SOUL EATER ~八幡cross~ 作:ハッチー
夢を見た。
暗い、暗い部屋の中にポツンと幼い頃の自分が泣いている。俺は幼かった時の自分に話しかける。すると何故か景色は一変して明るいが何もない空間に移動する。そして急に後ろから俺の名前を呼ばれる。
「比企谷八幡」
俺は慌てて後ろを振り返るとそこには幼い頃の自分が立っている。そして口々に言ってくるんだ。
「お前は本当は誰も信用なんてしていないんだろ?」
「違う....」
俺は否定した。一色とパートナーを組み今回の戦いで少なくとも信用出来たと思えたから。
「何が違うんだい?人に裏切られるのが怖くて怖くて人との接触を避けてきた癖にさ」
「.....昔とは違う」
「昔?昔とはいつの事だ?」
その言葉を幼い自分が言った瞬間。目の前の幼かった自分はまるで鏡でも見ているように現在の俺が立っていた。
「お前は昔と言ったがそれは今も変わらんさ」
「そんなこと分からないだろ....」
「分かるさ」
俺はこの時憤慨していた。あまり怒りを露にしない性格なのは自分でも思っていたし怒ったら怒っただけ無駄なエネルギー使うからめんどくさいと考えるくらいには怒ることは無かった。
だが今は違った。腹の中で何かがいるみたいに落ち着かず直ぐにでも殴りかかりそうだった。
だが殴ったら奴の言っていることの肯定になってしまう。だから俺はこんな言葉を言うしかなかった。
「何でお前なんかが分かるんだよ」
言い返される言葉が分かっていたのに。
「そりゃ分かるだろ」
我慢できなくて。
「だって」
止めてくれ......。
「そりゃ」
言わないでくれ。
「俺は」
止めてくれ!
「お前自身なんだから」
「......」
俺は何も言い返せなくなってしまった。心の何処かで僅かでも思っていたことだったのだろうかそれを誰でもない。自分自身に言われてしまったのだ、何も言い返すことが出来なかった。
「お前は一人だ。孤独だ。今までそうだったように。誰かと関われば弱くなるぞ?今回負けたように、また負けるぞ?」
目の前の俺の語尾はどんどん変わっていく。少しずつ強く、そして声のトーンも下がっていく。
「なあ?だがお前は誰も失いたく無いんだよな?優しいからなぁ」
「......お前は誰だ?」
目の前には俺ではなく。まるで姿形は鬼が立っていた。
「俺様かぁ?ハッ俺様のことなんてどうでもいいのよ。俺様と組めや八幡よー。俺様と組むなら力を与えてやるぞ?大いなる力を」
にやっと口角を吊り上げながら笑う鬼に俺は惹かれそうになった。強くなれれば誰も気付つかずにすむのだろうか?
だがそんな時に俺の頭を廻ったのは一色の笑顔だった。
「一色......」
「ちっ。まだあの女の事が忘れられねーのか?けっなら今はまだだな。ほらさっさと出ていけよ。俺様は暇じゃねーんだ」
いつ現れたのか鬼が指した方向には扉があった。
俺は鬼の言っている意味が分からなかったが扉のドアノブに手をかけて扉を開けた。
扉を開けると水の中に落ちた。そしてどんどん底に沈んでしまう。息は出来るが力が入らずにどんどん深く、深く沈んでいく。それがとても怖くて泣き叫びたくなるが指一本動かせない。どのくらい深く沈んでいっても一向に底には着かない。頭がボーッとし始めた所で視界が暗転し重たい瞼を開けると電気の光を久し振りに受けたのか目が慣れておらず慌てて塞いでしまうがゆっくりと目を開けていく。
「ここは?.....」
「あ!八幡君!目が覚めたんだね!良かったぁ」
俺の視認できる範囲に現れたのはマカだった。そしてそのすぐあとに隣からソウルの声も聞こえた。
二人の声を聞いてここが安全な場所なのだと理解する。だがマカの顔は見えるがソウルの顔は見えない。それに何故か少し離れたところからソウルは俺に話しかけているようだった。俺は首だけを動かすと傷口の痛みで片目を瞑ってしまうがあまりの事に驚き目を見開いた。
どうやらここは死武専の保健室らしくソウルも俺と同様にベットで寝ていた。
「ソウルもやられた...のか?」
「ち、違うの!私の...あたしのせいでソウルは!!」
「いや、マカのせいじゃねーよ。ただ俺が不甲斐なかっただけだ」
マカの反応からソウルは相当な深手を負ったのだろう。そしてその原因は俺にある。そもそも教会が怪しいからと見に行かなければ誰も傷つかずにすんだし今回の目標はソンソン・Jだったのだ。完全に俺の落ち度である。
「マカ、ソウル...その悪かったな。俺が教会なんて行かなければそもそもこんな事態にはなってなかったんだ」
「なんで八幡が謝んだよ。八幡はなんも悪いことしてねーだろうが。つーか魔剣見付けて放置の方が俺としては全然COOLじゃねーと思うぜ?」
「ソウル...」
ソウルは笑いながら俺に言ってくれる。申し訳ない気持ちは無くならないし胸の締め付けられるような気分もあるがそれ以上にソウルの優しさが胸に染みていた。
「そうだよ。ソウルの言う通りだよ。私だってあの場にいたら死武専生として放っておけなかったと思うし、もし八幡君が放っておくような人なら許さないんだから」
「そう言ってくれると助かる......」
俺は気になっていたが聞けなかったことを聞くことにした。本当は目が覚めて一番最初に呼びたかった名前。
「一色はどうなった?」
「「........」」
二人の無言に俺は最悪の事態も覚悟し始めた。
「あ、えーとね。一応誤解が無いように言っておくと無事だよ。八幡君が盾になってくれたお陰でいろはちゃんは無傷。だけどね.....」
マカが言い淀む。何かがあったのだろうか。いや合ったのだろう。もうマカの顔は見ていないが声のトーンだけでも伝わってくる。
「八幡君が負けて私達が来たあとにね。私達も負けちゃってやられるって思ったときにシュタイン先生が来てくれたの」
成る程。シュタイン先生なら魂の波長を直接体内に打ち込めるからクロナを退けたのも納得だ。
関和休題
色々と俺が倒れてからの話を聞いたが纏めると俺は4日程眠っていたらしい。一色は2日間ずっと側に付き添っていたらしいが2日を堺に保健室に来なくなってしまったようだ。
マカは気になり先生に聞いたりノットの教室に行ったりノットの知り合いに聞いたりしたらしいが2日以降に一色の姿を見た者は誰もいなかったらしい。
「.......」
あまりの内容に言葉が出てこなかった。一色の安否が気になっていた俺は無事に帰ってきたという言葉に安心したが失踪したと言われたのだ。これでは落ち着いて寝てもいられない。
俺は今だ痛むお腹を押さえながらバッシもまだすんでいないのだろう針で綺麗に縫われていた。痛々しいな....と思いながらも布団に手をついて少しずつ起き上がる。
「ちょ!まだ寝てなくちゃ駄目だよ!」
マカに寝るように言われるが半ば無理矢理体に鞭打って起き上がらせる。俺はベットから立ち上がると長い間寝ていたせいなのか足に力が入らずにその場に倒れこんでしまう。
「八幡君!」
マカが慌てて俺を立ち上がらせる為に近付いて来て肩を貸してくれる。起き上がろうと足に力をいれたところで保健室の扉が開いた。
「あら?比企谷君駄目じゃない。まだ寝てないと、酷い怪我なんだから」
保健室に入ってきたのは死武専、保健室の保険医メデューサ先生だった。