に戸惑い攻めあぐねていた1匹のウルフが、焦れったいと思ったのか、飛びかかったところ偶然剣先が首に当たって頸動脈を切り裂いたようだ。弱々しい鳴き声を上げてそのまま倒れていた。
1匹になってしまったウルフはさらに攻めづらくなってしまったようだ。
さてそんなふうに余所見をしている俺を見て好機だとおもったのか、後ろに回っていたウルフが背後から大きく口開けて飛びついて来る。
しかし、俺にはそんなこと筒抜けだ。鎧に包まれたそっぽを高速で振って頭を爆散させる。
それをみた他のウルフ達が本能的な恐怖を感じたのか背を向けて散り散りに逃げ始めた。
しかし、それを俺が見逃すはずがない。第三位階の土魔法【剣山】を使って、逃げるウルフ達の真下に土の中の成分から錬成した剣山を何本も生やして5匹を一度にまとめて刺し殺した。
残っていたボス個体もはらをくくったのか最初のウルフ達と同様に攻めてきた。大剣を振るって縦に真っ二つに斬り伏せてやった。
元々勝負にならないのだ。俺のレベルは200。奴らのレベルは鑑定スキルを使ったところ、平均でLv.10くらいだ。一番強かったボス個体でもLv.16。もし俺に攻撃が当たり、もし鎧を貫通しても身体には傷一つつかなかっただろう。オーシャンでも職業レベルの合計が15はあるので単なるフィールドウルフなら難なく殺せるはずなのだ。
鑑定スキルは便利だと思うやつもいるかもしれないが、これはとんだ欠陥があるのだ。自分よりも下のレベルの相手にしか効かない。つまり俺の場合Lv.199までの相手しかだめだということだ。敵が魔物ならば名前とレベルだけ、プレイヤーならば名前とレベルと職業だ。
俺が敵対していた魔物やプレイヤーは基本的にLv.200であったために鑑定スキルは無用の長物と化すのだ。
さて、戦闘が終わり大剣を振って表面についていた血を飛ばして背中に戻す。ウルフ達の死体を全て拾い上げて黒い渦にぶち込んでいく。
すべて入れ終わりオーシャンの方を見るとあっちも戦闘が終了したようだ。またもや偶然で当たった剣で最後のウルフを倒したらしい。こいつの運のよさに驚きを通り越して呆れてしまう。今後戦闘があったときにも放置しておいてもなんとかなるだろう。
彼の戦闘の成果もアイテムボックスにしまって、初めての戦闘で青ざめた顔をしていたオーシャンは勝利したという高揚感が後から押し寄せてきたのか、自分がどうやって倒したかについてペチャクチャと動作も交えて話しかけてくる。
ハイハイと適当に聞き流し、戻ってきた馬車に注意を向ける。