ガラクタと呼ばれた少女達   作:湊音

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兵器に感情は必要なのだろうか?

円テーブルを囲み、男達は話し合う。

結論はすぐに出た、『感情など要らない』。

自分達の都合に合わせて戦えない兵器になんの価値があるのだろうか。

しかし、人格を潰しては艤装を扱うことのできないただの人形ができあがった。

身体をいじる訳にもいかない、洗脳しても無駄、彼女達が艤装を扱うには不要だと結論の出た『感情』にこそ意味があるのかもしれない。


ガラクタ(2)

「……寒いな」

 

 気付けば寝てしまっていたようで、窓の外は暗く、冷たい海風が室内を冷やし続けていた。あれから前任者の残したレポートと、渡された資料を交互に読み続けているが、艦娘に関して得た知識といえば、兵器としては欠陥品との情報だけだった。

 

(ちょっと体が冷えたな……、どっかに自販機とか無いのか……?)

 

 冷えた身体が温かい飲み物を欲している。とりあえず、開けたままだった窓を閉めると、執務室を後にする。適当に散策していれば、自販機は無くとも調理場くらいは見つかるだろう。

 

「おい、何処に行こうってんだ?」

 

 階段の手すりに手をかけたタイミングで後ろから声をかけられる。声のした方向に振り向くと、眼帯をした少女が立っていた。叢雲よりも年上のように感じるが、この子も艦娘なのだろうか?

 

「何か温かい飲み物でも飲もうと思ってな、自販機でもあれば助かるんだけど」

 

「言い訳はいらねぇよ、さっさと部屋に戻れ」

 

 少女の右目には明らかに敵意が籠っているのが分かった。腰に差してある刀と思わしき物に手を添えている以上は、下手な対応を取る訳にもいかないだろう。

 

「悪いな、今日来たばかりで、まさかこの基地が夜間出歩き禁止だとは知らなくてさ」

 

「余計な事は喋るんじゃねぇ! さっさと戻れって言ってるだろうが!」

 

 艦娘とはこういう荒っぽい性格しか居ないのだろうかと真剣に悩んだ。こちらの非を認めているつもりだったのだが、眼前に刀を突き付けられてしまう。

 

「罰則にしては厳しすぎないか?」

 

「て、てめぇなんていつでも殺せるんだからな!」

 

 刀を握る手が小刻みに震えているのが分かる、先ほどは咄嗟の事で気づかなかったが、両足も同じように小刻みに震えており、間違いなく少女が怯えているというのが分かった。

 

「どうしてそんなに震えているんだ? 寒いなら珈琲くらいなら奢るぞ」

 

「これは武者震いだ! あんま調子に乗ってると本当に切るぞ!」

 

 そっと刀に右手を伸ばす。少女は「動くな」と警告をしてくるが、無視して刃の部分を握りしめる、一瞬ライターで炙ったかのような鋭い熱さを感じ、少女の持っている刀を赤い液体が伝う。

 

「な、なにしてんだよ! これは玩具じゃねぇんだぞ!?」

 

 このまま刀を引かれれば指の1、2本は危なかったかもしれないが、俺の行動が理解できず、完全に怯えてしまった少女にそれは無理だと判断した。

 

「血、血が……出て……」

 

 刀を伝った血が少女の手に到着しそうになった瞬間に、刀を握る力が弱まったのを感じる。開いている左手で刀の側面を押すようにして、刀を捩じり少女から取り上げた。

 

「痛ってぇな……、なんで珈琲飲むだけで怪我しなきゃなんねぇんだよ……」

 

「か、返せよ! てめぇ……! 返せよ!」

 

 せっかく取り上げた武器をそう簡単に返すはずも無いだろうに、それに完全に声が震えているのも分かった。

 

「名前教えろよ。 そうしたら返してやる」

 

 刀を手すりに立てかけると、傷口を月明かりで照らして確認する。あまり深くは切れていないようだし、とりあえずは大丈夫だろう。

 

「オレの名は天龍。 フフフ、怖いか?」

 

 怖がってやったほうが良いのだろうか?実際最初に睨まれた時は怖いと感じたような気もしないでもないが、背伸びしている事が一目で分かるせいか、必死で取り繕ってもむしろ可愛げがあるように感じる。

 

「そうだな、じゃあ珈琲飲みに行くぞ。 この手じゃ淹れられないからお前淹れてくれ」

 

 刀を左手で持ち、ゆっくりと階段を降りる。後ろで「約束が違う」と騒いでいるようだったが、これ以上相手をするのもめんどくさくなってしまった───。

 

 

 

 

 

 何度か道に迷い、最終的に天龍に案内してもらう事で無事に食堂と思われる場所に辿り着いた。とりあえず右手の怪我は水で洗い流し手拭いで適当に止血を済ませておく。

 

「いつになったら返してくれるんだよ!」

 

「珈琲淹れたらって言ってるだろうが、さっさと動く!」

 

 ちょっと強めな言葉遣いをするだけで、予想以上に大げさな反応をするのが面白く感じた、間違いなくコイツは叢雲よりも精神的に幼いような気がする。

 

「わ、分かったよ……。 で、どうすりゃ良いんだ……」

 

 珈琲の淹れ方も分かんねぇのかコイツは。仕方がなく2人で適当に棚を漁ってみると、インスタントだが、まだ封の切られていない珈琲が出てきた。

 

「お湯くらい沸かせるよな?」

 

「あ、当たり前だろ!」

 

 なんだか不安だが、とりあえずヤカンを取り出しているのを見て、俺はカップに適当に粉末を入れていく。

 

「なぁ、何人分作るつもりなんだ?」

 

「う、うるせぇな! お湯は多い方が美味いんだよ!」

 

 天龍はヤカンいっぱいに水を入れて火にかけ始めた。それから数分間2人でヤカンを眺める。なんとなく黙り続けるというのは気まずい。

 

「ほら、返してやるよ」

 

 出血もある程度治まっているのを確認して、手拭いで刃を拭き取って刀を返してやる。まだ襲ってくるつもりがあるのであれば、目の前の包丁を使うだろうし、もう大丈夫だろう。

 

「まだ珈琲淹れ終わってねぇ。 それは受け取れないな」

 

 コイツはめんどくさいと思ったが、もの凄くめんどくさい奴らしい。自信満々な表情がなんだか無性に腹が立ってくる。天龍がカップにお湯を注ぐのを見届けて、そこで改めて刀を手渡す。

 

「んじゃ、俺は執務室に帰るから。 夜更かしもほどほどにしろよ?」

 

「待てよ! どうせ何か企んでやがるんだろう!?」

 

 さっさと資料の続きを見ようと思っていたのだが、天龍が俺の後をついてくる。コイツは一体何を考えているのか、全く分からない。

 

 執務室の机に座ると、珈琲を口に含んでやっと一息つけると思ったが、天龍の叫び声で頭が痛くなる。

 

「なんだこれ! 苦すぎるだろ!?」

 

「あぁ!! もうめんどくせぇな! これでも入れてろ!」

 

 資料を探すために机を漁っていた時に出てきたチョコレートの箱を投げ渡す。俺の指示には従いたく無いとか言い出したので、返せと言ってみたがそれよりも早く天龍は珈琲にチョコレートを混ぜ始めていた。

 

「わ、悪くないな」

 

 表情を見る限り、それなりに気に入ったのかチョコレートの量を増やして甘さを調整しているようだった。これで少しは大人しくなってくれれば良いのだけど。

 

「なぁ、お前なんなんだ」

 

「元陸軍、階級は少佐。 以上」

 

 資料を適当に捲っていると、艦娘の反乱により、何名か廃棄したとの項目を見つけた。確かにいきなり刀を突き付けてくるとか、管理する側からしたら溜まったものじゃないだろう。

 

「その……、新しい提督なのか……?」

 

「違う、新兵を訓練するために呼ばれているから、どっちかと言えば教官だろうな」

 

 提督ってほど大層な身分では無いと思う、先ほどの出来事を考えると、下手するとお世話係って可能性も捨てきれないと思った。

 

「さっきの事聞かないのかよ」

 

「興味無い」

 

 これはあれだ、女特有の構って欲しい時の攻め方だ。自分に非があるのが分かっているのだから叱ってほしい、そうして自己満足を得たいためだけの回りくどいやり方だ。

 

「そうか……」

 

 そして攻撃は第二段階に入ってしまった、天龍は少し俯き気味になり黙ってしまう。何故だか分からないが、俺が被害者のはずがとても悪い事をしたような気分にさせられてしまう。

 

「お前なりの理由があっての事なんだろ。 だからそれ以上は聞かないし、怒ってない。 それより、天龍ってどんな艦だったんだ?」

 

「オレの装備が気になるか?世界水準軽く超えてるからなぁ~!」

 

 急に自信に満ち溢れた表情で自分の事を説明し始める。なんというか落差の激しい奴だと思いながらも、資料から天龍型軽巡洋艦の項目を探す。

 

「駆逐艦を束ねて、殴り込みの水雷戦隊を率いたんだぜ? 相棒の龍田もそりゃあ良い艦で……」

 

「小型かつ高密度な設計ゆえに改装の余地がほとんどなく、後続の軽巡洋艦の開発により、時代遅れになってしまった……か。 お前も苦労したんだな」

 

 資料を読み上げただけなのだが、俺の言葉に天龍は顔を真っ赤にして刀を抜いてきた。まぁ、本当に切るつもりは無いだろうし、気分転換にからかうのも悪くない。

 

「じゃあ次、お前自身の事を覚えているか?」

 

「オレ自身の事……? 意味が分かんねぇよ」

 

 艦娘となって発生する記憶の欠落には大きく差があるとは書いてあったが、コイツはどちらかと言えば欠落が大きいのかもしれない。そう考えると珈琲の淹れ方もろくに知らなかった事に説明がつく。

 

「無理に考えなくてもいい、なんとなく気になっただけだから。 お前も明日の式には出るのか?」

 

「出るつもりは無かったけど、珈琲に免じて出てやらない事は無いな」

 

 俺に出てほしいと言わせたいのだろうが、生憎そういうめんどくさい対応は苦手だ。しかし、出るつもりが無いという発言から、恐らくは他にも出席しない艦娘が居るという情報が手に入った。

 

「駆逐艦を率いて戦った天龍さんは明日も駆逐艦を率いて式に出ないといけないよな? 隊長が寝坊やサボリなんてしたら、部下に悪影響を与えるかもしれんしな」

 

「あ、当たり前だろ! あいつらの面倒はオレが見てるようなもんだ、そりゃあ立派な水雷戦隊に……」

 

「じゃあ今日は早く帰って寝ないとな、0900まで後6時間しかないぞ」

 

 俺が時計を指差して時刻を知らせると、天龍は空になったカップを乱暴に机に置き、さっさと執務室から出て行ってしまった。

 

「なんだか疲れた……。 俺も少しだけ寝ようかな……」

 

 持ってきた荷物から毛布を取り出すと、机にだらしなく上半身を伸ばす。せめて天龍に寝る場所くらい聞いておけば良かったと後悔しながらも俺は眠りについた───。

 




7/10 一部文章に違和感を感じたので修正
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