SOUL EATER ~八幡cross~ 作:ハッチー
目が覚めると保健室には俺以外にシュタイン先生がいた。
シュタイン先生に話を聞くとブラック☆スターに抱き付かれた俺は傷口が開き丸二日眠りこけていたらしい。その間にソウルは治り自宅に帰り現在は保健室に俺一人らしい。
ブラック☆スターはその後様子を見に来たシュタイン先生により窓から投げ捨てられブラック☆スターに続いて来た椿さんがシュタイン先生から事情を聞くと気絶している俺に凄い勢いで謝って窓から外を覗いて飛び降りたらしい。それから暫くの間は保健室にまでブラック☆スターの悲鳴は響いていたとか。
やっぱり椿さんは怖いと再確認した俺は視線をシュタイン先生に移して少し真面目な顔になる。シュタイン先生が態々待っているのにこれだけの筈がないと思ったからだ。
シュタイン先生はその後、ここ二日で起きた事を話してくれた。キッドとブラック☆スターがエクスカリバーに会いに行ったこと。そして現在、ブラック☆スターが妖刀の魂の回収に行っているという事だった。
鬼神の卵と化した魂の中でも魔剣と妖刀は別格だ。狂気を浴びすぎており人の魂を喰らっている分強い。魔剣に関しては実際に戦って分かったが妖怪は書籍に書いてあることしか知らない。死武専の図書館はかなり広くノット時代は授業が終われば図書館にずっといた俺はある程度を読破している。
「確か妖刀は人の不安や恐怖、そして怒り等といった感情の隙間に入り込み操り少しずつ魂を吸収していくんでしたっけ?」
「驚いたな。よく勉強しているじゃないか」
煙草に火をつけながら言ってくるシュタイン先生。一応ここ保健室ですよね?
「いえ、たまたま図書館で読んだものですから」
俺の答えにシュタイン先生は何も返さずに窓の近くまで歩いて外を見ている。
「.....ブラック☆スターと椿さんだけで行ったんですか?」
「そうだ」
勝てるのか?とは聞けなかった。俺と一色。それにマカとソウルで挑んでも魔剣は倒せなかったのだ。そんな魔剣クラスの相手に万年魂回収0のブラック☆スターが勝てるとは思えなかったからだ。
「ブラック☆スターは勝てると思うかい?」
「...正直厳しいと思います」
「そうか。俺もそう思うよ」
煙草を吸いながらシュタイン先生が返してくる。だがブラック☆スターが負けるところなんて何度も見たことがある俺だが二対二でブラック☆スターが負けているところを俺は見たことがなかった。
妖刀は群れるのを嫌う。故に誰かの魂の隙間に入り込んだとしても武器と職人という関係で二体二になる。
「ですけどブラック☆スターが負けるところも想像できません」
そう。この状況ならブラック☆スターが負けているところを想像できないのだ。勝つところも想像できないが負けるところも想像できない。周りから見れば結局どっちなんだ?と聞かれそうな意見だがブラック☆スターだから仕方がないと言わざる得ない。これがマカとソウルなら悪いが負けると言っていた事だろう。
「そうか。今からデスルームに向かうぞ。もう動けるだろ?」
そう言われて体を起こしてみると、まだ痛みはあるがバッシも済んでおり痛みも我慢できる範囲内だった。
俺はシュタイン先生から松葉杖を渡されたが断りゆっくりだがデスルームに向けて歩き始めた。
デスルームに着くと死神様とマカとソウル、それにキッドとリズさんとパティがいた。
「おっ八幡やっと目が覚めたみたいだな」
「ああ、ブラック☆スターはどうなってる?」
俺が聞くと皆下を向いてしまった。まさか?と一瞬頭の中で最悪な光景が浮かんだが死神様の前に映し出されている映像を見てその考えは杞憂で終わった。
ブラック☆スターは、なんか村の人数名にボコられていた。頭から血が出ようが気にせずに真っ直ぐ妖刀を抱えた椿さんを見ながら。
状況が予想外すぎて反応に困っているとシュタイン先生が映像を見ながら間の抜けたような声を出した。
「あれー?これはどういうことですかね?」
頭に付いているネジを回しながら言った一言にマカが詳しく事情を説明してくれた。
要約するとブラック☆スターは星一族の生き残りらしい。まぁ肩に星一族の印あったから俺は知ってたけど。星一族に恨みがある村らしくブラック☆スターに対して暴行。一時的に避難して待ってると妖刀登場。村人の魂の隙間に入り込み操る。妖刀と勝負して村人の手から妖刀を離すまで成功。椿さんが現在妖刀の魂の中で戦闘中らしい。椿さんの意志が妖刀に負ければ椿さんは妖刀に魂を吸いとられてしまう。椿さんの勝利をブラック☆スターは信じて待っている。それで村人は何も抵抗しないブラック☆スターに暴行....か。
それにしても......先程からやけに雰囲気がおかしい。暗いというか重いというのか。特にマカがおかしい。先程から目を合わせようとしないのに仕切りに俺の方を見てくる。
何かあったのか?と俺が疑惑を持ち始めた時椿さんが妖刀に吸い込まれた。
マカは今にも泣きそうになりながら椿さんの名前を呼んでいる。キッドは静かにしているが拳に力が入って何も出来ない事を悔やんでいるのだろう。俺だって同じだった。
そんな中でブラック☆スターとソウルだけは違っていた。
「あいつらなら大丈夫だ」
皆ソウルの方を向きブラック☆スターは妖刀に木の棒でつつきながらアンコールと連呼している。ソウルは信じてブラック☆スターはまだ諦めていなかった。
誰の目に見ても妖刀に吸収されてしまったと映るこの光景に。ブラック☆スターで言うところの妖刀のステージで不利な椿さんが勝つなんて、と誰もが思っていた。だけどソウルとブラック☆スターの声を聞いて負ける筈がないと思えるようになった。
今皆の中には絶望ではなく希望があった。ブラック☆スターと椿さんが負けるわけがないという信頼という言葉の希望が。
妖刀は突如煙をあげ煙がはれると椿さんが立っていた。俺はホッと胸を撫で下ろして拳を握っていた力を弱める。
「ただいま、ブラック☆スター」
と言った椿さんに心配そうに問いかけるブラック☆スター。椿さんは俺から見ても無理をして笑顔を作っているのが分かるのだ。ブラック☆スターは俺以上に椿さんの事を分かっている筈だ。
その後両手を拡げながら「来な!ブラック☆スターが抱っこしてやるよ」と言い出して椿さんは泣きながらブラック☆スターに抱きついた。俺は見ていられなくなり目線を反らしたが周りからあーっと言う声が聞こえ振り返ると村人の子供が一人空高く吹っ飛んでいた。
うん.....なんかスッキリしたと思ったのは俺だけじゃないだろう。
デスルームに戻ってきたブラック☆スターを俺達は迎え入れ劣等生の汚名返上だな等久し振りの会話を楽しんだ後、椿さんの変身できる武器のモードが増えたことをブラック☆スターは言い出した。
今でも相当な種類に変身できる椿さんが更に強力な武器に変身できるようになったと聞いて皆興味深々にブラック☆スターに注目する。
「いくぞ!椿」
「はい!」
椿さんは姿を妖刀に変えてブラック☆スターはひと振りすると余波で砂塵が巻き起こりが襲ってくる。かなりの威力があるということは分かる。
だが......ブラック☆スターは妖刀をひと振りしただけで魂の波長を持っていかれたようで真っ青になり倒れた。ブラック☆スターを介抱する椿さんはいつも通りだったが以前よりも良いパートナーになったと思った。
マカとソウルとキッドとリズさんとパティは、フラフラしているブラック☆スターと椿さんと共にデスルームを出ていき俺と死神様とシュタイン先生だけが残った。
「いや~それにしてもブラック☆スターには驚いちゃったね!」
死神様はいつも通り陽気に話してくるが俺はそんなことよりも気になることがあった。先程のマカの態度。あれはどう考えてもおかしかった。
「そうですね。僕も過小評価しすぎていたみたいです」
シュタイン先生もいつも通りだ。だが何かおかしい。いつもと同じだけど何かが違う.....。
「死神様、シュタイン先生。俺が寝ている間に何かありましたか?」
「君が寝ている間のことは保健室で話した筈だが?」
確かに聞いた。でもそれだけじゃない気がする。
「一色の事。何か分かったんじゃないですか?」
確証はない。俺がただ知りたいからこじつけているだけかもしれない。でも嫌な胸騒ぎがする。
「ふーむー....そうだね~あると言えばあったかな~」
「っ!」
「死神様」
「隠しててもいずれはバレる事でしょ~?それなら先に話しておくのも比企谷君の為でしょ?」
シュタイン先生の慌てようから良い知らせではないことは分かった。
「分かりました。あーと比企谷君。一色いろはは死武専を裏切った」
「は?」
暫くの静寂と俺の頭の機能の停止。シュタイン先生の言葉の意味を理解するまでかなりの時間が必要だった。
「一色が裏切った?......」
「ああそうだ。一色いろはの正体は魔女。君がブラック☆スターに抱きつかれて気絶した夜の事だよ。メデューサ先生が一色いろはを見つけた。が一色いろははソウルプロテクトを解除しメデューサ先生を襲撃。メデューサ先生は運良く軽傷で済んだが今日は安静をとって休んで家で休養をとって貰っている」
一色が魔女と聞いても俺はそこまで驚かない。確証はなかったが一色が魔女だということは病室で気付いていたからだ。だがメデューサ先生を襲撃したことの方が驚いていた。俺の知っている一色がそんなことをするなんて思えなかったからだ。
「一色はどこで見かけられたんですか?」
「それを聞いてどうするんだい?」
俺はどうしたいんだ?そんな問い既に保健室で終わっている。
「一色と直接話します」
「駄目だ。許可できない」
シュタイン先生は真面目な顔をしながら言ってくる。語尾が強くなっていることから譲る気はないのだろう。
「それは何故ですか?」
でも譲れないのは俺も同じだ。
「危険すぎるからだ」
「一色は俺のパートナーであり職人です。そして俺は武器です。俺には一色と直接話す権利くらいあると思います」
シュタイン先生が本気で心配してくれるのは伝わるが今回の事だけは俺も譲る気がない。
「何故そこまでするんだ?」
シュタイン先生からの質問に俺は一瞬考える。何故そこまでするんだ?そんなの自分のパートナーだからと答えるのがベストなのだろう。さっきも言ったが一色は俺のパートナーなんだから。でもそれだけじゃない。パートナーだからって理由だけじゃない。
「俺は...またあいつの笑顔が見たいんすよ...ただそれだけです」
「そうか...」
シュタイン先生は一瞬驚いた顔をしているが俺も心では驚いている。こんな感情は一色と出会う前の俺なら絶対に持ち得なかった感情だ。
「シュタイン先生。どうやら比企谷君を止めるのは無理みたいだね~。ただ場所を教えてもまだそこにいるという保証はないよ?むしろいない可能性の方が高いと僕は思うけどね~」
死神様の言っていることは尤もだ。逃げているのなら見つかった場所には長くは居座らないだろう。だけど今はただ止まっていたくなかった。可能性があるのなら前に進んでいたかった。
「それでも俺は知りたいです」