ガラクタと呼ばれた少女達   作:湊音

38 / 64
from :大淀と愉快な仲間達

sub :Re:すみませんでした

不幸だわ……

どうしてこのタイミングで秘書官が私なのかしら

朝から時雨に秘書官を交代して欲しいと頼まれて了承したら

皆から不公平だって責められるし、駆逐艦の子達は喧嘩を始めるし……

面倒な書類は多いし……

やっぱり私は不幸だわ……

あんたにもこの不幸を分けてあげられたら良いのに……


文武両道(1)

「ったく、なんで俺が執務室まで片付けないといけないんだよ」

 

 外の片付けも一段落し、赤城達と炊き出しの豚汁を食べていたのだが、食べている途中だと言うのに大湊の提督から執務室の片付けを指示されてしまった。

 

「部外者の俺が手を付けても良い物なのかねぇ……」

 

 執務室の中は敵の砲撃により窓ガラスは割れ、部屋のあちこちが焼け焦げ黒く変色している。提督の机もその被害にあったようで中に入っていたと思われる資料も床中に散乱してしまっていた。

 

「思いっきり機密資料だよなこれ……」

 

 片付けるために手に取った資料の左上には赤い文字で『極秘』と書かれているが、人とは不思議な物でその文字が書かれているとどうしても資料に書かれた内容が気になってしまう物だ。

 

「写真……?」

 

 試しに周辺の資料をかき集めていると1枚の写真が印刷されたページを見つけて上に乗った煤を払って内容を確認する。写真は不機嫌そうな提督の表情と柔らかく微笑んでいる女性の姿が印象的だった。

 

「少し雰囲気は違うけど赤城に似てるな……」

 

 そんな事を考えて居ると立て付けの悪くなってしまった扉が大きな音を立てて開かれた、俺は咄嗟に資料を上着の内ポケットに隠すと片付けをしている振りをする。

 

「全く、儂が居らんだけでこの有様とは情けない」

 

「部下の教育ができてないのは上官の責任だって元居た基地でよく言われていましたよ」

 

 口では情けないと言っているが、どこか嬉しそうな表情をした提督に違和感を感じた。今のところ死亡者が出たとは聞いていないが、大小様々な負傷をした人間は多いと聞いている。

 

「何がそんなに嬉しいんですか?」

 

「湊くんの話は聞いておるが、この惨事の中的確に行動できていたらしいな。 それはどうしてだと思う?」

 

「日頃の訓練の成果ですかね」

 

 俺の回答に提督は首を大きく振った。

 

「それもあるやもしれんが、こう言うことは頭で理解するよりも『経験』が物を言うのだ。 死者が出ておらんのであれば、今回の騒動は若い奴等を大きく成長させる切っ掛けになるだろう」

 

「もしかしてそれって経験則ですか?」

 

「その通り、次の襲撃では今回ほど情けない姿にはならないだろう。 それが成長だと儂は思っておる」

 

 陸軍の爺や隊長も厳しい人だとは思っていたが、大湊の提督もある意味別方向で厳しい人なんだと思った。

 

「それで、何か用があって俺にここの片付けを指示したんじゃないんですか?」

 

「話が早くて助かる、湊くんには2つ聞きたい事があってな」

 

 片付けを指示されたのが俺だけだという事を考えれば、何か話があるという事は容易に想像できた。俺は姿勢を正すと提督に向きなおす。

 

「儂の部下達が渡島大島(おしまおおしま)という無人島に取り残されているようなのだ」

 

「救出作戦ですか」

 

「その通り、しかしこの鎮守府でまともに動く艦は限られておる。 そこで艦娘を作戦に組み込んでも良いか意見を聞かせてほしい」

 

「正直に言わせてもらえば、無理だと思います」

 

 俺は提督の質問に即答する。

 

「理由を言ってみろ」

 

「1つ目は敵戦力に関しての情報が無さ過ぎます、戦う相手の数や質も分からないのに容易に彼女達が戦えるとは言えません。 2つ目は推測の域ですが、彼女達には護衛が必要になると思います。 確かに赤城の力は強大ですが敵に接近されてしまえばその強みも活かせなくなるのではと感じました」

 

 赤城は確かに強かった、しかし他の艦娘と比べると2射目があまりに遅いように思える。鹿屋の艦娘達の艤装のように引き金を引けば次の弾が出てくる訳では無く、弓を構え集中して矢を放つという行為にデメリットが有るように感じた。

 

「しかし赤城を含め艦娘は5人居る、囮と攻撃を交互に行えばその問題は解決するだろう?」

 

「その案も考えましたが、あまりに危険すぎます。 彼女達を死にに行かせるような作戦を認められると思いますか?」

 

「この作戦が成功したならば、儂からも君が提督になれるように大本営に推薦すると約束しよう」

 

「考えが変わらないようであれば今度は赤城だけではなく、大湊に居る艦娘全員を連れて身を隠す事にします」

 

 このやり取りにため息が出そうになるのをぐっと堪える。爺や呉の提督、今となっては元だが佐世保の提督はどちらかと言えばこういった交渉事に長けた人間だとは思う、しかし目の前で笑いを堪えている提督はこの手のやり取りには長けていないようだった。

 

「カッカッカ! 良く言った!」

 

「俺を試そうとしているのがバレバレですよ」

 

「そう不貞腐れるな、拘束されている間に呉の提督から湊くんの話を聞いてな。 儂も君がどのような人間なのか確かめてみたくなっただけだ」

 

 試すならもう少し上手くやるべきだと思ったが、この手のやり取りに長けていないこの人だからこそある程度信用できるのは確かだった。

 

「それでは2つ目の話に入ろう」

 

「救出作戦についてはもう良いんですか?」

 

「まだ情報収集が足りん、そこが十分になるまでは何を考えても無駄になるだけだ」

 

 なんとなくだが、提督は現場上がりなのかもしれないと思う。グダグダ悩んでいるよりも今できる事をやるというのは現場にいる人間の発想に近いように感じた。

 

「この5日間の出来事を嘘偽りなく報告しろ」

 

「指示通りに赤城を連れて民家に潜伏していましたが……?」

 

 俺の報告が不満だったのか提督はボロボロになった机を両手で叩くとこちらを睨みつけてきた、民間人と赤城は接触させていないはずだが何か不味い事をしてしまったのだろうか。

 

「先ほどのやり取りを見ていた限り、ただ潜伏していただけとは思えないのだが?」

 

「先ほどのやり取りって炊き出しを食べていた時の事ですか? そりゃあ5日も一緒に生活していれば少しは親睦も深まると思いますが」

 

「ふむ、自分の胸に手を当てながら思い返してみろ」

 

 流石に胸に手を当てたりはしなかったが、赤城達と炊き出しを食べていた時の事を思い返してみる事にした───。

 

 

 

 

 

「湊さん、お疲れ様です!」

 

「ありがとう、赤城こそお疲れ様」

 

 俺は赤城から炊き出しの豚汁を受け取ると座っても崩れ無さそうな瓦礫を探して腰かける。

 

「これは…! おいし…! 鎮守府がこんな状況なのに不謹慎かもしれませんが、落ち着く味ですね」

 

「朝飯も食べずにこれだけ働けば何を食べても美味いって思うよ」

 

 恐らくは美味しいと感じる理由は焼き魚ばかり食べていた事も関係しているのだろうが、嬉しそうに豚汁を食べる赤城には黙って置く事にする。

 

「人参もすっごく柔らかくなってますよ……って、あー!」

 

 赤城は箸で掴んだ人参をこちらに向けてきたので、本当に柔らかくなっているか確認するために食べてみたのだが赤城は不機嫌そうな表情をこちらに向けてくる。

 

「なんだ?」

 

「食べて良いって言ってません」

 

「……悪かった、俺のをやるから怒るな」

 

 俺は赤城の持っている椀に人参を入れるために箸で掴んで差し出したのだが、器に入れる前に赤城に食べられてしまった。

 

「ううーん、美味しい♪」

 

「大袈裟過ぎるだろ」

 

 確かに美味いのだが、赤城のテンションが高すぎる気がする。先ほどの戦闘で活躍できた事が嬉しかったのか、焼き魚を食わせ続けたのが辛かったのかどちらなのだろうか。

 

「随分と仲が良いのね」

 

「加賀さん!」

 

「よぉ、そっちの片付けは終わったのか?」

 

 加賀は赤城の横に腰かけると手に持った豚汁を食べ始めた。

 

「豚汁……いいですね。 気分が高揚します」

 

「いや、お前達大袈裟過ぎるだろ」

 

 あまり表情は変わっていないのだが、本気で美味しいと感じているのがなんとなく分かる。

 

「こんな所に居たんだ!」

 

「飛龍、待ってよー!」

 

 加賀の次は蒼龍と飛龍だった、別に集まって食べようなんて話をした覚えは無いのだが恐らくは赤城と話したくて集まって来ているのだろう。

 

「蒼龍さん、飛龍さん、お久しぶりです」

 

「お久しぶりです、赤城さんが元気になって良かったです」

 

「そうだね、加賀さんも蒼龍も毎日赤城さんの顔を見に行ってたもんね」

 

 なんと言うか、騒がしい。やはり艦娘と言えどこうして見ると普通の女の子と変わらないなと改めて実感する。

 

「なんや、うちだけ仲間外れにするって酷くない?」

 

「別に仲間外れにしようなんて思ってませんよ!」

 

 別に龍驤も本気でそう思った訳じゃ無いのだろうが、赤城は慌てて龍驤が座れるように俺の近くへと座る位置を変えると龍驤の座るスペースを開けた。女性5人に男が俺1人だと言うのはなんとなく気まずい。

 

「ほっほ~ん……? 両手じゃ足りんなぁ?」

 

「うるせぇ、黙って食え」

 

 俺のこの状況に気付いた龍驤がくだらない事を言ってくるが、俺はそれを誤魔化すように箸を進める。何にせよ彼女達が嬉しそうなのは俺にとっても喜ばしい事だし、5日間一緒に生活をしていたがここまで楽しそうにしている赤城は初めて見た。

 

「赤城、髪が汚れるぞ」

 

 笑ったり食べたりを繰り返しているせいか、赤城の髪が豚汁に入りそうになっていたのに気付いて髪を指先で横に逸らしてやる。

 

「あ、ありがとうございますっ……!」

 

 急な事に驚いたのか、赤城は顔を真っ赤にして俯いてしまった。なんとなくでやってしまったのだがやはり女性の髪を触ると言うのはまずかったのだろうか。

 

「ねぇ、蒼龍。 今の反応って怪しくない?」

 

「うーん、私達の知らないところで何があったんだろうねぇ」

 

「もしかして、うちらお邪魔やったかなぁ?」

 

「おかわりを貰ってきますが、赤城さんの分も貰ってきましょうか?」

 

 女が3人集まった状態を姦しいと言うが、5人集まった状態はなんと言えば良いのだろうか、正直居心地の悪さで豚汁の味がよく分からなかった───。

 

 

 

 

 

「何か問題でも……?」

 

「まだ白を切るつもりか、良かろう儂のとっておきを出してやろう」

 

 提督は本棚を漁り始めると、本の裏に隠された戸棚から年季が入ってそうな酒瓶が出てきた。この人は執務室をなんだと思っているのだろうか。

 

「さぁ座れ、ここからは階級など関係無い男と男の話し合いだ」

 

「い、いや。 救助作戦のための情報収集を行った方が良いのでは……?」

 

「心配いらん、それは部下達が動いておる!」

 

 下手な探り合いが無い分気楽だとは思っていたのだが、この手のタイプは1度言い出したら絶対に退かないという厄介さがあると勉強になった。俺は仕方が無く適当に瓦礫を蹴って部屋の隅に移動させるとその場に座る。

 

「さぁ飲め!」

 

「あまり酒は得意では……」

 

 潜伏中に少し飲んだが気付けば布団の中に居たという状態だったし、正直あまり酒を飲みたいとは思えない。

 

「往生際の悪い奴だ、まぁ良い。 それでは改めて聞くが、赤城との間に何があった?」

 

「何も無いです」

 

 軍の規約に違反するような事をした覚えは無いし、俺は提督の指示通り赤城が大本営に連行されないように隠しきった自信はある。

 

「湊くんは妻や恋人は居るのかね?」

 

「い、居ませんが……?」

 

 もはや提督の質問の意味が分からない、一体この人は俺にどのような答えを期待しているのだろうか。

 

「率直に聞くが、手を出したのかね?」

 

「出す訳無いだろ!」

 

 いきなり過ぎる質問につい口調が荒くなってしまう、提督自身が階級は関係ないと言っていたし少しくらいは目を瞑ってくれるのだろうか。

 

「そこまで否定せんでも良いだろうが!」

 

「なんでそこで怒るんだよ!」

 

「拘束されている間は貴様があの子に手を出しておらんかずっと心配しておった儂の気持ちが分かるか!」

 

「知らねぇよ!」

 

 一体この会話は何なのだろうか、あまりにも意味不明過ぎて頭が痛くなってきたが先ほどの写真を思い出して少し嫌な予感がした。

 

「あの、もしかしてなんですが……」

 

「なんだ?」

 

「お父さん……?」

 

 その言葉を言った瞬間俺の顔面に提督の拳が飛んできた、言葉の前に『赤城の』とつけなかった事が原因だとは理解したのだが、あまりに理不尽過ぎて俺も殴り返す。

 

「誰が貴様のお義父さんじゃ!」

 

「そういう意味で言ったんじゃねぇよ!」

 

 互いに胸ぐらを掴み殴り合う、正直老人だからと手加減はしているのだが予想以上に拳は重く下手するとその辺の訓練兵よりも強いのでは無いかと思える。

 

「はぁ、はぁ……。 儂がもう10年若ければ貴様なんぞに遅れは取らんかった……」

 

「い、いい歳して私情で部下を殴るとかやめろよ……」

 

「つ、次の質問だ。 寝ているあの子の肌に1度くらいは触れたのだろう?」

 

 質問と一緒に俺の右頬に拳が飛んでくる。

 

「触ってねぇよ、俺からも質問。 あんたは実の娘に人体実験紛いの事をしたのかよ」

 

 右頬を殴られたら左頬を殴れと教えてくれた隊長の言葉に従う。

 

「あの子とは血は繋がっておらん、それに軍上層部の人間は親族に娘がおる場合は艦娘の適性検査を強制される。 民間人から徴兵紛いの事をしているのに儂らが断れる訳なかろう」

 

 今度は俺の鼻と提督の額がぶつかる、正直話すなら話す、殴るなら殴るで分けて欲しい。

 

「風呂や着替えを覗いたという事は?」

 

「の、覗いてねぇよ!」

 

 この場で一緒に風呂に入ったと言うとどうなってしまうのだろうか、一緒に入ろうと誘って来たのは赤城だし、別に覗いたという訳じゃ無い事を考えれば嘘はついていないと思う。

 

「艦娘になるのって本人に拒否権ってあるのか?」

 

「検査は強制だ、しかし本人が艦娘になりたく無いと言えば拒否する事も可能だ」

 

 鹿屋で叢雲と話をしている時、少女は自分の意志でここに居ると言っていたがその言葉が嘘では無い事が分かり安心した。俺は提督の胸ぐらから手を放すと真直ぐと目を見て次の質問をする。

 

「赤城は自分から艦娘になる道を選んだって事ですか?」

 

「そうだ、あの子は深海棲艦との戦争で孤児となり儂と妻が引き取った。 その事を気にしてか軍に入って儂の力になりたいと言っておったが、女の身で軍に入るには多くの壁がある事は知っておるだろう」

 

 どうしても体力勝負な面が多い軍では女よりも男が有利に働くことは多い、確かに軍務の内容によっては女が有利な場面もあるかもしれないが、そういった場所に入るにはある程度の適性が必要になる。

 

「艦娘になるというのをあの子はチャンスと捉えたのだろう、必ず故郷を取り戻そうと言っておったからな」

 

「赤城が無茶な出撃を繰り返していた理由ですか?」

 

「あの子にはその記憶が無い、しかしそれ程強く思っていてくれたと儂は思っておる」

 

 記憶は無くとも故郷を取り戻したいという想いは残っていたという事なのだろうか、艦娘になるという事がどのような仕組みなのかは分からないが赤城が無茶をする理由の1つかもしれないと俺も思った。

 

「それでは食堂や宿舎を実費で建てたってのも?」

 

「儂が娘にしてやれる精一杯だった、それを横領だの着服だの世迷言を言いよってからに……」

 

 本当に悪事に手を染めていないのであれば何もしなくても解決するはずだとは思った、ある程度抵抗を見せたのはこの人にとっては直接上に文句を言うための手段だったのだろう。

 

「赤城はその事を知っているんですか?」

 

「本人が覚えておれば接触は禁じられる、そうじゃなければ本人には告げてはならないという規則がある。 この話は外に持ち出すんじゃないぞ」

 

 他にもいろいろと聞きたいことはあったが、下手に裏があるよりも分かりやすく提督の話は信用しやすいと思う。多少親馬鹿なところがうざく感じるが、この鎮守府で感じていた違和感が解消して少し安堵した。

 

「今のところは貴様の言う事を信用してやるが、手を出したらどうなるか覚悟しておけ」

 

「出さないって。 ほら、鼻血出てるぞ」

 

「貴様もな」

 

 言われて俺も鼻に触ってみると確かに鼻血が出ていた、俺と提督は互いの間抜けな顔を見て大笑いしながら話し合いを終えた───。




to :大淀と愉快な仲間達

sub :山城か?

新手の不幸の手紙か何かか?

確かに返信しなかった俺も悪いが、秘書官をさぼろうとした山城も悪いと思う

お互い自業自得だと手打ちにして頂けないでしょうか

そっちがどんな状況か分からないが、暴走する艦娘を止められるのは山城だけだ

むしろ頼むから皆を落ち着かせてやってください

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。