慎二が雁夜に憧れたようです   作:祭恩寺

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慎二、走る

 

 

 

 

それは黒い太陽だった。

 

 

 

家が崩れる。

 

大地が焼ける。

 

・・・人が死ぬ。

 

人が悲鳴を上げ、救いを懇願し、いつしかそれは生者への怨嗟へと変わる。太陽から溢れるようにして零れる泥は、世界を犯し呪いを撒き散らす。

 

負のオーケストラをBGMに、人の焼ける匂いが熱風に渦巻き、呪いの泥が世界に満ちる。

 

そこはまさしく地獄。正しく地獄。地獄よりも更に地獄らしい。

 

 

そこに少年、間桐慎二はいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間桐雁夜が死んだ。

 

自分が御爺様と呼ぶ人からそう告げられた時の事を、慎二はよく覚えていない。

 

聖杯戦争が始まり、あまり叔父を家で見かけなくなってから、それでも家に残り続けた。雁夜との約束を果たすために、何かと新しく妹になった桜の世話を焼いては一緒に遊んでやった。

 

慎二と一緒にいる時の桜の反応は乏しく、自分から何か話しかけない限り桜は虚ろな目で何もせずにいる。そんな桜を慎二はあまり快く思っていなかったが、憧れの叔父との約束のためできる限り桜の相手をしようとした。

 

家で雁夜に会った時、慎二は嬉々としてその時の事を雁夜に話した。子どもがテストで百点を取って親に褒めてもらおとするように、誇らしげに語る慎二を雁夜も笑顔で聞いていた。

 

その日も同じように桜と一緒に過ごし、雁夜の帰りを今か今かと待っていたときに雁夜の死を告げられた。

 

 

 

 

 

 

慎二は認めなかった。信じなかった。信じたくなかった。

 

だから、否定した。そんなのは間違いだと。雁夜叔父様は死んでなんかいない。必ず生きているはずだと。

 

そういって家を飛び出した。

 

そして、少年は地獄へと自ら足を踏み入れ、黒い太陽と出会った。

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・っ!」

 

死の大地を、少年が走る。

 

この場所では呼吸をするだけで肉体的・精神的にも大きく疲労する。炎の熱に肌を焼かれ体中が汗と灰で汚れている。足取りはフラフラと頼りなく今にも倒れそうだ。

 

それでも、

 

燃える町の中をひたすら進んでいく。

 

一心不乱に、無我夢中に、我武者羅に、自分の信じる『ヒーロー』を求めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

少年にとって魔術とは全てだった。

 

普通ではない、異端に属するその存在を知ったときから、少年は魔術に魅せられていた。まるで一目惚れしたかのように夢中になり、気づけば恋でもしたかのように四六時中魔術のことばかり考えていた。

 

それほどまでに間桐慎二は魔術に入れ込んでいた。

 

だから魔術以外のことに熱中することはなかった。勉強も、スポーツも、人並み以上にできた。しかし、それらの才能など慎二にとって余分でしかなかった。その程度のことに夢中になる同世代の子どもを慎二はどこか心の中で見下していた。

 

広い意味で彼は偏屈な価値観を持っており、だがある意味では崇高な志を持っていた。

 

だからこそ彼は自分の信じる英雄を、自らの理想となす者を、探すことを諦めなかった。

 

その姿は、まるで飢えた亡者の様であり、盲目に崇拝する狂信者の様でもあり、・・・迷子の子どもの様であった。

 

 

 

「叔父、様ッ・・・どこにいるんですかっ・・!」

 

どれほど彷徨っていただろうか。少年の体はあちこちに火傷を負い、喉は熱に焼かれて声が擦れている。

 

痛い

 

体の機関のあちこちが悲鳴を上げている。五感は痛みしか感じず、苦しみしか見つけられない。すでに体は限界を超えていた。だが、それでも、諦めるわけにはいかなかった。魔術に焦がれるが故に、その高い志故に。

 

そして、黒い泥が世界ごと慎二を襲った。

 

 

 

                            

死ね

 

死ね           死ね                                      死ね            死ね             死ね       死ね                死ね      死ね             死ね          死ね               死ね  死ね     死ね   死ね死ね           死ね                                      死ね            死ね             死ね       死ね                死ね      死ね             死ね          死ね               死ね  死ね     死ね   死ね

 

 

 

そして、呪いが溢れ侵蝕する。

 

 

「―――――――――――ッッッッ!」

 

 

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 

それはこの世全ての呪い。

 

泥の呪いが少年の心を食い荒らす。呪いとは人の願いや望みの数だけあるという。ならば六十億の呪いに犯されるとは一体どれほどのものか。想像などつく筈もない。

 

「――――・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そして訪れるは免れることのできない絶対の、死。

 

この泥に触れたものは何人たりともその運命から逃れることなどできはしないだろう。それは今泥に飲まれ命を散らそうとしている慎二さえも例外なく。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、

 

運命と言うのは往々として何かしらの転機に使われる。そして後に振り返り、その時になって『あれは運命だった』と気づくのである。

 

逃れえぬ死。

 

何一つ特異な力のない子どもに襲い掛かるそれは死と言う当然の運命。

 

 

 

だが、それは偶然かはたまた奇跡か。

 

僅かと呼べるほども在りはしなかった可能性。

 

この世界における最初の歪みに、無垢なる傲慢は辿り着いた。

 

 

 

 

 

気がつけば、慎二は暗い空間にいた。気を失う前にいた場所とは真逆、湿って淀んだ空気。そこは自分が決して入ることを許されなかった間桐の工房だった。

 

「カカッ!目が覚めたか。何か拾い物がないかと出向いてみれば、よもやお前をこのような形でみつけることになるとはな」

 

傍に老人、間桐家の実質的な当主である間桐臓硯が、さも愉快そうに笑いながら立っていた。

 

「喜ぶがいい慎二。貴様はあの悪質な呪いから生きて帰ったばかりか、その影響で閉じていたはずの魔術回路が開いておる。貴様は、貴様が望み続けておった魔術師に叶ったのだ」

 

その言葉に、しかし慎二は何の反応もなく視線を巡らせる。そして、高笑いする老人の向こう側にあいかわらず虚ろな目で座り込んでいる桜と、

 

 

 

横たわり無数の蟲にその身を食われている叔父の姿を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命と言うのは往々として何かしらの転機に使われることが多い。後に振り返り、その時になって『あれは運命だった』と気づくのである。

 

逃れえぬ死、それを当然の運命と言うのであれば、

 

それは本来ありえない、狂った運命。

 

そして運命は歪み、回り始める。

 

 

 




徐々に違ってくるといいましたが、次回から以前とはがらりと変わります。

ちょっと原作を離れてオリジナルの話にするつもりです。もちろん原作ともそのうちからめていきます。

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