ガラクタと呼ばれた少女達   作:湊音

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目が覚めたら目の前に不思議な生き物が居た。

お饅頭みたいな顔をして、大きさは僕の手の平くらいの大きさ。

まだ夢を見ているのかと思ったのだけど、自分の頬をつねるとちゃんと痛みを感じた。

一体この子は何なのだろう?

なんとなく頭を撫でてやると嬉しそうにはしゃいでいる。

そっと手の平に乗せてみると、とても懐かしい感覚がした。

まるでこの子達が僕の一部だったかのような。

ふと時計を見ると湊教官との約束の時間が迫っていた。

悪いけど僕はもう行くね、帰ってきたら湊教官にも相談してみよう。


姉妹に会いに & すいらいせんたい?(2)

「時雨、羽黒。 いい加減起きろ」

 

 基地の散策を終え車に戻ると完全に眠ってしまっていた2人に声をかける。想像以上に面白い物が多くつい時間をかけすぎてしまった。

 

「……おはよう」

 

「おはようございま……、ご、ごめんなさいっ!」

 

 時雨はまだ眠そうに目をこすっていたが、羽黒は眠ってしまっていた事を恥じているのか必死でこちらに頭を下げてくる。出会った時からそうだが、この子はいつも謝っているような気がする。

 

「準備ができたら挨拶に行くぞ、俺はちょっと着替えるから後ろを見ないようにしておいてくれ」

 

 俺は後ろのドアをあけてスーツケースを取り出す。正直この服を着ると本当に自分は陸軍では無くなってしまったと認めてしまうようで抵抗があったのだが、流石に他の基地で今まで通り作業着で居るというのはまずいと思い用意をしておいた。

 

「へぇ、そんな服持ってたんだ」

 

「後ろを見るなって言っただろ」

 

 作業着を脱ぎ終えて、白い軍服に袖を通している最中に時雨がこちらを覗き込んできた。今更見られても問題は無いのだが、正直に言うとこの服装は妙に恥ずかしい。襟は異常に硬くサイズは合っているはずなのだが、身体のあちこちが拘束されているような感覚になる。

 

「羽黒ももう良いぞ」

 

 最後に手袋をつけて帽子を取り出す。着替えている最中に時雨が色々と口を出していたせいで気になっていたのか、羽黒は恐る恐るこちらに顔を向けるとそのまま固まってしまった。

 

「どうした? 何処かおかしい所でもあったか?」

 

「な、なんでもありません!」

 

 何故か羽黒は顔を真っ赤にしてそれ以上こちらを見てくることは無かった。そんな彼女を見て時雨が「湊教官に見惚れてしまったのかな?」とか言ってからかっているようだった。

 

「問題ないとは思うが、2人にはいくつか守って欲しい約束がある」

 

『許可無く発言をしない』『何かあっても指示があるまで動くな』この2つを守れるなら俺についてきても良いと告げると、彼女達は黙って頷いてくれた。この約束が無駄になれば良いと思うが、念には念を入れた方が良いだろう。

 

「帽子は被らないの?」

 

「あぁ、相手の気分を逆なでするかもしれないからな。 そろそろ行くぞ」

 

 俺の言葉に2人は車から降りると、黙って並ぶように俺の後ろをついてくる。少し歩くとこの基地の秘書官をやっているのか、1人の女性が俺達を出迎えてくれた。

 

「ようこそ佐世保へ、提督は指令室で待っておられますのでご案内いたします」

 

「……よろしく頼む」

 

 女性は笑顔で出迎えてくれているようだが、一瞬だけ俺達の姿や表情を伺ったのを見逃さない。どうやらこの服は無駄にはならなかったようだ。

 

「よく来てくれました、鹿屋からわざわざ来ていただけるとは光栄ですね」

 

「こちらこそ、急なお願いを受け入れてくださり感謝します」

 

 指令室に着くと、同じく白い衣装を身にまとった男と挨拶を済ませて、軽く握手を行う。てっきり爺くらいの年齢だと予想していたが、恐らくは俺よりもいくつか下だと思う。

 

「後ろの2名は湊少佐の艦娘ですか?」

 

「はい、『重巡洋艦の羽黒』と『駆逐艦の時雨』です」

 

 彼女達は俺の指示に従ってくれているのか、黙ったまま軽く頭を下げて挨拶を行った。佐世保の提督は彼女達の艦名に興味を示したらしく「どちらも素晴らしい武勲艦です、教育も行き届いていて大変素晴らしい」と絶賛していた。

 

「お褒めの言葉として有難く頂戴します、急かす様で申し訳ありませんが日本で唯一艦娘との共同作戦で戦果をあげたと評判高い佐世保の戦い方というのを拝見させていただけないでしょうか?」

 

 俺は別に雑談をしに来た訳でも彼女達を見世物にしたい訳でも無い。それ以上にこの若さでこの地位に立っているこの男が何一つ信用できない。男の立ち振る舞いを見る限り現場上がりではないことは分かった、そうであれば余程頭が切れるのか狡猾さを備えているのかどちらかだろう。

 

「分かりました、君。 戦闘時の映像を再生してくれ」

 

 男は秘書官に指示を出して無駄に出かいモニターに戦闘記録と思われる映像を再生し始めた。映し出された映像には金剛姉妹とは違う巫女服のような衣装に包まれた艦娘が映った。

 

「……っ!」

 

 後ろから時雨の声が一瞬聞こえたが、俺との約束通り沈黙を続けてくれているようだ。映像を見ていて大きな違和感を感じる。

 

「艦娘の艦隊は6名だと聞いていましたが、単艦での出撃なのでしょうか?」

 

「はい、彼女達には基本単艦での『囮』として活躍してもらっていますので」

 

 囮という単語から、自分なりに作戦の内容を想像する。恐らくは1人で敵を引き付け待機している別部隊で殲滅を行うつもりなのだろうか、しかしそれでも1度も砲撃を行わない画面の向こうの艦娘に違和感を感じ続ける。

 

「どうして砲撃を行わない、とでも言いたそうな表情ですね」

 

 あまり表情には出さないようにしていたのだが、考えを読まれてしまったらしい。仕方が無く相手のペースに合わせるために頷いておく。

 

「あの艦娘の名前は『山城』、戦艦に分類され駆逐艦や軽巡洋艦と比較すると装甲も高い。 しかし問題としてあの艦娘は砲撃ができないのです」

 

「それは何故……?」

 

 資料には砲撃が行えない艦娘は空母や潜水艦と言った艦の時代に主砲や副砲を装備できない艦種という記録はあったが、その一覧に戦艦の文字は無かったと記憶する。

 

「一種の欠陥なのでしょうか? 以前は砲撃を行う事もできていましたが、ここ最近は航行を行うのがやっとと言う状態になりました」

 

 山城はイ級と名付けられた深海棲艦の砲撃を浴びながらも直進すると、丁度敵の陣形を抜けた辺りで大きくUターンを行った。そして今度は逃げるようにして来た方角へと走り出した。

 

「攻撃性能も不安定、指示も聞かない、人間のように体調不良にもなる。 そんな欠陥兵器を最大限活かした作戦です、どうぞご覧ください」

 

 男は自信ありげな表情で手を広げて画面を良く見ているようにとこちらに言い放ってきた、正直その動作に若干の苛立ちを感じたが客として来ている以上は我慢するしかない。

 先ほどと同じくイ級からの砲撃を背中に受けているようだったが、山城と呼ばれた女性は突然しゃがみ込むと自らを守る様にして蹲った。

 

「なっ……!?」

 

 次の瞬間画面に映ったのはかなりの数の戦闘機による絨毯爆撃だった。恐らくは陸地からも砲撃が行われているようだったが、モニターは一気に黒煙で覆いつくされてしまった。

 

「これが私の考案した作戦です、どうやら深海棲艦は艦娘を優先的に狙う傾向があることが分かり、その弱点を突いた非常に合理的な作戦と言えるでしょう」

 

「……彼女はどうなったのですか?」

 

「彼女? あぁ、山城の事ですか、大丈夫ですよ。 艦娘は轟沈さえしなければ入渠を行わせれば何度でも再利用できます。 この欠陥兵器の唯一の取柄とでも言える事でしょうか」

 

 画面を見ていると、半分以上沈みかけた山城を数人の艦娘達が救助に向かっているようだった。恐らくは1度で沈んでしまう駆逐艦や軽巡よりも、使いまわしが効く戦艦である彼女が使われてしまっているのだろう。

 

「誤解をされているようなので付け加えておきますが、この作戦の参加希望は山城が自ら行った事です。 他の艦娘を使うくらいなら私を使えと主張していましたからね」

 

 恐らくこの男は分かってやっているのだろう。つまりは彼女の仲間意識の強さを利用して無理やりいう事を聞かせているのだ。彼女達を欠陥だと罵る人間が多い事は理解しているが、それでも元々人間だという事もあり最後の一線を越える人間は居ない。

 

「湊少佐も、もうすぐ護衛作戦を控えていましたね。 戦果をお譲り頂ければこちらから航空機をお貸ししますが?」

 

「そこは大丈夫です、自分は元々こちらの繋がりがありますので」

 

 俺は手に持っていた帽子を被ると、額の少し上にあるマークを指差す。そこには錨では無く、桜が描かれた紋章が貼り付けられている。爺が海軍への嫌味のために作らせたのだろうが、それでも使える物は何でも使ってやる。

 

「ふむ、陸の方でしたか。 これは失礼」

 

「機密の関係で多くは語れませんが、共同任務中なのだと察して頂けると助かります」

 

 所属が海軍となっている以上は特に問題は無いのだが、男が勝手に俺が陸軍の所属だと勘違いしてくれるのなら好都合だ。これからのやり取りは基地間だけではなく、陸軍と海軍との間の亀裂を大きくする恐れがあると思えば言動や行動を制限できるだろう。

 

「時雨、羽黒。 悪いが部屋の外で待っていてくれないか? 少し『大切』な話があるからな」

 

 俺の言葉に2人は素直に指令室から出て行ってくれた。なるべく無表情にと心がけてくれているようだったが、表情や仕草を察するになるべく早くフォローをしておいた方が良いだろう。

 

「できれば、そちらの秘書官も外していただけると助かるのですが?」

 

「……分かりました。 おい、貴様も外で待っていろ」

 

 若くしてその地位に立っているせいなのか、やはりこういったやり取りに対して理解がある事が確認できた。この男は自分の利益になるためであれば手を汚すことすら問わないのだろう。

 

「心中察して頂き感謝します。 そこで相談なのですが……」

 

「おっと、失礼。 これから楽しい談笑を行うのであれば場を盛り上げるためにも音楽でもお聞きになると良いでしょう」

 

 男はそういってモニターの横にある機械を操作すると、どこかで聴いたことのある洋楽が室内に鳴り始める。音量を調整すると男は「上官である我らの談笑など外には聞かせられませんからね」と薄汚い笑みを浮かべてきた。

 

「護衛任務について知っているのであればお話が早い、一時的にでも良いのでこちらの基地にそちらの艦娘を転籍させてもらえないでしょうか?」

 

「ふむ、それはどういった意図で?」

 

「こちらとしても捨て駒は多い方が望ましい、戦力としては陸軍から調達しますので問題はありませんが、今回の作戦に佐世保からの協力があったとあればあなたも陸からの援助を受けやすくなると思います」

 

 正直この話はかなり厳しい物がある。しかし、現在の海軍は他国に勢力を伸ばしている以上財政的にかなり厳しい事は把握している。これが呉や横須賀のような大規模な基地であれば交渉にすらならなかったはずだが、ブインやショートランドに戦力を割いた佐世保なら試してみる価値はある。

 

「なるほど、今後援助を行うという確証を頂けると決断は容易なのですが」

 

「手始めに今回の護衛任務で報酬として与えられる資材でどうでしょうか? その範囲であれば私の判断で行えるのでここで一筆認める事も可能です」

 

 流石に一筋縄では行かないようで、間違いなく自分に利益があると判断できるまでは容易に頷かないだろう。しかし、ここで資材を佐世保に移すという誓約書を書けると提案した事で少しは信用を得る事ができたと思う。

 

「先ほどの作戦、イ級3隻にかなりの火器を使用したように思えます、察するに資材の消費も激しいのでは?」

 

「……なるほど、共同任務を任されるだけあってなかなか鋭い所を突いてきますね」

 

 相手がかつて日本軍が対峙した艦であれば現在の兵器で容易に沈める事ができるだろう。だが、化物共は人と差ほど大きさが変わらないのだ、そうなれば航空爆撃で攻撃するには針に糸を通す程の精度が要求される。だからこそ面で狙える絨毯爆撃を行う必要がある。

 

「どうでしょうか? 私は作戦の成功をより確実に近づける事ができる、あなたは資材を得る事ができる。 悪い話では無いと思いますが?」

 

「分かりました、その代わりこの場で誓約書を書いて頂きます。 艦娘を貸し出す期間はどの程度で?」

 

「その前に1つ教えて頂きたいのですが、艦娘の修理に関してはどれくらいかかる物なのでしょうか?」

 

 ここまで話が進んでしまえば後一歩だった。最後に乗り越えるべき壁はこの『期間』という物をどれだけ誤魔化せるかだった。

 

「破損状況にもよりますが、長くて1、2日程度でしょうか」

 

「佐世保の艦娘の数にもよりますが、破損した部分はこちらで修理させてもらいます。 お恥ずかしい事ですが鹿屋にはドックが少なく複数破損してしまえばどれほど修理に時間がかかるか分かりません。 そこで、艦娘の修理が完全に終わるまでというのはどうでしょうか?」

 

「そこまでして頂けるのは感謝します。 分かりました、それでは期間は貸し出した艦娘の修理が完全に行われたらと記載しましょう」

 

 俺は今回の任務で得られる資材を佐世保に譲渡するという誓約書を書き終えると、男の書いた誓約書を受け取る。念のため内容を確認すると、明日より佐世保に居る全ての艦娘を鹿屋へと転籍させる、期間は艦娘の修理が完全に終わるまでと書かれていた。

 

「ありがとうございます、これからも良い関係である事を願っていますよ」

 

「こちらこそ、何かあればまたお声をおかけください」

 

 俺は再び男と握手を交わして指令室の扉に向かい歩く。この手のやり取りに手慣れている以上は叩けばいくらでも埃が出てくるだろう。そんな事を考えていると唐突に男から話しかけられる。

 

「1つよろしいですか?」

 

「……何でしょうか?」

 

 終わったと思って安心してしまったタイミングだったため、必死で表情にはでないように心がける。

 

「艦娘の輸送はこちらにお任せを、それくらいはうちが面倒を見ましょう」

 

「なるほど、そうして頂けるとこちらも上司に連絡をする必要が無く助かります。 しかし、囮としての立ち回りを羽黒や時雨に聞かせてやりたいので、山城はこちらで連れて帰らせてもらいます。 可能であれば妙高型も連れて帰りたいのですが……」

 

「良い心がけだと思います、作戦決行までそう日は無いはずですからね。 山城と妙高、那智、足柄は連れて帰ってもらって構いません」

 

 男は最後まで薄汚い笑みを浮かべながら「互いに利益が出る事を願ってます」なんて言っていた。残念ながらそう思っているのはお前だけなんだけどな、と高らかに笑ってやりたくもなったがこちらもそれに合わせて薄汚い笑みを浮かべておいてやった。

 

「時雨、羽黒。 帰るぞ」

 

 執務室から出ると2人に声をかけて車へと来た道を戻る。中で何を話していたのか聞きたそうな表情だったが、俺との約束を守ってくれているのだろう。しかし、そんな約束も駐車場についたとたんに簡単に破られてしまった。

 

「山城……!」

 

 時雨は先ほど映像の中でみた女性に駆け寄るとケガは無いのかと心配そうな顔で詰め寄っていた。山城は表情こそ疲労した様子はあったが、時雨との再会が嬉しいのか優しそうな笑みを浮かべている。

 

「結局姉さん達には会えませんでした……」

 

「あら? 相変わらず羽黒は寂しがり屋ですね」

 

 残念そうな表情で俺に話しかけてきた羽黒だったが、後ろから聞こえてきた声に勢いよく振り返る。

 

「久しぶりだな。 元気そうな姿が見れて安心したよ」

 

「さぁ、お姉さんの胸に飛び込んできなさい!」

 

 服装を見る限りこの3人が羽黒の姉妹なのだろう。彼女達は泣き出してしまった羽黒を囲んで頭を撫でてやっているようだが、感動の再会は後にしてボロが出る前にここを離れてしまった方が良いだろう。

 

「悪いが速く車に乗ってくれないかな、ちょっと狭いだろうけどな」

 

 再会を邪魔したからなのか、憎むべき人間と同じ格好をしているからなのか俺は時雨と羽黒以外から睨みつけられる。

 

「狭い? 山城や妙高さん達も車に乗るのかい?」

 

「詳しい話は車の中で話す、6人乗りだから時雨は山城の膝の上にでも座ってくれ」

 

 訳が分からないという時雨や羽黒をそのままに俺達は車に乗り込むと足早に佐世保を後にする。しばらくして俺は「そろそろ良いぞ」と時雨に声をかける。

 

「どうして山城達を連れて帰ってるんだい?」

 

「佐世保の艦娘は全員鹿屋へと転籍になった、つまり俺の部下だな」

 

 俺の言葉を聞いて時雨と羽黒は目を見開いて驚いている。しかし、そんな俺の言葉に反論したのは山城だった。

 

「護衛任務やるんでしょう? その作戦が終わるまでよ……」

 

「あぁ、その件なんだが俺は君達を佐世保に返してやるつもりは無い」

 

「どういう事でしょうか?」

 

 俺達のやり取りに髪の短い女性が口を挟んできた。羽黒の姉なのは確かなのだが名前が分からない。俺が質問に答える前に全員の名前が知りたいと告げると、各自短めの自己紹介をしてくれた。

 

「君達の転籍期間は作戦で負傷した傷が完治するまでだ、佐世保に帰りたいなら無理強いはしないが、そうじゃ無ければ作戦の途中で適当に艤装に傷でもつけて置けば良いだろう」

 

 これは転籍の期日を明確に記載しなかったあの男のミスだ、こちらとしても資材を全て譲渡する以上タダとはいかなかったが、多くの艦娘を鹿屋へと引き入れる事ができた。

 

「時雨、この人どこかおかしいんじゃないの?」

 

「うん、流石に僕もまずいと思う」

 

「貴様、そのような事をして問題にならないとでも思ったのか?」

 

 確かに詐欺紛いの行為を行っている以上問題になる可能性はあるが、それはあの男を叩いて埃が出てこなかった場合だ。いきなり身なりを確認してきた秘書官、交渉事に妙に手慣れたあの態度、決定打は基地を見て回っていた時に見つけた弾薬だった。

 

「5.9×43mmDBP78この言葉の意味が分かる奴は居るか?」

 

 俺の質問に答えられる子は一人もいなかった、俺も返答が無い事を知っていて試しているのだから仕方がないとは思っている。

 

「簡単に言うと、銃弾のサイズなんだがこのサイズの銃弾は日本じゃ作られていないんだ。それがどういう訳か佐世保の基地に山積みにされてた」

 

「どういう事だ?」

 

 那智と名乗った女性は俺の言葉の意味が分からないのか、若干苛立ちを帯びた声色で質問を返してくる。

 

「これは今日本と関係が悪くなってきてる国の弾薬なんだ、そんな物が軍の基地にある。 そしてあの年齢であの地位まで上り詰めたあの男、ちょっと怪しすぎるよな?」

 

 他国とのいざこざに参加してきた俺としては兵器の輸入や輸出が再開されたなんて情報は聞いた事は無い。もしかしたら深海棲艦が現れる前に入手した物の可能性はあるが、それにしては封が新しすぎた。

 

「海軍も人材不足とは言え、某国と繋がりのある人間を提督にしたままにはしないだろうな。 そうなるとアイツは良くて僻地へ移動、最悪機密を漏らしたとか発覚したら牢屋入りだろうな」

 

 そうなる前に彼女達を鹿屋へと転籍させるように手を打った。多少問題になろうと彼女達を鹿屋に残す手段もあるし、予想通りに事が運べば欠陥兵器と呼ばれている彼女達を快く引き受けようなんて物好きも居ないだろう。

 

「しばらくアイツの顔を見ないで良いと思ったのに頭のおかしな人に拾われるなんて……、不幸だわ……」

 

 彼女達の進むべき未来になるかと期待していた情報は得る事ができなかった。しかし、嬉しそうに雑談をしている時雨や羽黒の表情を見て成果は十分だったと言えるだろう。後は護衛作戦を成功させる方法を考えよう、暗い夜道を走りながら俺はそんな事を考えていた───。




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