慎二が雁夜に憧れたようです   作:祭恩寺

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いきなり時間が飛んだ上に急展開になります。


慎二、気に食わない

 

 

間桐慎二の朝は早い。

 

日曜の朝、部活に所属しているわけでもないのに日が昇りきる前には起床する。現在中学2年の慎二は特に朝に強いというわけではないが既に習慣になっているため用事の有無に関わらず目が覚めてしまう。

 

「ふぁ、ん・・・朝、か・・・・」

 

ゆっくりと起き上がり大きく体を伸ばす。のそのそとベットから降りると洗面所へと向かい顔を洗い目を覚ます。そして先程までの半開きの目を開き今度はきびきびとした動きへと変わる。

 

手早く動きやすい運動着へと着替え使い慣らしたシューズを履くと玄関の扉を大きく開け放って外へと出た。

 

そのまま門の前まで来ると軽く準備運動をし体が程よく解れたところで走り出した。後ろの玄関の鍵を開けたままだが敷地全体を結界で覆っている間桐の家に戸締りなど必要がないためいつもそのままにしている。

 

 

 

 

朝の肌寒い空気の中を、常に一定のペースを保ちながら走っていく。早朝なだけあって人通りは少なく、人に合うことは少ない。朝の深山町は住宅街であることもありまだ住人が寝ているため物静かだ。

 

冷たい空気が肺を満たすのを感じながら黙々と走る。既に五キロはこの速さを維持し続けている。そのペースは傍目からみてもかなり早い。陸上部にでも入れば長距離・中距離でエースになれそうだ。

 

しかし一定の速度で走り続ける慎二はかなりの汗を流し息もかなり上がっている。ペース配分が早いだけに別段不思議なことでない。しかし、慎二にはあまり余裕が見て取れない。

 

それはなにも慎二が走り慣れていないというわけではない。彼のコレは既に日課の物であり走り自体はしっかりしたものだ。にも拘らず慎二の呼吸はかなり乱れている。

 

ほぼ毎日走ることを日課としていれば走りに余裕ができるものだ。テレビで陸上選手が走っているのを見ていれば判るが彼らの走りには安定したものがある。それは走ることに慣れた彼らの心肺機能がその走りに順応しているからだ。

 

慎二には走っている速さに比べ心肺機能が付いてきていない。だから彼の走りは傍からは素人が無理に走っているように見えたりする。それもそのはず。慎二は慣れた距離を慣れたスピードで走っていない。ある程度体が馴染んだところで距離と速さを上げているのだ。そうすることで慎二は意図して常に体を限界まで追い込んでいるのである。

 

そのまま終始ペースを保ちつつ町内をぐるりと回って家に戻ると軽く汗を流すと間桐の地下にある己の魔術工房へと向った。

 

 

 

聖杯戦争を執り行った、始まりの御三家の一角、間桐。

陰に沈んだ雰囲気が漂うその屋敷の下には、更に暗く閉ざされた空間がある。慎二は床に座り込むと静かに眼を閉じ瞑想に入る。かつて蟲蔵と呼ばれるその場所で、間桐慎二は魔術と言うこの世に神秘を起こす回路を起動させる。

 

(展開《オープン》 発動《イグニション》)

 

動力炉に火をくべ機関を回転させるイメージで魔術回路に魔力を通す。

 

「・・・・・・・ッ!」

 

思わず全身に力が入るのを押さえ込む様に拳を握り閉める。心を落ち着かせ努めて自然体を意識する。額から汗が流れ顎から下に滴り落ちる。

 

ブブッ

 

荒くなる呼吸を整えようと空気を大きく吸い込む。

 

ブブブブブブブブッ

 

かつてのこの場所の主がいなくなってから、この場所は徹底的に慎二の工房として改造した。間桐の魔術を行使するために、それを自分専用に慎二は変化させていった。

 

ブブブブブブブブブブブブブブブブブブッ

 

慎二にとってそれは難しいことではなかった。自分の特性を理解し、それを更に深め突き詰めていけば自然とそれは形になったのだから。

 

ゆっくりと目を開く。そして自分の周りを飛び回る自身の使い魔が群がっているのを確認する。蟲の群は自分を中心に床に蠢き宙を翔き所狭しと徘徊していた。

 

「・・・・・」

 

臓硯が使役していた蟲とは違い、既存の昆虫とも違う姿をしたさまざまな蟲の群。術者の目となる蟲、強靭な顎を持つ蟲、恐ろしい毒を持つ蟲、特殊な音波を発する蟲、人に寄生する蟲。

 

やがて虫たちは宿木を見つけたかの様に慎二の体を這いずりまわる。おぞましいそれに動ずることなく、慎二は再び目を閉じた。

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

どれだけ時間がたっただろうか、慎二はピクリとも動かず汗を流しながら集中し続けている。やがて虫たちが巣穴に戻ると、大きく息を吐いて魔術回路を停止させた。

 

両手を握って感触を確かめる。いつの間にか服は汗でべっとりと濡れていた。汗を流して食事にするか、と今日も慎二は朝の日課を終え地下から出て行った。

 

 

 

 

屋敷に戻った慎二はシャワーで汗を流す。熱った体を温めのお湯で洗ったあと体を拭いていく。

 

汗を流し終えると私服に着替え朝食の支度をする。慎二の朝食は・・・まぁ、これは朝食に限ったことではないが・・・雑だ。

 

間桐慎二は普段から物事を完璧にこなそうとする傾向がある。実際全てのことを完璧にこなすなど不可能であるが、普段の生活においてそれは遺憾なく発揮されている。慎二はいわゆる天才肌の優等生なのだ。

 

プライドが高く人を見下す性格の慎二は、二枚目な容姿も相まって一部の女子生徒から多大な人気を得ていたりする。

 

話が逸れたがそんな完璧主義者の慎二が唯一雑にこなすことが食事だ。

 

何と言うか食卓の上にあるそれ。適度にきられたサラダ。いや、適当に切られすりおろされた野菜が盛られたそれをサラダと言っていいのかは判らないが、本人曰くサラダらしいその横にドンッと置かれた、ジ○リに良く出てきそうなやたらと美味そうに見えるチーズと肉の盛り合わせ。そして端には牛乳瓶(1リットル)。

 

軽く2~3人前はあるこれを慎二は何も言わずに口に入れていく。

 

決して慎二は料理ができないわけではない。一応人並みでは在るが料理はできる。寧ろ一般の中学生から見ればできる方だろう。

 

コレは単に性格の問題だ。無意味なことを極力嫌がる性格の慎二にとって食事とは必要な栄養補給をすることを指す。一見無造作に盛られた食事も彼の無駄に綿密な計算によって算出された栄養源なのである。料理をしないのはこれだけの量を作るのは時間的に厳しいからだ。決して面倒だからではない。

 

ついでに言うとカルシウムとタンパク質がかなり多めに取られているのだが、そこはやっぱり思春期の男の子だけあって身長の高い体躯のいい体に憧れているからである。

 

「う、ぷっ・・・も、もうちょっと」

 

ただ無理をして食べようとするあまり涙目になってまで食べるのはどうかと思うが。

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

朝食を終え一息つく。食いすぎで苦しいのでソファーに大きく体を預けて今日の予定を考える。まだ早い休日の朝に、大きな屋敷に一人暮らしの静かなリビングにゆっくり時間は過ぎていく。

 

「今日は何しようかな・・・」

 

普段から完璧主義者であろうとする慎二は自分の事をマメにこなす。故に日曜になると学校の課題も片付け家事も一通り終わらせているのでいつも時間が空く。

 

なので大抵また地下の工房に篭ることになる。今日もまた工房行こうかと思った時、

 

 

カーンコーンッ

 

 

家の呼び鐘が鳴った。

 

「・・・ちっ、一体誰だよ。こんな朝早くから」

 

無視しようかと思ったが、また来られるのもうっとおしいので仕方なく玄関に向う。

 

「はいはい、今開けるよ」

 

玄関を開けると、そこには立っていた人物に慎二は驚いた。

 

王子様。まさにそんな言葉がぴったりの金髪碧眼の貴公子が玄関の先に待っていた。

 

「このような朝早くに申し訳ありません。失礼ですがMr.間桐臓硯はご在宅でしょうか?」

 

歳は慎二とほぼ同じだろう。隠しようもない生まれ持った高貴なオーラ。物腰の柔らかい礼儀正しい紳士的な立ち振る舞い。まるで太陽を思わせる少年に、何となく慎二は気に入らなかった。

 

慎二は努力家だがそれは生来の劣等感と憧憬の強さが合間っての事だ。つまり憧れたものを目指すポジティブな面と劣っていると感じるネガティブな面がある。

 

自尊心の強い慎二にとって目の前の自分と同い年の少年は、自分がまるで劣っているかのように感じられて気に食わなかった。

 

「・・・なんだよ、お前。いきなり訪ねてきて何様のつもり?そもそもおたく、どこの誰なわけ?」

 

私情から害意のある言葉遣いをする慎二に、少年は柔らかい態度を崩さないまま微笑んで応えた。

 

「ああ、これは失礼しました。私は―――

 

 

 

 

 

 

 

レオナルド・B・ハーウェイといいます」

 

 

 

 




さて、いきなりの急展開です。

なんでエクストラ?桜は?蟲ジジイは?と思う方もいるでしょう。ちゃんと話の中で分かるのでご心配なく。

とりあえず原作に入る前にオリジナルの話になります。ここからどう物語が進んでいくのか?頑張って書いていきます。
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