ガラクタと呼ばれた少女達   作:湊音

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from:大淀と愉快な仲間達

sub :こんごうでーす

おおよどにけいたいをかりてめーるしてみました

ていとくになったらまってるから

ちーたいむのやくそくやぶったらだめよー

がんばってくだしい

いってらっしゃい


初めての空と黒い雲(1)

「時間か……」

 

 まだ窓から見える景色は暗く、時間も日付が変わったばかりだった。なんだか湿っぽい別れになるのは嫌だったのであえて誰にも出発時間は教えていない。

 

「これが海軍式ってやつなのかねぇ」

 

 少女達の事を少しでも知ろうと色々と調べてみたのだが、陸軍に比べて当時の海軍へ向かう若者達は夜更けや早朝に人知れず軍へ出征していったらしい。当時の艦の記憶を持った少女達のために陸軍から海軍に移る俺にとってはなかなかぴったりじゃないかと1人納得する。

 

 こっそりと執務室から出ると、待ち合わせ場所へと向かう。待ち合わせ時間までまだ少し時間はあったがすでに俺が乗るであろう機体が止まっていた。

 

「あの……俺コレに乗るんですか?」

 

 ヘリには何度か乗った事はあるのだが、子供が絵に描いたような戦闘機を間近で見るのは初めてだった。移動用と説明された時には鹿屋に来た時と同じようにヘリだと思っていただけに度肝を抜かれてしまう。

 

「なんだ戦闘機を見るのは初めてなのか、俺としてはF-2よりもF-4とかF-35の方が良かったんだけどな。 生憎ほとんど化物共にやられてコレくらいしか残ってなかったんだ」

 

 パイロットスーツに身を包んだ男が色々と説明してくれるようだったが、何一つ分からない。

 

「まぁ良いさっさと乗れよ、最高の空の旅を案内してやるよ」

 

「りょ、了解しました……」

 

 それからは男の指示に従って用意されたパイロットスーツやヘルメットを装着する、正直心臓が張り裂けそうな程緊張してきた。

 

「これで大丈夫ですかね……?」

 

「あぁ良く似合ってる、じゃあ出発するか」

 

 それから俺は今までさんざん空の連中は気楽で良いなと悪態を付いていた事を心の中で謝る、空から爆弾を落とすだけの簡単な仕事だよなって言ってた仲間にも頭を下げさせてやりたいと思った───。

 

 

 

 

「初めて乗って気絶しなかっただけ大したもんだよ」

 

「……気絶してた方が楽だったんじゃないですかね」

 

 目的地に着いたのは良いのだが、今はこうしてビニール袋と仲良くするハメになった。何があっても絶対にコレのパイロットにはなりたくないと思う。

 

「シャキッとしろよ、俺はもう1つ荷物を届ける約束があるからもう行くよ」

 

「あぁ、ありがとう。 最高の空の旅だったよ」

 

「良いねぇ、お前も提督になれなかったらうちで引き取ってやるから安心しな」

 

 心の中で返事をする『絶対に嫌だ』と。車や船では乗り物酔いをした事は無いが、俺達が戦闘機と呼んでいる物がこれほど過酷だとは思わなかった。

 

「さて……、行くか」

 

 どうにか自分の膝を掴んで立ち上がる、若干地面が揺れているような感覚があるがこれから提督になろうとしている男がこんな所でへばっているのは情けなさすぎる。明かりのついている建屋へ向かって歩くと白い軍服に身を包んだ少し小太りな男に声をかけられる。

 

「ようこそ大湊へ、君が湊くんかね?」

 

「湊少佐です、これからよろしくお願いします!」

 

 胸の勲章の数を考えればこの男がこの基地の提督なのだろうか、髪や髭までも白いせいか全身真っ白な男という印象だった。

 

「呉の彼から聞いているよ、なんでもアレを使って戦果をあげたのだとか。 随分と面白い事をしたじゃないか」

 

「1つお伺いしたい事があります、あなたにとってあの子達はどう見えているのでしょうか……?」

 

 この男は一体どちら側の人間なのだろうか、佐世保のように兵器としか見て居ないのか呉のように1人の少女として見ているのか。俺にとっては何よりも先に知りたいことだった。

 

「どうも見えておらんよ。 兵器である事は確かだが、女子供の恰好をした者を誰が好き好んで戦場に送るか、儂にはなんとも言えんな」

 

 少なくとも今の言葉で悪意を持って艦娘に接しているのでは無い事が分かった、今はそれだけで十分だと思う。

 

「それじゃあ君に任せる艦娘を紹介するよ、ついて来たまえ」

 

 俺は男の後について歩く、離れた場所にある小さな建屋の中に入って驚いてしまった。当たり前の事なのだが鹿屋と比べるまでもなく綺麗に整頓されている、下手すると俺が住んでいた寮よりも綺麗かもしれない。

 

「随分と綺麗な建物ですね」

 

「あぁ、少女達のために建てたからな」

 

 分からないと言っていたが、この男は意外と艦娘を大切にしているのでは無いだろうか。そんな事を考えて居ると1人の少女が部屋から出てきた。

 

「紹介するよ、彼女は『航空母艦 加賀』。 かつては一航戦と呼ばれた空母の1人だ」

 

「初めまして、俺は湊少佐です。 よろしく頼むよ」

 

 挨拶をしてみたのだが、加賀と呼ばれた少女は一切こちらに反応を示さない。それを見た男が酷く寂しそうな表情をしている。

 

「君はこの子達の事をどれくらい知っている、記憶の欠落というのは既に教えて貰っているのかね?」

 

「はい、資料を読みました。 それが何か?」

 

「これは儂の推測だが、一航戦と呼ばれ国民の期待を背負った艦だった加賀の魂は少女にとっては重すぎたのだろう」

 

 相変わらず無表情でこちらを見つめてくる加賀の事を男は説明してくれた、加賀となった少女は艦娘としての適性はずば抜けていたそうなのだが、それ故に記憶の大部分が欠落してしまったのでは無いかと。

 

「他の子もこの宿舎に居るが、時間的に眠っているだろう。 君には1階の奥の部屋を与えるからそこを使うと良い、加賀をよろしく頼むぞ……」

 

 男は涙を誤魔化すように上を向くと、それだけ言い残して宿舎から出て行ってしまった、鹿屋や佐世保では様々な子に出会ってきたがまさか言語まで失った子が居るとは思わなかった。

 

「……」

 

「ん? どうした、何か言いたいのか?」

 

 加賀が口を小さくパクパクとさせているのに気付いた俺は少しでも何を言おうとしているのかを聞き取るために顔を近づける。

 

「……私の顔に、何かついていて?」

 

「うおっ!? 話せるのか!?」

 

「誰も話せないとは言っていないと思いますが」

 

 一体どういう事だろうか、先ほどまでの男の表情や重くなってしまったこの空気は一体何なんだろう。

 

「あの人は、少し悪ふざけが過ぎるわね」

 

「もしかして俺って騙されてた?」

 

 加賀は俺の質問に黙って頷いて入口を指差す。俺はその方向へと視線を向けると『ようこそ大湊へ』と書かれた旗をもった男と少女がニヤニヤしながらこちらを見ていた。

 

「ぃやったぁー!! やったでぇ! 大成功やでー!」

 

「ハッハッハ! 君の考えたレクリエーションとやらもなかなか楽しいでは無いか!」

 

「……ふざけんじゃねぇぞ!?」

 

 その時俺は階級の差も忘れて大湊の提督に説教をかました、やって良い冗談とやってはいけない冗談があるだろと本気で怒鳴りつけてやったのだが、俺の必死な対応は2人の笑いの種にしかならなかったようだった。

 

「まぁまぁ、キミもそうカッカしてると寿命が縮んでしまうで?」

 

「その通り、長生きの秘訣は笑う事だぞ湊くん」

 

「もう良い……、それでそっちの子も艦娘なんですか?」

 

 俺は横に立っている少女を指差すと男に尋ねる。サイズを考えるに駆逐艦の子だろうか?

 

「あぁ、この子の紹介もした方が良いかな」

 

「自己紹介くらいうちがやるわ、うちは軽空母、龍驤や。 独特なシルエットでしょ? でも、艦載機を次々繰り出す、ちゃーんとした空母なんや!」

 

「儂は龍驤が艦載機を飛ばしたところなど1度も見た事無いけどな」

 

「それは言わんといてって約束したやろ!」

 

 この2人は一体何なんだ、正直金剛達とは違った意味でテンションについて行けない。爺も呉の提督も歴戦の兵ってイメージだったが、この男の行動はその辺の中高生となんら変わりない気がする。

 

「それで、私はもう眠っても良いのかしら?」

 

「あぁすまない、もう自室に戻って良いぞ」

 

 男は加賀に自室に戻っても良いと指示を出すと、無表情のまま加賀は部屋の中へと入って行ってしまった。

 

「さて、友好も深まった所で本題に入ろうか。 という事で儂は眠いのでちゃんと伝えておいてくれよ」

 

 男は龍驤の頭に手を乗せようとするが、龍驤は手が頭に触れる前に払いのけてしまった。

 

「うちだって眠いわ! 最初くらいもうちょい真面目にしたらどうや!」

 

 しかし男は手を振りながら歩いて行ってしまった、残されてしまった俺と龍驤はなんとも言えない微妙な空気の中互いに何を話そうか悩んでいるようだった。

 

「ああ見えてやる時はやる人やから勘違いせんようにな、兵装の少ない大湊が今も残ってるのはあの人のおかげやって言っても大げさやないと思う」

 

「そうなのか……。 それで本題って何なんだ?」

 

 とりあえずは先に本題を聞いておいた方が良いだろう、研修としてこの大湊へと来た以上は何かしら訓練があるとは思うのだが。

 

「大湊でのスケジュールやね、一応向こうの出身ってことで基礎訓練は必要ないって話やったし座学メインになるんやないかな」

 

「座学か、あんまり得意じゃ無いんだよな……」

 

 今更身体を鍛えるという事は無いと思っていたが、まさか座学をやらされるとは思ってもいなかった。一体あの男は俺に何を学ばせようとしているのだろうか?

 

「ちなみに先生は加賀やと思うし、今のうちに菓子折りの1つでも用意しといた方がええんちゃう?」

 

「加賀って、提督じゃなく艦娘に教えて貰うのか?」

 

「艦娘としての適性がずば抜けてるってのは本当なんよ。 実際昔の事を良く覚えとるし、うち等の事を学ぶならその歴史を学んで行く事が基本やからね」

 

 確かに良く考えてみると、龍驤の話が本当であればあの男は海軍では優秀な分類なのだろう。しかしそれは現代の兵器の運用方法に長けているという事、恐らくは艦娘の運用と言った面では俺の方が経験が多いかもしれない。

 

「まぁあの人から学ぶ事もあるやろうし、何かあればしっかりと見ておくんやね」

 

「そうするよ。 まったく、緊張して損したよ」

 

「その調子じゃ二航戦の連中にからかわれてまうやろうなぁ」

 

 正直一航戦やら二航戦やら俺の知らない単語が飛び交うのが1番きつい、別に今龍驤に聞かなくても明日加賀に聞けば良いと判断する。

 

「ここの提督ってどれくらい凄いんだ?」

 

「キミも知っとると思うけど、呉や横須賀なんかに兵装を集めとるみたいやろ? 大湊からも大半の兵装を送ったんよ」

 

「鹿屋もそうだったな、武器や兵器の類は一切置いてなかった」

 

 恐らくは主要都市を防衛するために戦力を集中しているのだとは思うが、だからと言って都合よく深海棲艦がそこを攻めてくれるとは限らない。

 

「それでな、戦力を集中させるために1度は北海道を諦めようって話になったんやけどあの人がそれを許さんかった。 自分の生まれ故郷を見捨てる訳にはいかんってな」

 

「それで、どうなったんだ……?」

 

「結果だけ言うなら失敗やね、一時は押し返してたみたいやけど、最終的に建設途中やった幌筵泊地と単冠湾泊地は放棄するしか無かった。 けどな、本土に繋がるこの警備府だけは守り切ったんや」

 

 俺が南に居た頃に日本でそんな事が起きていたとは知らなかった、もしかしたら海軍からの支援が薄かったというのは北に戦力を割く必要があったのだろうか。

 

「誰もがどうやって戦えばええんやって頭抱えてた時期にそれだけ戦い続けたんや、十分な戦果やと思わん?」

 

「あぁそうだな、机の上でふんぞり返ってる奴等の何倍もマシだな」

 

「それでキミがうち等を使って戦果をあげたってのは聞いてるで、だからうちはキミに期待してるし何かが変わるって信じとる」

 

 俺は龍驤の言葉にどう返事をしたら良いのか悩んでしまう、本来であれば無責任な返事はしたくないのだが『提督』になると約束した以上は行けるところまで走り切ってやる。

 

「正直分からない事は多い、でもやれることは精一杯やってみるよ」

 

「男ならそこは『任せとけ』の一言くらい言えんかなぁ?」

 

「無責任な事はあまり言いたくない」

 

 俺は素直な気持ちを龍驤に伝える、期待には応えられなかったようだけど満足したのはその表情で分かった。

 

「そろそろうちは寝る事にするわ、キミもさっさと寝た方がええで?」

 

「あぁ、色々ありがとう。 おやすみ」

 

 俺は龍驤が2階へと上がっていくのを見届けてから俺に与えられた部屋へと向かう、先ほど加賀が入って行った部屋の前を通る際にどんな漢字を書くのかと確認してみようと思ったが、扉にかけられているネームプレートには『赤城』と書かれていた───。

 

 

 

 

 誰かが俺を揺すっている、俺を起こしにくると言う事は金剛か妙高のどちらかだろうか?

 

「……朝です」

 

 薄っすら目を開けてみると見慣れない少女の姿が視界に入った。こんな子は鹿屋に居ただろうか?

 

「だ、誰だ……?」

 

「加賀です」

 

「わ、悪い。 寝ぼけてた!」

 

 加賀に謝ってみるが、相変わらずの無表情で怒っているのかどうかも分からない。こうして起こしに来てくれたと思うのだが謝罪より礼を言った方が良いのだろうか。

 

「私に何か聞きたいことがあると聞いていますが」

 

「あぁ、加賀に座学を教えて貰うって事かな。 それよりもまずは朝食にしないか?」

 

 昨晩胃の中身を空っぽにしてしまっているせいか空腹で思考がはっきりとしない、座学をするのであれば少なくとも何か胃に居れてからの方が良いだろう。

 

 それから俺は加賀に食堂へと案内してもらった、しかし食堂の大きさが鹿屋に比べて小さすぎる事に違和感を覚える。

 

「この基地って食堂が何ヵ所もあったりするのか?」

 

「どういう意味でしょうか?」

 

 基地の規模を考えるにこれでは大勢が同時に食事を取る軍隊として効率が悪すぎる、考えられるのは混雑を避けるために複数の食堂を用意していると思うのだが加賀の返答は違った。

 

「ここは私達艦娘に与えられている食堂です、他の方は別の場所で食事を取っているはずですが」

 

「宿舎だけじゃなく食堂まで艦娘用に作ったのか……?」

 

 あの男は一体何を考えているのだろうか、龍驤と仲良くしていた事を考えれば艦娘に対して好意的だとは思うのだが流石にやり過ぎていると思う。

 

「そんな事よりも早く食べてください」

 

「わ、悪い」

 

 俺は適当に頼んだ定食をかき込むようにして急いで食べる。

 

「加賀は随分と小食なんだな」

 

「……放っておいてください」

 

 俺の半分程度の量しかない定食を加賀は無表情のまま食べている。鹿屋に居る子達は割と食べる子が多かった、祝勝会では金剛型の子や妙高型の子なんかは一体どこに入っているのかと思える程食べていたと思う。

 

 しばらくして加賀は空になった器に手を合わせると「用事がある」と言って宿舎の方角へと戻ってしまった。それと入れ替わりになるように龍驤が食堂へと入ってくる。

 

「隣座ってもええかな?」

 

「龍驤は随分と食べるんだな……」

 

 座って良いと返事をする前に腰かけた龍驤だったが、そんな事よりも俺の2倍近く盛られた茶碗に驚いてしまう。

 

「なんでか分からんけど、お腹がすくんよ。 空母って燃費悪かったらしいしうち等も似たようなもんなのかもしれんなぁ」

 

「加賀も空母だよな……?」

 

「ひょうひゃで」

 

「食べるか喋るかどっちかにしろ、それと加賀は随分と小食だったみたいだが」

 

 食べながら話すなと注意したのだが、龍驤は味わうようにして噛み締めた後に再び口に食事を運んだ。

 

「食べる方を優先するのかよ!」

 

「ごめんごめん、冗談や、ええ突っ込みやったで。 うちよりも本当はぎょうさん食べなあかんはずやけど、赤城に気を使ってずっとあんな感じや」

 

「赤城って一体誰なんだ……?」

 

 俺は龍驤に尋ねてみたが、龍驤は俺と視線を合わせないようにして食事を続けているようだった。完全にわざとらしいが恐らくは答えたくないという意思表示なのだろう。一見平和そうなこの基地だが、何やら胸騒ぎがしてきた───。




to :大淀と愉快な仲間達

sub :漢字を使え

ひらがなだけじゃ読みづれぇし、日本語がおかしい

もう少し大淀に教えてもらうように

それと、ちーたいむじゃなくティータイムだろ

頑張って来るから、金剛も俺が居ない間よろしく頼む

行ってきます
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