未踏召喚://ブラッドサイン Perfect_Gamer 作:白滝
トイドリーム32は広い反面、外周部へ近づくほど陸路が限られていく。
いくら車を盗んで逃走したところで、主要な幹線道路が限られるために『イリーガル』の包囲網にはいずれ引っかかってしまう。闇雲な逃走は無駄であり、刺客を冷静に対処する必要がある。
故に、『
エリは電子煙草の構造を組み込んだ巨大な断鎧斧を取り出し、それに小瓶を刺し込んで霧を噴かす。
粘つく毒々しい甘さを漂わせる独特の芳香が車内を充満し始める。
調香師。
それがエリ=スライドの専門であり、人工霊場の阻害や認識阻害、記憶の忘却などの他にも本来なら一日以上かかる召喚儀礼での敗北時のショック症状の軽減などを行う事ができる。
「ぶはっ!……あ、姐御!?どうなった!?」
「安心しろ、あの男装女からは逃げ切った。逃走中ではあるがな」
ガバっと音を立ててマックスが起き上がった。
「怪我はどうだ?触診した限りでは骨に異常はなかったが」
「怪我?……あ、痛ってえ!!ちょ、火傷まであるし!?」
「そりゃあ車で道路を引きずってるからな。マフィアの拷問クラスの怪我だぞ普通は」
「……いやぁ、足首にワイヤー巻いたのと同時に背中に『リンボク』を使って良かったぜ……」
『ガバメント』が誇る技術開発部門『クアッドモータース』の新作、感染型瞬間物理障壁レプリグラス『リンボク』。化石として発掘され石灰記に生息したとされるバラ科樹木『鱗木』を参考に、その急速拡大する胞子の特性を模倣し人間の肌にレプリグラス製胞子を寄生させてレプリグラスの薄膜で肌を覆う。
要は、人肌をレプリグラスで覆う人体侵食型の寄生兵器である。一度使ったら肌を剥がす以外に除去方法の存在しない捨て身の物理バリアだが、その割には硬化はそれほど大した事はなく、廃棄処分が決定された没兵器である。
「……買い取っといてよかったぜ。じゃなきゃ『
「アワード900番台を相手に逃げ切ったんだ。擦り傷程度は軽い犠牲だろう」
「……まぁな。とりあえず『ガバメント』に応援を呼ぼう」
現状、『イリーガル』の国殺し暗殺三姉妹に追われる形となった。
マックス単独の実力では戦闘での打倒は不可能。
自力でこのトイドリーム32から脱出するよりも、近くにある『ガバメント』に属する機関へ増援要請をかけた方がいい。
ポケットからスマホを取り出したものの、自動車に引きずられた際に衝撃を受けてしまったのか画面が粉々にひび割れてしまっていた。
「……買い変えたばっかだったのによ……」
「公衆電話を探そう」
エリは携帯電話を持っていない。ミラーで自慢のリーゼントを櫛で軽く整えながら、マックスは助手席のグローブボックスから地図を引っ張り出した。
「タクシーで良かったぜ。えーっと……すぐ近くにスーパーマーケットがあるな」
咄嗟にスーパーマーケットが目に入ったのも我ながら召喚師らしい。
というのも、召喚師という生き物は飲食店にも行けないために数年も独身生活を続ければ自然と料理が趣味の一つにでもなる、というのがマックスの持論なのだ。自然とスーパーマーケットに通う回数も多くなる。まさかこの世にサプリメントやシリアルなぞばかり食する奴なんてのは人間として何かが欠落してしまっていると思う。
スーパーマーケットの駐車場に入り、入り口横に佇む絶滅危惧種こと公衆電話の受話器で基地へ電話をかけて現状説明と応援要請。
通話中にキレ出すマックスを見て、答えを察しつつもエリは念のために尋ねてみる。
「どうだ、要望は通りそうか?」
「クソ野郎めっ!召喚師が二組とレプリグラス操兵が四組だとよ!!アワード900番台三組に追われてるのにだぜ!?足りるかよ!!!」
マックスは忌々し気に受話器を蹴飛ばし、壁に背を預けた。
「何にせよ増援が到着するまで待機だな」
「いや、そんな程度の戦力なんて役に立たない。むしろ中途半端に目立つ分、オレらの隠れ家がバレるくらいだ」
「では増援部隊で注目を惹き、陽動作戦にでも利用するか?」
「……具体的な策を立てる前に敵の戦力分析をしよう。増援部隊の到着は夕方、あと八時間もある。長期戦になりそうだから、食料とか水とか買い込んでおかねえ?」
召喚師の性と言えるが、根本的に彼らはレストランやカフェといった飲食店と利用しない。その特性上、一般人に忘れられてしまうからだ。めげずに通う者いるが、召喚師としての人生が長くなれば長くなる程、一般人の文明社会から乖離し、感性までもズレていくものだ。
中には、その感性を維持するために高校に通い続ける召喚師もいるようだが。
「姐御は暗殺三姉妹の事をどのぐらい知ってんだ?」
「知らん」
「……姐御ってペアを組む有力な召喚師を探して放浪してたんじゃないの?名前とか聞かなかった?」
「聞いたかもしれないが忘れた。だが、アタシの眼鏡に適わなかったってことは所詮は
「暗殺三姉妹は軒並みアワード900超えで、オレのアワードは501だぞ……」
「アタシと組めば1001だ。楽勝だあんな奴ら。捻り潰しくれる」
「姐御はすごいオレを過大評価するよなあ……時々その期待が重いぜ」
「馬鹿が難しい顔をして気負うな。お前はお前のやれる事をやればいいんだ。後はアタシがお前の実力を増幅してやる」
「最近分かってきたけど姐御って結構自信満々にノープランだよな……」
「アタシは臨機応変な対応が得意なんだ」
「それを世間は行き当たりばったりって言うんだぜ姐御」
はぁ、と溜息をつきながらプラスチックの買い物籠を手にするマックスの横で、同じく買い物し来た若い婦人が少年をカートに乗せて過ぎ去っていく。少年はキラキラした瞳でカートの乗り心地を楽しみ、通りすがりにエリに目を向けて何故か勝ち誇ったように優越感にあふれた視線を飛ばしてきた。
「…………ッッ!?ま、マックス!!」
「やらないぞ姐御」
「何でだー!!まだ何も言ってないだろ!!」
「いい大人が我儘言うなよなぁ」
「アタシは子供だ!!お前はアタシを何歳だと思ってるんだ!!二〇歳すぎたオバサン達と一緒にするな!!」
「あ確かに……ってオイ、姐御の年齢から見ても子供用だよアレ!危うく説得されそうになったけど、あれは幼稚園の児童向けだよ!!」
「何でだアタシだってまだ全然若いぞ!!お肌はもっちもちだぞ!?化粧しなくても保水性バツグンだぞ!?」
「エリちゃん、それは若いんじゃなくて幼いって言うんだゾ」
ケチんぼが、と悪態をついて不機嫌になるエリに、アメリカバイソン肉のサラミを買ってやりご機嫌を取りつつ、
「とりあえず移動中も摘まんで食べられるやつでいいよな?サンドウィッチとか」
「おい、食後のデザートを忘れるな。私はアイスクリームをご所望だぞ」
「はいはいエリちゃんの気の向くままに」
エリの注文を軽く聞き流しながら買い物を終え、盗んだタクシーに戻る。今度は運転席にマックス、助手席にエリが座る形になる。
「で、敵召喚師の話に戻るけど。おそらく次の刺客は『
「キラービー?蜂は二度目の毒針でアレルギーを起こさせ獲物を殺す、という異名か?」
「そう。あの暗殺三姉妹は特徴的な連携を取る事で有名で、一斉には襲い掛かって来ない事が多いんだ。まず初めに、タイマン戦闘を得意とする三姉妹の内の最強の姉、衝撃の『
「追い打ち専門か。ちなみに、『
「暗殺三姉妹の三女、終撃の『
「……三人目に見つかる前にトイドリーム32を脱出するのが得策だな。『ガバメント』の増援部隊を囮に使って逃走しよう」
「清々しい程ゲスいけど、賛成だ。それしか道はねえ」
『でもそれって、あんたらが「
突如車内に響いた声にギクリとする。
音源は無線だった。
「しまった……!?タクシーにはGPS発信機が……ッッ!?」
マックスが言い終える先に、目の前の道路から猛スピードで何かが突っ込んで来た。
スケートボードに乗った、マックスと同じくらいの年齢の少女だった。ホットパンツに、明らかにぶかぶかのTシャツで、ショートな茶髪の上にキャップを被ったいかにもスケボー女子と言うような恰好だった。
少女はタクシーの窓ガラス越しにこちらと目が合い、獰猛にニヤリと笑った。その手に握られているのは、パイナップル型の手榴弾。
『
「シートベルトは締めたか姐御!!」
返事を待たずにアクセルをベタ踏みし、タクシーを急発進させる。
「ちょ、オイ、どうする気だ!?」
「
一瞬ギョッとするエリだったが、マックス=レイヤードはこう人間だ。
勝つためには何でもする。文字通り何でもする。方法は問わない。
そして、そういう善悪を超えてアワード1000へ辿り着ける資質を持った者をエリは探していたのだ。マックスの決断に、静かにゾクゾクと身を震わせていた。
「あら、私好みの展開じゃん」
対して、スケボー少女はスケボーからジャンプし、体当たりしにきたタクシーのボンネットの上を転がって回避する。
「な、にッッ!?」
スケボーは車体の下をそのまま通過し、タクシーの屋根の上を転がった少女はそのままスケボーの上に両足で着地し直す。アクロバットな挙動でUターンし、タクシーの背後を取った。
「クソ、躱された!!」
「逃げろ!!」
体当たりは失敗した。ならば逃走あるのみ。駐車場のバンパーを撥ね飛ばして道路に飛び出る。
辺りの車からクラクションが鳴り響き、窓から身を乗り出した男達がタクシーに缶を投げつけてきた。
「くそ、これもう赤信号で止まってらねえぞ!?交差点を突き抜けねえと!!」
「いや、オイ待て、あいつ追って来てるぞ!?」
「はァ!?」
サイドミラーで確認すると、確かにスケボー少女が後ろから追いかけて来ている。しかも、足漕ぎではなく自動操縦だ。
「電動モーター積んでんのかよ!!畜生、車を掻き分けて進めるスケボーの方が下手したら速えぞ!?」
追いつかれたら負けだ。召喚儀礼では敵わない。
赤信号の交差点を直進する勇気はなかったので、強引に割り込みながら左折する。鳴りやまないクラクションを背に受けながらカーチェイスが始まった。
「俺、普段運転しねえからこういうの駄目なんだよ苦手なんだよ!!畜生、もっとハリウッド映画のカーチェイス観とけば良かったぜ!!」
「このままじゃ追いつかれるぞ。あ、おい、対向車線はスカスカだ、今なら行けるぞ!!」
「ヒャッハー畜生マッドマーーーーーーーックス!!」
涙目になりながら対向車線を爆走するマックスのタクシーの後ろで、電動スケボーに乗った『
「あいつもそういう勇気あるのかよ……!?姐御の香で幻覚を見せたりして『
「風を切って進む移動中は無理だ。風で噴き流されてしまう!」
なんとか20メートル以上の距離は取っているため、人工霊場に捕捉されない圏外をキープできている。だがそれも時間の問題だ。
「だったらもう……これしかねえッッ!!」
マックスは買い物袋から食料を取り出し、エリに手渡す。
「投げてぶつけてバランス崩してくれ!!」
「今晩のご飯はどうすんだ!!!!」
「えい」
「私のアイスクリームがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
窓から片手投げしてアイスクリームの箱を転がすが、やはり20メートル以上も距離があるので躱して避けられてしまう。
「逃げきれねえかもしれねえ。念のため、姐御は無線を改造して
と、作戦会議中にスケボー少女動いた。彼女が握りしめていた
一瞬、唖然とした。
人工霊場の圏外にマックスはいる。肉眼で捕らえられる対象なぞ何処にも……
「し、しまった!?」
気づいた時には遅かった。
歩道を歩く一般人。
彼らを目を向けた『
「やりやがった!!あの野郎、民間人をエサに使いやがった!!」
そうだ。
対象は誰でもいい。人工霊場に必要なのは足場と対象のみ。
ただの人工霊場だったら90秒のチェイン待機状態の間だけのみ逃げ切ればいい。でもこれは電動スケートボードを足場にした動く人工霊場だ。彼女が動きたい方向にスケートボードを傾ければ、人工霊場自体もスケートボードに合わせて傾く。彼女がジャンプして一回転すれば、人工霊場の重力方向も一回転するのだ。
「あの人工霊場に捕まるのはまずい!!」
いよいよ赤信号を気にする余裕がなくなってきた。
どこからともなく空中を飛来してやって来た彼女の依代の青年が人工霊場の足場に着地する。
「あのタクシーが標的か」
「行くよ、お兄ちゃん」
依代の男が持って来たブラッドサインを受け取り、『
依代の男の姿が被召物へと変貌した。始祖シリーズは一瞬で過ぎ去り、スケートボードに乗りながら足を動かさず、スケボー少女は腕の動きだけで花弁を弾いてコストを重ねていく。
一方的に繰り広げられる
「おい、このままでは『
「だからって止まって自分から人工霊場に捕まれってか!?それこそ無理筋だぜ姐御!!」
マックスは買い物袋を漁り、比較的硬めの箱を手に取る。
一瞬だけハンドルから手を離して身を乗り出し、人工霊場の壁に引っかかっている民間人に向けて投げつけた。民間人さえ気絶させてしまえば、人工霊場はチェイン待機状態に移行する。そうなればタイムリミットが無限ではなく90秒に変わる。
しかし、
「くふふふ……みんなそうするよねぇ」
宙を舞う箱を、被召物が撃ち落としてしまう。あろう事か、被召物が民間人を守るように立ちはだかった。
「被召物を待機させられるのかよ!?くそっ、どうしようもねえ……ッッ!!」
これが追い打ち専門の『
逃走中の敵への半無限チェイン戦術。
10分間のリミットが途切れる前に、また新たに歩道の民間人を引っ掛けて引きずり回しながら真の標的を追いかけ続ける。
逃げ惑う敵を背後から追いかけながら、ひたすら自分だけ被召物のコストを稼いでいき、始まった瞬間から属性の相性を無視したコスト差のゴリ押しで潰すパワープレイだ。
「どうするんだ、マックス!!神格級までいかれたら本当に勝ち目がなくなるぞ!!」
「一歩間違えたら事故って死ぬカーチェイス中にあれこれ考える余裕なんてねえよ畜生!!うおっ、死ぬ!???」
真後ろの敵よりもむしろ前方の車を相手にするだけでマックスは手一杯だ。
エリは電子煙草の構造を組み込んだ巨大な断鎧斧を取り出して香を焚くが、やはり猛スピードで風を切る現状では調合した香が散り散りに分散してしまい、人工霊場の妨害は不可能だった。
「駄目だ、コストが40を超え始めたぞ!そろそろ神格級に行きつく!!もう逃げ切れない!!わざと負ける作戦をたるのはどうだ!?」
「駄目だ、あんな一発芸は仕込みがバレたらアウトな自殺戦法。足首のワイヤーを切られたら終わりだ!!」
「じゃあどうするんだ!!このままでは殺されるぞ!!」
実力差云々以前に、相手が神格級からスタートしたらどんなに弱い相手にだってさすがに最弱の始祖シリーズから始めなくていけないこちらは絶対に勝てない。
勝負にならないのだ。
「……そんなのは分かってんだ。勝負にならないのはいつだってそうだった。だからといって、
マックスの目を見て、エリの表情が困惑に包まれた。
マックスは笑っていた。まるで希望を見つけたかのように。
「どうした、活路が見つかったのか!?」
「姐御、シートベルトを外してオレに捕まれ!!!!」
「……は?」
マックスはハンドルを思い切り左に切った。
左折した先に広がったのは、長く伸びる橋。
ザンベジ川。
トイドリーム32の北部を流れ、アフリカ大陸で四番目に大きい全長2750キロメートルもの河川だ。
「まさか、お前……!?」
「早く外せ姐御!時間がない!!」
「ちょっと待てアタシは泳げないぞ!!」
「だから捕まれって言ってんだろ!!窓ガラスは全部閉めろ!!」
つまりは、こうだ。
橋のガードレールを突き破り、橋の欄干から車体を乗り上げたタクシーは空を舞った。
「アイ!キャン!!フラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイッッ!!」
マックスは高らかに笑って川へ飛び込んでいく。
着水と同時、車が水面を裂いて川底に沈んでいく。ハンドルからエアバッグが飛び出ないのが不思議なクラスの衝撃だった。
「ぎ、う……!?」
ふらつく頭でミラーで後ろを確認すると、欄干から『
「逃げられると思わないでよね!」
水中へ逃げても人工霊場で捕まえればいい。むしろ機動力を失った分、水中の方が捕まえやすい。
そう思っていた。
しかし、
「ぶごう!!」
『
すっかり忘れていた。
そうだ、この民間人を倒さない限りは人工霊場は解除できない。
そして、スケートボードはどんどん沈んでいく。防護円に囲まれた『
「(しまった……!?このままこの民間人が酸欠で意識を失ったら、人工霊場がチェイン待機状態へ移行してしまう。せっかく神格級まで積み上げた意味がなくなってしまう……!?)」
川底を見やると、タクシーの窓ガラスを割ったマックスが依代の少女を抱えながら水中へ脱出していた。川の流れに沿って泳げば意外と速く進む事ができる。
このままでは逃げられる。
《仕方ない、人工霊場を解除しよう》
「(くそう……!!)」
被召物が民間人を攻撃し、一撃で昏倒させる。チェイン待機状態を自ら放棄して人工霊場を解除し、依代の男と二人で水中を進む。
改めに
マックスと依代の少女がこちらを振り返った。息が続かず苦しいのか、ボコボコと口から漏れる息を手で押さえて必死に耐えている。
対する『
次こそは逃さない。
しかし、予想外の事態が起きた。
こちらを見やるマックス=レイヤードが苦悶の表情を浮かべながらもニヤリと笑ったのだ。
その手にはタクシーの無線が握られていた。
彼がボタンを押す。
次の瞬間、マックス=レイヤードは依代の少女を抱えたまま水中からロケットのように飛び出した。
「(な、に、!?)」
水面から飛び出して見えなくなくなる。
つまりは、
「(……まさか、橋から飛び出す前に、橋の上に自分の
まんまと釣り出された。
水中へ誘き出され、自分だけは地上に復帰する手段を残しておく。
「(くそ!!くそおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!召喚師の癖に、その技術を全く召喚師として使う気配がない!!こんな奴が本当にお姉ちゃんを下したのか!?)」
奇しくも、自分の投げた
ボコリ、と口から気泡が漏れる。
息継ぎを全く考えていなかった。
周りに人間はいない。唯一の存在である民間人は、ついさっき自分の手で昏倒させてしまった。
必死に地上まで泳ごうとするが、水面は驚くほど遠かった。防護円の展開中とは違い、服が水を吸い重さが彼女の体を縛る。
「(く、そ!?畜生おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!)」
ぼごっ、と大きな気泡を吐き出し、気を失ったスケボー少女とその依代の男が、川を流されていった。
対する地上。
橋。
水を飲んで動かなくなったエリへ必死に心臓マッサージを行っていたマックスに、ようやく笑顔が灯った。
ゴホゴホと息を吹き返したエリが、うなだれながらも力なく微笑み返す。
「全く、無茶な奴だ……」
「ごめん、姐御。でもこれしか方法がなかったからさ」
「別にいい。お前らしい勝ち方……いや、負け方か?」
ははは、と笑い、マックスはエリを背中におぶった。
「勝とうが負けようが関係ねえ。結果はいつだってオレの完全勝利だぜ」