ガラクタと呼ばれた少女達   作:湊音

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私はペンを机に置くと、大きく伸びをした。

ふと右肩に青痣が残ってしまっているのが視界に入った。

もう少ししっかり入渠をしていた方が良かっただろうか。

こんな恥ずかしい姿を姉さまに見られでもしたらと必要のない心配をしてしまう。

昔に比べれば敵の砲撃にも慣れてきたし、自分の中でこれ以上はまずいという境界線もはっきり分かってきた。

それでも毎回戦闘後には入渠している私を見て彼らはまたドック入りかと嘲笑うような視線を向けてくる。

今回こそ無事に帰還できるかと思っていたのに、不運にも敵の最後に放った魚雷に当たってしまうとは……。

もう1度ペンを取ると、姉さまへの手紙の続きを書き始める。

姉さまは覚えているかしら?

元気いっぱいだった──を。

いつもマイペースな──。

照れ屋さんな──、なかなか素直になれない──。

そして、誰よりも泣き虫だった──を。

私が生きているうちにもう1度会いたいわね……。


小さな背中に背負うモノ(1)

「朝か……」

 

 ふと窓へと視線を移すと、カーテンの隙間から陽の光が漏れ出している事に気付いた。乱雑に印の付けられた地図を両手でくしゃくしゃに丸めると、机の横に置かれたゴミ箱へと投げ捨てる。

 

(情報が足りなさすぎる……、敵だけじゃない海の上では味方となる彼女達の事すら俺はよく分かっていない)

 

 考えても考えても安全な航路は見つから無い。呉から鹿屋へのルートは比較的狭い海域を航行する必要があり、敵の索敵距離も分からない以上はどこが安全なのかも想像できない。陸路であれば経験である程度の予想は付けれるのだが、それが海上となっただけでここまで難しくなるとは思わなかった。

 

(理想は志布志湾まで入ってこられるのがベストだけど、彼女達の訓練の様子を見る限り少しでも陸路で距離を稼ぎたいか。 佐伯は流石に遠すぎる、資材の事を考えるとせめて山越えだけは避けたい)

 

 新しく地図を取り出すと、再び赤ペンで×印を書き込み海路の予定を立てる。そもそも彼女達はどれくらいの距離を移動する事ができるのだろうか?いざとなれば輸送船で休憩をさせてもらう事も可能だが、その場合交代要員の準備が必要になる。

 

(阿武隈、夕立、暁、響、雷、電、叢雲、時雨……。 金剛姉妹はまだ実力は確認していないが、彼女達には最悪の事態のためにもこの基地に残しておきたいな)

 

 休憩の可能性を考え、宿毛湾に〇印を付ける。恐らくはここで休憩を挟みそこから最低でも宮崎くらいまでは進む必要がある。その場合は鰐塚山を越える必要が出てくるのだが、どうにかクソ爺にでも頭を下げてみるかと考える。

 

(個人的に変な借りは作りたくないけど、俺のプライドで彼女等の安全が買えるなら安いものか……)

 

 そんな事を考えていると、突然机の上の電話が鳴り始めて驚いてしまう。なんとなくだが、もの凄く嫌な予感がして仕方がない。そう思いながらも受話器を取ると耳に当てる。

 

「……湊少佐だな?」

 

 受話器の向こうから1番聞きたくない声が聞こえてきた。年相応にしわがれた声だが、そんな事を考えさせないほどの重圧を感じる。

 

「お、おはようございます。 こんな朝早くにどうしました?」

 

 先ほどはプライドを捨てる覚悟では居たのだが、急に張本人から電話がかかってきたのでは焦って上手く口が回らない。

 

「呉の提督からな、儂の元部下の躾がなっておらんと苦情があった」

 

「そ、それは申し訳ありません。 何分緊張していたもので口が滑ってしまったかもしれません」

 

 中将の声からは感情は読み取れない、いつも通りのこちらを探っているのではないかと静かに語り掛けてくる。

 

「良くやった」

 

「本当にすみませ……って、え?」

 

 聞き間違いだろうか?電話先に居るクソ爺は滅多な事が無い限り他人を褒めるような性格では無い、むしろ成果をあげたら次はその倍成果をあげろと無茶を言ってくるような人だ。

 

「カッカッカ! あの狸が顔を真っ赤にしている様、この目で見たかった!」

 

「えーっと、どういう事でしょう……?」

 

 爺に事情を尋ねると、どうやら軍部は違うが古い付き合いらしく顔を合わせるたびに陸が良いか海が良いかと不毛な口論を繰り広げていたらしい。今回は陸側の俺が海側に引き抜かれた事に腹を立てていたようだが、口論の末相手が激怒したという結果から言い負かされたのでは無いかと確認を楽しみにしていたらしい。

 

「あの狸が指揮官を寄こせと言ってきた時には断ってやろうかと思ったが、やはり貴様を選んで正解だった。 して、何を言って言い負かしたのだ?」

 

「話すと長くなるので短めに伝えますと、『戦に負ける理由を艦のせいにするとは、それでも元船乗りですか?』と言っておきました」

 

 この言葉の後に「デスクワークで上に上がった人には難しい言葉でしたか?」と付け加えたのは流石に黙っておこう。彼女達を欠陥兵器だと海軍の連中は言っているようだが、つまりは自分達には使いこなせません、艦の性能が悪く戦えませんと言っているようなものだと俺は思っている。

 

「ふむ、艦に乗ったことのない人間にそれを言われるとはな。 狸も落ちぶれたものだ」

 

「まぁ、その話はまた今度にしましょう。 その代わりちょっと厄介な任務を受ける事になってしまいまして」

 

 俺は爺に呉からこの鹿屋まで艦娘と資材を乗せた輸送船を護衛する事になったと伝える。付け加えるように、この輸送作戦には海軍からの援軍は与えられないと説明した。

 

「貴様の部下の練度はどうなのだ?」

 

「そっちの俺の部下達の方がまだマシな感じですかね」

 

 俺の言葉に流石の爺も黙ってしまった。元居た基地でも俺は新兵の教育を行っていたのだが、正直に言って彼等の出来が良いとは言えない。恐らくは上官が俺じゃなければ今頃良くて炊事場、最悪除隊させられてもおかしくない連中だった。

 

「考えはあるのか?」

 

「はい、まだ確定ではありませんがある程度はまとまってきています」

 

「ふむ、貴様には関係無い話かもしれんが現在輸送訓練を計画していてな、何か重しとなる物が無いか探しておるのだが?」

 

 相変わらずこの爺は食えない性格だと実感する。この頭の回転の速さがあるからこそ今の地位に立っているのだろうが、こちらの練度の低さと移動距離を考えて俺が直接志布志へと向かう事が危険だと判断していると読まれたのだろう。

 

「その訓練って大分の方まで出たりしませんかね?」

 

「甘えるな、宮崎までは迎えを出してやる。 その代わり、失敗したら貴様の本隊への帰還は無い物と思え」

 

「ん?俺って戻れるんですか?」

 

 これで陸路は確保できたと安堵していたら、予想外の言葉が聞こえてきた。

 

「貴様に適正が無いと分かればすぐにでも前任のようにクビになるだろうな」

 

「つまり、俺は彼女達と上手く戦って行けるか試されてるって訳ですね」

 

 余程俺が呉の提督に啖呵を切ったのが嬉しかったのか、今日はボロボロと情報を落とすものだと面白く感じる。しかし、やっと俺がここに来た意味が見えてきた気がする。そんな事を考えると、扉の向こうから物音が聞こえてきた。

 

「おっと、そろそろ訓練の時間なので」

 

「そうか、恥をかかぬよう励めよ」

 

 そう言って爺との通話を終わらせる。誰か居るのかと思い扉を開いてみるが、人影はなく床には握り飯の乗った皿が置かれていた。

 

(駆逐艦の誰かか……?)

 

 握り飯の大きさからこれを作った者の手の大きさを想像する。かなり小ぶりで、形が不格好な事を考えるに料理の慣れた者では無いという所までは分かった。

 

(まぁ、折角の朝食だ、ありがたく頂こう)

 

 俺は握り飯を1つ頬張ると、久しぶりの米の味を噛み締める。若干芯が残っているように感じたが、乾パンよりも遥かに美味しく感じた───。

 

 

 

 

「今日の訓練は昨日と同じく航行訓練をメインに行う。 阿武隈を旗艦に暁、響、雷、電、夕立で輪形陣から他の陣形に、少し移動したら再び輪形陣にって感じでやってみてくれ。 変更するタイミングは阿武隈の指示に従うように」

 

 俺の言葉に少女達は元気よく返事をした。やはり昨日の食事で調子が良いのか昨日よりも顔色が良い気がする。

 

「ヘーイ! 私は何をしたら良いデスカー?」

 

「せっかく艤装を付けて準備してくれてるのはありがたいんだが、君達はここから阿武隈達を見て陣形が崩れているようだったら注意してやってくれ」

 

「は、榛名達は海に出られないのですか……?」

 

 まったくと言っていいほど意識していなかったのだが、訓練前に艤装に燃料の補給を行っていたらこの基地には資材がほとんど無い事が発覚した。駆逐艦や軽巡洋艦程度であれば数度は出撃しても大丈夫だとは思うが、金剛姉妹の艤装を見た瞬間まずいと直感で分かった。

 

「す、すまん……」

 

 姉妹4人であからさまに凹まれると流石に罪悪感がやばい。本当は叢雲や時雨にも昨日と同じく少女達のフォローに回って欲しかったのだが、今は残された資材で少しでも次の作戦のメインとなる少女達の練度を上げておきたかった。

 

「ぼ、僕はどうしたら良い? 僕はまだ燃費の良い方だと思うけど」

 

「悪いが時雨も今日は見学だな、時雨や叢雲は暁達より海上の移動に慣れてるみたいだしアイツ等が追いつくまで待ってやってくれないかな?」

 

 何やら昨日よりも積極的な時雨に違和感を感じたが、やはり艦娘である以上は海に出たいという気持ちは強いのだろうか?

 

「ったく、期待して損したわよ。 じゃあ私は適当に走ってくるわね」

 

「……僕も行くよ」

 

 やはり叢雲も海上に出ることができなくてつまらないのか昨日と同じく基地の周りを走ってくると告げて時雨と二人で走って行ってしまった。それからは阿武隈が抜錨しますと宣言を行い、昨日と同じくフラフラとした航行で陣形を入れ替えながら騒いでいた。

 

「みんなー! 気合! 入れて! 頑張りましょー!」

 

「榛名も応援しています!」

 

「響が僅かにだけど先行してるわね」

 

 なんというか、金剛も煩いと感じてたがここにも1人声がでかいのが居たらしい。しかし、なんというかこの姉妹はそれぞれ個性が強く見ていて面白いと思う。恐らく素人の俺よりも少しでも航行の経験がある彼女達の方が良いアドバイスができると思い、少しの間黙って見守ることにした。

 

「でだ、少し近すぎるんじゃないか?」

 

「そんな事無いデース!」

 

 俺は桟橋に腰かけたのは良いが、ぴったりとくっつくように金剛が隣に座ってきた。正直煙草を吸うためにわざわざ離れてやったと言うのに良い迷惑だ。

 

「暑いんだが?」

 

「私のバーニングラブが伝わってるみたいネー!」

 

 出会った時の嘘くさい笑顔では無く、心の底から笑っているのだろうが正直に言えばものすごくめんどくさい。以前暁達がじゃれついて来た事があったが、流石にもう子供とは呼べない彼女にここまでくっつかれると嫌でも意識してしまいそうになる。

 

「ちょっと何やってるんですか! お姉様から離れてください!」

 

 先ほどまで大声で阿武隈達に声援を送っていた比叡が俺と金剛の間に割り込んでくる。なんなんだコイツは、俺に身体を押し付けるようにして割り込んできたため、左腕に柔らかな感触を感じた。

 

「あ、電がこけました」

 

「た、助けに行かないと!」

 

 榛名が海に飛び込もうとしているのを霧島が必死で引き留めている。俺は心の中で「君の艤装には燃料は一滴も入ってないからな?」と突っ込みを入れて置く。なんというか、下手すると暁達よりも手がかかるのでは無いかと不安になってきた。

 

「みんな楽しそうで良かったデース!」

 

 そんな光景を見ている金剛の表情はとても嬉しそうだ。恐らくは今の彼女達は完全に自然体なのだろう、これがきっと彼女が守ろうとした光景なのだと思うと少しだけこの空気も悪くないなと思った。

 

「次は暁ですか、咄嗟に夕立の手を掴んだようですが2人共こけましたね」

 

 そんな中冷静に必死な少女達を解説している霧島が妙に面白い。真面目に訓練を見ているのはコイツだけみたいだし、手招きをしてこちらに呼ぶと悪い点を見つけたら指摘するようにと無線を渡す。

 

「そこのスイッチを押しながら話せば向こうにも通じるからな」

 

「分かりました。 艦隊の頭脳と呼ばれた霧島にお任せを」

 

 そう言って霧島は何度も深呼吸をすると、数秒目を閉じて意識を集中させているようだった。指摘するだけでどうしてそこまで集中しているのかと疑問に思ったが、真剣な表情で目を見開いた彼女の姿に昔の隊長の姿が重なって黙って見続けた。

 

「……マイク音量大丈夫?チェック、ワン、ツー…よーし。…はぁ、すー…本日はお日柄もよく───」

 

「いや、演説か何かかよ……」

 

 唯一の常識人だと思った俺の期待は裏切られた。この姉妹はきっとダメだ、何がダメなのかと聞かれると答えられないが、きっと俺は一生かけても理解できないと悟った。必死で阿武隈の指示に従おうと奮闘している海上とは正反対に、桟橋に居る俺達は不思議な空気に包まれたまま少女達を見守った───。

 

 

 

 

 

 

「第一……水雷戦隊……あぶ……くま! 帰還しま……した!」

 

「も、もうダメ……」

 

「雷、海の上で眠ると沈んでしまうよ」

 

「びしょ濡れなのです……」

 

「こんなのレディじゃないわね……」

 

「もう一歩も歩けないっぽいぃ」

 

 陽も沈みかけ、夕方と呼ばれる時間まで少女達の訓練は続いた。後半は疲労で無駄な力が抜けたのか素人目に見てもスムーズに陣形の変更ができていたと思う。俺の膝に頭を乗せて爆睡している馬鹿をゆすってやる。

 

「んぅ… はっ!何ですか!?寝てません!寝てませんてばぁーっ!」

 

「阿武隈達を引き上げるぞ」

 

 俺と金剛達で少女達を桟橋へと引き上げると俺が雷と電を抱え、残った4人は各自1人ずつに肩を貸してやり入渠施設へと運んでやる。後は少女達の入渠が終わるまでに夕食の支度をしておいてやれば良いだろう。

 

「今日の夕食は何にするんだ?」

 

「ん~、昨日はカレーでしたし今日は榛名に頼んでジャパニーズフードでも作ってもらいマース!」

 

「和食にするなら肉じゃがにしてくれ。 できるか?」

 

「はい! 榛名にお任せください!」

 

 なんとなくだが、海軍って聞くとカレーと肉じゃがのイメージがある。昨日のカレーは食べられなかったし、今日は俺の分を執務室まで運ぶようにお願いして置こう。

 

「あら、今日は肉じゃがにしたのね」

 

「叢雲か、時雨はどうした?」

 

 雑談をしながら食堂へ向かっている途中で先ほどまで走っていたと思われる叢雲と出会う。2人で走りに行ったはずなのだが、もう1人の姿が見えないため質問してみる。

 

「もう少し走るって言ってたわよ。 時雨って意外と体力あるのよね……」

 

 叢雲はそう言い残して入渠施設へと向かって行った。なんとなく彼女達が入渠と言っているから合わせているが、故障している訳でも無いのに何故みんな入渠施設へと向かうのだろうか?入渠と言うからにはドックなのだろうが、艦娘も兵器と呼ばれている以上はメンテナンスが必要なのかもしれない、今度機会があったら覗いてみるか。

 

 俺は金剛達が食堂へと入っていくのを見届けると、執務室に戻り再び地図と睨めっこを始める。昨日の練度では不安だったが、今日の終盤の動きとこの先もまだまだ伸び代があるのだと考えれば、朝悩んでいたよりもまともな作戦にできると確信していた。

 

(ただ、資材の問題もどうにかしないとか……)

 

 最悪の事態に備え、金剛姉妹が動けるだけの資材は残す必要があった。もっと言うのであれば、彼女達が保険になりうる実力かどうかも確認する必要もある。しかし、どちらも現状の資材の量では不安要素となってしまっている。

 

(燃料だけじゃない、弾薬もそうか。 仮に敵と遭遇してしまった場合には反撃するための弾薬も必ず必要となってくる……)

 

「ヘーイ! 教官ー! ディナー持ってきましたヨー!」

 

「あぁ、金剛か。 ノックくらいするようにな」

 

 突然扉が開かれ、何故か2人分の食事を持った金剛が入ってきた。

 

「俺はそんなに食べないぞ」

 

「こっちは私の分デース!」

 

 そう言って金剛は軽く左手に持ったトレーを持ち上げる。どうやら俺だけが1人で食事を取るのが申し訳ないと思ってからの行動だったようだが、明日からは他の艦娘達と一緒に食事を取る様にと注意をしておく。

 

「なら教官が食堂に来たら良いネー!」

 

「まだ俺の事を警戒してる子も居るだろ? いつか全員と仲良くなれたらそうするよ」

 

 そう言って肉じゃがを口に含むと、ジャガイモの甘みが口の中に広がる。正直艦娘を侮っていた、あんな乾パンばかり食っていたのだからまともな味覚じゃ無くなっていると思っていたが、想像以上に美味い。

 

「榛名の肉じゃがはとってもデリシャスネー!」

 

 騒ぐ金剛を無視して、勢いよく口の中に放り込んでいく。俺の夕食が半分ほど無くなったタイミングで彼女がこちらを睨んでいる事に気付いた。

 

「いつか必ず私のカレーも食べさせてみせマース!」

 

「そうか、楽しみにしておくよ」

 

 どうやら必死で妹の作った肉じゃがを頬張る俺を見て対抗心が沸いてしまったらしい。冗談だとばかり思っていたが、一目惚れしたってのは意外と本当の事なのだろうか?

 

「ふぅ……、満足した」

 

「後片付けをしてきますネ。 教官も無理しちゃだめデスヨー?」

 

 そう言って金剛は自身の目の下を指差す。鏡を使って自分の顔を確認してみると、昨日から一睡もしていないせいかクマができてしまっていた。空になった食器を片付けている彼女に「気を付けるよ」と告げて、彼女の代わりに扉を開けてやった。

 

(せめて次の作戦までにできる事はやっておきたいからな……)

 

 俺は未だに片付けられていない資料の山から、『深海棲艦』と書かれた資料を拾い上げて目を通していく。分厚い資料を半分ほど読み終えた辺りで、瞼が異様に重くなってきたような錯覚を覚える。

 

(確かに少しだけ寝た方が良いかもしれないな……)

 

 そんな事を考えていると、扉が勢いよく開かれ夕立が飛び込んできた。半分ほど睡魔に意識を持っていかれていたが、突然の事に意識が覚醒してしまう。

 

「き、教官さん! 時雨が帰って来てないっぽい!」

 

 夕立は目を真っ赤にして俺に報告する。時刻を確認すると、すでに0300を回っていた───。




7/10 一部修正

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