未踏召喚://ブラッドサイン Perfect_Gamer 作:白滝
タクシーを失った以上は徒歩で逃走を続けなければならないが、『ガバメント』の増援部隊がトイドリーム32に到着するまであと六時間半もある。
エリを背中におぶって歩くのも体力的にキツイため、早めにどこか隠れ家を探して潜伏し休息を図りたい。
「姐御、どこに隠れるのが良いと思う?」
「銭湯に行きたい」
「……いやオレらは絶賛逃走中な訳なんだけど」
「こんな川臭い匂いをまとって逃げるなんてそれこそ人目がつくぞ?」
「いやそこは姐御の『香』で」
「知るか!アタシは銭湯に行きたい!!」
エリの我儘が炸裂に、背中をポカポカと叩かれてしまう。
気持ちは分からないでもない。マックスもエリも川にタクシーで飛び込んだせいで全身ずぶ濡れの水びたし。今は午後一時を回った昼食時だが、どちらかと言えば体を洗いたいのも確かだった。
幸いここは娯楽の街トイドリーム。スパ施設は所々に点在している。
『
「ほら、近くにあるしそこまでなら歩けるだろう?ほら、歩け!」
エリの指差す方角を見やれば、トイドリーム32の中でも一際高い、まるで東京タワーのような展望台付きのタワーがあった。
「……タワーを作ったけど客が少ないから、スパ施設をドッキングしたって経営遍歴がバレバレな施設だな……」
溜息をつきかけたが、そこでマックスはハッとした顔になった。
何かを考えるように思案した後、ニヤリと笑って呟いた。
「……いいぜ、行こう、銭湯」
スパ施設の受付でタオルと手拭をレンタルした二人、男女別々に風呂に入っていく。
ここで問題になったのは荷運び中のスーツケースをどうやって保管するか、だが、
「オレに良いアイディアがあるんだ。任せてくれ」
というマックスの提案を受け、彼が預かる形となった。
何やら仕事終えつつ、ようやく服を脱いでスパ施設に入ったマックスは、そこで驚きの人物と遭遇した。
「テメェ……『スコーピオン11』じゃねえか!?」
「ん?……げ、まさかもう『
同じ『ガバメント』に所属するアワード809の召喚師だ。普段は色褪せた帽子を目深に被りよれよれのスーツを羽織る冴えないオヤジなのだが、鍛えているのか服を脱いだ今は筋肉質な裸が渋いカッコよさを醸し出している。
マックスは同じ浴槽に入りながら、
「どうしてテメェがトイドリーム32にいるんだよ!?」
「お役所仕事を終えたとこだったんだよ。ったく、遠路はるばるやって来てさあ観光かって思ってた矢先に『ガバメント』本部から「近くに『
「え、って事はテメェが味方に加わってくれるのか!?ありがた……いや、ありがたくはねえな……」
『スコーピオン11』と言えば、常に勝てないはずの勝負を挑み何故か最後まで生き残るというジンクスめいた伝説を持つ。
困難な任務を回される事が多い貧乏くじな役回りなのだが、だからこそこいつが現場に来たら負けるんじゃないかとも囁かれる不運な境遇な男なのだった。
「夕方に増援部隊と合流するのは、ヴィクトリアフォールズ空港だったろう?それまでは最後の休息だと思って駄々をこねる
「ハッハー、自分の不運を呪え『スコーピオン11』!せいぜいオレと姐御のために働いてくれたまえ!!」
辛気臭い恨み言をブツブツ呟き出す冴えないオヤジを他所に、そう言えばとマックスは切り出した。
「話を聞いてると思うが、『イリーガル』の国殺しの暗殺三姉妹に追われてんだ。現状、『
「ねーな。俺も召喚師を初めて長いが、『
『スコーピオン11』と情報を交換しながら、湯船でゆっくりする。
早風呂するつもりだったがどうやら長く話し込んでしまったらしく、浴場を後にしてロビーに戻ると、コーヒー牛乳を啜るエリが「遅い」とむくれていた。
隣の『スコーピオン11』に気付いたエリが、不審な視線を投げかけてくる。
「誰だそいつは?スーツケースはどうした?」
手ぶらなマックスが気になったのか、自己紹介をする前に『スコーピオン11』も不思議な顔をする。
「どうした?まさかもう『イリーガル』の暗殺三姉妹に盗まれたのか?」
「いや、そんなんじゃねえよ。ちょっと、ね」
はぐらかすマックスの態度を二人は不審がるが、マックスはぶかぶかなTシャツ姿に短パンを履いたいつも通りの恰好で、大きなスーツケースを服の中に隠す事もできなそうだ。
「……まさか捨てたのか!?」
「いや捨てはしねえよ!!」
「なんだ、アタシにも言えないのか?隠し事か!?」
「いや、まぁ、その……まぁ、とりあえず昼飯でも食わね?」
明らかに不審なマックスが二人の尋問を躱しつつ、
「……あれ、そういうテメェの依代の女の子は?一緒じゃねえのか?」
「ん?あぁ、
ゴバッッッッッッ!!という爆音に言葉は遮られた。
ロビーの近くの玄関が木端微塵に砕かれ、コンクリートの瓦礫が発泡スチロールのように散乱する。
粉塵を切り割いて現れたのは、男装の女召喚師と女装した依代の少年。
召喚師は肩に長いバズーカ砲を背負い、こちらを睨み付けている。
「……『
「見つけたぜぇ、『
「……何言ってやがる。世の中は勝てば何でもいいんだよ。結果が全て。格下だと思って油断するテメェらが悪いんだよ最強野郎」
言いつつ、背中の野球バットケースからブラッドサインを引き抜いた。
「(どうするんだ、マックス?)」
「(策はねえけど、召喚儀礼はまずい!人工霊場の妨害を頼む!!)」
エリと耳打ちで作戦を躱し、会話を打ち切ってマックスは突撃する。
対する『
逃れる術はない。
キッチリ三秒後、展開された人工霊場の中で『
けれど、
「残念、姐御を甘くみんじゃねえぞ!!」
次の瞬間、ドガシャア!!とガラスの砕けるような音が炸裂した。
人工霊場が砕け散ったのだ。
固まる『
狙うは依代。
男装の女召喚師は武道の心得があるのか、きっと受け止められる。ならば弱い方を優先的に潰す。
しかし、
ゴキッ!!と、少年の前に立ちはだかる見えない壁にブラッドサインが阻まれた。
「……は?」
薄く発光する青い壁。
人工霊場だった。
いや、なんでだよ。たった今『
そう考えて、ギクリと身震いした。
そう、『
マックスは後ろを振り返る。
そこには、
「あーあー、スーツケースの場所を教えてくれたら手荒にせず済んだのにねー」
『スコーピオン11』の喉から、高い女性のような声が響いた。
『スコーピオン11』はエリの首を羽交い絞めにし、エリは電子煙草の構造を組み込んだ巨大な断鎧斧を取り落としてしまっていた。
マックスは全てを理解した。
「……まさか……まさかテメェが、『
「ご名答。私こそが暗殺三姉妹の三女、終撃の『
冴えないオッサンの容姿がどろどろに溶けていく。現れたのは華奢な少女だった。
「変装用外装レプリグラス『カメレオン』。すごいでしょ?『ガバメント』では扱っていない『イリーガル』で開発した特注品よ」
つまりは、そういう事だった。
最強の姉、衝撃の『
それでも敵が逃げおおせた場合に、増援の振りをして標的に接近し暗殺を仕掛けるのが、終撃の『
しかし、気づくのは致命的に遅かった。
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
慌ててブラッドサインで白棘を弾く。花弁がスポットに入れば、エリは被召物へと姿を変えて人間程度の腕力など振り払う事ができる。
けれど、
「私を忘れてもらっちゃ困るよ」
真横から人工霊場に飛び込んで来た『
マックスの放った白棘を叩き、軌道を変えてしまう。
花弁はスポットに入らなかった。
慌ててブラッドサインで依代の女装少年を殴りつけようとしたが、
「雑魚の思考はワンパターンだな」
『
ブラッドサインを持つ右手首を強打され、ブラッドサインがすっぽ抜けてしまった。
駄目だ、勝てねえ。
頭が真っ白になるマックスの前で、首を絞められていたエリの意識が落ちる。
依代の気絶。
それは即ち、召喚儀礼の敗北を意味していた。
「が、はッッッッッッ!!」
信奉する神を眼前で惨殺されるような衝撃。
絶望的忘我状態とも称される昏倒状態に陥り、マックスはガクリと膝から崩れ堕ちた。
『
「雑魚の癖に手間取らせやがって」
「おい、スーツケースの隠し場所を吐け」
『
どうやらマックスは銭湯に入る前に、この展望台にスーツケースを置いていたらしい。
「……全く、面倒な事しやがって」
街下の景色が見えるような、大きな強化ガラス床の上だった。落とし物の報告があったらしいが、瞬間接着剤でスーツケースの側面をガラスの床にへばりつかせているらしく、なかなか外れず困っているスタッフに向けて、「ああ、それは私達の物です」と言って人を下がらせる。
「ったく、あの野郎、一体何をしたくてこんな事してんだか……」
「まぁ無事に勝ったんだしもうどうでもいいだろ。これを無事に回収し中身を確認し終えたら、ちゃっちゃと殺そう。お姉ちゃんの仇討ちにもなるしね」
『
カチリとスーツケースが開いた。
ピンが抜けた
「「……は?」」
スーツケースのダイヤルにピンを引っ掛け、開けると自動的にピンとレバーが外れる仕掛けになっていたらしい。スーツケースの中身も存在しない。
一瞬呆けた後、二人は状況を理解した。
「……、しまっ!?」
『
召喚儀礼の敗北のショックを和らげる事も可能ではあった。
つまりは、尋問される事も想定し、ここに二人をおびき寄せる事を『
慌てて展望台の出入り口に目を向けて、飛来する『
しかし、マックスはそちらからやって来なかった。
そう、重要な条件を二人は見逃していた。
そう、
まるでロケットの発射だった。
重力に真っ正面から抗い、マックスとエリは弾丸のように頭上へかっ飛んだ。
地上4000メートルもの命綱なしの逆バンジージャンプ。
グラスファイバー製のブラッドサインを構えた人間砲弾が二つ、強化ガラスの床をブチ抜いた。
『
ただ一人、二人の女性を肉の壁として緩衝材にしたマックスとエリは辛うじて二人よりもダメージは少なかった。
「お、が、は、ァ……!!」
それでも、片腕と肋骨が折れる重体だった。天井から落下して床を転がり、痛みに喘ぐ。震える指でブラッドサインを握り、白棘を弾いてエリを被召物へと変貌させる。
こうなれば防護円がマックスを生かしてくれるため、一命は取り留められた。
《ったく、無茶をするなお前は。事前に言っておれば対応可能だったろうに》
「……いや、上手くいくか分かんなかった最終手段だったからな」
観客がパニックを起こして展望台から避難するのを見届けた後、床を崩してチェイン待機状態となりマックスとエリは大空を舞う。
「まぁ、何はともあれ任務完了。オレ達の完全勝利だぜ」
という訳で特に捻りもなく完結です。
短編ですので、オチも特に考えておりませんでした。
新刊(7巻)が出てまだ一週間くらいしか経ってなく冥乃河姉妹熱が冷めてないんですが、「さぁ未踏召喚のSSを書くぞー!」と意気揚々と書こうとしたら気が付いたらマックスになっていました(謎)
彼が好きなんですよね、私。また原作で出番があればいいなぁ……