SOUL EATER ~八幡cross~ 作:ハッチー
勝手に覗いていた事を怒られると思っていた俺だが椿さんからは全く別の言葉を言われた。
「こんにちは比企谷さんでしたよね?前から一度お話をしてみたかったんですよ」
椿さんはどうやらノットの時からパートナーを拒否している俺の事が気になっていたらしい。同じ武器である椿さんは武器だけでは限界があると思い職人と組んでいる。俺が一人で職人に勝っている姿を見たりすると驚いていたそうだ。
「でもブラック☆スターには負けましたよ。それも手も足も出せずに」
そう俺はブラック☆スターに手も足も出せずに負けている。それは俺がブラック☆スター並の体術を身に付けている相手には勝てないことを意味する。本来ならパートナーがいるので勝敗は分からないと言われるがパートナーがいない俺ではその可能性すらない。
1×1では1にしかならない。だがパートナーがいれば1は2にもなるし10にもなるのだ。実戦においては特に変わってくる。だからこそ俺は自分を鍛えぬいた筈だった。どんな相手にも負けないように。
「くす。ブラック☆スターは強いですからね」
椿さんは少し微笑み訓練しているブラック☆スターを見ながら言ってくる。正直惚けているようにしか見えない。
「はぁ...ま、あんな訓練してるとは思いませんでしたよ」
「やっぱり昨日から見てたのは比企谷さんだったんですね」
どうやら昨日からバレていたようだ。数日は誤魔化せたらしい。
「まあ...」
「ブラック☆スターはいつか神を越えます」
唐突に呟く椿さんに俺は疑問符を浮かべる。
「神を?」
「はい。ブラック☆スターは神を越えると言って限界を越えた訓練をしています。凄いって思いました。私の力は殆ど才能によって培われたものです。でもブラック☆スターは努力で培われたものだと思ってます。勿論センスが良いというのもあると思いますけどね」
嬉しそうに語る椿さんの顔を見てられず俺はその場に立ち上がり腰を伸ばす。
「そうですか....。そうですね。ブラック☆スターならいつか越えれるかもしれないですね」
俺はそれだけ言ってその場を後にしようと歩き始めたが後ろから声がかかる。
「あれ?なんだよ八幡じゃんか!!俺様の家の庭まで来てどうしたんだよ!」
先程まで逆立ちで庭を歩いていたブラック☆スターが俺を見付けたのか逆立ちしたまま叫んでくる。てか俺の名前知ってたんだな...。
「えーと。なんで俺の名前知ってるんだよ」
「ああ?何言ってんだよ!俺様との体術勝負で一番良い勝負したのお前じゃねーか!!しかもやる回数に比べて強くなるしよ!ほら八幡こっち来い!!勝負だ!」
逆立ちから腕の力だけで飛び上がりファインティングポーズをするブラック☆スター。だがそんなことよりも俺の心境は複雑で前をよく見れなかった。
「くす。ブラック☆スターは貴方には負けられないってずっと言ってるんですよ。ほんとに楽しそうに」
強さとはなんなのか。俺の求めていた強さとは。ブラック☆スターが強い理由が少しわかった気がした。
「まぁかいつまんで話すとこんな感じだな。朝から晩まで特訓。それをブラック☆スターと1ヶ月俺は続けた。だから今の俺があると思ってるし。あいつから多くを学べた」
ブラック☆スターはただ強いだけじゃない。相手の強さを認める強さを持っているからこそ頑張って特訓するし自分を追い込める。
マカにはそれが足りないってだけだ。相手の強さを認められない。だから才能のせいにして逃げ道を作る。それじゃあブラック☆スターを越えるどころか追い付くことすら出来ない。
「そんな事が...」
ちょっと言い過ぎたかな?でもソウルがなんとかしてくれるだろ。
「なあマカ。八幡の言ってることは尤もだぜ。あいつの努力はお前も知ってるだろ?ここまでとは知らなかったかもしれないけどさ」
「うん.....」
「たくっ何時までもメソメソしてんじゃねーよ。全然クールじゃねえな」
半泣きになっているマカに手を差し出して起こすソウル。パートナーと職人。俺もこんな風になりたかったのかもしれないな...。
「あの....私達の事忘れてはいませんか?」
頬を膨らませながらアーニャさんが聞いてきた。普通に忘れてたので俺は黙っておく。マカはあきらかに挙動不審になってるしバレバレだろう。
「はぁ....別に良いですわ。それよりも比企谷さんでしたか?」
「ああ」
「一色いろはさんを探していると言っていましたがそれは何故なのか答えてくれますよね?」
「.....」
アーニャさんは最悪なタイミングで聞いてきた。勿論一色が魔女だという事実はソウルやマカは知っているだろう。マカとソウルは俺を見てくる。そりゃ元パートナーと言っても魔女探してたら怪しまれるよな。でも....。
「悪い。それだけは言えない」
「なっ!それなら言えない理由を教えてください!」
「あ、アーニャさん何か理由があるんだよ...ここは諦めよ?ね?」
「つぐみさんは甘過ぎます!」
「いろはちゃん?て...八幡君もしかして」
マカが一色の名前を聞いて俺に視線を向けてくる。だがそれ以上は何も言わずにうつ向いている。マカが視線を向けてきたとき俺はどんな表情をしていたのだろうか....酷い顔をしていたのだろうかそれとも....いや今はマカに甘えることにしよう。
俺自身、どうしたいのか分かっていないのだから。
俺とマカの雰囲気を察してくれたつぐみさんがアーニャさんを半ば無理矢理連れていってくれた。
残ったのは居たたまれない静けさと罪悪感と何も喋らないソウルとマカと俺だけがいる空間。
「なあ八幡」
そんな空気を壊してくれたのはソウルだった。
「八幡はこれからどうするつもりなんだ?」
俺は....俺がどうしたいのか。それは俺が一番知りたい事であり俺が考えないようにしている事だ。
「分からない....」
だから俺は答えを出すのを先伸ばしにする。正解があるのかないのか分からないそんな答えをいつかは出さなくてはいけないと分かっていても俺は....。
「そっか....行くぞマカ」
「え?そ、ソウル!?」
気になっている筈だ、ソウルだって一色が魔女だってことは知っている筈なのだから。でも「またな」とだけ言って歩いていくソウルの背中を見て俺はただその場に立ち尽くす事しか出来なかった。
それからの事はよく覚えていない。気付いた時には家に帰っておりいつの間にか翌日の朝になっていて服装を整えて死武専に向かう。マカやソウル、椿さんやブラック☆スター、キッドやリズさんやパティから挨拶をされて授業を受ける。だが頭には何も入ってこない、気付けば授業は終わっている。
はぁ...とため息が零れ家に帰ろうと席から立ち上がると教室の端でブラック☆スターが変な壺に手を入れて干物になっていた。シュタイン先生も一緒におり一瞬目が合うが直ぐに目線を外して家に向けて歩を進める。
二、三日そんな日常を過ごしているとある変化が訪れた。それは誰から見ても明白だった。ソウルとマカの魂が少しずつズレてきていた。2日前までは完璧とも言えるほど合っていた二人の魂はみる影もなく二人とも相手を見ようとしていない。
喧嘩でもしたのかと思ったがどうにもそういうレベルではない気がした。恐らく関われば面倒事に巻き込まれるだろう。だが数日前のソウルの背中を思い出す。何も聞かずにいてくれたソウルの背中を思い出した俺はソウルに話しかけようとしたがソウルとマカとブラック☆スターと椿さんがシュタイン先生に呼ばれ教室が出ていってしまい話が出来ずに家に帰ることに。
翌日。死武専に来ると何故かマカとソウルの魂反応は落ち着いており魔眼と戦ったのだと言う。強者と戦って上手くいくって何処の戦闘狂だよと思ったが黙っておくことにした。
授業が終わり今日も家に帰る。家に入ると何処か期待してしまう。一色がいるのではないか。戻ってきているのではないか。だが扉を開けても一色はいない。その度に心が締め付けられるように痛くなり俺自身どうしたいのか考える。いやもうとっくに答えなんて出ているのだ。死武専生は鬼神の卵と化した魂の回収及び魔女の魂の回収をする。魔女である一色は敵。だけど俺は...。
「一色を...一色を殺したくない」
ふと呟いていた。自分の部屋のベットの上で月明かりに照らされるなかこの言葉を聞いたものはいないだろう。空には笑う月が浮かんでいるだけ。きっとこの月を一色も見ているだろう。そう思い手を月に伸ばす一色に少しでも近付けると思って、だが近付ける筈もなく掠れた笑いが自分の口から漏れる。笑いは少しずつ嗚咽が混じり笑う月がボヤけて見えてくる。誰もいない、誰も聞いていない部屋で俺はまだ一色の事を探し続けている。