ガラクタと呼ばれた少女達   作:湊音

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冷たい海の上に住んでいる彼等は私達を受け入れてはくれなかった。

暖かい海の上に住んでいた彼等モ私達を受ケ入れてはクレなかった。

どうシテナのだろう、彼等と同じことをしたら分カリ合エると思っていたのに。

私達はキオクの片隅に会ッタ島国に行っテミル事にした、そこにはアタタカイ記憶が残されているような気がしたから。

でもダメだっタ。

わタシ達の覚えテイる彼等と同ジ行いヲシテモ彼等は私達をキョゼツした。

私達はカンガえタ、互いの記オクを繋ギアワせて。

答えは見ツカラナイ。

そレデモ私達は1つのケツロンニ辿り着イタ。

ワタシタチから彼等の元へ行けないノデアレバ、カレラにワタシタチのモトにキテモラオウ。

クラクツメタイウミノソコヘ───。


助けを待つ仲間の元へ(3)

「補給ありがとうございました、私は索敵もかねて先に警備府へ加勢に向かいますね」

 

「うちはもうちょい艦載機のメンテに時間かかりそうやし、無理はせんようにな」

 

 龍驤さんは九七艦攻のメンテナンスをしながら、心配そうな表情を浮かべている。再び警備府に深海棲艦の襲撃があったという情報を聞いてからは湊さんは向こうでの戦いに集中したいと緊急時以外はこちらとの連絡を閉ざしている状態でした。

 

「何かあればすぐにこちらに撤退しますので、その時はよろしくお願いしますね」

 

 私は龍驤さんや乗組員さんに頭を下げると救助船の上から海へと降りる、周囲は先ほどまでの戦闘が嘘だったのではと疑いたくなるくらい海は静まり返っていた。

 

(湊さんの声、震えていましたね……)

 

 恐らくは他の方も気付いていたとは思う、私達に指示を出し大丈夫だと声を掛け続けてくれていた彼は私達が不安にならないように必死で頑張ってくれていたのだろう。だからこそ私達は彼の期待に答えられるように前だけを見続ける事ができました。

 

(私は艦娘です、例え彼の隣に立つことはできなくてもそれは仕方のない事でしょう)

 

 彼と過ごしているとそんな当たり前の事を忘れてしまいそうになる。彼は私達の事を普通の人として扱ってくれています、それはとても心休まる時間でしたが私は鎮守府に戻り艤装を装着した事で自分は深海棲艦と戦うための兵器だという事を思い出す事ができた。

 

(不思議ですね。 少し前までは深海棲艦に奪われた陸を取り戻す事だけを考えていたのに、今は戦果を上げて彼に認めて欲しいと思っている自分が居ます)

 

 1人で海を進んでいると色々な事を考えてしまう、彼の事を思えば不思議と力が溢れてくるような気がするけど、同時に誰かと嬉しそうに話をしていた姿を思い出して胸が苦しくなる。

 

「今は作戦中ですよね、集中しなければ……」

 

 今は考える事を止め加賀さん達の元へ急ごうと思考を切り替えると小さな違和感を感じる。

 

「海流に流されている……?」

 

 私としては来た航路をそのまま真っ直ぐに戻っているつもりでした。なので海の上を進んでいる時間を考えればそろそろ警備府が見えても良いはずだった。

 

「やっぱり考え事をしているとまずいですね」

 

 警備府のある方角は分かる、それは私が艦娘だからなのか艤装にそういった機能があるのかは分かりませんが間違い無く私から見て南東の方角にある。しかし方向は分かっているのに少し進むとすぐに方角が逸れてしまう。

 

「……どうして?」

 

 龍驤さんと救助船と共に進んでいる時にこんな事は無かった、私は私の進みたい方角に進むことができていたし、そもそも艦娘が海流に流されてしまうなんてありえない。しかし現実には私はどれだけ意識しても目的の航路から逸れてしまっていた。

 

「何かがおかしいですね、湊さんに報告したほうが良いですよね?」

 

 私は不安になり問いかけてみますが答えを返してくれる仲間は何処にも居ない。艦娘が海の上で迷子など笑い話にもならないと思いましたが、恥よりも私の感じる違和感を知らせるために緊急時用の無線を使おうとする。

 

「……クノ?」

 

 ふと誰かの声がしたような気がした、もしかしたら龍驤さんが追いついたのかと思い周囲を見渡してみますが周囲には誰も居ない。

 

「……ドコニ……ウノ?」

 

 断片的にですが間違いなく誰かの声がする、背筋が凍るような不快な声に私は必死に周囲の様子を伺う。

 

「艦載機のみなさん、発艦してください!」

 

 やはり見える範囲には誰も居ない、私は艦載機を発艦させ広範囲での索敵を行う事にする。この違和感が深海棲艦によるものであれば湊さんに報告する必要がある、しかしそれは間違いなくそうだと確証を得てからで良いと思う。

 

「カンサ……キ……? ハッ……ン?」

 

「あなたは誰ですか、私に何の用でしょうか!」

 

 私は声の主に向かって叫んでみますが、反応は無い。海上には誰も居ない、空も同じように海鳥しか居ない。周囲を何度見渡してもそれは変わらない、しかし急に冷たい何かに足を掴まれ咄嗟に舵を切って振り払う。

 

「ドウシテニゲルノ……?」

 

「……っ!」

 

 急に海の中から現れたソレに向かい弓を構える。掴まれた脚には冷たい感触が残っている、頭の中で今すぐ逃げろと誰かが言っているような気がするが私はそれをぐっと堪える。

 

「言葉が分かるのですか……?」

 

 髪はまるで燃え尽きた灰のように白く、肌からは全く生気を感じられない。ゆっくりと視線を降ろしてみますが、ソレの足には主機は付いておらず素足のまま海上に立っていた。

 

「あなたは何者ですか……?」

 

「ワタシハ……ナニ……?」

 

 質問をしても答えは返って来ない、ソレが艦娘では無い事は理解している。しかし深海棲艦が私達と同じ言葉を使えるなんて聞いたことが無い。

 

「アナタハナニ……?」

 

「……第一航空戦隊、赤城です」

 

 もしかしたらソレから何か情報を得られるかもしれない、そうしたら深海棲艦の目的やこの作戦を成功に導く情報が手に入ると思い弓を構えたまま私は答える。

 

「アカギ……?」

 

「そうです、こちらは答えました。 あなたも私の質問に答えてください」

 

「コタエル? ナニヲ……? アカ……ギ……?」

 

「まずは名前を」

 

 再び質問をしても答えは返って来ない、しかしソレは聞こえない程小さな声で何かを呟いているようだった。

 

「アカギ、モエル、ヒ、ホノオ……」

 

「何を言っているんですか、これ以上こちらの質問に答えないようであればこちらも考えがあります」

 

 私は矢を握る右手に意識を集中する、九七艦攻ではソレを沈めてしまうかもしれないが零式艦戦の機銃程度なら軽い損傷で抑えられるかもしれない。間違いなくソレは私達の知らない情報を持っている、そうであればここで沈めるよりも鹵獲を考えた方良い。

 

「ミッド……ウェー……」

 

「これが最終警告です、私の質問に答えてください」

 

「ソウカ、ワタシハ……」

 

 突然ソレの身体が膨らみ始めたと思うと、艤装を模したような黒い機械へと形を変えていく。私はこのままだとまずいと判断して零式艦戦を発艦させるが、機銃から放たれた弾を身体に受けてもソレは全く表情を変えない。

 

「ドウシテ、ドウシテオマエタチダケ……。 シズメェ!!」

 

「だ、第一次攻撃隊、発艦してください!」

 

 これ以上は無理だと判断し私は咄嗟に次の艦載機を発艦させる、しかしソレは黒い機械の亀裂から白く不気味な球体を吐き出し始めた。浮遊する球体を敵の艦載機だと判断し、咄嗟に迎撃を開始するが数が多すぎる。

 

「ヒノカタマリトナッテ……シズンデシマエ……!」

 

「湊さん、聞こえますか!? こちら赤城です、人型の深海棲艦と遭遇、交戦中です!」

 

 数は負けても艦載機の扱いに関しては私の方が上のようだった、どうにか制空権を均衡に持ち込む。こうなるのであればどうして初めから湊さんに報告しなかったのだろうか、私は深海棲艦の1匹であれば十分対応できると慢心していた自分を責めた───。

 

 

 

 

 

 

『大物を狙って行きましょう! 飛龍、そっちはどう?』

 

『多聞丸に見せてあげたいくらい調子良いよ! 第二次攻撃の要を認めます、急いで! こっちも少なくなってきたし加賀さん場所代わります?』

 

『ここは譲れません。それよりも早く片付けて赤城さんを迎えに行きたいのだけど?』

 

 ここまで一方的な戦いになるのであれば、救助船の護衛をもう1人増やしても良かったのでは無いかと思えてくる。初めのうちは警備府からの支援も行っていたのだが、彼女達は戦えば戦うほど敵を殲滅する速度が上がっているような気がする。

 

「喋る余裕があるのは良い事だが、加賀の言う通り早く赤城達を迎えに行くぞ」

 

『確かにその通りなんだけど、敵減らないですよ……?』

 

『さっきから動きは雑になってきてるけど、数は増えてる感じがするよね』

 

『そう思うのなら口よりも手を動かしたらどうかしら?』

 

 加賀の厳しい言葉に蒼龍と飛龍は大きく返事をして黙ってしまった、彼女達に作戦を説明した時には加賀は赤城と組ませて欲しいと意見して来たが、やはり防衛組に選んでおいて正解だった。本来であれば俺が気を引き締めるように指示を出せる事が最善だったが、現場にもこういった性格の者を配置しておきたいと俺は加賀の意見を却下している。

 

「飛龍、雑になったってどういう意味だ?」

 

『なんとなくだけど、少し前までは少なくても4匹、多くて6匹くらいで隊列を組んでいたような気がするんだよね』

 

『飛龍の言う通りかもしれません、今はただがむしゃらに警備府に向かってきているって感じですね』

 

 飛龍と蒼龍の言葉に俺は考える、自分がこの警備府を落とそうと思うのならどのような攻め方をするだろうか。奇襲は失敗し警備府には3人の艦娘が防衛に回っている、その時点で俺なら撤退の指示を出すだろう。

 

「……深海棲艦の殲滅まで後どれくらいかかる?」

 

『数が増えているので詳しい時間は分かりません、それでも負ける事はまず無いかと』

 

『持久戦になっても私達が補給している間だけ警備府から支援してもらえれば、時間はかかってもいつかこの戦闘を終わらせることができそうです』

 

『そもそもどれくらい戦ってるかも分かんなくなってきたかな……』

 

 どうして気付けなかったのだろうか、俺は自身の未熟さを責める。奇襲の基本は相手に勘付かれる前に行う事にある、1度失敗してしまえば即座に撤退、味方の被害を最小限にしつつ嫌がらせのように帰り道に置き土産をしていく。

 

 ショートランドやラバウルでの暴動鎮圧の際には何度も奇襲を受けた、その時奴等は不利になると分かれば基地周辺に火をつけて回った、少しでも自分達の戦果を水増しするための行為。深海棲艦にとって少しでも俺達に被害を与えるために残された手は1つしか無い。

 

「時間稼ぎをされている! コイツ等の狙いは赤城達だ!」

 

『……頭にきました』

 

『攻撃隊、発艦はじめっ!』

 

『第一次攻撃隊、発艦っ!』

 

 少し前に敵の作戦を読むことができて喜んでいた自分を殴ってやりたい、目立った被害も無く救助船を無事に送り届ける事ができた、防衛戦も彼女達のおかげで順調に行う事ができている。これで作戦が失敗してしまえば間違いなく俺の慢心だった。

 

「赤城達に、救助船に連絡を取ってくれ! 支援射撃を行ってる連中には弾薬の続く限り撃ち続けろと指示を出せ!」

 

「わ、分かりました!」

 

 俺は無線を担当している男に怒鳴りつける、それが八つ当たりだとは分かっていたが今は何よりも情報が欲しい。彼女達が無事なのかどうかを1秒でも早く知りたかった。しかし無線が繋がるよりも先に赤城に持たせていた緊急用の無線からノイズが聞こえてくる。

 

『湊さん、聞こえますか!? こちら赤城です、人型の深海棲艦と遭遇、交戦中です!』

 

「損傷は!?」

 

『艦載機をいくつか落とされてしまいましたが、直接的な損傷はありません……』

 

「すぐに加賀達を向かわせる、赤城は漂着した艦の支援可能海域まで撤退をしろ!」

 

『それが、無理なんです……。 警備府に戻ろうにも救助船の元に戻ろうとしても海流に流されてしまい進むことができないんです……!』

 

 状況が上手く理解できない、艦娘が海流に流されるなんて聞いたことが無いし人型の深海棲艦という敵についても何の情報も持っていない。それでも赤城が無事だった事だけは安堵する事ができた。

 

『二航戦、私の針路上の深海棲艦を優先しなさい』

 

『加賀さん、落ち着いてください! そんなに前に出たら危険ですよ!』

 

『蒼龍、そっちに魚雷行ったよ!』

 

『こちら龍驤、艦載機のメンテも終わったし帰宅準備もばっちりやで!』

 

『全員の救助は終わりました、救助船の応急処置ももうすぐ終わり出航可能です!』

 

「全員少し黙ってくれ。 赤城、座標を教えろ……」

 

 無線からは様々な情報が飛び込んでくる。今の俺には全ての対応する事はできないが、生き残るために必要な情報を集めるというのは現場で嫌というほど経験をしている。俺は全員に黙る様に伝え赤城から現在の座標を聞き出す。

 

「加賀、救助に行きたい気持ちは分かるがお前の速力を教えてくれ」

 

『26から27ノットくらいかしら』

 

 1ノットがだいたい時速1.8キロ程度だったと思う、加賀は時速46キロ程度での移動が可能だと頭の中で計算する。次に俺は無線を担当している男に尋ねる。

 

「この警備府で1番早い船はどれくらいの速度があるんだ?」

 

「1番早いと言えばミサイル艇でしょうか、スペック上は44ノットのはずです」

 

 44ノットならば80キロ近い速度で赤城の元へたどり着ける計算になる。無補給の加賀をそのまま向かわせるよりも、1度補給をさせ万全の状態で加賀を送り届けた方が勝率は高くなると思った。

 

「加賀、先に補給を行え。 送り届けてやる」

 

『分かりました、1度下がるのでその間は任せました』

 

 俺の意図が伝わったのか加賀は蒼龍と飛龍にそう告げると大人しく警備府に戻ったようだった。

 

「無理です! ミサイル艦の武装を外して救助船に乗せ換えているのは湊さんもご存知でしょう!?」

 

「そうだな、逆に軽くなって都合が良いじゃ無いか」

 

 男は俺の意見に反抗するように声を荒げる。

 

「武装も無しに海に出ろというのは、私達に死ねと言うのですか! しかも相手は新型の深海棲艦なんですよ!?」

 

「落ち着いてくれ、そんな指示は出さない」

 

 男の言っている事は当然だった、警備府の防衛のために蒼龍や飛龍を護衛に回すことはできない。加賀に護衛を行わせれば必然的に速度は加賀に合わせる必要が出てくる、だからこそ最短で赤城の救助に向かうには護衛無しで深海棲艦の群れを突っ切る必要があった。

 

「俺が乗る、流石に無線は外して無いだろ? 忙しくなるかもしれないがアンタが中継してくれよ」

 

「提督代理がこの場を離れてしまえば士気に影響します!」

 

 どのように説明したらこの男は納得してくれるのだろうか、誰か別の者に加賀を運ぶように指示を出せばこの男が言う通り俺は周りから死ねと命令を出す冷酷な指揮官に見えるだろう。しかし、ここで赤城を失ってしまえば艦娘を見捨てた指揮官として作戦の要である加賀達からの信頼を失う事になる。

 

「全員に伝わる様に無線を入れてくれ、全員が納得できるように話すからさ。それで反対意見があればこの作戦は無かった事にする」

 

「分かりました……」

 

 男が無線機を操作するのを確認して俺はゆっくりと話し始める。

 

「皆、手を止めずに聞いてくれ。救助や防衛で忙しいところ悪いんだが、これから俺のやろうとしている事を皆には知っておいてもらいたい」

 

 無線からは爆撃音や銃撃音、救助船からなのかカチャカチャと何やら作業をしているような音が聞こえてくる。

 

「現在赤城が1人で新型の深海棲艦と戦っている。だから俺は加賀と一緒にミサイル艇を借りて救援に向かおうと思う」

 

 無線からざわめきが聞こえてくる。

 

「もしかしたら赤城を見捨てて救助船の護衛に戦力を割くべきだと考える人も居ると思う。でも俺にはそれはできない」

 

 演説の時に大湊の提督は言っていた、俺は平和な海を取り戻すために命をかけると。実際そんな大そうな目標を持っている訳では無かったがそれに近い思いは持っている。

 

「俺は赤城、加賀、蒼龍、飛龍、龍驤。それだけじゃない、日本に居る艦娘のために提督になろうと思っているんだ。だからここで赤城を見捨てる事はできない」

 

『湊さん……』

 

 無線から赤城の声が聞こえてきた。

 

「だからと言ってあんた達を見捨てる事もできない、そんな自分の理想のために誰かに死ねと命じる事は絶対にやりたくない。だから俺は加賀と2人で赤城を助けに行く、文句がある奴は居るか?」

 

 俺の質問に返答は無い、依然様々な音は鳴り響いているが誰の声も聞こえてこない。そんな中予想外の男の声が聞こえてきた。

 

『……俺はコイツがガキの頃を知っている。目付きは悪いし生意気で何度も逆らって来やがった。何度ぶちのめしても言う事は聞かねぇし、手のかかるガキだった』

 

 俺も含め全員が黙って大尉の話を聞く。

 

『この警備府でコイツを見た時には艦娘の提督だなんて馬鹿げた考えを笑ってやったさ。そんな俺にコイツは艦娘に頭を下げて来いと命令してきやがった』

 

「……ちゃんと頭を下げてきたのか?」

 

 なんとなく気恥ずかしくなってつい言葉を挟んでしまう。

 

『下げたさ! それでアイツは俺になんて言ったと思う!?』

 

 俺は大尉の次の言葉を待つ。

 

『今まで散々嫌がらせをしてきた相手に向かって「私達はあなた達を守るために艦娘になったのですから」だぞ!? 信じられるか!?』

 

「赤城らしいな」

 

『だからよ、絶対にアイツを見捨てちゃならねぇ。ここでアイツを見捨てて生き延びたとしても俺達はそんなお人好しを囮に使った卑怯者になっちまう!』

 

 無線から今までで1番大きなざわめきが聞こえてきた。

 

『応急処置を急げ! すぐに救援に向かうぞ!』

 

『弾薬持ってくるのがおせぇぞ!? 提督代理のために針路を確保しろ!』

 

『女のために命をかける、映画見たいでかっこいいじゃねぇか!』

 

 無線から聞こえてくる声を聞きながら俺は無線を担当している男に視線を移す。

 

「分かりました、どうかご武運を……」

 

「あぁ、ここは任せたからな」

 

 俺は部屋を出ると加賀と合流する、加賀はどこか冷めた表情で俺の事を見ていたが弓を持ち直すと小さく微笑んできた。

 

「気分が高揚します」

 

「それ、豚汁食ってた時にも言ってなかったか?」

 

 俺の冗談が気に入らなかったのか弓の先端で脇腹を突かれてしまったが、加賀と一緒にミサイル艇に乗り込むと周囲に集まってくれた男達に敬礼をする。全員油や煤で汚れているのが分かり、戦場がいかに有利であってもそれを支えてくれていた男達が居る事に感謝する。

 

「それじゃあ行ってくる、アンタ達も気を付けてな」

 

「急ぎましょう、赤城さんが待っているわ」

 

 徐々に離れていく警備府を見ながら、再び全員で帰ってこようと強く思った───。


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